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コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす  作者: 明衣令央
第3章:それぞれの思惑

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第1話・再会


「ベル、なのか?」




 そう呟いたギルベルト・ガンドールの視線は、西の森の第一砦を守るフェンリル・エンベリーに抱かれている娘へと向けられていた。


 ギルベルトの問いに答えたのは、フェンリルと同じく西の森の第一砦を守っている、チェスター・パーシーだった。




「はい、そうですよ、ギルベルトさん。彼女はあなたの娘である、ベル・ガンドールです。一年ほど前に、西の森の中で俺たちが見つけて、保護していました」




「なんだと? では、何故知らせてくれなかったのだ」




「それは、ベルちゃんが半年眠っていて、意識を取り戻しても、自分の事を覚えていなかったからです」




「記憶が?」




「はい。だけど、彼女は昨日、全てを思い出しました」




「ベルッ……」




「俺たち西の砦を守っていた傭兵は、オウンドーラ王国との契約が切れていたから、この国を出るつもりでした。だから、けじめとしてオウンドーラ王に最後の挨拶をした後、彼女を連れてあなたが居る東の森の砦に行くつもりだったんです。でも、こんなところで会えるなんてね」




 チェスターの説明を聞いて、ギルベルトは滝のように涙を流し、顔を覆った。


 死んだと思っていた最愛の娘が生きていた――夢なら覚めないでほしいと、ギルベルトは心から願う。




「本当にベルなのか?」




「ベルッ!」




 フェンリルに抱かれ眠っているベルの元へ、タイラー・ダウソンと、マディ・ヒドルスが駆け寄った。彼ら二人は、ベルの幼馴染で、親友だった。


 だが、その事を知らないフェンリルは、二人を警戒する。




「おい、チェスター! こいつら、誰なんだ!」




 フェンリルはベルと恋仲だったが、ベルがギルベルト・ガンドールの娘だと知ったばかりで、それ以外の彼女の過去を、ほとんど知らなかった。


 だから、誰が彼女にとって危険な人間で、誰が安全な人間なのかがわからない。




「あぁ、ごめんごめん、その二人は、大丈夫じゃないかな。確か、東の砦の子だよ。ギルベルトさん、すみません、あの二人とベルちゃんは、どういう関係なんですか? 身元を保証しないと、うちのフェンリルが心配みたいで……」




 ギルベルトはチェスターの問いに首を傾げたが、タイラーが自分の右腕であるダンカン・ダウソンの息子で、マディが東の第一砦の医者であるビル・ヒドルスの娘だと教えてくれた。


 ギルベルトがそう言うのなら間違いないだろうと、フェンリルは警戒を解く。




「フェンリルさん、初めましてですよね! 俺は、タイラー・ダウソンです! 俺とマディは、ベルの幼馴染で、親友です!」




「私はマディ・ヒドルス……東の森の砦の傭兵だけど、医者の卵でもある……。ベル、どうしたの? 顔色が悪い……」




「ベルは、昨日、記憶を取り戻したばかりで、精神的にショックを受けている。体の方は、魔物に襲われた後遺症で、まだ上手く動かない時がある……」




 そう答えたフェンリルはとても優しい目でベルを見つめていて、すぐそばに居たタイラーやマディだけでなく、ギルベルトまでもが、フェンリルがベルを愛し、ベルもまたフェンリルを愛しているであろう事に気が付いた。


 愛し気に、フェンリルが指先に触れたベルの頬を撫でると、ん、と小さく呻いて、ベルがうっすらと目を開けた。




「フェンリルさん? ここ、どこ?」




 無防備な表情で、ベルはフェンリルを見つめる。フェンリルは、




「さぁ、どこだろうなぁ?」




 と言うと、体の向きを変えて、彼女に周りが見えるようにしてやった。




「タイラー? マディ?」




 起き抜けの少し掠れた声で、およそ一年ぶりに、ベルは親友たちの名前を呼んだ。


 そして――。




「ギルベルト、お父さん……」




 涙を流しながら頷く父親を見て、彼女自身も涙を零し、微笑んだ。



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