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question episode 001 山に入った日
蒼汰が山へ行ったのは、秋の終わり、霧が濃い朝のことだった。
榊原悠真はそのことを後になって何度も思い返す。
あの朝蒼汰は何も言わなかった。挨拶もなく振り返りもせず坂道の先に消えた。
代観山。
地図には載っている標高も登山道の入り口も記されている。地元の人々はその山を『孤立山』と呼ぶ。
理由をきくと、誰もが目を伏せ、言う。
『あの山に入ると別人になる』
子供の頃から聞いていた話だ。
悠真は本気にしていなかった。迷信か、言い伝え、噂、みたいなものだろうと、思っていた。
でも蒼汰は、一日、二日、一週間。警察は捜索した。さんちゅうにのこされた足跡は途中で消えていた。
失踪届は受理され捜索は打ち切られ、街はいつもの日常に戻っていた。
悠真だけが静かになれなかった。
蒼汰が消えた事実よりも町の人々の方が冷静で、蒼汰の家族は、ただ泣いていた。町全体の空気は、何かを知っているようで、重たい空気が混合していた。
悠真は窓の外から山を見た。霧の中に代観山の線が現れていた。




