3話 これから
「森だな」
「森ですね」
トンネル?を抜けるとそこは森だった。
まぁ、秘密の通路の出口としてはいいのではないだろうか?夜中だと見にくいから、通路から出てきたところを見られる可能性がグッと下がる。その分、足下が不安定で危ないけど…。
「どうします?ここで大まかな方針を立てますか?」
「そのほうがいい…かな?」
秘密の抜け道が繋がっているのがびっくりするぐらい危険なところ…ということはないはず。命からがら逃げ延びてきて危険で死んだら意味がない。
「では、早速なのですが…、矢野さんが言っていたように口調を崩してみます?」
「俺は構いませんが…」
「では、そういうことで。あ。あの、私から言っておいてなんなのですけれど…、私の口調はほぼ癖です。なので、劇的な変化は期待しないでいただけると…」
それって、俺だけ口調を崩せと言うことでは…?いや、気にしたら負けか。
「わかりま…いや、わかった。じゃあ、次。呼称はどうする?」
「シンプルに下の名前でよいのではありませんか?」
「じゃあ、四季って呼んでいい?」
……あの、顔を赤くされても困るんだけど。
「なんだか照れますね。私はそれで構いません。こちらは習君と呼んでもいいですか?」
……なるほど。これは確かに少し恥ずかしい。勝手にこちらが気を寄せているせいか、ころころと鈴が鳴るような声が心地いい。
「で、これからどうする?」
「私達の現在地は王都の北ですよね?」
うん。そのはず。
「そして、できるだけ早くバシェルを出たい」
追っ手が来たら面倒くさいから。
「となると、北へ向かって他の国へ行く…でいいのでは?」
「第一目標はそれだね。その後は?」
「私達自身、帰還魔法捜索隊に所属予定だったのですから、帰還魔法を探せばよいのでは?」
それもありだとおもうけど…。
「なんとかして西光寺達に合流するのは駄目なの?」
「多分駄目です。人間領域…あ。人間領域はこの大陸の中で人間の支配する領域のことです。で、この領域の中央って、バシェルの影響力が強いようです。ですので…、」
北に行ってしまうと人間領域を通って合流しに行くのは面倒くさいと。
「言っておいてなんだけど、居場所もわからないしね…」
「一応、戦えない人が多いようですから拠点構築に時間をかける…と私は踏んでるのですが…」
確かに。西光寺達なら…無駄に命を散らすようなことはしないはず。拠点構築に時間をかけそう。だから合流しようと思えば出来なくもない。けれど、その場合、影響力の強い国を南下するか今からバシェルを突っ切る必要がある。
「合流を諦めますか?」
「いや、一つ手がある」
人間領域の北に獣人領域。東に魔人領域、南にエルフ領域があったはず。各領域の位置関係は、大陸を円だとすると綺麗に×で区切れる…という位置関係。
そして、西光寺達はわざわざバシェルの影響力が強い国へ近づかないと思う。となれば、人間領域の南で拠点を作るのに時間をかけるはず。だから、
「北上して各領域を通っていけば、西光寺達と合流できるはず」
大陸をぐるっと時計回りで回る。魔人領域があるけれど、人に会わないようにすればいける…と思いたい。
「バシェル抜けるのとどっこいどっこいな気がしますが…、勇者信仰は領域によらず強そうですので、なんとかなります…かね?ですがその場合、当然ながら帰還魔法も捜索しながら回りますよね?それですと、拠点構築が終わってしまうと思うのですが」
俺もそう思う。だから、
「メジャーなところだけ見てみよう。たとえ、本に帰還魔法とか書いていなくとも、勇者が行けば帰還魔法が出てくる…って可能性はあると思う」
「そう…ですね。合流してからもどこを見たのかという説明もしやすいです。それでよいのではないでしょうか?」
よし、これで方針は決まった。
「他に決めることある?」
「決めることというほどでもないのですが、鞄。見ましょう?」
「確かに。鞄は見といた方がいいね」
何が入っているのかわからん!では困る。
「では、広げましょ…ってちょうどいいスペースがないですね…」
「俺が持つよ。全部出したら袋の上に置こう」
「それしかないですか…」
丁寧に袋から荷物を出す。あれ?待って、結構な量がある。
「ごめん。持ちきれない」
「思ったより持たせてくださっていますね…。地面にそのまま…あ。あれがありましたね」
あれ?……あ。
「シャイツァー!」
「です!これで紙を出してそこに置きましょ。微妙に役に立ちましたね」
ほんとに微妙だけどね…。
「俺らのシャイツァーはどう使えばいいんだろうね?」
「ですよね…。「荷物置きになります!…うん、で?」という感。あ。これで最後ですね」
鞄の中に入れてくださってたのは、
金貨13枚
食料 5日分くらい?
魔道具 数点
で全部かな。
「金貨だけでかつ、枚数もキリがよくない数なのがマジで王族が適当にかき集めてくれた感あるよね」
「ですねー、本を読んだ限りですと、銀、銅とかありまして、庶民は基本銅らしいのですけどね…」
リンゴ一個買うのに金貨なんて出された日には庶民はおつりが出せない。だからこそ「木の実買うのに金貨出す。おつりは要らない、邪魔だから」みたいな貴族と庶民の金銭感覚の乖離を象徴する話が生まれるのだろうけれど。
「食料五日分は多いのか?」
「迷わなければ十分だと思いますが…」
バシェル内ではあまり街に行きたくない。時間は十分とはいかなそうだ。
「後、水がないのですが…、」
「たぶん魔道具で出せるんじゃない?」
水差しっぽいものがある。それを使えば出せそうだけど…。
「習君。使い方わかります?」
「さっぱりだね。説明書は…」
広げてるのに目に入らない。ないね。
「適当にいじくり回すのは…、」
「なしです」
「だよね」
最悪、売り飛ばして路銀に変えるって手段が使えなくなる。
「壊さないうちに収納しちゃいますね…」
「だね…。あ、ついでだし、ここでご飯も済ませちゃおう」
結構いい時間。今のところ他の生物の気配もなし。安全っぽいうちに。
「あぁ、よい案ですね。では、食べる分だけ残しときましょう」
パンが入っているっぽい缶二つと、スープが入っているっぽい水筒?を一つ残して後はしまう。
「足りるかわかりませんが、とりあえずこれで。手を洗いたいところですが」
「そんなものはない」
「はい」
はいじゃないが。と言いたいけれど、はいとしか言えないという……。手で直接触らないようにして食べるか。
「この手と、缶。どっちのが雑菌が多いのでしょうね?」
「どっちだろう…?」
地球なら出荷されたてならば間違いなく缶が清潔。店頭に並べられてからだと誰がどんな手で触ったかわからない。見かけは綺麗でも喋ったときに飛散する唾とかがついてる可能性が大。その場合は甲乙つけがたい。
この缶だと余計にわからん。
「面倒ごとはえいやーって捨てまして、気にしないで食べますか」
「だね、死んだら骨は拾ってね?」
「大丈夫です。死ぬときは一緒ですよ」
はっはっは。…笑えない。ま、食べるか。
水筒の蓋を回して外して注ぐ。湯気がぽわっと立つ。
「魔法瓶ですかね…。水筒だと熱いもの入れちゃ駄目だったはずですので」
「かな?あ。四季。水筒一個でいいの?」
「え?別に構いませんが…」
ん?もしかして間接キスになる可能性に気づいてない?不思議そうに首をかしげ…てる?あれ?気づいてて気づいてないフリをしてる?これはどっちだ?
聞かないでおこう。聞かないでいる限り、気づいている四季と気づいていない四季が重なり合って存在している状態。つまりシュレディンガーの四季が成立する。
……俺は一体何を言ってるんだ。
「あ。習君。このパンの缶、開けやすいですよ」
「あ?ほんとに?ありがたいね」
「ですね」
考えないようにしよう。俺が気をつけて飲めばいいだけだ。
四季の言うように本当に缶は開けやすい。タブを持ち上げて引っ張ればそれだけで開く。これも勇者が持ち込んだんだろうな…。
「「いただきます」」
さて、パンをどうやって食べよう。素手は駄目。缶につけないように食べる…のは行儀が壊滅的に悪い。
「って、食器使えばいいじゃないですか!」
「あ!あぁ!確かに!」
ナイフとフォーク。もしくはお箸。それを使えば解決だ。
「なぜ二人そろってぼけてたのでしょうね…」
「俺に聞かれても困る」
「ですよね。あ。フォークでいいですよね?」
「うん。ありがとう」
改めまして。いただきます。パンをフォークで突き刺して食べる。城で食べさせてもらったものには負けるけれど、こちらもなかなかにおいしい。少しばかり固いけれど。フランスパンみたいなものと思えば気にならない。
スープはコーンスープ。コーンが結構いっぱい入っていて、うまく飲まないと割と底に沈む。味は可もなく不可もなく。自販機で売ってるやつを劣化させた感じか?ま、気にせずとっとと食べきろう。
______
「「ごちそうさまでした」」
片付けよう。間接キスがどうこうとかは気にするから駄目だったんだ。気にしなければ平気だ。ご飯食べる前の行動とは裏腹に四季も全然気にしてなかったっぽいし。
……俺だけ気にしてるようでなんだか悔しいけど。
「行きますか」
「あぁ、行こう」
荷物は全部まとめて背負う。獣道っぽいところを道なりに。
「四季。大きい道が見えたよ」
「街道ですかね?あ。習君」
ん?何?
「この道、抜け道からずーっと繋がってたじゃないですか。なので抜け道の範疇らしいのです。ですので、大通りに出ちゃいますと、私達から見えなくなって、引き返せなくなるようです」
「マジで?」
「マジです。本に書いてました」
なら、荷物の確認を。忘れ物は…ない、かな?
「では、」
「あ。待って。四季」
進もうとする四季の手をつかんで止める。ちょっと強かったかもしれない。ごめん。
「何でしょう?」
「せっかくだし、大通りには同時に出ない?」
「あ。はい!もちろんです!」
にっこり笑う四季。普段の四季は綺麗だけど、笑うと可愛らしい感じが強くなるんだな。
「では、手をつなぎまして…、えっと、街道は左右を見ても誰もいませんね」
「轍があるから使われていない道ではないはずなのにね」
でも、誰何されると困ってしまうから今のうちに。
「ですね。では、行きましょう。えっと、3, 2, 1, 0の、0の言い終わりに足を出す…でいいです?」
「了解。じゃあ、行くよ」
二人横に並んで、街道ギリギリまで詰める。
「「3, 2, 1, 0」」
同時に足を踏み出す。靴裏から伝わってくるさっきよりもしっかりした道の感触。街道に出たね。
後ろを見てみると本当に道が見えなくなってる。獣道っぽい道とはいえ、あれだけはっきり見えていた道だったのに。
「北は太陽のないほうでいいよね?」
「はい。日本と同じはずです」
じゃあ、日がある方が南だから……。ん?
「四季、俺の目には熊っぽい生き物が見えるのだけど?」
「習君もですか?であれば…、」
気のせいではない。ちっ。
「さっきの昼食がまずかったですかね?」
「いや、案外、ルキィ様がフラグ立ててたから、そのせいかもしれない」
ここは安心みたいなことを言っておられたはず。穴を抜けるのは安全だったけど、脱出路から出るのは安心じゃない的な。
「近づいてきてますよね?」
「だね。後ろを向かずに下がるのが安パイだっけ?」
「です」
急に動くと追いかけてくる。地球の熊と同じだとすると最高で時速50か60 kmのはず。余裕で負ける。
「食べたもののゴミが原因って可能性は?」
ゴミも背負ったまま。そこから匂いが漏れてる可能性がある。
「かもですね。申し訳ないですが捨てます」
使ったやつは使ったやつでまとめてる。それをその場にそっと置いて、ゆっくり距離をとる。睨むのは駄目。ゆっくり、ゆっくり…。
熊がゴミのところへ。一瞬匂いを嗅いで、無視。
「あ。これ、たぶん駄目なやつですね」
「だね。こっちが人間ってわかってて近づいてきてる可能性大」
シャイツァー準備。だが、まだだ。体を大きく見せるようにしながら、優しく声を出す。どんな声がいいのかは知らない。「人間だよー」とか言ってみて人間であることをアピールする。
「引きませんか。駄目なやつっぽいですね」
「人食いかな?」
「かもです」
人間の味を覚えて、また食べたいと思ってる熊。であれば引かないだろう。
「習君、俺が囮になる…はなしですよ」
「え?」
それもありかって思ったのだけど…。四季の目は有無を言わさないほど力強い。
「わかったよ」
「なら、よしです」
満足そうに頷く四季。彼女の目から有無を言わせない強さが消えた。
「さて、よさげな魔道具ありましたっけ?」
「俺の記憶ではないね」
すくなくとも戦闘向きのものは一つもない。
「であれば、熊と肉弾戦ですか。習君、武道のたしなみは?」
「多少は。四季は?」
「同じく」
それは結構。
「では、やりますか」
「あぁ」
ペンとファイルを同時に放り投げる。
「浅い!」
「ですね!」
当たったけどダメージはなさそう。戻して、再度投擲!ペンは目に突き刺さり、ファイルは口に命中。口内を切り裂く。
「ナイス!」
「習君もナイスです!」
二度目はよし。再度戻して、投擲…の時間はない。激高して突っ込んで来てる!突進をいなすために横に…ッ!予想以上に早い!
「習君!」
「あぁ!」
四季がファイルを掲げ、俺が彼女を支える。確実に押し負けるが…、それでもこれしか次に繋がらない!
「…やっと見つけた」
え?俺と四季、そして熊しか居ないはずの場に響く場違いな幼い声。
「…さすがにそれは無謀」
声と一緒に切り離された熊の首が降ってくる。
「…無事?」
「あ、あぁ。俺も四季も無事」
「ありがとうございます」
倒れ伏した熊の後ろから現われたのは3 mくらいの大鎌を構えたフードを被った子。声的におそらく女の子。…あれ?この子、口に何か咥えてる?
「…そう。よかった。…で、黒髪だし、シュウとシキであってる?」
「うん、あってる。助けてくれてありがとう」
「…ん」
会話が続かない。というか、続けようとしていないように感じる。
「…熊、解体するのに時間かかる。さっき捨てたのとってくるなら、どうぞ」
この子は一体どうしたいんだろう?話し方的についてきてほしいのかな?…よくわからないけれど、ゴミは回収しておこう。
「ちょっとゴミをとってくる」
「了解です。私に出来ることは…」
「…ない。解体できないでしょ?」
ごもっとも。俺も四季も熊を解体したことなんてない。
「…あ。名乗ってなかった。わたしはアイリーン。ルキィ様に二人についていくように言われてる。…今更だけど、解体の間待ってくれると嬉しい」
「もちろん」
「ですね。助けてもらいましたし」
待つくらいなんてことない。
「一つ質問を。ルキィ様が派遣してくださった護衛ですか?」
「…ん。あ。荷物はそっち。魔法の鞄。二人の荷物と、よさげな武器が」
ありがたい。荷物に武器がなかったのは護衛にアイリーンを送ってくれるつもりだったからかな?
「…あ。二人のことはお父さんとお母さんって呼ぶように言われてるから」
え?ちょっと待って。
「「ごめん、|もう一回言って《もう一回言ってくださいますか》?」」
「…あ。二人のことはお父さんとお母さんって呼ぶように言われてるから」
一言一句、事務的な言い方まで完璧に同じ。…聞き間違いではない。
「「何故?」」
「…要約すると、二人とも仲がいい。で、長身。わたし小さい。で、」
彼女はそこで言葉を切ると首を振ってフードを払いのける。
フードからこぼれ落ちるは滑らかで綺麗な黒い髪。だけど、
「…見ての通り髪が黒」
それを紹介する声は少しだけさみしそう。でも、
「…今は黒目。だから家族って言ってもおかしくない。誤魔化すのにちょうどいいって」
次に紡がれた声は先と同じく淡々としたもの。この子が何でもないように振る舞わないといけないっぽいことが少し悲しい。
「…家族で誤魔化すのにちょうどいいらしい」
いや、待って。さっきみたいに理解が及んでないわけじゃないから。ちゃんと聞いてたから。ダメ押しで言わないで。
あぁ、もう!顔が赤くなる。四季も顔が赤い。
俺は四季が好きで、たぶん四季も俺のことを好いてくれてる。でも、今日会ったばかりで、告白もしていない。なのに子供できるの?やばくない?
いや、こんなときこそ落ち着かねば。深呼吸して…。よし、
「四季。俺はアイリーンの言うことを採用しようと思うけれど、四季はどう?」
「はい。いいと思います。習君もいいのですよね?」
「うん。もちろん」
むしろ嬉しい…とは言わない。
「…片付いてきたから袋に入れてくれると嬉しい。…入れる袋はその口に赤いひもがついているもの使って」
「「了解」」
熊肉やら骨を袋へ投入。
「あ。そうでした。アイリーンちゃん。貴方の呼び方はどうしたらいいですか?」
「…アレ以外ならご自由に」
アレ?四季は合点がいってるようだけど…、何だ?
「習君。これを。こちらのはここを。そちらのはここを読んでください」
「了解。ありがとう」
四季がわたしてくれたのは2枚のメモ。丸で囲ってくれた部分は…、
『エルモンツィ』
今から500年ほど前に人間領域で人間を殺して回った大量殺人鬼。被害者数は少なくて10万、多くて56万人。滅んだ村や町、都市は30を超える歴史に残る悪魔。
容姿は黒髪赤目。シャイツァーとして大鎌を持つ。
『シャイツァー』
勇者はシャイツァーを消したり出したりできるが、勇者でなければ不可能。勇者以外のシャイツァーはサイズを変えて邪魔にならないようにするしかないが、一定以下にはならない。
なるほどね。この子は黒髪黒目で大鎌のシャイツァー持ち。エルモンツィを彷彿とさせるから嫌われたか…。
「では、アイリちゃんでいいです?」
「…ん」
本当に地雷以外であれば呼ばれ方に興味はないらしい。
…悪魔に似た姿ってことから迫害がエグかったのは容易に想像がつく。地球の魔女狩りと似たものだと考えると、むしろ生きてることが幸いとすら言えそう。
「…内臓はどうする?…食べれないこともないけど処理に時間かかる。破棄推奨」
「では、それで」
俺の内心はどうあれ、アイリと四季はどんどん解体を進めていく。アイリは鞄から魔道具を取り出して、地面に置く。
「それは?」
「…死体処理用。…放置するとアンデッドになる、他の危険生物の餌になる。…それは危ない」
だから処理すると。
「…火魔法か聖魔法でも代用可能。…でも、わたしも二人も使えないから。…起動するから離れて」
カチッとスイッチを押し込むと、喋ってる間に積まれていた内臓が一瞬で消え去った。
「…行こう」
了解。
「そういえばアイリちゃん。囓っているものってなんですか?」
「…これ?ジャーキー。美味しくないけれど、栄養はある」
じゃあ、何で食べてるの…?
「…食べないと大変なことになるから。…ジャーキーじゃなくても、毒物以外であれば何でもいい。…勝手に調達するからわたしの食費の心配は無用」
毒物って…。
「いや、そこは俺らが気を遣うべき場所だろ」
「ですです。そういうわけで、こちらをどうぞ」
四季が取り出したのはお肉のスティック。缶に入っていた物ではあるけれど、見るからにカピカピのジャーキーよりは美味しいはず。
「…そう?わかった。ありがとう。でも、これはもったいないから食べる」
素直に受け取ってくれた。…のはいいけれど、この子、俺らが言うことを拒否しない気がする。死ねとか以外なら何でも聞いてしまいそう。これも迫害されたっぽいせいか…。
言い方的にこの子はルキィ様の保護にいたはず。でも、俺らの方に来た。ルキィ様は俺らが何かするはずがないと思って、かつ誤魔化しのきく子として送ってくれたんだろうけれど、この子が「ルキィ様に追いやられて後がない…」と思っていても不思議ではない。
この子を見捨てるのはナシだ。
「四季」
「はい」
俺の呼びかけに返ってくるしっかりした四季の声。
「覚悟を決めよう」
「はい」
まだ高校生で、親になんかなったことはない。家族というものもよくわからない。
けれど、せめて俺らと居る間くらいは、この子が守られて、幸せであるようにしよう。流れで押しつけられた家族なんかではなく、俺と四季が確たる意思を持って、家族を作ろう。
「…?どしたの」
「ちょっと覚悟を決めた」
「はい」
「…そう」
この覚悟はこの子に押しつけるものじゃない。だから言わない。
「…大丈夫。二人はわたしが守るから」
覚悟が「死ぬ」だと思ったのか、歩きながら鎌をキラリ輝かせて言うアイリ。言葉の頼もしさとは裏腹に、フードを被った少女の背中は大きくも、小さく、危なっかしいものに思えた。




