半魔の薬屋さん
15「半魔の薬屋さん」
午前のうちに買取業者を案内してもらった俺は、早速その買取業者がいると場所に出発し、やっと到着していた。
いつも女神さまの力を使っている訳ではないので、今回は自分の力でここまで歩いて来たのだが……、流石に先程のメルルとの事もあって少しだけ疲れてしまった。
チラリと見ると、スライムも胸ポケットにいるのが疲れたのか、今は俺の肩の上に乗っている。
「そういえば、お前に名前をつけないとな……。」
俺は肩にいるスライムにそう話しかけると、スライムは「そうだ!そうだ!」と言わんばかりに体をぷるぷると震わせている。
正直ここまで意思疎通の取れるモンスターも珍しいなと思う。
そしてそんな珍しいスライムが、初めての仲間になったという事は非常にラッキーな事だ。
俺は肩にいるスライムを一撫でしてそんな事を思ったが、とりあえず今は名前の話は置いておいて、今回の目的である小さな薬屋さん。その中に俺たちは入る。
俺はその薬屋の扉を開けて……
「お邪魔しまーす。ここで素材の買取してくれるって、ギルドから聞いてきたんっすけど……。 誰かいますかー?」
と、大きな声でその店の人を呼んでみた。
実際カウンターには人はおらず、従業員を呼び出すべく声を上げた訳だが……、ただ俺の叫びが虚しく店に響いただけであった。
「あれま?今は人がいないって事ですかー?
こんなに声を掛けても出てこないって事は、マジで誰もいないんすかー?
なら、ここにある薬とか盗まれても知らないっすよー。」
とそう言って、「あっ!これとかいいなぁ。」とかなんとか言いながら、俺は近場にあった薬を手に取り、ジロジロとラベル部分に目を通す。
当たり前の話だが、それを盗んで行くつもりなんてない。
すると程なくして、店の奥からバタバタと足音が聞こえてくる。
そして……
「ま、待ちなさい! そこの薬に勝手に触らないで!
勝手にそれを盗って行くなんて……承知しないわよ!」
と、そう言いながら店の奥から耳の長い女性、恐らくエルフと思われる綺麗な女性が慌てた様子で現れた。
実を言うと、俺は人の反応を女神さまの力で事前に確認していたので、彼女が店にいる事は確認済みだ。
それでいて揺さぶりをかけるために、わざと声に出して「盗む」と叫んでいた訳なのだが……
先程まで黄色反応だった彼女の反応は、今は敵としての認識を表す赤色の反応に変わってしまっていた。
おそらく俺に対して少なからず攻撃的な意思があるため、そのような表示になっているんだろうけど……、そこまで過剰に反応するなんて、何か特別な理由でもあるんだろうか?
まあとりあえずは、俺が今日ここに来た要件だけでも伝えておくか。
「まあ、さっきの盗むって話は嘘なんだが……。
ここの店で素材を買い取ってるって聞いた。だから、俺が採ってきたゴブリンの牙を買い取ってくれ。」
と、警戒する彼女を完全に無視して、そのように話を伝え、ゴブリンの牙をカバンの中から取り出そうとしていたところ……
「ま、待ちなさい……!あなた、誰の紹介でここに来たの?
ギルドの紹介状だけは、こちらにも来ていたのだけど。」
と、エルフの女性はなぜか不安そうな表情で、そのように俺に問いかけてくる。
「んあ?ああ……。メルルって奴の案内で、だけど?
どうした?なんか心配な事でもあんの?」
するとそれを聞いたエルフの女性は少し納得した様子で「あの子から……か。」と呟き、「これは警告だけど……。」と、前置きをしてから口を開く。
「今回はあの子からの紹介だし、ちゃんと相場でその素材を買取する事にするわ。
でも、次からは別の業者に頼むようにギルドには伝えておいた方がいいと思うわ。」
と、なぜか俺に対してそう警告し、自身の耳を軽く押さえるようにして、俺から見えないようにする。
それも、なぜか寂しげな表情をその顔に浮かべて。
俺はその言葉にシンプルな疑問を抱いて
「ほえ?なんでそんな面倒な事しないといけねーの?
別にアンタに売ればいいだけだし、他に頼む必要なんて何処にもないだろ?」
と、思った事をそのまま口にして、エルフの女性にそのように尋ねると
彼女は先程までの寂しげな表情から一転、とても怒ったような顔で俺に詰め寄ってくる。
「あなたは私が何なのか、それを知らないみたいだからそんな事が言えるのよ!
私は人間の父とエルフの母を持つハーフエルフよ!
あなたたち人間が忌み嫌う半魔の存在……。半分人間で半分違う生物である、どっち付かずの中途半端なバケモノなのよ!
そんな……、そんな私だと知っていても、あなたはさっきと同じ事が言えるって言うの!?」
と、彼女は今にも泣き出しそうな表情で俺に詰め寄り、自身の少しだけ人間より長い……そしてハーフエルフである事を表すその耳を俺の目の前に晒す。
だがそれは、異世界人であり国を挙げて追われている身としての俺からすると……
「ああ……。別にさっきと同じ事が言えるぞ?
てか、お前がハーフエルフだろうが……そうじゃなかろうが、正直俺からすればどっちでもいい。」
「……えっ?えぇ!? ど、どうして……?」
俺にそのように告げられた自称ハーフエルフの女性は、全く理解出来ないといった表情で俺にその答えを求めてくる。
なぜかコイツは、自身がハーフエルフであるという事に変なコンプレックスを抱いているようだが、そんなもの俺からすれば……
「てか、ハーフだろうが何だろうが……。それはお前の生まれってだけであって、それだけがお前を測る全てな訳ねーだろ。
なんで俺がお前がどんな奴かを知る前から、わざわざそこまで嫌わなきゃいけねーんだよ?」
と、俺はそう言って当たり前の話をわざわざ彼女に伝えた。
ていうかそもそも、なんでコイツ自身がこんなにも後ろ向きな考え方をするんだ?
自身が嫌われる存在であると言うのであれば、自分から嫌われない努力をして、それでもダメであればソイツらを無視すればいいだけの話であるのに……。
そして彼女のそんな後ろ向きな姿勢に不満を覚えた俺は、自身の昔からの持論をありのまま彼女に伝える。
「っていうかお前は、少なくともお前の父さんと母さんから認められたからこそ生まれてきたんだろ?
だったら、誰もがお前を嫌ってる訳じゃねーじゃん。
それなのに、お前自身がそんな両親の想いを忘れて、誰からも嫌われてるって全てを諦めてしまうっていうのは……すごい勿体ないとは思わねーか?」
これは母さんからの受け売りだが、子供の事を大切に想わない親なんて1人も存在しないと言っていた。
愛があるからこそ、その子供を育てるし、躾をしっかりとする。
コイツがここまで育ってこれたというのも、両親からの承認あってのことだと俺は思う。
たまに子供を見捨てる奴がいるって聞くけれど、そんな奴はそもそも親でも……、ましては人間でもないとも母さんは言っていた。
俺はそんな母さんの厳しくも優しい親心を思い出し苦笑するが、今はコイツの姿勢についてだ。
なんて言うか……、コイツの卑屈な態度には俺も少し頭にきたのだ。
本来であればハーフエルフだなんて考えず、もっと自由に生きるべきだと思う。
俺に警告してくれるぐらいだし、きっと根は優しい女性なのだろう。
その事もあり、彼女のその生き方や考え方では勿体ないと俺は思ったのだ。
なので俺は、俺の話に衝撃を受けている彼女と彼女の両親のためにもこれだけは言っておきたい。
「それに……人間であれハーフエルフであれ、どちらも同じ一つ命だ。ハーフエルフであってもそれは変わらないし、その一つ一つが誰かにとって……、例えば両親にとって大切であるという事には変わりがない。
だから俺はそんな誰かにとって大切なお前を、半魔というだけで否定しようとは思わない。」
すると俺の言葉を聞いた彼女は、その瞳に涙を浮かべ
「うぅぅ……。ありがとう……。大切な事を思い出させてくれて。
そして、ごめんなさい……。私にそんな言葉をくれた、あなたの事を疑ってしまって。」
と彼女はそう言って、ボロボロと感謝と謝罪の入り混じった涙を、静かにその瞳から流すのだった。
半魔が忌み嫌われる世界、それは半魔の彼女には優しいものではなかった
けれど彼女を照らす光は確かにあった
両親と新たなる理解者という確かな光が
という訳で、次話薬屋さん後編です




