84話 続世界樹
お待たせしました
「とりあえず、ご挨拶と行きますかね」
なんて賢人の言葉とともに始まる詠唱。すぐに終わらないだろうから、シャイツァーを木兵へぶん投げる。…うん。やっぱ一撃で敵を壊せはしないな。しないが、足を狙ってやれば数がいれば障害物にはなる。
勇者特権というには地味なシャイツァーの転移を使って回収。その合間に差し込まれる賢人の魔法。見るからに環境に悪そうな色をした液体でできた槍が、木兵めがけて突っ込んでいく。
木兵の頭に当たった槍は、その場でどろりと形を崩し、全てがぎゅっと木兵にまとわりつく。そして、じゅわじゅわと明らか溶けてそうな音をたてながら液体もろとも木兵が消える。
「『ちょっ。こっちに当てないでね!』だってー」
「当てないさ。何のために槍にしたと思ってる。精密に狙って無駄玉をなくし、かつ、世界樹にあたりそうになったら消すためだぞ」
だとしても嫌だろうな。世界樹からしたら自分ぶち殺せるのを体の中でぶん投げられてるのと変わらないし。
「一発で残骸も残さずに仕留められるようにしたんだな」
「そうだぞ。姉。あいつらの体積はほぼ変わらんからな。必要な液体の量の予想くらいは立つさ。腕の部分の拡張性のせいで、若干、足先が残ることもあるが、それは端っこによけときゃ、邪魔にならんだろ。っと、だいぶ減ったが、まだ残ってるな」
「…なら、突っ込んだ方が早いよ」
「だな」
まだ第二波だというのに、賢人の魔法が効果的すぎる。結構な数がいたはずなのに、残りはわずかに5体。そこへアイリとセンが突っ込んでった。
薫さんの魔法を受けて、粉塵の心配も要らなくなっただろうとはいえ躊躇いがない。
なんて思っているうちに、木兵は壊滅。動けないように手足をバラバラにしながら、端っこに寄せられてる。もっと砕く必要はあれど、足は足。腕は腕。とまとめてばらしてある。しばらく再生もできないだろう。後は後続に任せる。
さぁ、上ろう。
上って、木兵をしばいて、上って、木球を避けて、なんか下るから下って、微妙に溜まってる樹液っぽい酸を避けて、木兵をしばいて……。ほぼ作業だな。
「木兵に賢人の魔法があまりにも効果的すぎる」
「木兵しばくのに特化させた魔法だからな。化学バカの姉と一緒にいたんだ。俺、結構、分析とかは得意なんだぜ?」
「関係あるか、それ?」
まぁ、化学製品の分析をしないといけないのはわからないでもないけど。薫さんが適当に置いた薬品類が何なのかを判定するとか、そういうので必要なんだろ。
「む。弟よ。何か不名誉な考えを二人にされている気がする」
「今はともかく、昔は妥当だろ。姉。鏡見ろ。鏡。その白髪は半分くらいそのせいだろうが」
なお、その半分は好奇心ひゃっはーで突っ込んだ結果な模様。…好奇心ひゃっはーなら、どこに何を置いてるのかちゃんと把握しとけとしか。再現性ない科学とかカスの極みだろ。
「こほん。それはいいだろう。進むぞ」
「自業自得だがな」
だな。
「…割と万能?」
唐突過ぎるよアイリ。歩き始めた途端だから、誰も足を止めずに賢人の方を見るアイリを見ている。
「それは俺の魔法のことでいい……っぽいな。割と万能ではあると思うぞ。ただ、今回みたいなスピードで、ポンポン打てるのは例外。解析対象が世界樹の防衛反応なんだ。世界樹に手をまわしてその辺の資料をもらったからな」
「いつの間に」
「暇な間に」
暇な間なんてあったかねぇ。とはいえ、俺らは割と前衛より。どっちかというと賢人は後衛より。そっちに意識回してないときになんかしててもおかしくはないか。
「そして、心配しなくてもアイリ。君らの父母に比べて万能じゃない。今、ほぼ無詠唱で魔法を撃てているのは数以外を固定しきっているから。魔法の形を変えたり、槍一本の液量を変えたりとか、そういうのはできん。やろうと思うと別途、詠唱が必要になる。だが、習達のは紙さえ用意できてれば、必要魔力量が変わるとはいえ、思考でいろいろと変えれるんだろ?そういう得意不得意はあるだろうさ」
「…なるほど。確かに、接近戦は苦手そうだもんね」
「そうなるな。魔導書は宙に浮いてくれはするが、剣持って戦うのはやりたくないな。控えめに言ってこいつ自身が邪魔だし」
世間話っぽい会話しながら、出てきた木兵を雑に処理したなぁ。最適化されすぎててもはや脅威ですらない。対応するためにサイズ変えるとかしてくるのかね?
「まどーしょが邪魔なら、それで殴ればー?」
「殴ろうとしたら読めん。言われる前に言っておくが、絶対に読まないといけないわけじゃないぞ。ただ、魔力を節約しながら魔法をぶっぱなそうと思えば、詠唱をしないでも詠唱を目に入れておくなんかの制約はあった方がいいんだよ」
賢人のシャイツァーはそういう道具なのか。ほんと、聞いてるだけだと俺らに負けず劣らず適用範囲が広そうだ。
「なあ。弟。今、ふと思ったのだが」
「どうした。姉」
「森野氏と清水嬢のシャイツァーだけおかしくないか?何で二人だけ、二人での魔法使用が前提になっているんだ?」
確かに? シャイツァーは割と持ち主である俺らの意思を汲んでくれる。もちろん、限度はあるが。
「不思議そうな顔をしているな。となると、姉の抱いた疑問は間違いではなかったか。であるなら、二人での使用が前提なのは本当にそういうシャイツァーである。か、他にできることがあるのに、二人が役割を絞っているか。だろう」
「普通に考えれば後者ですよね?」
「だろうな。清水嬢。でなければ、二人は召喚されるまでほぼ関りがなかったのに、出会った瞬間、すさまじい勢いで深い恋に落ちたことになってしまう。ラブラブちゅっちゅだな」
真面目な顔して何言ってんだこの人って、笑い飛ばしたい。でも、俺らが話題になってる上、確かに。って思えてしまう時点でそれはできない。だって、そうだろう? 四季を見た時、俺は恋に落ちた。これが人を恋愛対象として好きでないなら、なんなんだってレベルには。
あぁ、顔が赤くなってる自覚がある。まったく、なんて話をぶっこんでくるんだ。好奇心で突っ走るとこ、治ってないんじゃない?
「…なら、二人もわざわざ紙に書かなくても、軽い魔法なら使える?」
四季はどう見ても顔が赤い。し、俺も顔が熱っぽいから赤いんだろう。だのに、木兵を処理しながら訪ねてくるアイリ。その変わらないマイペースさが助かるよ。
「あー。考えるのはいーけど、世界樹が『足をとーめーるーなー!死ぬ!死んでしまうー!』って言ってるからー」
わかってるよ。考えながらでも足は動かすよ。
「ちょっとだけ処理はみんなに任しても?」
「…いいよ」
「今とあんま変わらんだろ」
「だな」
ありがとう。まぁ、シャイツァーぶん投げが無くなるだけだし、あんま変わらんってのは事実なんだが。
さて、実際のところどうなんだろう。シャイツァー。んー。さっき、恥っずってなったけれども、やっぱこのシャイツァーは四季と一緒に何かするって運用が前提になってる。外部から指摘されてみると、確かに何でニコイチ運用があんな腑に落ちたんだろうな。
他にできそうなことってなると、何か書く。現にいろんな筆記具の筆跡で書けるし。ペンはもちろん、シャーペンとか筆とか…。でも、色は黒限定でしか試してない。別にこれ、黒でなくてもいいよな。そも、筆記用具って言ったらチョークもあるわけだし。
あ。出た。ペン先からチョークが出てるっていうか、ペン先がチョークに丸々置換されてる形だけど、できた。いつもの見慣れた白いチョーク。
ここまでできるなら、他のことだってできる。俺のシャイツァーはペンで、書くためのものなら出せる。書くためって言っても、書くことそのものを目的としてなくていいなら、火で炙って字を書くことはできる。だから、俺のペンからも火は出せるはず。よし、出せるってシャイツァーも言ってる。
「俺はできそうだな」
実際にペン先から火を出してみる。
「それで刺したらダメだよー!」
「さすがにわかってる」
確実に炎上止めれんからな。で、火が出せるんなら、別に何でもいいわけで。シャーペンやチョークのような固形物出せるなら、硬い金属に書くための硬い棒でも出すか。
シャーペンみたいに芯が伸びるんだから、それなりに長く…はできるけど、この位置からだとどう考えてもアイリ達の邪魔にしかならんな。前に出て戦うことはできるが、こいつの強度がわからん。
とりあえず、ブンッと振るってみる。ん-。切れないな。あくまで鉄に書くためのものであって、切るものじゃないから当然だが。
「あぁ。習君の参考にしたらいけますね。アイリちゃん!セン!私も攻撃に加わってみます!」
そう言って、大きく振りかぶって何かをぶん投げる四季。身体強化してるとはいえ、人間の投げるスピード。無理なく何をぶん投げたか目で追える。どー見てもただの金属塊。
普段のファイルはぺらっぺら。どこにそんなの入ってたんだ感マシマシだが、魔法だし、気にしたら負け。
ファイルを投げるよりはやりやすそうだし、手数も上。威力はわからないけど、ファイル投げるのと同じくらいか?
「…魔力的にはどう?」
「当然のようにファイル投げてる方が安上がりですね。手に負えなくなるまではファイル投げるだけでいいですかねー」
残念。俺も俺でシャイツァー投げてるだけのがよさそうなんだよな。一応、切った跡で字を書くこともできるから~って理論で、今のペンから出てる先っちょをカッターっぽくすることはできる。が、それ出来てもアイリやセンを押しのけてまで前に出るだけの価値があるか怪しい。
「なら、フォーメーションは今と変わらずでいいか」
「だな。変わらず二人は温存だ」
「対応できなさそうなら魔法で手を出す感じだな」
もっとも、今のところそんな感じはないが。コンスタントに同じように敵がわいてきてるだけ。ペンやファイルぶん投げてるだけで何とかなってる。
「結構上ってきたはずだけど……。まだあるよな?」
「んーー。そーだよ。腐っても世界樹だしねー」
中が迷路みたいになってるしなぁ。下から見たら上に登っていくだけのはずなのに、下る道もあったし。しかもそれが正解って言う。
「なら、ご飯食べとくか」
「ですね」
「痛がってるのにー!って言ってるよー」
一時停止でなんか言ってたし、ご飯ともなると言ってくるよな。
「急いで行って死んだら永久に助からないぞって言っといて」
「言わなくても聞こえてるでしょうけどね」
カレンの前のセリフ的に痛い痛いって言いまくってるはずだから、あんましこっちの言葉拾えないはずなんだけどなぁ。…停滞してるっぽいのを見たから気づいたのかね。
心なしかさっさと食べる。いつもいっぱい食べるアイリでさえ急ぎ気味だった。口の中がご飯でいっぱいになっててかわいいという気持ちと、どういう風にそれを噛んで処理してんだろうって気持ちがまぜこぜになってる。
おなか一杯で心機一転。また元気よく上っていくと急に視界が開けた。
「ようやく一番上に来t「錯覚らしいよー」おぉう……」
賢人の言葉をカレンが一瞬でぶった切った。
上が見通しにくい幹というか、洞? の中が終わって、枝葉がわっさぁと広がって視界が通りやすくなったのにな。…まぁ、どこまで上が続いてるのかわからないのは事実だが。
「…ここからはどうやって進んでいくの」
「さっきと違って一気に進めるよー!」
「…それはハイエルフだから?」
「んーん!」
元気よく首を左右に振った後、カレンは元気よく弓を掲げた。あっ。察し。
「弓から矢を放つよー。固定しとくから頑張って持ってねー」
やっぱそうだよな。全員が矢を持……うん?
「センはどうすんの」
「……矢をいい感じにするから、いい感じにー」
先っぽが丸くて大きな矢……矢? って形状の何かになったけど、これでなんとかなるのかね。
「じゃー。行っくよー!ボクにターゲッティングしてー、ハイエルフ特権で、一気に目的地へー!」
カレンの姿が掻き消える。それと同時に俺らが捕まっている矢が動き始める。察したのは一部あってたけど、一部間違ってたか。カレンはハイエルフだからここまで来たら直行。でも、俺らは矢で運搬(物理)という。
さっきまでの徒歩と比べると圧倒的に速い。そして、さっきみたいな自動迎撃システムもあるんだろうけれど、カレンが問題ないとこ選んでくれてるからか、無反応。
上に登って行くだけじゃなく、上下左右に振れていくから掴んでいるのも大変。てか、カレンは一直線に目的地に飛んでったはずなのに、何でこんなめちゃくちゃな軌道を描けるんだろうか。カレンがそこにいるからって、直通ルートが整備されるなんてそんなガバガバ防御なはずもなし。
目の前に迫ってくる大きな葉。でも、誰も騒がずその葉を貫通。風景は変わった気がしないが、なんとなーく空気感が変わった気がする。別の次元に飛んだ。んで、そこからもぽんぽんと大量にある枝葉をかき分けながら、正解であろう葉を選んで貫通していく。いったい、いつまでこれが続くんだ? と思い始めたころに開ける視界。
ふかふかの絨毯のように広がる葉に輝く太陽。そして。先に行ったカレンと元気のない若芽。疑いようもなく目的地だ。
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