第8話・父の謝罪
「待っていたぞ、エドモンド・コールド! 一体どういう事なのだ!」
兵士たちに連れられた僕らが、オウンドーラ王の待つ謁見の間に入ったと同時に、オウンドーラ王は自ら王座を降り、駆け寄ってきた。
「王、申し訳ありませんっ」
父さんはオウンドーラ王に、深々と頭を下げた。
「エドモンド! 一体どういう事なのか、説明をしてくれ! なぁ、嘘なのだろう? 先ほど、ギルベルト・ガンドールの右腕の、ダウソンの息子だという男が来て、信じられない事を言ったのだ! ギルベルト・ガンドールの姪と結婚したはずのお前の息子が、花嫁をすり替えて一年近く暮らしていたと言ったのだ! なぁ、嘘なのだろう? お前はいつも、ベルは元気にしている、ちゃんと務めを果たしていると、私に報告をしてくれていたではないか!」
オウンドーラ王は父さんの体を揺さぶったが、父さんは頭を下げたまま、申し訳ありませんと繰り返していた。
だが、
「申し訳ないでは、わからん! 頼むから、本当の事を教えてくれ!」
というオウンドーラ王の言葉に、父さんはゆっくりと顔を上げ、言った。
「真実なのです……」
「え?」
「王がお聞きになった事は、真実なのです! 我が愚息は、三男のトマスは、花嫁のすり替えを行い、一年もの間、私たちを騙していたのです!」
そう言った父さんは、また頭を下げて、申し訳ありません、と繰り返した。
オウンドーラ王は真っ青になって、ガタガタと震えていた。
「東の森の砦を守る者たちは、一斉に手を引くだろうと、あの男は言っていた……」
王の声は、体と同じく震えていた。
「そして、ギルベルト・ガンドールは、この国を絶対に許さないだろうと……ベル・ガンドールを大切に扱うという契約を守れなかったこの国を、絶対に許さないだろうと言っていた! エドモンド・コールド伯爵! 貴様、一体どうするつもりなんだ!」
「王! 私には、謝る他、もうどうする事もできません!」
「謝ってどうなるのだ! お前が謝って、この国が守れるというのか!」
「謝って許していただけるとは思っていません! ですが、殺されても私は、ギルベルト殿に謝り続けるしかっ……」
オウンドーラ王と父さんのこの会話を聞きながら、僕の中で疑問が生まれていた。
二人は、ギルベルト・ガンドールが、東の森の守りから手を引くかもしれないという事を恐れているようだが、それがどうした事かと思ったのだ。
だって、ギルベルト・ガンドールが守っているのは、東の森の中の砦だけだ。
東の森から王都までには、まだ第二砦と第三砦があるのだし、そこを守っている傭兵や兵士だって居る。
それに、西の森の砦にだって、傭兵が居たはずだ。
ギルベルト・ガンドールたちが居なくなるのなら、代わりを探せばいいだけだし、砦の一つが空いたくらいで、そんなに怯える必要などないと思ったんだ。
「ギルベルト・ガンドールが居なくなるくらいで、なんなんだ。この国にはまだ、第二砦と第三砦があるじゃないか。それに、西の森にだって、傭兵が居るじゃないか」
僕がそうぽつりと呟いた瞬間、
「トマス! この馬鹿野郎がっ!」
と叫んだアラン兄さんに、僕はまた殴られた。
「本当に、最悪だ。我が愚弟……うちの末っ子は、ここまで愚かだったか」
「トマスッ……」
ウォルト兄さんは深いため息をつき、母さんはまた泣いていた。
そしてオウンドーラ王と父さんは、目を見開いて、信じられないようなものを見たという表情で、僕を見つめていた。
「お、お前の息子は、どうなっているのだ!」
「も、申し訳ありませんっ!」
怒鳴ったオウンドーラ王に、また父さんが頭を下げ続け、謝った。
僕は、アラン兄さんに殴られた頬を押さえながら言う。
「どうしてだよ! また他の傭兵を雇えばいいだけじゃないか! 西の森の砦から、東の森に傭兵を回せばいいんだ! ただそれだけの事に、どうしてそんなに深刻にならなくっちゃいけないんだ!」
「くそ! お前、もう黙れ!」
またアラン兄さんに殴られ、僕は吹き飛ばされた。
そして、アラン兄さんは泣きながら、
「どうしてお前はそんなに馬鹿なんだ!」
と叫び、続けた。
「いいか、俺が馬鹿なお前にもわかるように、説明してやる! お前は東の森の中にある第一砦からギルベルト様たちが居なくなったとしても、第二と第三の砦があり、西の森にも傭兵が居るからそれを回せばいいとか、新しい傭兵を雇えばいいとかと簡単に言ったが、東の森から来る魔物の九割以上を第一砦のギルベルト様たちが倒してくれていたから、王都オフレンドは今まで守られていたんだ! 俺たち第二砦、第三砦が倒した東の森の魔物なんて、一割にも満たないんだ! そんな魔物だらけの森で戦っていけるギルベルト様たちのような猛者が、簡単に見つかるはずがないんだよ! いくら馬鹿なお前でも、もうわかるだろう? いいか、ギルベルト様たちが東の森の砦から居なくなれば、全ての魔物が王都へと押し寄せてくる事になるんだ! それは、この国の終わりを示していると言っても過言ではないんだ!」
「そ、そんな……」
「やっと、理解できたようだな」
青くなった僕を見て、アラン兄さんは言った。
僕は、ギルベルト・ガンドールが居なくなるという意味を、やっと正確に理解した。
だけど、それだけだった。
僕にはもう、どうする事もできないからだ。
「ギルベルトを止めるには、もう、あいつに姪を返すしかないっ! エドモンド・コールドの息子よ! ギルベルト・ガンドールの姪のベルは、一体どこに居るのだ!」
オウンドーラ王が僕を指さして、叫ぶように言った。
だけど、僕は首を横に振った。
だって、もうどうする事も出来ないのだ。
だって、ベル・ガンドールは、すでに死んでしまっているのだから――。




