85話 たとえ世界が許しても
大遅刻申し訳ありません
お待たせしました
若芽の周辺に向けて弓矢を放つカレン。その先にうっすら透けた人型の何かがいる。
「っち、やっぱ阻止しきれなかったんだから、来る……は?」
忌々しそうにこちらを見てきたかと思うと、目を見開いてわなわなと震える何か。震えているだけだから、矢が何本もぶっ刺さってる。なのに、効いてなさそう。何の影響も及ぼしてなさそうだから、物理無効とかそういうタイプなんだろう。
「ありえないありえないありえない。ふざけてる。一体、一体どこまで……」
よくわからないけど、チャンスだ。代償魔法は今はぶっ放せないし、コストも跳ね上がってるが、四季と手をつないで
「「『『聖弾』』」」
小さいが高速で飛翔する弾を発射。
「さまよえる霊へ安寧を。『聖光』!」
同時に賢人からも一直線の光が放たれる。速度の関係か光線が敵の腹を貫き、数瞬遅れて弾が額をぶち抜く。
「あはっ。そうよね。そうよね」
効いてなさそう。いや、そもそも当たってない? どう見ても当たってたはずだが、そうじゃないとおかしい。だって、当たってんならあんな蕩けたような顔はしないだろ。物理効かない時点で霊体だと思ったんだが…。
「ブルルッ!」
大きく移動していたセンが俺らとは違う角度から光を追加で叩き込む。
「無粋な」
今更ながらにするりと回避する敵。さっきは当たってたのに何で避ける? やはり霊体か? いや、だが。霊体だとしたら何で効いてないのかがわからない。まさか、回避必要ないけど避けてる演技してるだけ?
「でも、やっぱそうでなくっちゃ。そうでなくっちゃ偽物よ。だからこそ、あたしはあたしを許せない」
ぶわっと立ち上るいつもの。純白と純黒が混ざってるのに混ざってない。なぜか汚いと思える色。
「今のあたしにこれを言う資格はない。ないのだけど、死になさい」
宣言と同時に敵から放たれる大量の瘴気でできた球。
「カレン!コレ。避けるだけでいいのか!?」
「いーよ!でも、若芽は守ってねー!」
「「ありがとう!」」
「はっ!若芽を守る意味なんてないわよ!若芽はあたしの下にいるもの!いつでも潰せたのに潰してない。その意味、わかるでしょう!?」
それはそう。破壊する気があるなら、俺らが来る前に若芽を叩いてる。
「若芽を潰さなかった理由は?」
「潰したら枯れるじゃない!それじゃあ、意味がないのよ!」
!? 答えてくれるの!?
「あなたの目的は?チヌリトリカ関係ではありませんよね?」
「はぁ!?誰がチヌカですって!?舐めたこと言ってんじゃないわよ!たとえ、貴女でもそれを言うのは許さないわよ!」
推定霊体の敵は悲しそうな、それでいて怒ったようななんとも言えない顔をしながらキッと四季をにらみつける。
まぁ、だよな。思いっきりチヌカたるエルモンツィと敵対? してたっぽいし。それでチヌカだったら驚きだ。
「…じゃあ、あなたの目的は?」
「知れたこ……って、答える義務ないじゃない!馬鹿なの!?」
ちっ。口を滑らせてくれればよかったものを。正気に戻ったか。ボーナスタイム終了だな。
聞いたアイリへの攻撃量が多いが、まんべんなく。それでいて、若芽はほぼ狙わず。本気で若芽は狙う気なさそうだ。
「カレン!若芽の存在意義って何!?普通の木とかと同じでいい!?」
「違うよー。ふつーの木なら潰しても生えてくるしー。一番上のやつ潰してもー、横のやつが伸びるけどー。世界樹は潰されるとー上に成長できなくて枯れるよー」
「一番上潰れるだけで枯れるのはさすがに脆弱が過ぎるだろ」
「ねー」
カレンもそう思うのかよ。何でそんな仕様なんだ。
「世界樹の必死のべんめーを聞く限りー、瘴気浄化するのに成長し続けないとー、駄目な部分ばっかになって死ぬんだってさー。この不思議くーかんも、世界樹のあの若芽が展開してるらしーし。世界樹はりろんじょー無限に伸びるしー、それでも問題なく耐えられるけどー、やっぱ無限に伸びるとじゅーりょくとか、なんやらでめんどくさいんだってー」
「なるほど」
やっぱ魔法が絡んでたか。このでか世界樹。徒歩で上った距離はそうでもないけど、途中から一気にぶっ飛ばしてったものな…。
カレンの言い方的に現時点で若芽が潰されても直ちに問題はないんだろう。ないんだろうが、いずれ世界樹は枯れる……と。
「それだけ重要な若芽のいるこの空間に敵に侵入されてる時点で駄目だろう」
「本来のそーてーなら、エルフとかー、世界樹内の木兵とかで対応できるよてーだったんだよねー」
「そこ突破されたらどうにもなりませんか」
「ならないねー」
マジであの敵の慈悲で生きてるようなもんじゃん。今の世界樹。
「割と詰んでないか?」
「しよーがいだしねー。まさか神様たちも作って100年以内にこーげきされるなんて思ってなかったんでしょー」
それはちょっと想定が甘すぎる。いくらエルフ領域が隔離されてる領域とはいえ、魔獣やら魔物の脅威はあっただろうに。
…いや、確かアークラインで聞いた神話的には世界樹ができたのは神話決戦直後の話。神々にすぐに機能する防壁を作る余裕がなかった可能性があるな。
「まぁ意味ないだろうが、若芽のカバーは姉がしておく。お前らは遠慮なくやれ」
「頼む」
「姉!頼むから実験で要らないことするなよ!」
「…わかってるとも」
その一瞬の空白は何。
少し怖いが、霊体を叩くためにも要素を確定させていかないと。
「おそらく物理は無効」
「であれば、普通の魔法が効くかどうかですよね。なら、」
四季がすっと紙をポケットから何枚か取り出し、指に挟む。
「火、風、水です」
「OK!」
俺の手が重ねやすいようにしてくれてるところへ手を重ね、
「「『『火球』』」」
「「『『風刃』』」」
「「『『水弾』』」」
異なる属性三連射。回避するそぶりは見せているが、大きく若芽から離れるそぶりはなし。弾幕を張って逃げ道をふさぐ。確実に三つの属性を激突させた。
が、やはり効いてはいなさそう。
「魔法もダメ。となると、効くように何かしらの魔法を作らないと駄目だな」
「ですね。ならどうします?」
そうなんだよな…。聖魔法の代償魔法は世界樹の根元でエルモンツィに叩き込んでる。だから、聖魔法をこねこねして……なんてのは今はできない。
「一工夫いるな。具体的には、当たった魔法が効果を発揮するようにする魔法がいる」
「ですね。ただ、それをするためには、情報が足りてないですね。どうやれば当たるのか。そのイメージがうまく掴めないです」
「だな」
今の俺らの手元にある情報は「何でか知らないけど全ての魔法も物理もすっぽ抜ける」だけ。やっぱもっと情報がいる。
若芽を気にしつつも、霊体へ接近。その最中も、アイリが鎌で霊体の放つ黒弾もろとも、霊体を切り裂き、カレンの矢が弾ごと霊体を貫いている。おまけに賢人の魔法も当たってるし、センの攻撃も激突してる。
目の前で繰り返される同じ光景。だのに、消耗してる様子はなし。マジで一体、どういう絡繰り?
とりあえずペンを投擲。アイリの鎌っていうシャイツァーが貫通してる時点で当たり前ではあるが、当然のようにすっぽ抜けてく。
次。ペンと剣で切りつける。幸い? 敵の攻撃は今のところ黒弾だけ。二人で邪魔なものを斬り捨てて、同時に斬りかかる。
「あっ」
何で俺らの時だけそんな悲しそうな、切なそうな声を上げるんだよ。一瞬、手が鈍りそうになるのをぐっとこらえ、一閃。
首を斬ったはずの剣も、心臓を貫いたはずのペンも一切の手ごたえ無くするりと抜ける。ペンを引き戻すときさえ何もなく。四季の振るった剣も最も抵抗のあるはずの胴を薙いだにも関わらず、一切速度が変わってない。
もう一度。剣を引き戻す勢いで袈裟懸けに振り下ろす。が、こっちも一切の手ごたえはなく。ただ、いつの間にか霊体が流していた涙の筋だけ切り裂いた。
四季が俺の前に出て、ファイルを盾替わりに…え。
「四季!?」
「大丈夫です!」
さんざんセンがやってることではあるけども! ファイルを盾に攻撃迎撃した後、そのまま回し蹴り叩き込んでんじゃないよ! 見てる限り思いっきり敵と四季の体が重なってたぞ!?
大丈夫とはいうものの、確認のために、距離を取ろうと走る四季。後背はアイリやカレン、センに賢人に任せて俺もついてく。
四季はぴょこぴょこ跳ねたり、蹴りぬいた足にぐっと力を入れてみたり、何も異常がないか確認するように走ってる。
「その走り方をするなら最初からしないでって言うのは野暮?」
「野暮だと思います。とはいえ、少々私らしくないのも事実ではありますが。言い訳させてもらいますと、気になってしまったんですよ。あの子、どうなってるのかなって」
その気持ちはわからないでもない。
「決死もどきを実行して得られた結果は?」
「成果なしとありの反復横跳びですね。手ごたえ無し。ですが、おそらくあの子は霊体で確定ですよ」
「その心は?」
「重なったときにあの子の気持ちが流れてきましたから」
はい?
「四季?」
「わかります。その気持ちはわかります。私も逆の立場なら同じことするでしょうから。ですが、そんな目で見ないでください。仕方ないじゃないですか。あの子の涙を見たら、ちょっとやらずにはいられなくなったんですから」
涙を見た→蹴り飛ばす。流れだけ見たらとんでもないサイコ。
「はぁ。みんなが抑えてくれてるし、置いとく。で、何がわかった?」
「あの子の気持ちですね。あの子、「お母さまとお父さま」のことしか考えてませんよ。二人が好きで仕方がなくて。だからこそ、二人を裏切ったこの世界がどうしようもなく許せないって」
…なるほど。それなら、確かにあの子は霊体で確定するか。これまで知っている情報を総合すればあの子の正体もおおよそわかる。同じ境遇の子が他にいない可能性はゼロではないけれど。
世界樹が生まれた時より100年後くらいに現れたのがあの子という出てきた時期。
父母が大好きで、だからこそ彼らを裏切った人類を恨んでいるあの子。その言葉はいやでもアークラインで見たあの狂気ともいえる情念と結びつく。
「その顔、習君も私と同じ結論ですか。そうです。おそらくあの子の正体は……、『リャール=カーツェル=ラーヴェ』。アークライン神聖国の初代教皇にして、溢れんばかりの殺意を日記に叩きつけていたその人です」
四季の言葉が空を切る。その言葉は風に乗ってあの子に届く。途端、あの子は攻撃を止めた。それにつられてか、珍しいことにうちの子たちも賢人も攻撃を止めた。
あの子は蕩けるような、喜色にあふれた笑みを浮かべ、嬉しそうに、歌うように高らかに言う。
「えぇ。えぇ。そうですとも!あたしはリャール=カーツェル=ラーヴェ!かの勝手にやってろと何度も吐き捨てた、あの迷惑極まりない大戦で!人類をまとめ上げた先導者!『ウシャール=カーツェ=ラーヴェ』と『シャリア=コーエルミア=ラーヴェ』!その二人の愛娘よ!」
誇らしげに宣言したあの子は嬉しそうに笑みを浮かべている。というか、”うふ。うふふ”なんて嬉しそうな声が漏れ出ている。
「いいわ。いいわ!えぇ!嬉しいから、教えてあげる!あたしはただ、この世界を滅ぼしたいだけ!あたしのために。例え、お父さまとお母さまが望まないとしても。あたしがこの情念を止められないの!でも、だからといって、あたしは世界樹を攻撃して枯らしたりはしないわ!お父さまとお母さまの娘が、世界を滅ぼしたなんて記録に残したくないもの!」
「…貴方が関与している時点で、そう記録に残るのでは」
「そも、滅んでる時点でー。記録残んないよねー」
アイリ、カレン。それを言っちゃダメ。
「あはっ。エルフのお嬢……いや、ハイエルフか。そんなの決まってるじゃない。一瞬でもあたしのせいで大好きな二人をけなされたくないわ。これ以上、あいつらに二人を汚されてたまるもんですか。そして、お嬢ちゃん。その懸念は問題ないわ。相手はこの世界の奴らよ。あの無知蒙昧の大勢に容易に流されるアホどもよ?問題ないわ」
ばちばちに悪口言うじゃん。
「あたしは世界を滅ぼすため、世界樹を掌握するわ。掌握さえすれば、こいつの力、瘴気の浄化を逆流させられる。正常な世界を汚染して瘴気を吐き出させる。そうすれば世界が滅びる。あの2柱がなんとかしたくて作った世界樹のせいで世界が滅びる。実に素敵な終わりじゃない!もっとも、世界樹を枯らせばこの世界は滅びる──逆説的に世界樹は必要不可欠なのだけど──世界樹を掌握すればどうしようもないほどに、世界の終わりを加速させられる。あぁ。あぁ!何て素敵な結末なんでしょう!お嬢ちゃんの懸念もそれで一挙に解決できるわ!掌握した世界樹経由で”二人の愛娘であるあたしが滅びに立ち向かってる”もしくは、”あたしも世界のために霊体になってなお戦っていたが力尽きた”。そんな話を流せばいい。ありふれた、クソったれな美談で真実を覆い隠してしまえばいい!やられたことを、やり返しましょう!たったそれだけで、あたしの大好きな二人の名誉は守られるどころか高まるわ!その上で人類は今まで何もしてこなかったことを、あまりにも世界に対して無知だったことを悔いながら滅びるのよ!真実は完全に逆だって言うのに!あぁ!ほんっとうに何て悲劇的で感動的なお終いなんでしょう!」
さっきから変わらず蕩けるような笑顔を浮かべたまま、一息で言って抜けるあの子。そんなあの子は、
「だから、あたしは止まらないわ。誰が相手であっても。でも、巻き込まれた勇者たちは返してあげる。あなた達も帰りなさい。帰る世界があるでしょう?望むならお嬢ちゃんやエルフの子たちも連れて帰って構わないわ」
蕩けた笑顔を消し去って、まじめな、それでいてどこか悲しそうな表情を浮かべてそう問うた。
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