第2話・親友
「ベル、ギルベルト様から話を聞いたよ」
「ベル、大丈夫?」
どのくらい時間が経った頃だろう。
厨房の隅っこで蹲っていた私を見つけて、優しく声をかけてくれたのは、タイラーとマディだった。
タイラー・ダウソンは、ギルベルト伯父様の右腕でもある、ダンカン・ダウソンさんの息子。
マディ・ヒドルスは、この東の森の第一砦を守る医者、ビル・ヒドルス先生の娘。
二人ともこの森の砦で一緒に育った、私の幼馴染で、親友だ。
「今の君の気持ちを考えると、結婚おめでとうって言っていいのかわからないけれど、ギルベルト様の気持ちもわかってあげてほしい。君と別れるのは、ギルベルト様だって辛いはずだ」
「ギルベルト様は、ベルの事を本当に大切に想っているの……。ベル、私たちもベルと離れるのは辛いけど……ベルには安全な場所に居てもらいたい……」
「それは……私が戦えない、守ってもらう事しかできない、足手まといだから?」
震える声で、私は親友たちに聞いた。
さっき、伯父様には聞けなかった事だ。
もしかしたら、私の存在は、ずっと伯父様の負担になっていたのかもしれない。
もしもそうだと言われたら立ち直れないから、恐ろしくて聞けなかったのだ。
「違うよ、ベル……。君を足手まといとは思わない。だけど、最近この森の魔物は、以前に比べて少しずつ強くなっているようなんだ。みんなで砦の周りを交代で守っているけど、魔物が襲ってこない保証はない。だから、ギルベルト様は、ベルに安全なところに居てもらいたいと思ったんじゃないかな……。ずっとそばに居られるわけではないからね」
森の魔物が強くなっているーーそれは、私も聞いた事があった。
「ベルは回復魔法が使えるから、この砦にとって役に立つ存在。それに、防御魔法だって使える。だけど、ベルの場合、それはどちらも落ち着いた環境下でないと、力を発揮する事ができない。ここは、落ち着ける場所じゃないから……」
「そう、かもね……」
マディの言うように、私は回復魔法と防御魔法が使えるけれど、不器用なせいで落ち着いていないと上手くいかなかった。
つまり、私は戦場ではあまり役に立つ事ができないけれど、落ち着いた環境下では、力が発揮できるかもしれないという事だ。
「私、マディみたいに、どんな状況でも上手く回復魔法が使えたら、ずっとここに居られたかな?」
マディは首を横に振った。
「私の回復魔法は、ベルに比べると、大した事はない。私が使える魔法は、本当に簡単なもの。父さんが教えてくれた医療技術の補助くらいにしか使えない。だけどベルは違う……ベルは、落ち着いてさえいれば、重傷の人だって治せる魔力がある。防御魔法だって、そう。ベルの魔力は、とても強い」
「タイラー、マディ。でも、私、伯父様や、みんなと離れたくない……」
「ベル……泣かないで、ベル……」
マディは、私を抱きしめてくれた。
タイラーは、私を抱きしめるマディごと、強く抱きしめてくれる。
「ベル、離れていても、俺たち三人は、親友だよ」
「そうよ、離れていても、ベルの事、忘れない。タイラーと一緒に、絶対にベルに会いに行くからっ」
「でもっ……」
離れていても、親友。離れていても、忘れない。
その言葉はとても嬉しい事だけど、私は素直になる事ができなかった。
だけどもう一人の私が、こんな事を思う。
もしも、落ち着いた場所で、私が広範囲の防御魔法をかけ続ける事ができたら。
そうすれば、私の大切な伯父様も、親友も、他の仲間たちも、もう危険な魔物たちと戦わなくてもいいのではないかと。
そんな事も思うのだ。




