12.二度目の解放《光の共鳴》
圭司の左肩に激しい痛みをもたらしたあの攻撃。その正体はおろか、何が起きたのかさえ分からないほどに、その攻撃は速かった。
「納乃、シエラ。気を付けろ!」
――と言ってみたはいいものの、見えない、正体も分からない。そんな攻撃に対して一体、どう気をつければ良いのかも分からない。
とりあえず、納乃が言うには森の奥からその攻撃が来たらしい。それを信じて、ただいつ来るかも分からない攻撃に対して、ただただ身構えることしかできなかった。
そして、少し間を置き。今度は二発、残像しか目視できない、その攻撃が飛んできた。次の狙いは圭司の両足だった。
来ると分かっていた上で身構えていてもなお。あまりに速すぎるその攻撃は、避けようとするだけでは間に合わない。
ハンマーで思いきり叩きつけられたような激しい痛みが、次は両足に襲い掛かる。当然、立っていられなくなり、そのまま地面へと膝をつき、倒れてしまった。
これだけの攻撃を受けたにも関わらず。未だに自分が何を受けているのかさえ分からない。
そんな中、シエラが動く。
「……圭司様。止める間もなく使わせて頂きます。――解放共鳴――ッ」
あまり、進んで使おうとは思えない力。使えば使うほど、せっかく取り戻した日常から乖離していくような異質。
しかし、その力を二度も解放した事が、もう既に日常という名のレールから脱輪してしまったことを表しているとも言えるかもしれない。
やがて、言い放ったシエラを中心に。コンタクトで魔力の繋がりがある圭司、納乃にも、それを通じて光が宿る。
「……本当、不思議な力だ」
ふと、圭司は痛むはずの両足を使って立ち上がりながら、そう呟いた。
「攻撃とか目くらましとか、相手に害を与えるだけじゃなく。こうして傷を癒す事もできるなんて」
故に、この力を行使することが恐ろしかった。あまりにも万能すぎるのだ。そんな都合の良い、魔法なのかどうかもよく分からない力。何か裏があるとは思わないだろうか?
ただ。シエラが使うと決めたのならば、その選択を尊重したい。そうとも思った。
シエラの光によって、金色へと変わった魔法銃を取り出すと、森の奥に向けて一発。――その銃弾は、攻撃を放った張本人を撃ち抜くことはなかった。だが、薄暗い森の奥を明るく照らすくらいなら造作もないことだった。
森の奥、照らされたそこに立っていたのは――。
「……ええ、見つかってしまっては仕方がありません。ご挨拶でもしておきましょうか」
全身を黒に包んだ、紫髪を伸ばした女性。その顔立ちからして日本人ではない。
そして、こんな田舎に、異国からやってきた魔法師が二人。無関係な訳がなかった。
「イレーネ・アルフィス。MagiCA、諜報科所属の魔法師です」
薄々分かってはいた。さっき交戦した金髪碧眼の魔法師と同じくMagiCA。そもそも、彼女が一人である確証なんてどこにもなかったのだから。
それにしても。圭司は、声を大にして言う。
「……そんなに多重接続者ってのが欲しいのかよ。俺は別に、そんなものが欲しくてシエラを迎え入れた訳じゃない。それなのに、何故――こうして、俺たちの日常を奪われなくちゃならないんだ」
本来の目的であるMISysにしろ、現在進行形で襲われているMagiCAにしろ。どうしてこうも、多重接続者というのが世界で唯一の存在だとしても。こんな目に遭わなくちゃいけないんだ――そう、心の底から嘆いてしまう。
しかし、対する紫髪の魔法師、イレーネは見当違いのその言葉に、呆れかえるように。
「別に私も、多重接続者には興味はありませんよ。そもそも人形師ですらない私には無関係ですので。今回も、上からの指令通りに動いているだけの事」
……ですが、と。そう付け加えるようにして、イレーネは続ける。
「そもそも。私がここまで来た理由からして、もう間違っています。私がわざわざ来たのも、あの子……シェロンに傷を負わせた人形師。そう、貴方に――相応の報いを与える為にやってきましたので」
予想外だった。てっきり、多重接続者であるこちらを狙ってやってきたとばかり思っていた。……が、相手にその気はないらしい。
かといって、助かったという訳でもない。むしろ、こちらを生きたまま捕らえようとしていた方がまだマシだったとも思える。何故なら。あの目は、間違いなく本気だった。本気で憎み、こちらを殺そうとしているのがひしひしと伝わってくる。しかし、それはあまりにも――。
「……自分勝手じゃないか? そっちが先に仕掛けてきたんだ、それを撃退したら今度は報復か。いい加減にしろ」
「魔法師、人形師というものを理解できていない学生風情が偉そうに。……そもそも、魔法の世界に身を置く人間は基本的に自己責任。自分の身は自分で守らなくてはならない。全世界の共通認識かと存じていますが」
「ああ、分かったよ。……話し合いは通じない相手だってことが。悪いけど、お前もMISysとかいう組織も何もかも全部ぶっ潰して、守り切って見せる。平穏な日常ってやつを」
話すだけ無駄。自分の望み通りにしたいなら、自分で道を切り開け。彼女が言いたいのも、きっと同じようなことだろう。……なら、やってやるだけだ。
「ええ、それでこそ魔法の世界に生きし者。貴方、きっと将来は良い人形師になれますよ」
「お生憎様、俺は別に人形師として強さを求めている訳じゃない。……納乃、シエラ。行こう」
「「はいっ!」」――二人のやる気に満ちた返事を境に、戦いの火蓋が切られた。




