熱狂信者
「うぉおおおおお!!」
ステージにいるアイドル達が今日発売されたCDの中に収録されている曲を踊り付で披露すると、会場は喜びの声に包まれた。声というよりも、もう叫びに近かったが。これだけの大声を出すのは、やっぱりこのアイドル達を大好きな証拠だろう。負けじと張り合うファンもおり、このグループの人気度が良くわかる。
「凄い盛り上がりだね。でも何だろう、この違和感。」
一緒に聞いていた私達も曲を楽しんではいたのだが、熱狂的なファンのラブコールや一体的な動きについていけず置いていかれているというか、浮いてしまっている感じがした。
「あの子達は可愛いし歌も踊りも上手いし、正にアイドルって感じだよね。」
「でもこれは・・・明らかに変ではないですか?」
大きな会場でライブをするときは、色とりどりのペンライトを振ったり特別な掛け声があったりするよね。ファンクラブとかがそれを指揮してるのかな。詳しくは知らないけど、イメージ的にはそんな感じ。今目の前でファンの人達がしているのも、それなんだとは思うんだけど、でも、こんなに必死になってやることなのかな・・・?
「こんなに多くの人が一斉に同じ言葉を言ったり、同じ動作をしたりするのってちょっと怖いね。儀式の瞬間を見てるみたい。」
「そうですね。」
そう私達が話あっていると、不意に近くに居た人から話しかけられた。
「おい、そこのガキども。私語は慎め。ルルディ・コルツィ様が歌ってるだろ。黙って聞くか掛け声に参加するかどっちかにしろ。どちらも嫌ならすぐここから出ていけ。」
その人は、明らかに不快感を露わにしてこちらを見ている。
確かにライブ中静かにしてほしいのはわかるけれど、だからってそこまで厳重にしなくたって・・・。スタッフの人でもないのにそこまで言われると、やっぱりイラッとしてしまう。中でも気になったのは、部外者は出ていけと言わんばかりの圧力的な口調だった。同志以外は認めないということなのだろうか。そんなの、そんなの絶対おかしい。アイドルは誰かだけの存在じゃないのだから。一緒に楽しもうとして、何が悪いっていうの?
「――は?貴方にそんな事言われる意味が分かりませんね。むしろ貴方達の大声のせいで、歌があまり聞こえないんですけど?」
「し、紫綺くん!」
凄く嫌な言い方だったし、怒るのも無理はないと思うんだけど・・・でも、そんな事を言ったら逆に相手の気分を逆撫でしちゃうよ!
「ごごごごめんなさい。静かにしますっ!」
慌てて謝ると、凄く怒った顔をしながらもこちらをスルーしてステージの方に目線を戻した。
一気に居心地が悪くなり、その場を去りたくなる。美麩さんも千佳ちゃんも、紫綺さんもそれは同じのようで、その人に背を向けるようにしてこの場を後にした。
「あ~もう、何なのムカつく!」
店内をまたふらふらと歩きながら、私達は微妙な空気を晴らすべく会話をしていた。でも話題に上るのはさっきからあの感じの悪い人のことばかり。今思うと、心なしか周りからも警戒の視線を送られていたような気がする。
「こんな時は甘いものだよ!ねっ?紫綺くん!」
すっかり機嫌を損ねてしまった紫綺さんに千佳ちゃんが明るく声をかける。千佳ちゃんの提案に対し、紫綺さんは呆れた顔をしながら頷いた。一方、美麩さんは何かを考えているのか上の空である。
「千佳はやっぱ俺の事よく理解してるや・・・。」
千佳ちゃんの提案の元、アイス屋さんへやってきた。
ライブをしていた空間がやけに熱気に満ちていたからだろうか、ケーキ屋さんやクレープ屋さんなど数々の甘味処があるにも関わらず、先程全会一致でアイスを食べる事に決まったのだった。
私はチョコアイス、美麩さんはバニラアイス、千佳ちゃんはストロベリーアイス、紫綺さんはチョコミントアイスをそれぞれ注文する。
「は~、久々にこんな嫌な思いをしたよ。」
「さっきのは災難でしたね。折角の楽しいイベントが台無しです。」
「ちゃんと曲とか踊りとか見たかったなー。」
四人で一緒のテーブルについてアイスを食べる。アイスは口の中ですぐに溶けて行った。それと一緒に先程までの嫌な雰囲気や思いも溶けてなくなっていく感じがする。やっぱり、甘いものは偉大だ。
「アイス、美味しいですね!」
「そだね。」
「そういえばさ、美麩ちゃんさっきから何を考えてたの?」
美麩さんがアイスを口にしながらこちらを見る。暫しその味を楽しんでから、彼女はこう答えた。
「鍵穴が、見えたので。」
・・・鍵穴?どういうことだろう。
「鍵穴ってドアとかにあるアレでしょ?何でそんなものが?っていうかどこに見えたの?」
「さっきの人達や、ルルディ・コルツィさんたち、それから皆にも。」
私達を近くから順に見ていく美麩さんの目は、的確にピンポイントを見ているように感じる。彼女には確かに鍵穴が見えているらしい。同じ場所を見ても、私達には何も見えない。
「美麩さんの武器って鍵でしょ?開けたりできるんじゃないの?」
「開けたら何が出てくるんだろー?」
「・・・多分、開ける事は出来ます。でも、勝手に開けるのは良くないかと・・・。」
「その人に関係する何かが現れるって事ですか?」
美麩さんはゆっくりと頷いた。何かを思い出すように、何かを追うように言葉を紡いでいく。
彼女の話によれば、鍵穴はある日を境にいきなり見えるようになったらしい。
そしてそれは、彼女も例外ではなかった。彼女の体にあった鍵穴を試しに開けてみたところ、過去の・・・前世の自分が生きていた時代にいくことが出来たらしい。
彼女はそこで、今の知り合いに似た人などと会話をすることになり、そこでその世界が過去のものだという事を知ったとか。
私達が見る前世の夢はただ単に見るだけだったけれど、鍵穴の先では世界に干渉することが出来る。
彼女は現世の記憶を持ったままその世界に行くことが出来、その世界の人たちと情報交換をすることが出来る。鍵穴の先の世界に居る時、その世界の住民からは前世の人物として認識される。
つまり私がその世界に行く事ができるなら、“イア姫”として“月華”の記憶・思考のままでその世界に存在することが出来るということだ。
「そんな力が鍵にあったんだ。」
「そうなの。でも、他の人には使った事がないから、同じようになるのかは分からない。」
「試してみるのはありかもね。でも、前世の生活?を見られるのは、いくら今の自分とは別の存在といってもなんか恥ずかしいなぁ。」
「どんな記憶を見ることになるかは分からないから、迂闊に人の鍵を開く事は出来なかったの。」
人の記憶を覗くようなものだと彼女は思っているらしい。もし見るならば、その人の許可を取ってからにしようと思っていたと彼女は話していた。でも中々こうして話す事が出来ず、ただ一人で悩んでいたとのことだった。
相談ならばどんなものでも聞くと、彼女に伝えると笑顔でお礼を言う。無理に抱え込む必要はないという意見が素直に嬉しかったようだ。
「で、可能な範囲で教えてほしいんだけど、その世界でどんなことを知ったの?前世の自分としてその世界にいたのなら、詳しく過去の自分について分かったんじゃない?」
アイスが溶けていくのも気にせずに話を続ける。
「えっと・・・前世と言っても私は既に死んだあとだったみたい。確か死神とか言ってたと思う。死神は私一人でなくて、璢夷に似た人がいたの。あと、翼って呼ばれている存在がその世界にいて、死神とペアを組んで仕事をしてた。」
「死神に翼、ね。お伽噺みたいじゃん。あ、信じてない訳じゃないからね。ただ本当に前世の世界にそういう存在がいたっていうのが何だか不思議で。・・・ごめん。続けて。」
「璢夷みたいな死神さんのパートナーの翼はシャンヌ・・・じゃなかった、沙灑くんみたいで、私のパートナーは。」
話していた美麩さんの言葉がそこで止まる。言いにくそうにそのまま目線を泳がせた。
すると、何かを察したように紫綺さんが反応する。
「・・・やっぱりか。何か感じるものがあるなって思ってたんだ。そのパートナーって俺に似てたんでしょ。そうでしょ?ミフィ。」
ミフィ?
その名前に美麩さんが大きく反応を示した。どうやら二人の間では伝わる言葉のようだ。
「その名前を知っているという事は、フィジーはやはり貴方なのね。」
「そう、夢の中で俺はそう呼ばれてた。」
「ど、どういうこと?千佳にはさっぱりだよ~。」
私が夢の中で自分の前世を知ったように、二人もまた別の自分を知る機会があったんだ。
千佳ちゃんはまだ夢を見ていないのかな。
「そう、そうなんだね。これでスッキリしたよ。」
「二人も私達みたいに、何か見ていたりするの?」
「私は夢の中で、イア姫って呼ばれてました。」
「えっ、イア姫ってこの国のお姫様じゃん!月華ちゃんの前世ってお姫様なの!?羨ましい!千佳も見るならそんな感じのがいいなぁ~。」
私が願ってそういう夢を見る訳じゃないよと彼女に言うと、残念そうにそうだよね~と言って笑う。
私達の通う学校の生徒の大半が前世の夢を見ていて、かつその内容や関係がリンクしているなんて誰が想像していただろうか。ここまでくると、何か引き寄せるものがあったのか、そういった者が集まるようにされていたかの二択くらいしか原因が思いつかない。
「千佳は見てないの?」
「うん、残念ながら。私だけ仲間はずれなんて、何だかなー。」
「熟睡してるって事じゃん。ちょっと羨ましいよ。」
前世の夢を見た後は何だかぼんやりしてしまうし、内容を鮮明に覚えている為寝た気がしないのというのは私も感じていたことだったので、同じような境遇の人がいたのだと少し安心する。どうにかして熟睡しようと枕の高さを変えたりして抵抗してみたこともあったけれど、どれも失敗に終わった。今は逆に夢を見ようと思っているので、そこまで気にしてはいないが。
「ねね、もしかして、私の鍵穴を開けたら見れたりするかな!?」
千佳ちゃんが思い出したようにして言い、勢いを持ったままガタリと立ち上がる。その音に驚きワンテンポ反応が遅れてしまったが、それは残りの二人も同じだったようだ。
「でき・・・るかもね?」
「じゃあさ、やってよ!私も気になるよ、前世のことっ!」
千佳ちゃんの勢いに押され気味の美麩さんは、慎重に言葉を選んでいる。
「あの・・・申し訳ないんですけど、ここではちょっと。意識をそちらに持っていかれる可能性があるので、自室でお願いしたいです。それと、この力にはリスクもあって・・・」
「リスク!?」
「あまり長い間その世界にいると、こちらの世界に戻れなくなるんです。無理に向うの世界に干渉することになるので。」
「なんだって!?千佳!ダメ、その案却下!今度どっか一緒に出掛けてやるから我慢しろっ!」
「えっ、本当?二人っきり?やったあぁぁぁ!!!美麩ちゃん有難うっ!」
ん?なんか流れが変わった?
慌ただしいやりとりを見守りながら、アイスの最後の一口を口にする。先程まで話に熱中していた紫綺さんのアイスは半分以上が液体と化してしまっていた。ちょっと勿体ない。
「バニラ二つ、イチゴ三つ、チョコ一つ、チョコミント二つ、チョコチップクッキー四つ、レモンシャーベット二つ、抹茶三つ・・・」
それから暫く千佳ちゃんと紫綺さんのやりとりが続いたので、そっとしておく。
何やら後ろの受付カウンターから沢山のアイスを注文している人がいるようだ。耳をそちらに傾けてみれば、何やらざわざわと何か話しているのが分かる。
「はぁ~~~エリちゃん可愛かったなぁ~~~」
「だよなー、本当疲れが吹っ飛ぶぜ。」
「おいおい。エリ様、だろ?」
「はっ、はいっ!すみませんっ!」
こ、この声とこの会話は!
時計とパンフレットのスケジュールを確認すると、もうライブは終わっているようだった。となれば、涼を求めて彼らもここへやってきたということだろう。やけに注文の数が多いのは他のファンも一緒に来ているからだろうか。
「・・・隊長、あそこにいるのって。」
ま、マズイ。気づかれた!?
一人冷汗を流し硬直する。他の三人は気づいていないようで、楽しそうに会話を続けていた。
どうする?店を出ようにもカウンターの前を通らなくちゃいけないし、かといってこのまま座っているのも辛い。
そうしている間にも、先程話しかけてきた男性がこちらに歩いてきていた。
絶体絶命・・・かも。
熱狂+狂信+信者=熱狂信者。
あ、前々回くらいから更新時間を0時から14時に変更しました。




