乙女
「リリィちゃんのもおいしそうね」
「美味しいですよ、1口どうぞ。はい、あーん」
「え? いいの? あーん……んー! こっちも美味しいわね!はいお返しにリリィちゃんも、あーん」
「ありがとうございます。あーん……んー! ラズベリーの香りと酸味がクリームと合ってて美味しいです!」
「……おい、ロイ。俺たちも対抗してあれやるか?」
「対抗する意味が分からないし、男であれはきもいだけだよロイド」
「だよなぁー」
リザとリリィちゃんの食べさせあいっこに、謎の対抗意識を出したロイド君だったが、ロイ君に冷静に突っ込まれ落ち着きを取り戻した。
うん、男はお呼びでないな。
「いやーそれにしても今日はお礼に来たはずなのに逆に肉にスイーツと奢ってもらって、久しぶりに豪勢だな。ロイ様様だな」
「本当にね。田舎から出てきて此処まで豪勢な食事は初日以来よね……」
「ふっふっふ。2人とも僕に感謝するように。だから普段からもう少し優しくしてくれても良いんだよ?」
「何調子なってんだ? 感謝するのはハルキさんに対してで、お前じゃない」
「そうよね。お食事を奢ってくださったハルキさんに感謝こそして、ロイにはしないわね。」
「……うん、そうだね。僕にじゃないね、ありがとうございますハルキさん」
調子になりそうなロイ君に2人は勘違いすんなとばかりに否定した。
「ん? てっきり俺はロイ君たちはこの街の人と思ってたんだが、この街の出身じゃないのか?」
「はい、僕たち田舎から成人を機に3人でこの街に上京してきたんですよ」
「なんでまた?」
「俺たちの田舎って仕事といったら、農作業か森で狩りしかないんですよ。ほぼ自給自足の生活で刺激も何も無いんです」
「それで私たちはダンジョンのあるこの街にやってきて、刺激あるハンターになったんです。3人で良く森で狩りはしてましたから。まぁ現実はあんまり稼げてなくて大変なんですけど、楽しいです」
なるほど。何処の世界も田舎の若人は都会に刺激を求めてやって来るらしい。
「そっか、田舎から3人でか。大変だな。家はどうしてるの? 皆1人暮らしなの?」
「いえ、僕たち3人で古い一軒家借りてます。それぞれで借りるより安いですし、便利ですよ。パーティー組んでるハンターは大抵こんな感じですよ? ハルキさんは今どちらにお住まいなんですか?」
「俺か? 俺は今ギルドで寝泊まりしてるんだけど、さっきのメアリーさんに何処か良いとこ探してもらってて、数日以内には見つかると思う。でもメアリーさんだし油断はできないな、何かいわく付き物件とか持ってきそうで」
「僕たちもこの街に来てすぐ相談しましたけど、大丈夫でしたよ?」
「ロイ君たちにはそうだろうけど、あの人俺のことすごい便利な人認識だから、そのうちドラゴンとか「ちょっと倒してきて」とか子供のお使い間隔で言ってきそう」
「流石のメアリーでも其処まで無茶は言わないわよ、たぶん……」
「たぶんかよ!」
仲の良いリザをもってしても「たぶん」なのか。いざとなったらすぐさま逃げれる様にしといた方が良いのか? いや大丈夫だろう……流石にそこまではきっと、たぶん。
「流石に私でもそんなことは言いませんよ? それともこのギルドの特化戦力とか適当なこと言って国に推薦しますか?」
「うぉ!? またきた! 仕事はどうしたんですか!?」
「さっさと終わらせてきました。私の分のケーキは何処ですか?」
「頼んでないですよ! なんでさも当然のようにあると思ったんですか!?」
「酷いです! 私とハルキさんの仲なのに! 乙女の純情を裏切られました。これは国に推薦しとかないと駄目ですね!」
「やめて! 人聞き悪い言い方やめてください! わかりましたよ、リザと同じので良いんでしたよね?」
「どうせならこちらのミルフィーユでお願いします」
「何しれっと1本丸ごと頼もうとしてるんですか!?」
そう言って指さしたのはカットサイズの物じゃなく1本丸ごとのケーキだ。甘い物に目がないと言っても1人でそれは異常じゃないだろうか? いやメアリーさんならいけるのか?
「いえ他の職員の方たちと頂こうかなと思いまして」
「はぁもう良いですよ、自分で注文してきてください」
「いえ、すでにしてあります。此処には支払いをお願いに来ただけです」
「ひでぇ! その行為のどこに乙女がいるんですか!?」
「甘いものに対して手段を選ばないのが乙女です。どこに問題が?」
「問題しかねぇ! もうわかりましたよ。皆さんで是非とも召し上がってください!」
俺とメアリーさんの乙女という認識は大分違うらしいが、もう良い。これは先行投資なのだ。今後もハンターとしてこの街でやっていくし、ちょっと前までは文無しだった俺ではない。この位の出費は今は問題ない。初日にメアリーさんを結構長く拘束してしまったし、その分他職員にも迷惑をかけたに違いない。その詫び含んでいるのだ。そう思う事にしよう。
「有難うございます。ハルキさんならそう言っていただけると確信しておりましたとも。あ、それとリザとハルキさんの分は構いませんが、他はちゃんと支払いしてくださいね?」
「わかってますよ、そんな事当たり前でしょう? メアリーさんこそ俺の家探しお願いしますよ?」
「其処は大丈夫ですよ、お仕事ですからね。期待しててください」
「不安しかないんですが?」
「私とハルキさんの仲ですよ? 安心しかないはずですが?」
「どの口が言ってるんですか? リザも何か言ってやれ!」
「メアリーなら大丈夫よ、任せておきなさい」
「ほら! リザはちゃんと私のことわかってますよ?」
リザの顔に自慢顔だ。おかしい。
「ぐ!、ロイ君たちは分かってくれるよな!?」
「僕たちも初めにメアリーさんにはお世話になってるので僕たちの口からはなんとも。ですがハルキさんたちの支払いとはどういう意味ですか?」
俺とリザの支払が免除されている節にロイ君が気づいてしまった。白状するか。
「あぁ俺今ギルドに軟禁されてるから。その代償に俺とリザに関する此処での支払いは全てギルド持ちになってる」
「え? じゃお礼にお食事をご馳走としよう思ってたのは……」
「すまん、実は初めから無理だった。まぁ気にするな、有るとき払いのそのうち払いで良いから。勿論忘れても大丈夫だぞ?」
「ガーン……そうだったんですね、大丈夫です。ちゃんとお礼はさせていただきますよ!」
「ちょっとハルキさん!? 軟禁とか人聞き悪いこと言わないでください! ……接待。そうこれは接待です!」
声をあげ、ギルドがいちハンターを軟禁していると思われたく無いメアリーさんは接待と言い張ってきた。まぁ接待と言えば接待だが、それで良いのだろうか?
「いや結局ただのいちハンターを接待してることになりますが、良いんですか?」
「まだ公にしてないだけでいずれ皆さん知ることになりますし、それにハルキさんはすでにギルド内ではただのいちハンター扱いじゃないですからね、大丈夫です」
「じゃ軟禁でも良いんじゃないですか?」
「良いわけないです! 言葉から受ける印象が全く違います! わかっていってますよね? 先程のお返しですか!?」
「はて? なにか心当たりが?」
「ぐっ!」
とぼける俺にメアリーさんは言葉を詰まらせた。別にさっきのお返しとかじゃないし。しかしいつの間にか俺はギルド内でただのハンターじゃ無くなっていたらしい。あぁそうか便利なハンターとかそんな扱いか、別に凄いハンターとは言わなかったな。ちょっと期待した自分が恨めしい。




