最終話 そしてカイ=ライトハーツは、晴天の空の下
更にその3日後――世界標準時間・9月28日02時52分、レッドムーン=テイラー3号は、6名の搭乗員を乗せて、北ディアス大陸のSSA西海岸宇宙センターに着陸した。
同艦が地球を発ってから、すでに416時間30分が経過していた。当初の予定到着時間を、58時間超過してのミッション遂行であった。
不測の事態を乗り越え、無事地球へと帰還した紅き月調査隊を、世界中が歓迎した。
熱狂冷めやらぬ空気の中、1ヶ月後、ようやく傷も癒えたリーアとバーン、そしてカイの3名は、帝国民として栄誉ある計画に貢献したことを讃えられ、皇帝との謁見を許された。
大マルクレスト帝国最初の皇帝であり、ただ一人の皇帝――女帝ダリアマグナ。
帝国の重鎮が居並ぶ大広間で、御簾越しの謁見を済ませた3名のうち、カイだけが先に帰宅を促され、後に残った2名を、帝の傍仕えだという女官が引き留めた。
「皇帝への面通り……?」
前代未聞の招待に、恐縮するリーア。
その隣で、バーンが面倒臭そうにあくびを噛み殺した。
女帝の私室へと招き入れられた二人は、人払いのされた室内で待つ人物に目を瞠った。
「久しぶりじゃの。兄者」
そう言ったのは、リーアとそっくりの顔をした、赤髪赤眼の女の子だった。
歳は12、3歳程度だろうか。そんなわけはないのだが、そのくらいにしか見えない。
この国の色である青を基調とした、古式ゆかしいドレスを纏い、愛らしい仕草で裾を引く姿は、まるで夜会に初めて参加する貴族令嬢のようだ。
「そちがバーン=ローエヴァーか。なんじゃ、思ったよりいい男じゃないか」
バーンの顔を見て、小さな女帝が笑う。
「若ぇ……」
御年300歳は軽く超えるであろう、皇帝の予想外の外見に、バーンがあんぐりと口を開ける。
女帝は、小さな顔に収まった宝石のような瞳を、よく似た顔の青年伯爵に向けた。
「一の兄は死んだか」
「私は……」
「知っておる。我らは三つ子。同じ魂を分け合った者同士。身体は繋がっていなくとも、霊波は呼び合っておる」
「……マークスはアンタの子飼いか?」
「えっ……」
まるで全てを見透かしたような女帝の物言いに、バーンが不機嫌そうに口を挟む。
絶句したのはリーアだ。
少女帝は幼く見える表情をふっと消し、大人びた――否、大人の眼差しでバーンを見上げた。
「さすがは100年に一度の天才。気付いておったか」
「何億年待とうが俺以上の天才は現れねーよ。つか、あんたがしたり顔であの野郎のことを口にしなきゃ、さすがに気付かねぇよ」
あの野郎とはロスフランベルカのことだろう。確かに、宇宙空間を超えて守人同士が霊波を関知し合えるならば、ロスフランベルカがリアロクロエを見失うことはなかったはずだ。
人間の無知を知っているバーンは、精神世界の現象にも一定の理解を持つが、整合性がとれないことに関しては徹底的にシビアだ。
「マークスが……」
驚きを隠さず、リーアは呟いた。どういった経緯かは知らないが、帝国外ピュラスタという立場にあるマークスが、大帝国と接触し、スパイとして今回の計画に潜入していたということだ。
だが、それ自体は大きな問題ではない。どんな秘密があっても、彼自身があの計画で全うした職務の価値と評価が、変わるわけではないからだ。
気になるのは、ダリアマグナ自身の行動だ。
単に計画の詳細が知りたければ、SSAやリーアの報告を待てばいいだけの話だ。
だが事実、SSAの最高幹部会は、今計画で起こった多くの事件の真相について、最高機密として扱う事を決定した。これらについては、スポンサーたる各協力国家にも極秘のままだ。
女帝は、リーアとリアロクロエの関係を初めから知っていた。
リーアがこの計画に参加することによって、決して公にされることはない『何か』が起こると予想した上で、その動きを記録できる人間を配置したのだ。
「気に食わねぇな」
「悪く思うな。あの者は理性的で、思慮深い男じゃ」
「マークスのことじゃねぇ。俺が気に食わないのは、アンタのやり口だ。つまりは、俺や親父のことも監視してたっつーことだろう?」
「我は、我が国と臣民を守るため、兄弟と故郷の動向には気を配っておる。今回の計画も、二の兄のクローンが我が故郷に還るとなれば、黙って見過ごす訳にもいかんであろ」
バーンに責められたところで、少女が悪びれる様子はない。
私室の窓に寄り、硝子越しに映る空を見上げた女帝は、憂いを帯びた眸を伏せ、小さく息を吐いた。
「二の兄は10年前に一度死んだ。我は、兄者を助けてやることが出来なかった。我が二の兄に近づけば、地球に住む臣民達が抗争を起こすだろう。帝国外のピュラスタたちに、救済の手を差し伸べられないのも歯がゆい。苦しみ、地球人どもにいいようにされる兄者の魂を同じ星に感じながら、何もしてやることができなかった……」
悔恨を口にする少女の言葉は、やはりその見た目より老成していた。
彼女は間違いなく、300年前に地球に降臨し、一代にして最大の版図を築いた大帝だった。
「そなたは兄者の分身じゃ」
辛そうに眉を顰めたリーアを気遣ったのか、苦渋の色を浮かべていた少女の顔が、ぱっと明るくなった。
つぼみが綻ぶように微笑み、小首をかしげてねだる。
「共に生きることの出来なかった兄妹に、せめて兄と呼ばせてくれんかの」
「……私は……」
「で、何のために俺たちを呼んだ? 俺をキレさせるためじゃあねぇだろ?」
言葉に詰まるリーアに、バーンが助け船を出す。
「まぁそう怒るな。一つ確認したいことがあったのじゃ。……細いな。ちゃんと食っておるのか? 我は、もう少し肉がついている男の方が好みじゃぞ」
こともなげに答え、少女の姿をした女帝は、ブロンドの貴公子に近づき、ぺたぺたと身体を触りまくった。
「あの…………」
「帝国外のピュラスタを呼び込もうと思う」
「何だって?」
齢三百を超える女皇帝の奇行に戸惑うリーアの隣で、バーンが目を見開いた。
ダリアマグナが、帝国外ピュラスタのために動いたのは、建国以来、ただ一度だけだ。
異能人の生体実験を禁じる際に見せた強硬姿勢は、『女帝の怒り』と呼ばれ、未だ国際社会において、大帝国の権威を見せつける、象徴的な事件として語り継がれている。
だが、それだけだ。これまで帝国は、帝国外の異能人に対し、一切の援助を行っていない。
同時に、帝国外ピュラスタのコミュニティもまた、帝国との接触を避けている節があった。
出自を同じくするはずの同族間の、この奇妙な距離感に、疑問の声を挟むヒューストは多かったが、先の女帝の台詞から、その理由が推察できる。
彼らは本能的に、互いが別の主を戴く派閥であることを知っていたのだろう。その先に起こる、血を血で洗う争いを避けていたのだ。
「うむ、やはり何も感じん。守人の霊波が消えておる」
「え?」
無遠慮に若い男の身体を触っていた女帝が、納得したように頷いた。
「そなたは、我を見てなにか感じるか?」
「ええ……その、なんというか……表現しがたいのですが……とても魅力的だと」
「……お前、ロリコン?」
「うむ、それはそなたが我の臣民となったからじゃ」
問われ、リーアが正直な感想を口にすると、バーンの疑いの眼差しと、ダリアマグナの満足げな笑顔が、同時に寄せられた。
「一の兄は己の死と引き替えに、マルクレンタを一つに戻したようじゃ。守人は我一人が選ばれ、二の兄はマルクレンタの加護を失った」
「では……」
「うむ。もう紅き月にも、この地球にも、同族同士の抗争が起こることはない。なぜならば、我が真の王だからじゃ」
「漁夫の利ってヤツか……?」
早々に王位争奪戦から抜け出し、遠く離れた星で自分の臣民を守ってきた3番目の守人が、300年の時を経て、真の王となった。
首を捻るバーンを、ダリアマグナが見上げる。浮かんだのは、無垢な天使のようにも、計算高い子猫のようにも見える微笑だった。
「全てのピュラスタの、尊厳と生命の安全の保障が確立すれば、ピュラスタ主導の生理学研究を推し進めることも出来るようになるじゃろう。こればっかりは、順番を間違えれば大きな犠牲を生む可能性もある故、時間のかかる話にはなるだろうが……」
南北にピュラスタが分裂している現状では、社会的に立場の弱い南部ピュラスタを守るのには、どうやっても限界がある。ピュラスタの生態の解明は、ピュラスタ自身が主導権を握らなければ、歴史の悲劇を繰り返すことにもなりかねない。
そのジレンマにより招かれた現代の『停滞』を、リーアが憂慮していた以上に、目の前の少女――老女帝が、深慮を巡らせていたことに胸を打たれる。
「陛下の深謀遠慮、誠に恐れ入ります」
心から膝をつき、首を垂れたリーアを、ダリアマグナは母のような慈愛に満ちた眼差しで見下ろし、その手を取った。
「永き時を苦しませたな、兄者。そなたは、初めから兄弟の争いなど望んではいなかった。我のように、一の兄や星の民を見切ることもできなかった……」
「陛下……」
「心優しき者が苦しむ不条理に、ようやく終止符を打つことができた。これからは、そなたは自由じゃ。元のそなたの臣民のことは、我に任せるが良い。手厚く迎え入れ、必ず我が幸せにしよう」
マークスをはじめとする、300年の時を待っているという流浪の民の存在が、地球に戻った後も、リーアの胸に引っかかっていた。知らなければさほど気にとめなかったことでも、一度知ってしまえば、見ないふりを出来るものではない。
だが、降って湧いたような使命感だけで、彼らの命を背負う責任が持てるほど、リーアは強くはない。
守人として、数百年の時を、己の臣民を守り続けてきた真の王の言葉に、救われる思いがした。
「では、我が君」
小さな君主の前に跪いたまま、リーアは握り返した手を、そっと額に押し戴いた。
「微力ながらわたくし、リーア=L=クラウンフォルトも、陛下の治世にご助力なれるよう、力を尽くす所存にございます」
「うむ。頼りにしてるぞ伯爵。……そちらのチンピラ科学者もな」
「上等だ」
最高権力者のいたずらっぽい上目遣いに、チンピラ科学者は横柄に答えた。
「地球の国の王になるなら、ピュラスタだけでなくヒューストの面倒もきっちりみやがれってんだ」
「こら、バーン……」
「無論」
度重なる失礼な物言いに、リーアが諫める。だが、言われた当人は意に介した様子もなく、王らしい顔で言い返した。
「治世を優先し、ピュラスタで上位階級を固めていたが、帝国外のピュラスタの受け入れも問題なく進むようであれば、そろそろヒューストの参入を認めても良いかと思っておる」
顎をしゃくり、女帝は片目をつむって相手を伺った。
「どうじゃ、ローエヴァー博士。ヒュースト最初の爵位を受けてみては?」
「やなこった」
舌を出して断るバーンに、今度はぷぅと膨れてみせる美少女皇帝。
「聞くところによると、研究機関にも所属せず、クラウンフォルト家の臑をかじって独自の研究を続けとるそうじゃないか。そういうのを一般的にヒモと言うのではないのかえ?」
「使い方間違ってるっつーの。てめぇの言語教育係連れてこい」
中指を立てるバーンをリーアが軽く睨みつける。フンと鼻を鳴らし、バーンは意外にまじめに答えた。
「まあ、クラウンフォルトにぶら下がるのは、もうやめにするつもりだ」
「バーン?」
「SSAに行く」
寝耳に水の言葉にリーアが息を飲む。ばつが悪そうに視線を逸らしたまま、バーンが続けた。
「カイの野郎が、今回の功績で大分出世したみてぇでな。クチ聞いてもらうことになった」
「そんなことをしなくても、あなたの実績なら、すぐにでもそれなりの役職に……」
「めんどくせぇ肩書きなんざ不自由なだけだ。てめぇで直接現場に関われなきゃ、面白くもなんともねーだろ」
確かに役職につけば、彼の嫌いな類の雑用が大幅に増えるだろう。名誉も地位も、この男にとっては煩わしいだけなのだ。
「つーわけで、爵位なんぞもってのほかだ。なんか頼みがありゃあ、手土産持参でお願いしてくりゃ、ちっとは聞いてやらんでもねーぜ」
「……あなた、自分の立場を分かってないでしょう」
国の長を相手にどこまでも上から目線な男に頭痛がし、リーアはこめかみを押さえた。
「面白いヒューストじゃの。好い好い。今度忍んで兄者の屋敷に出向くとしよう。無論、手土産は持参するぞ」
「陛下! あまりそういうことは……」
「――陛下。そろそろお時間ですが」
「おお、すまんの。もう終わる」
扉越しに聞こえた声にダリアマグナが応える。しかしすぐには動かず、跪く青年の顔をじっと見下ろした。
「陛下?」
吸い込まれそうな深紅の瞳にのぞき込まれ、リーアが不思議に思って見返すと、その目が傍らに立つ黒髪の男へと向いた。
「この瞳はそちが作ったのかえ?」
「ああ? ……まあな」
バーンが渋々肯定する。この最高権力者には、全てがお見通しらしい。
ピュラスタ、およびヒューストの人造人間の生成は、無論帝国法においても違法だが、女帝は何を言うでもなく、満足げに褒めそやした。
「うむ、なかなかいいセンスをしておる」
白い指で顎をすくい、もう一度リーアの目をのぞき込んだ紅い瞳が、一層魅力的に輝きを増した。
「この星の色じゃ」
「――ッ」
「美しいな」
息を飲んだリーアから手を離し、少女が踊るように部屋を歩く。
「我が地球に降りたのは、兄から逃げるためだけではない。ただ、月から見るこの星に憧れていたのじゃ。かつては我々の故郷でもあった、美しい星に」
ひらりとドレスの裾を翻して回り、謳うように言った。
「この星は美しい――我が蒼を愛しているのは、これが地球の色だからじゃ。その者も、地球とそなたを愛しておるのじゃろう」
「…………」
さらりと言われた言葉の意味を考え、答えを求めるように『その者』の方を見ると、避けるように視線が逸れた。
苛立たしげに頭を掻き、バーンが強引に話題を変える。
「ンなことよりだな。イイのか? 俺を野放しにして。ピュラスタの人体実験は、当人及び三親等内親族全てに対しての、死刑の適用が原則だろうが」
自分の身に降りかかることだというのに、やけに喧嘩腰にふっかける。ダリアマグナはしたり顔で答えた。
「まぁ良いのではないか。そちが死ねば兄者が悲しむであろう。それはイヤじゃ」
「どんだけ適当なんだよ。ほんっと、お上ってのは、てめぇの都合の良いようにルールを変えやがる」
「ん? 世の中そんなもんじゃぞ、知らなかったのか?」
「知ってるっつーの」
「陛下! お時間が……」
二人の言い合いを、再三の呼び声が遮る。リーアは裾を払い立ち上がった。
「では陛下、我々は失礼させて頂きます」
「うむ。またの」
手を振って笑った顔は、まるで失うことを知らない少女のように透き通っていた。
※
「随分かわいらしい女帝さんだったな」
宮殿を出たバーンの感想に、リーアが頷く。あれで、300年以上を生きているわけだ。
10月も終わりに近づき、北国は早くも冬支度に入っていた。高く澄み渡った秋の空は蒼を深め、鳥の羽のような柔らかな巻雲が浮かんでいる。
宮殿から正門までの道のりは、広場ほどの幅のある石畳の道になっていた。その左右には、美しく手入れされた芝生が広がっている。
肌を滑る冷気に身を引き締められる思いで、リーアは、まだ少し浮足立っている気持ちを落ち着けた。
300年前、身内同士の争いを厭い、見知らぬ星に流れ落ちた――それからの永き時を、己の臣民を守り抜いて生きてきた、逞しい女性。
彼女自身が、今回の結末についてどこまで計算していたのかは、あの無垢な笑みからは読み取れない。
だがいずれにしろ彼女が、その優れた機知と計り知れぬ忍耐力によって、ついに真の王座を手に入れたという事実に変わりはない。
それでも、楽な生ではなかったはずだ。
あの小さな身体に、どれほどの失望と重圧を背負い、あんな風に笑うのだろう――別れ際の少女の笑顔と、紅き月の王の不遜な笑みがだぶる気がして、リーアはぼんやりと、彼らの人生を思った。
「おや?」
門に車を待たせていたのだが、その前に、運転手ではない男の姿が見えた。
「カイ。どうしてこんなところに……」
「おー、悪ぃ、待たせたな」
驚いたリーアが声をかけるより先に、バーンが親しげに片手を上げて呼ぶ。
主人の帰りを待っていた忠犬のようにぱっと顔を上げ、駆け寄ってくる素直そうな少年とじゃれ合う相棒に、何となくリーアは疎外感を感じ立ち止まった。
「先に帰っています」
「おいリーア?」
スタスタと脇をすり抜けていこうとするリーアを、バーンが腕を引いて止める。
「何ですか?」
「何ですかってお前……先帰る意味がわかんねーし。俺に歩いて帰れとでも言うつもりか?」
「歩いて帰りなさい」
「命令形かコノヤロー」
ぐっと拳を握るバーンに、傍らでやりとりを見ていたカイが吹き出した。
「やきもち妬くなんて、リーアさんも可愛いとこありますね」
「な、誰がやきもちなど……!」
「そんなに否定することでもないでしょう。親友ならそういうものじゃないんですか?」
「親友……?」
これが?
思わず目を見合わせる。多分、互いの気持ちが最もシンクロした瞬間だ。
先に動いたのはリーアだった。ぱっと腕を振り払い、早足に車に向かう。
「馬鹿馬鹿しい。やはり私は先に帰ります。バーン、SSAに行くなら宿舎があるでしょう。とっとと荷物をまとめてお引っ越しされてはどうですか。あまりもたもたしていると、本当に陛下がいらしてしまうかもしれません」
「なっ、てめぇ、何勝手に追い出そうとしてんだよ!」
「あなたこそ、何の相談もなしに就職先を決めたではありませんか。私からの援助が必要ないというのなら、私の屋敷にいる必要もないでしょう」
「お前絶対怒ってるだろ! もうちょっと素直な感情表現できねぇのか可愛くねー……」
「あなたにかわいらしいなどと思っていただかなくて結構」
「そういうところが可愛くねぇって……」
(結局仲良いんだか悪いんだか……)
どんどん雲行きが怪しくなっていく。延々と続く口喧嘩に、カイは早くも帰りたくなった。
あの旅を通して、カイは自分自身、何かが大きく変わったと感じていた。
そして、この二人も何かが変わったのではないかという気がしていたのだが、もしかしたら気のせいかもしれない。
「あのー、俺はやっぱりこの辺で……」
「何言ってやがる。話があるって言ってんだろーが。お前も来い」
「へっ?」
場を立ち去ろうとしたところで、ぐいっと襟首を掴まれ、カイは素っ頓狂な声を上げた。
「せっかくなので、屋敷に招待してさしあげると言っているのですよ。寒い中、こんな男に引き留められて待っていたのですから、何か暖かいものでもご用意しますよ」
「え、い、いいんですか? 俺平民だし、領の人間ですらないんですけど……」
「関係ありませんよ。クラウンフォルト家領内では私がルールです。友人を家に上げるのに、貴族や領民といった肩書きが必要ですか?」
「いえ、必要ないと思いま……って、友人?」
返事も待たずに、さっさと車に向かってしまうリーア。
「素直じゃねー」
面白そうに呟き、バーンが乱暴に首根っこを掴んだまま、カイを引きずった。
「何遠慮してんだよ。ダチだろ? とっとと行くぞ。あいつんちの料理人の腕前は天下一品だぜ」
「え、あ、はい……!」
わたわたと返事をし、慌てて後をついていく。尊敬する博士と、憧れの人に友人と呼ばれ、一気に地球の重力が軽くなった。
そしてカイ=ライトハーツは、晴天の空の下、緑に囲まれた美しいクラウンフォルト家の領内に足を踏み入れる。
「ようこそクラウンフォルト家へ、我が友」




