10話 自分の家
華山家に何とか辿り着いた。しかし鍵が閉まっていたので、どうしようか迷った結果取り敢えず窓の方へ歩いて、そのまま窓を割って入った。側から見たら空き巣である。
「よし。取り敢えずこれで良いな。あとは…どうしようか…」
取り敢えず洗面所へ行って、蛇口を回し水を出して、手の平にその水を溜めてから、顔へ一気にかけた。そして目の前の鏡を見つめた。想像していた通り、顔は全くの別人になっていた。美少女であり、顔も可愛い寄りではなく美人寄りではあったが、とにかく殆ど変わっていた。
「はぁ…これじゃあ誰も信じてくれないよな…。俺が華山焉武だって事…」
そもそも日本人顔では無くなっている。少しハーフっぽい顔立ちだ。目の色だけは変わらず右目が鮮やかで遠目から見ても分かる赤色だ。
「これからどうするかだな…」
身分証明書が正直無い以上、普通の暮らしは出来ないと思った。自分の腕を見て
「ミュータントの体か…」
腕を炎に変えようと思ったが、なぜか炎が出せなかった。
「あれ…?」
いくら頑張って出そうとしても出せなかった。
「昨日は出せたのに!壁を越える時も出せたのに!!」
試しに今度は足を燃やしてみた。すると普通に燃えた。
「!?」
次は手を見てみた。全く変わらない。全然燃えなかった。
「何なんだ…?一体…」
頭を抱えると、水滴がポツンと落ちた。先程顔を洗った事を思い出した。
「そういえば…まさか……」
足を上げて水道の下に持っていき、水に濡らした。そのあとまた足から炎を出そうとした。しかし出なかった。そこで自分の能力で1番知りたかった事である弱点が判明した。
「水に濡れると炎化する事が出来なくなるのか…。なるほど…」
焉武を大きく息を吸い、そしてゆっくりと吸った息を吐いた。
「取り敢えず風呂に入ろう…。そして……」
一旦洗面所から出て、家の中を歩き始めた。そして全ての部屋を見た後に
「この家から出よう……」
そう呟いた。親が居なくなり、自分も今までの自分ではなくなった。もうここに居る事は出来ない。まだ1日しか経って居ないからバレては居ないが、そのうち怪しまれて来るだろう。そして華山一家の行方不明事件の容疑者になったら、たまったもんじゃない。自分の本心を言えば、普通にこの家でまた暮らしたいがもう無理な話だ。
「……」
涙がポツポツと出てきた。たった1日で全てが変わり、両親を失い、自分を失ってしまった。
「まぁ明日…家出るとしよう…。今日はまずは風呂に入って…身支度だな…」
その時自分の体を見た。1つ問題点があった事を思い出した。
「どうする…。俺の体とはいえ…女の体なんだぞ…」
なんか変に意識してしまう。取り敢えず熟考した。正直体はスタイルが良く、胸も大きいという男子にとっては目に毒の見た目だ。風呂に入るとなれば、その裸を見るわけだから流石の焉武も気が引ける。修学旅行の際に皆で女風呂を覗こうという昔と変わらない事があったが、焉武は恥ずかしさゆえ行かなかった事がある。まぁその時は先生に寸前で止められて、行ったメンバーは長時間叱られていたが、とにかく意外と焉武はそういう部分は控えめな所があり、勇気を出す事が出来ない。良くいうとピュアなのだ。
「んー…」
ーーーーーーーーーー
考えた結果目を閉じた。そして服を脱ぎ始める。そのあと目を閉じたままシャワー室に入り、体を洗い流した。まだ1日しか経ってないのに、本当1週間ぶりに感じる。それにしてもやはり慣れない。自分の体を洗ってるだけなのに、変に感じてしまう。
(ぐ…見るな…見るな…)
見た目は女だが、心は思春期の男子。ドキドキしながら体をゴシゴシと洗う。髪を洗い、その後問題の体を洗った。大きな胸はもうササッと素早く洗った。
(俺の体なんだ…。これは俺の体。そう俺の体なんだから、何も考えるな。変な感情を持つなよ…。俺…)
そう思いつつ目を瞑り焉武は風呂から出た。そのままタオルを手探りで掴んで、身体を拭いていった。拭いてる途中も
(良いか…俺…そのまま何も考えるな…。何も考えるな…。冷静を保て…)
と念じていた。大きな胸に当たったが無心のまま気にせず、目を瞑りながら全身を拭いた。何となく拭き終わったと思うと、用意してあった場所を感覚だけで探して服を着た。自分の服なので当然女性用ではないが、身長が低くなったおかげなのか、胸の所で引っ張られても丁度良い感じになり、見た目的には特に違和感は無かった。
「はぁ……。早くこの体に慣れると良いな…」
こうして風呂は何とか終わった。しかしこれは今まで使っていた風呂場だから出来た事で、これから別のところで暮らすとなると、ずっと目を瞑って体を洗うのは正直無理だし、一生自分の裸を見ないで生きるというのも無理だ。
「そこは今後考えるとするか…」
鏡を通して、自分の体を見た。
「それにしても本当に無駄にデカいな…。もう少し小さければ動き易かったのに……。俺の目的のことを考えたら、こんなに胸いらねぇな…」
正直邪魔だった。別に中身は男のままだから男性からモテても嬉しくないし、焉武の目的は自分から全てを奪った千田研…いや、研だけではなくその研を従えているenemy達を叩き潰すことだ。その事を考えると、この胸は完全に必要無い。重りになるだけだ。
「仕方ないか…。慣れたら大丈夫だろう…」
あーだこーだ考えても仕方がないと思い、リビングに行ってリュックを開けて必要になるであろう物を入れていった。
「食料はある程度いるよな…」
取り敢えず貧困層区域で暮らす事にした。普通なら近寄らない。近寄りたくない区域である。犯罪率は一般区域の10倍以上であり、軽犯罪は罰則なしという無法地帯だからだ。人権なんかほぼ無いに等しい場所。そこに住むにはある程度自分で身を守る方法が無いとダメだ。望んで手に入れたわけでは無いが、焉武はその身を守る方法を手に入れている。
「そして……」
焉武はアルバムを手に取った。自分の小さい頃の写真が貼られている。
「……」
暫く眺めていた。
「2歳ぐらいからの写真しかないな…。今見たら…」
まぁ良いかと思いそのアルバムと、両親と自分が写っている写真が入っている写真立ても入れた。
「流石に入れすぎたかな…?大きなリュックだけど、あまり入れ過ぎると重いからな…」
スッと持ち上げた。意外と軽かった。
「あれ…?そんなに重くない…」
一旦下ろして中を見た。結構多く物が入っている。再び持ち上げた。やはり軽かった。
「そういえば…薩春とかいう奴を投げた時、予想以上に吹っ飛んでいたな…。やっぱりミュータントは普通の人間より、基礎身体能力は高いのか…」
また新しい事を知れた。
焉武はその後も家の中で自分の能力について出来るだけ知っておこうと思い、色んな事を試した。まず炎化の持続時間に関して。今の焉武では全身を炎化させると、2〜3分で疲れが出始めて、5分程で炎化出来なくなる。昨日は怒りでいっぱいになっていて、疲れそっちのけで戦っていたから長時間使えただけで、普通はそんなに持たない。あとは炎を応用。家を家事にさせたくはないので、小規模だがどれだけ自分の炎が使えるのか試した。明かりは勿論、暖まったり、また食べ物を焼いたりする事が出来た。日常生活をする事に関してはかなり便利だというのは分かった。
「火ってこんなに日常でも便利なんだな。焼いたり、明かりを灯したり出来るだけでもかなり役に立つぞ」
しかし何度やっても、水に濡れた部分は炎化出来なかった。
「なるほどな…」
次は自分の指を少し切り、血を足に垂らした。これは自分の体から出る体液に濡れても、大丈夫なのかという実験だ。結果は無事炎化出来た。血を床に垂らして、触れずに血を燃やす事も出来た。
「よしよし。情報はだいぶん集まった」
窓から外を見た。
「夜か…。そろそろ寝るとするか…」
階段を登りドアを開けて自分の部屋に入り、布団を敷いた後布団の中に入った。明日は6月17日の日曜日だ。朝に家を出ようと思い目を閉じた。




