興味
久々に全員集合して、授業をするお話。
「おはよう。」
タクヤさんからの依頼が終わり、花菜美さんの武器は昇華した。
目的は達成できたという事だ。
花菜美さんの件が解決したからかは分からないけれど、あれから武器所持者が暴走しているという報告はない。
依頼といえば、武器所持者の話を聞きに行くなどが主で至って落ち着きを見せている。
璢夷さん達も帰ってきた事だし、やっと授業が再開できそうだ。入学して早々対決・任務・襲撃とたくさんの出来事があった事を思い出す。
「おはよー。」
学生らしい朝なのがとても嬉しい。
普通の学生は毎日こうしてほのぼのと過ごしているのかと思うと羨ましくもある。
でも、この生活が嫌かと聞かれればそうでもない。
非日常が続くこの生活も、最初は戸惑っていたものの今はこれが普通。皆で協力して誰かを助ける事が出来るのは良い事だし、やりがいがある。
それにこの武器があったからこそ、こうして皆と出会うことが出来た。それだけで充分だ。
「おっ、月華ー!おはよーさん。」
「おはようございます、アルバートさん。」
色んな人と挨拶を交わしながら教室へ入り席に座る。
まだ他の人は机を囲んで話していたりしているけれど、授業の支度もあるし少し落ち着きたい。
「おぉ、皆揃ってるな!」
先生も笑顔で教室に入ってくる。先生の笑顔は久しぶりに見た。
このところ仕事が山積みで忙しかったのが少し楽になったからだろう。
「海外組、お疲れさん。噂は聞いてるぞ?」
「先生ってば誰に聞いたんですか〜?」
「与えられた仕事を全うしたまでです。…ね、兄さん?」
「ん?あぁ、そうだな。」
「仕事だなんて、真面目ねぇ。」
やっぱりこうして皆でわいわいしてる方が楽しい。
いつの間にか私も席を立ち、みんなの輪の中に入っていっていた。
「そういえば先生、今日の授業は…?」
「おぉ、それなんだけどな?」
指摘されるとさも嬉しそうにこちらを見る。
その脇には分厚い本が見える。
凄く古そうな本だ。紙が黄色く変色してしまっている。
「今日は歴史の授業だ。このセミリア・ファル王国の歴史を教えてやるぞー。」
「座学かよ、やる気が起きねぇ。」
「同じく!」
そんな生徒の声を躱しながら、先生は生徒に席につくように指示する。バラバラと席に戻っていくのを見届けると、先生は唐突にこんな事を聞いてきた。
「セミリア・ファル王国がこの世界一の国として栄えていた時、隣接していた国がいくつあるか、知ってるか?」
その質問に対し、手を上げたのは璢夷さんだ。
「実力主義の国キルシャ、キルシャから独立した芸術国トレスティア、多くの謎に包まれたフィアーノ・ミステリアの三国。」
「おぉ、そこまで知っているとは驚いた。歴史書でも読んだのかい?」
「はい。少し興味がありまして。」
周りをみれば璢夷さんに同意するように頷く人や、呆れたような顔をしている人もいた。
私は素直に驚いている。……私が夢で見たのはセミリア・ファル王国だけだったし、しかも見ることが出来たのはその一部だ。それに歴史書を読むことはしない。
きっと途中で飽きてしまうことだろうから。
「さて、続けるぞ!……セミリア・ファル王国は珍しい統治の仕方をしていた。女王による統治だ。だが女王が若くして亡くなってしまった。じゃあ、その権力は誰に移ると思う?」
「ミラ女王には娘がいたよな。でも、普通は次の権力者である王…カミュ国王にその力がいくはずだよな?」
「流石にまだ幼い娘が政治の為に動いたり出来る訳がない。」
ケインさんとアルバートさんが自分の意見を述べている。
私が見た夢では既に王女であるイアが即位した後だった。
ミラ女王を見ることも無かったし、何よりあの双子…ディディモスがミラ女王が亡くなったことを話していた。ということは。
「イア姫が女王に即位し統治した…。」
ぼそりと呟く。その声は見事に拾われたようだった。
「その通り。なんだ、皆しっかり勉強してるんだな。偉い偉い。」
「なんやて!?当時の姫は俺らと変わらん歳っちゅー話や。そんな子が国を収めてたァ!?何て話や…。」
「勿論、元老院の補助もあったさ。」
「立派な姫様ですよね。弱音も吐かず常に凛として人々の鑑となっていたのですから。」
「人々の…鑑。」
「先生、この国のことも知りたいのは山々だけど、私は他の国のことを知りたいわ。そこにいた人物とか英雄とか。」
「雷野は他の国が気になるのか。どの国がいいんだ?」
「フィアーノ・ミステリア。」
即答だった。本当に一瞬の隙もなく。むしろ先生の声に被せるくらい食い気味なくらいに。
確かに一番謎が多い国だけれど、どうしてそんなに気にしているんだろう。
「フィアーノ・ミステリアか。あそこはまだ謎の部分が多いんだが、一説によれば魔法を使えるものが少なく今で言う科学に頼っていたらしいな。あとは水源が多い国だった。」
「降水量が多いからっていうのもあるんでしょうね。」
「あぁ。」
「先生!確かフィアーノ・ミステリアには王子様がいて、その王子様が統治していたのよね?」
「そうだぞ。璢娘。君も詳しいんだな。」
「なら私思うんだけど。」
一呼吸間を置いてこちらの気を引いてから話始める。
一体どんな話をするつもりなのか、全く想像がつかない。だからこそ、何を話すのかがとても楽しみ。
「何でイア姫とフィアーノ・ミステリアの王子様って結婚しなかったのかしら。」
!?
その発想は無かった!
良くこういう時代の物語では政略結婚とかがある。
それにフィアーノ・ミステリアの王子様といえば。
「あの国の王子様って女性に優しくてイケメンだったんでしょう?イア姫が惚れてもおかしくない相手だと思うし、王子様は今の権力を失うかもしれないけどセミリア・ファル王国にその価値はあると思うの。だから、なんでしなかったのかなって。」
「うーん。不思議なことに女性との噂はあまりなかったらしいからな、あの王子は。」
「ま、まさか…!」
「姉さん、何を言うのかは知らないが多分違うと思うぞ。」
「あっ、じゃあ、イア姫には他に好きな人がいた…とかは?」
「「!!?」」
千佳ちゃんの意見に対し、それだ!とでも言うように手をぽふんと合わせた璢娘さんに、それなら可能性は零じゃないと頷く璢夷さん。他の人ももしかしたらそうかも…と納得しているみたい。
でもあの夢の中にそんな人物は出てこなかったような。いやでもあれは断片的なものだしもしかしたらそういう人物がいたのかも?
「修道女と禁断の恋ーーとか!」
「研究に命を捧げた人との恋とか?」
「側近とかどうかしら。割とありそうじゃない?執事とかね。」
「いえそこは他の国にいる……例えばキルシャの力無き男児とか!」
女性陣がここぞとばかりに目を輝かせ、次々にイア姫のお相手を探す。
私としては、司書さんとかどうかなって思ったんだけど…。
前世とかのイメージでいうなら、緋威翔さんはそんな感じがするし…って何を考えてるんだろう。
「ごほん。」
「庭師とかどうや?」
「いいですね。そういうの嫌いじゃないです。」
「いやそこは神に身を捧げーーとか、私は国と結婚しました!とかさぁ。」
「ないない。」
「……何処の誰とも分からない、たまたま会った人に一目惚れ…なんてどうでしょう?」
それは皆が次々と案を出していく中で小さく紡がれた一言。
その一言に誰もが振り返り、見つめ発した人へ注目する。
その意見を述べたのは緋威翔さんで、ここまで反応されるとは思っていなかったのか少し恥かしそうに、そして驚いていた。
恋愛小説はあまり読まないといっていたけれど、この人に小説を書かせたらきっとすごいものができあがるだろう。そう感じた一瞬だった。
先生さえもが黙り、静寂の中彼は続ける。
「なんて、そんな事が起こる確率は低いでしょうね。」
そういって誤魔化すように彼は笑って見せた。
そのあとは賑やかさが戻って授業をまた始めた訳だけれど、今日の授業が終わっても忘れることが出来ないくらい強烈にあの言葉が残っている。
何処の誰とも分からない、たまたまあった人。
そんなドラマのような出来事が起きる確率は低い。彼の言っていたとおりだと思う。
でも何かが引っかかる。自信がなさそうに話していた割にはやけにハッキリしていた。
まるでそうだったとでも言っているような口調で。
誤魔化そうとして笑ったのは、何かを知っていたから…?
次回は勿論、夢タイム突入。果たしてそれは誰の夢?




