引っ越し2
「着いたぞ、ここが俺がホームにしてる家だ。って他の3人はなんか遠いな」
案内されたアパートの前で俺とバルドさんは3人を待つ。俺はバルドさんにきちんと付いて歩いていたが、女子3人組はまだ少し離れた所を歩いてた。
「おいおい、ゆっくり歩き過ぎだぞ、ちゃんと付いて来てくれよ」
「男性と女性じゃ歩く速度が違うから仕方がないんですぅー」
「そうよバルド、仕方がないのよ? ね、リザちゃん」
「え? あの、はい」
イリーナさんにやや疲れた様子で返事をするリザ。だけとバルドさんはゆっくりめに歩いていたけど。
全員揃った所でアパートの部屋へと向かう。こちらはイリーナさん宅より広い2LDKといった感じで4人掛けのテーブルが置かれている。
「やぁ、いらっしゃいませ。僕はバルドの仲間で一緒に住んでるウィルです。今お茶入れますね。それにしてもほんとにリザさんがやって来るとはな」
「だから昨日言ったろ? 引っ越しの荷物運びをリザさんとそのコンビのハルキ君に頼む予定だと」
「まぁそうなんだが。それにシンリーも付いて来たのか?」
メガネで細身のウィルさんが出迎えてくれた。切れ者な感じがする。
「やっほー! 私もリザちゃんと話したくてさ、こんな機会滅多にないし付いて来ちゃった」
「付いて来ちゃったって、リザさんは達は仕事で来たんだから邪魔はするなよ?」
「そんな事わかってるわよ、それにハルキ君にかかれば荷物なんてアッという間よ?」
砕けた感じでシンリーさんが話している。
「そんなにか? ハルキ君、もし邪魔じゃなければ見学させてもらっていいかな?」
「あ、はい全然大丈夫です。でも見てても面白くは無いと思いますよ?」
「いやあれは存外楽しいぞ?」
「普段見れない事だからとりあえず吃驚するわよね」
「そうね、見ておいて損はないわよ。紅茶は私が淹れておくからウィルはバルトと一緒にハルキさんに付いてていいわよ」
何故かハードルが上がっていく。
「そうか、イリーナ済まない、ありがとう」
「良いわよ、勝手知ったるだもの。私はシンリーとリザちゃんとでお話してるわ」
「ッ!?」
俺の作業中リザ達は此処でお茶会をするらしが、何故だかリザがその瞬間ビクッとしたが気のせいだろう、きっと。
「じゃハルキ君、こっちが俺の部屋だから」
そうして案内された部屋はベッドとチェスト、ハンガーラックに少しの服と下には鎧、大剣が壁に寄り掛かる形で置かれていた。全体的にイリーナさんより荷物が少ない。
「あれ? 意外と少ないですね。クローゼットも見当たりませんし、これで全部ですか?」
「あぁ、これだけだ。小物なんかは持たないし、服もこれだけだな。ウィルもこんなもんだろ?」
「僕はもう少しあるけど、それでもそんな大差はないな? なんで女性ってあんなに服や小物を持ってるんだろうな?」
多分それは永遠の謎だと思う。
「ハルキ君は物多いのか?」
「いや俺もそんなにと言うか、言われれば全然無いですね。収納魔法に食料とか旅の道具が若干入ってますが、服なんて今着ているものだけですし、武器も変わったナイフ1本で、小物なんて持ってすらいませんでした」
今は違うけど文無しの過去は伊達ではない。
「そういえば少し変わった服装だが、着替えも無いと不便ではないのか?」
「俺、浄化って魔法が使えて、これ洗濯みたいに使えるんですよ」
「あぁイリーナが見違えるほど綺麗になったあの魔法か。そんな事もできるんだな。っと、話が逸れてしまったな、ハルキ君頼む」
「はい」
バルドさんの一声でサクッと始める。最後に大剣を収納したがこんな大きなの振れるのか。あの太い腕も伊達ではないようだ。
「ほんとにあっという間なんだな。ふむ、ありがとうハルキ君、珍しいものを見せて貰った。ふむふむ」
「いえいえ」
お礼を言われたがウィルさんは何か考え始めていた。どうしたんだろう?
ともかく俺たちは作業が終わったのでリビングへと戻ると、リザが満面の笑みを浮かべている。
その手にはマドレーヌを持ち、頬張り、紅茶を飲み、また頬張る。それらを繰り返し、紅茶が無くなればイリーナさんに紅茶を注がれ、菓子が無くなればシンリーさんが包みから新しくお菓子を出している。次はクッキーだ。その光景にバルドさんが突っ込んだ。
「お前ら何してんだ?」
「あら、遅かったじゃない、何かあったの?」
「いやただ単に少し話してただけだ」
「あー男3人で話し合いなんていやらしいんだ」
「何を勘違いしてるかは知らないが俺の荷物が少ないって話だ。で、何をしているんだ?」
「リザちゃん甘い物好きなんですって。それで手あたり次第お菓子を与えて懐いてもらおうと思ったわけよ、良いアイディアでしょ?」
「シンリーそれなんて言うか知ってるか? 餌付けって言うんだぞ?」
そう、満面の笑みの正体は別にお姉さん2人と打ち解けた訳じゃなく、餌付けされた結果だ。
「リザ美味しいか?」
(こくこく)
「そうか良かったな」
(こくこく)
俺の問いにリザは無言て首を縦に振るだけだった。
「ハルキ君もはいお茶、このクッキーはちゃんと甘いから大丈夫よ」
「あ、どうも。いただきます」
「ウィルとバルドもはい」
「おぉすまんな」
「ありがとうシンリー」
まだ仕事中だが何故かお茶会が始まろうとしていた。のんびりしてて良いんだろうか? すると先程までなにか考え事をしていたウィルさんがおもむろ提案した。
「なぁシンリー、僕たちも一緒に住まないか?」
「ん? そりゃ結婚するんだし一緒に住むわよ? でもまだ新しい引っ越し先決まってないでしょ?」
「いや、此処に引っ越してこないか? いきなりバルドがプロポーズをして2日で新居を決めてくるとは流石に思わなかったが、バルドもイリーナも互いの家から出ていってしまうし、別に僕がそっちに引っ越しても構わないし、どうだろうか?」
「そうね、それが良いかも。私のご飯の心配なくなるし。バルドって動き出したら電光石火よね。私ウィルにプロポーズされてから1週間位だけど、指輪もまだ貰ってないわ」
「だって好みと違ったらシンリー怒るだろ? ならそれは後で一緒に買いに行けばいいと思ったんだよ。住む所も、僕が君にプロポーズしたと聞けばバルドもすると思っていたからさ、落ち着いてからでも良いと思ってたんだけど、何故かこうなった。まだ僕がバルドに伝えて5日だぞ?」
「遅くなってイリーナの気が変わったらどうするんだ? なら早いことに越したことはないだろ?」
「馬鹿ねバルド……、そんなことあるわけ無いじゃない」
何か甘い空間が展開され始めている。決してお菓子のせいではない。
「あーこの2人は置いといてシンリーどうする? こっちに来るか? それとも僕が行くか?」
「こっちの方が広いし私がこっちに越してくるわ。いつにする?」
「そこで相談なんだがハルキ君、バルド達と同じ金額払うし、シンリーの引っ越しも今日お願いできないだろうか? また向こうに行って戻ってくると2度手間になってしまうがお願いしたい」
「えぇ!? 今日ってか今? ウィルいくら何でもそれは急すぎるんじゃない? ハルキ君達にも都合があるでしょ」
「依頼主のイリーナさんに問題が無ければ、俺たちは構いませんけど?」
俺はリザと紅茶とお菓子を楽しみながら成り行きを見守っていたが、話を振られ依頼主のイリーナさんに意見を求める。
「別に良いわよ? 私も毎日ご飯作りに行かなくて良くなるし。それにそろそろお昼になるし私は此処でお昼ご飯作ってるから、その間に荷物取りに行ってきなさいよシンリー」
「はーい。それじゃ行こ! ハルキ君。誰か一緒に来る?」
「僕はイリーナとご飯を作ってるよ。イリーナ1人だけじゃ大変だからね」
「俺が行ってもでかい図体で邪魔になるだけだしな」
「リザは……聞くまでもないな、これからご飯なんだからほどほどにな」
(こくこく)
リザはいまだにお菓子をもぐもぐ頬張りながら静かに頷いた。
「そっかー、ならハルキ君と2人でサクッと行ってくるわ。美味しいごはんよろしくね!」




