13.その戦いの末路《最大出力》
「――遅すぎます。あのシェロンが負けたというのは本当なのですか? あまりにも手応えがありませんが」
圭司と納乃で、MagiCAの魔法師、イレーネ・アルフィスへと金色の銃弾を撃ち込む。
が、そのどれもが。引き金を引くだけで撃てるはずの銃弾を、先回りするかのように放たれた、超高速の雷撃によってその全てが打ち消されてしまう。
「……速すぎる。このままじゃ、いずれ――」
圭司は、その絶対的な速度の差を前に、嘆いていた。
銃弾が飛ぶのを目視してから、そこへ魔法を撃ち込む。あまりにも人間離れしたその芸当。シェロンというらしい、あの金髪碧眼の魔法師とはまた違ったベクトルの強さだった。
シェロンが液状の金属でなんでもこなせる万能型だとすれば、イレーネはその速度に全振りした特化型。少しでも気を抜けば、一瞬にして一方的に再起不能にされてしまうだろう。
「シエラがここで、止めます……ッ! はああああああああああああああああああああああああああ――」
シエラも、光剣を両手に握ったまま走り、イレーネへと距離を詰めていく。しかし、近づけば近づくほど、その雷撃を避けることができなくなってしまう。
……当然だ。彼女の雷撃は、発動に時間を必要としていない。出そうと思った瞬間にはもう射出されている、そのレベルだ。
雷撃自体の速度だけが、攻撃を避ける為に与えられた猶予。それが、一歩踏み出すごとに短くなっていくのだ。――そして。
「――んぐうああああ――ッ!?」
一発の雷撃が、シエラの胸元を貫いた。人間とは違って、魔法人形にとってそこは弱点ではない。が、その歩みを止めるのには十分だった。力が抜け、シエラがその場で倒れこんでしまう。
「シエラッ! ……くっそおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
圭司は金色の魔法銃へ、風船が割れる一歩手前のようなギリギリまで、自身の魔力とシエラの光を織り交ぜ、送りこむ。
グォングォングォングォン――ッ!! 電化製品が壊れる直前のような、低く轟く音が、静かな森の中へと響き渡る。
どうせ中途半端に撃ったところで、容易く掻き消されてしまう。ならば、最初から。その一撃で全てを終わらせるつもりで。
……その引き金を引く。
この光が宿った状態で、限界まで魔力を込めたのは初めてだった。どうなるかなんて分からない。……それでも、こんな奴にだけは何も奪われたくない。そして。
――ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
こんなに小さな魔法銃から放たれたと言っても、誰も信じないであろう。もはや砲撃にも近いそれが放たれてしまったのが最後。先にある何もかもを、光の砲弾は飲み込んでいく。
……それは、一瞬にして無数の雷撃を放つことができる魔法師、イレーネ・アルフィスとしても例外ではなかった。
「け、圭司さんっ!? 流石にこれはやりすぎたんじゃ……。骨すら残っているかどうか」
「あ、ああ……、流石にここまでの火力が出るとは思ってなかったんだ、つい……」
今も、金色の光でそこを焼き付けるように放たれている極太のレーザー。それは、人に向けて撃って、冗談で済むような火力ではなかった。
戦車だろうとなんだろうと、平気で焼き尽くしてしまうような。そんな、破壊の象徴とも言える……そんな光だった。
倒したか、倒してないか。そんな考えが頭をよぎる事もなかった。むしろ、相手を真っ先に心配してしまうほどの。そんな攻撃だった。
この光景を見た百人、その全員が『勝負あり』……そう答えるはずの、圧倒的な光景だった。
しかし、しかし、しかし。光が止んだ場所にあったのは、見るだけでゾッとするような彼女の屍ではなく、苦しみ悶えるその魔法師の姿でもなく。
銀色の金属によって作られた、半球状の、小さなドームのような構造物。その表面には傷一つさえついていない。
そして、突如目の前に現れたそれが物語るのは――。
「イレーネ? なーに勝手に一人で楽しそうなコト始めちゃってるのかしらぁ? 言いたいコトは山のようにあるけれど、まずはアレを徹底的に潰して『本物』ってヤツをその身をもって叩き込んであげなくちゃ……ならないわよねぇ?」
言いながら、銀色の金属で作られたドームはどろりと液体状へと戻りながら、金髪碧眼の魔法師、シェロン・ルイスの元へと帰っていく。
「しぇ、シェロおおん……っ!」
キャラ崩壊待ったなしの勢いで、大人びた雰囲気だった紫髪の魔法師、イレーネがシェロンに向けて、涙目でわなわな震えるような、そんな声に一転しながら泣きついてしまう。
一度、倒したはずの魔法師――動くうえで大切な部位を三カ所、その魔法銃で撃ち抜いた。マトモに動けるはずがなかった。
……しかし。撃ち抜いたはずの箇所はそれぞれ、金属製のパーツによって補強されていた。
それでも痛みが引いたという訳ではないはず。いくらあの攻撃さえ凌げる万能な金属だとしても、それはあくまで金属としての範疇に留まる。金属という枠組みを超えたことはできないだろう。
そして、金属をどう使っても。傷を直接癒したり、痛みを和らげたりなんて使い道は思いつかない。恐らく、激痛に耐えながらもその関節を無理やりに動かしている。
「『本物』……か」
圭司はふと、そう声を漏らしていた。確かに魔法師としては本物の強さを持っているのかもしれない。
「なら、本物が偽物を倒す――そんな、番狂わせを見せてやる」
相手がどちらか一人でも十分に厳しい戦いではある。が、それでも。絶望どころかさらに奮起し、そう宣言するように言い放つ。




