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コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす  作者: 明衣令央
第2章:ベル・ガンドール

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第4話・ベルの望み



「伯父様、私、伯父様の言う通り、結婚します。いろいろと考えて、決心しました」




 私がそう言うと、伯父様は安心したように、ほっと息をついた。




「そうか、よく決心してくれたな」




「はい、いっぱい悩みましたけど……」




「そうか」




「癇癪を起して、三日も口をきかなくて、ごめんなさい」




 私が謝ると、伯父様は首を横に振った。




「大丈夫だ。私にとってベルの癇癪は、昔からとても可愛いものだった」




「そうなの?」




「あぁ。例えそれがただの我儘からくるものだったとしても、とても可愛いものだった。まぁ、お前は我儘を言うような子ではなかったがな」




 苦笑しながら、伯父様は言った。


 我儘、か。


 確かに、戦場でもあるこの砦に住んでいる事もあって、あまり言った事はなかった気がする。




「じゃあ、伯父様に言われた通り、結婚する事にした私の……最後の望みを、叶えてくれる?」




 ふと思いついて、口にした事だった。


 伯父様は少し驚いたようだったが、頷いてくれた。




「いいの?」




「あぁ、構わない。今の私に叶えられるようなものであれば、叶えよう。何が望みだ?」




「え、と……」




 まさか頷いてくれるとは思わなかった。




「どうした? 何か欲しいものでもあるのか?」




 と聞かれ、私は首を横に振った。


 欲しいものなんて、なかった。


 私の望みは、ずっとここにいる事……だけど、これは口にはできない事だ。


 それなら……。




「それなら、これから結婚式までの、四日間……。ずっと伯父様のそばに居てもいい?」




 私の願いは、我ながらとてもささやかなものだった。


 だけど、ここは魔物が湧き出る東の森の第一砦で、伯父様はここの責任者だから、断られるかもしれない。




「ベル……」




「あ、やっぱり無理よね、ごめんなさい」




 やはり無理なのだーーそう思ったけれど、伯父様は首を横に振った。




「いや、お前の願いがそれなら……できるだけ何とかしよう」




「本当?」




「あぁ」




 頷いた伯父様に、私は飛びついた。


 伯父様は二メートルを軽く超える長身で、がっしりとした体つきをしているから、私が思いきり飛びついてもびくともせずに、簡単に抱き留めてくれた。




「ありがとう、伯父様、とっても嬉しい!」




 伯父様は何年経っても、私が成長しても、変わらずとても大きな人だ。


 伯父様の腕の中に居ると、安心する。


 伯父様は、私が世界で一番信頼している人だ。


 伯父様は私のお父さんのお兄さんだから、伯父様なんだけど、私にとってはそれ以上の存在だ。




「あのね、伯父様……。もう一つ、お願いがあるの……」




「なんだ? 私にできる事なら、何だってしてやろう……」




「あのね、今までずっと伯父様って呼んでいたけど、お父さんって呼んでもいい?」




「え?」




 伯父様は驚いたようだった。


 私は伯父様の腕の中から顔を見上げ、続ける。




「駄目、かな? 本当のお父さんじゃないけど、ずっとお父さんだって思ってた……。お父さんって呼んじゃ駄目?」




 私がそう尋ねると、伯父様――お父さんは、固く目をつむり、首を横に振った。




「いや、構わない……。お前がそう呼びたいと思ってくれるのなら、こんなに嬉しい事はない」




「お父さん……」




「ベル……ベル……私の、大切な娘……」




 そう言って、私を育ててくれたお父さんは、涙を流しながら私を包み込むように抱きしめてくれて、私も精一杯の力でお父さんを抱き返した。




 結婚式まで、あと四日。


 残された時間を、私は大好きなお父さんと、できるだけ一緒に居る事にした。








「今日は、ギルベルトお父さんの好きな魔黒鳥のシチューを作るからね。あと、タイラーとマディが、森の見回りに行った時に、魔豚を獲ってきてくれたの。ギルベルトお父さんの好きなハムにしておくから」




「それは楽しみだな。そうだ、私も手伝おうか」




「え? 本当? ギルベルトお父さん、料理、できるの?」




「できるさ。ただ、お前のように美味しく作れないだけだ。でも、教えてもらったらできると思うぞ」




「わかったわ、じゃあ、一緒に作ろうね!」




 結婚式までの数日間、私はできるだけギルベルトお父さんと一緒に居た。


 お父さんも私の望みを聞いてくれて、できるだけ私のそばに居てくれた。


 タイラーやマディも、砦に居る仲間全員が協力してくれて、私の願いを叶えてくれたのだ。




 穏やかで、泣きたいくらい幸せな数日間だった。


 実際、夜になると泣いてしまった。


 この幸せの中で、ずっと過ごしていたい。


 結婚して王都に行くなんて嫌だ、ずっとここに居たい、と心が揺らいで叫びだしてしまいそうになるのだ。


 だけどそのたびに、この砦の人を守るんだと自分に言い聞かせて我慢した。


 大好きなギルベルトお父さんは、絶対に私が王都から守るんだ。






 そして、とうとう最後の夜になった。


 明日は私の結婚式だ。


 全く嬉しくない結婚式……顔も知らない相手の元に、私は嫁ぐ事になる。


 眠ってしまえば朝がきて、ここから離れなければならない。


 そう思うと眠るのが怖くなって、ベッドを抜け出し、慣れ親しんだ厨房に足を向けた。




「ベル、寝ないのか?」




 声をかけてきたのは、ギルベルトお父さんだった。


 昼間に私と一緒にいるために、ギルベルトお父さんは、夜に砦の見張りをしていたはずだ。


 今夜の見張りはどうしたのかと尋ねると、




「ベルと一緒に居られる、最後の夜だからな」




 と言って、ギルベルトお父さんは腕を広げ、おいで、と言ってくれた。


 私は頷いて、広げられた腕へと飛び込んでいく。


 そうだ、今夜は、最後の夜だ。


 この優しくて逞しい腕とも、今夜でお別れだ。




「あのね、明日、言おうと思ってたんだけど……」




「何だ?」




「今まで育ててくれて、ありがとう」




 私がそう言うと、ギルベルトお父さんは何も言わずに、私を抱きしめる腕に力を込めた。




「本当のお父さんとお母さんはそばにいてくれなかったけど、ギルベルトお父さんがずっとそばに居てくれたから、私、少しも寂しくなかったわ。ここの生活は確かに危険かもしれないけれど、私はここが大好き……。ギルベルトお父さんや、みんながいる、この東の森の第一砦が、大好きだったよ」




「ベル……」




「お父さんって呼ばせてくれて、ありがとう……。忙しいのに、一緒に居てくれてありがとう……」




 ギルベルトお父さんの、私を抱きしめる腕が、震えていた。


 もしかして泣いているのかもしれないなぁと思う。


 ギルベルトお父さんは、結構泣き虫だから。




「最後だから、朝まで一緒に居てほしいな」




 腕の中でぽつりと呟くと、




「甘えっ子だな」




 と、少し呆れたように言われた。


 だけど、




「構わない……。抱えていてやるから、このまま眠りなさい」




 とギルベルトお父さんは言ってくれて……私は素直に目を閉じた。



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