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blanket  作者: 璢音
再び戦いへ
71/139

空回り

璢胡&璢娘。恋する乙女は強いのです!((謎

どうして私は素直になれないんだろ。

最初はただ純粋な気持ちで自分を磨いていた筈なのに、いつの間にかこんなんになっちゃって。


余計な所で意地はって、結局望んだ結果を自分から壊して行って。


カッコイイ人を見るとこの人なら分かってくれる、きっと私のこの気持ちを満たしてくれるって。ぽっかり空いた穴を塞いでくれるかもって期待したけど、そう簡単には行かなかった。


所詮、この程度。


彼らにとって私はどうでもいい存在。眼中にも入らない平凡な女。悔しいけど、私より可愛い子なんて沢山いるし、仕方がないんだ。


それに私が認めて欲しかったのは、いや、認めて欲しいと思っているのは一人だけ。昔の地味な私を変えたタクヤだけなの。

タクヤだけが、私の全てを知っているから。だからこそ、認めて欲しかった。


愛していたからこそ、可愛いっていうその一言が欲しかった。どうしても、彼の口からその言葉を聞きたかったの。


でも…気付くには遅すぎたかな。

私は彼に酷い事しちゃったし。

あの私を見た時の怯えた瞳を思い出すと胸が痛む。


あんな事したくなかった。


ついカッとなってやっちゃっただけ。

謝ったら許してくれるかな…?

私、ちゃんと謝れるかな?

謝って、本当の事をタクヤに伝えられるかなぁ?


「可愛いって、言って欲しかったの…。」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「花菜美ちゃん?」


今、花菜美ちゃんの本音が聞こえた気がする…。


花菜美ちゃんを気絶させたあの後、私は璢夷達と合流した。

編入希望者の栞くんを璢夷達に任せて璢胡と一緒に保健室へ来たまでは良かったのだけれど、花菜美ちゃんが一向に目覚めなくて心配になってきた所。


そんな時、彼女の一言の呟きが耳に入ったの。


純粋な気持ち。普段は人に言えないようなこと。それをぽつりと零したのがきっかけでリミッターが外れたのか、花菜美ちゃん一筋の涙を流していたわ。


「やっぱり…花菜美ちゃんは乙女ね。」


どんなに強がっていてもやっぱり女の子なんだわ。悔しいとかよりも、悲しかったのね。好きな人に恐がられてしまうのは辛いことだもの。だって側にいる事も見つめることすら許されない。そんな状況になっていたのだから。


「姉さん。私思った事があるの。」

「どうしたの?璢胡。」

「花菜美さん、私と同じなんじゃないかなって。」

「どういう事かしら?」

「自分に向いてくれないって分かっているのに期待してしまうというか、そうなって欲しいって願うばかり、空回りしてしまってる。」


璢胡の言いたいことも分かるわ。

思ってることと行動が必ずしも一致するとは限らない。

私みたいな捻じ曲がったタイプもいれば、月華ちゃんみたいな純粋なタイプもいる。

アプローチの仕方もその人次第で変わってくるわね。


「なら璢胡。貴女が救ってあげればいいんじゃないかしら。貴女が望むのは、どんな事?」


真っ直ぐ璢胡の瞳を見て話す。

私の真剣さは璢胡に伝わっているかしら?

貴女は少し悩ましげに斜めしたを見るけれど、今頼りになるのは貴女。

花菜美さんを救えるのは貴女よ。


「好きな人に………言われたいと思う。可愛いって。」

「なら、彼を訪ねてみなくちゃね。璢胡。ちょっとここで待ってて。私、月華ちゃんの所に行ってくるわ。」

「うん。いってらっしゃい、姉さん。」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ねぇ、花菜美さん。今聞こえていたでしょう。私の姉の声が。」


寝たふりをしているなんて、悪い人。そのせいで私なんだか今頬が少し熱い。


「……ごめんなさい。雰囲気的に言い出せなくて。」


花菜美さんが申し訳なさそうにゆっくりと体を起こしてこちらを向く。

良かった。冷静になってくれたみたいで。

私もつい強情になってしまってしまったから謝らなくちゃならないな。


「こちらこそ。さっきは傷付けてごめんなさい。でも…好きなの。緋威翔さんの…。」

「それ以上、言わなくてもいいよ。分かってる。それに気づいたの。私が本当に好きなのは、タクヤだけ。」


……え?


「だからね、私…謝りたい。タクヤにも。」

「花菜美さん…!」


自分が間違っていたって認めるのは大変な事だと私は思ってる。それを花菜美さんは今しようとしている。


「私にこれまでの経緯を全て聞かせてください。私は貴女の力になりたい。同じ、恋する女性として。」

「ありがとう。璢胡ちゃん。貴女も璢娘姐と一緒で素敵な女性ね。」


花菜美さんから紡がれる一言一言は、細い糸のようになってやがて結ばれて行く。花菜美さんだって、こうなるべきだ。

私は彼女の為に最善を尽くしたい。


まずは、何故彼は花菜美さんに対し可愛いと言ってあげなかったのかを知りたい。

前の花菜美さんの事は知らない。けど、今の花菜美さんはとても可愛らしい。

よく雑誌でみるモデルさんみたい。なのに、どうして彼は嫌がったの?


……もしかして。

彼は変わる前の花菜美さんが好きだったの…?


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「月華ちゃーん!」


廊下をパタパタと走ってくる人影。璢娘さんだ。何か用だろうか?


「璢娘さん、どうしたんですか?」

「璢夷達が帰って来たのと、花菜美ちゃんの事でちょっと相談がね。ちょっと教室で話しましょうか。」


近くにあった家庭科室に入る。鍵はかかっていなかった。

入り口近くにあった椅子に腰掛け会話を再開する。


「それで、相談って何でしょう?」

「花菜美ちゃん、やっと気がついたみたいなの。自分の気持ちに。」


ズキリと胸が痛む。

彼女は緋威翔さんの事を凄く気に入っていた。告白でもするんだろうか、彼に……。

そうなったら私は応援出来るのかな。

…出来ない気がする。


「氷椏ちゃんから聞いた話じゃ、花菜美ちゃんの元カレ…タクヤくんだったかしら?今病院にいるそうじゃない。」

「はい。私達は一度会ったことがあります。」

「だったら話が早いわ。花菜美ちゃんを彼と会わせてほしいのよ。」


でも確か前はそのタクヤさんに暴力を振るおうとしてきた結果、彼を怯えさせてしまっている。彼が簡単に花菜美さんに会うとは思えない。


「それは難しいと思います。」

「何でかしら?」


経緯を説明すると璢娘さんは少し首を傾げてから辺りを見回した。


「うーん。そこをどうにか…。花菜美ちゃん、謝りにいきたいと思うのよ。どうにかして彼を説得出来ないかしら。…あっ、緋威翔くんが廊下に。ちょっと彼にも話を聞いてもらいたいのよね。呼んでくるわ。」


そう言い出すや否やすぐに立ち上がって緋威翔さんの元に駆けていく。残された私はその間も少し考えていた。

花菜美さんの武器を昇華させるには、彼女が武器を生み出してしまった原因を取り除かなくてはいけない。


花菜美さんが武器を生み出してしまったのは、タクヤさんに言われた言葉がきっかけだったはず。だとすれば謝るだけでは昇華はしない……彼にも話をする必要がある。

どうして花菜美さんにそんな事を言ったのか。あれは本心からの言葉だったのか。それを先に調べておかないと、更に花菜美さんの傷を深くしてしまう可能性がある。


「そのタクヤという人と一度話をしてみる必要がありますね。彼女と会わせる前に。」


緋威翔さんが璢娘さんに連れられ席に座った。


「そうなのよ。私達は花菜美さんとチームだし一緒に行動するわ。だから貴方達のチームでタクヤくんの本心を探ってきてくれない?」

「お安い御用です。任せてください。…さ、月華さん。ノエルさんを連れて一緒に行きましょう、タクヤさんの元へ。」

「はい!」


璢娘さんと別れて、ノエルさんと合流する。ノエルさんは屋上でセイラさんや聖夜さんと一緒に居たので簡単に合流できた。


任務開始直後に向かったあの病院に足を運びながら、ノエルさんに経緯を説明する。ノエルさんは最後まで聞く側に徹していたが、話が終わると一つ質問をしてきた。


「もし、彼が…タクヤって人が花菜美さんを本気で嫌っていたら、どうする?」


可能性は0でない。もしそうだとしたら状況は最悪になる。


「その場合は、花菜美さんが受け止めるしかないと思います。」

「それと緋威翔。あんたは言動に気をつけなさいよ。あの子に優しくしたらダメなんだからね。」

「……はい。」


ノエルさんの言葉に苦笑いで応える緋威翔さん。

花菜美さんに優しくしすぎたらまた気持ちが傾くかもしれない。いやそれより私が耐えられない。


「ついたわ。彼、違う病院に移動したりしていなければいいけど。」


そんな事を言いながら病院の入り口をくぐる。室内は独特の薬品の匂いが充満しているが不思議と嫌ではなかった。


受付のお姉さんに話を聞くと、前回と同じ部屋にいるという。


部屋番号を確認してすぐに部屋へ向かう。自然と急ぎ足になるのは何か理由があるのだろうか。不安だ。


「失礼します。」


一言かけてからゆっくりと扉を開く。

そこには前回と同じように横たわるタクヤさんの姿があった。


「ん?お前らか…何か用か?」


手には雑誌を広げていた。よく見れば女性の雑誌のようだ。


「少し貴方に聞きたいことがありまして、お邪魔させていただきました。」


椅子を三つベッドの近くに並べてそこに座る。妙な緊張感のせいか落ち着かない。


「そうか。何だ、聞きたいことってのは。」

「単刀直入に聞くわ。あんた、花菜美さんが武器を生み出す前、彼女の事をどう思ってたの?」


明らかな動揺をタクヤさんは示す。意外だったのだろうか。


「それを聞きにここまで来たか。それを話せばあいつは元に戻るのか?わざわざ聞きにきたってことは重要なことなんだろ。」


でもすぐに落ち着きを取り戻した。

すぐカッとなるタイプかと思っていたけれどそうではなかったらしい。ちゃんと私たちが来た理由を考えているあたり、花菜美さんの事を少しは気にしていたんだろう。少し安心した。


「それは貴方次第ですね。」

「…分かった。話してやるよ。」


そういってベッドについている机に雑誌を被せるようにして置いた。置く間際にチラリとページが見える。

雑誌に写る茶髪の女性が笑顔でこちらを見ていた。パーカーにTシャツにショートパンツを合わせ、ネックレスをしている。特徴的なのは足元を彩るそのブーツだ。


このブーツにも見覚えがある。

これは……花菜美さんだ。


これでハッキリした。女性雑誌を見ていた理由が。彼は花菜美さんを見るためにこれを。


「俺と花菜美が幼馴染って話はあいつから聞いたか?」


確か最初の時は‘‘知り合い’’としか言っていなかったのを思い出す。


「いいえ。初耳ですね。」

「あいつも話さなかったのか。まぁいい。最初から話してやるよ。」


タクヤさんが話すのをただただ聞く。しっかりと一音一句を逃さずに。


話を聞いて確信した事がある。

彼は昔の花菜美さんが好きだった事。

急激に変化する事で彼の知っている花菜美さんじゃなくなった事が悲しかったこと。

そうなった理由が自分だと分かっているからこそ、耐えられなくなってしまった。


「なんだ、相思相愛なんじゃない。心配して損した。」

「それを…花菜美さんに伝えてあげてくれませんか?」


すると血相を変えたように必死に首を横に振る。


「今のあいつには話が通じねぇよ…お前らみたいに静かに話を聞くとは思えないね。」


そうタクヤさんが言った所でノエルさんの携帯が鳴る。


「あっ、アタシったら電源消し忘れて…ちょっと席外すわね。」


ノエルさんが部屋を出て行く。


「なぁ、もしお前らが同じ状況だったらどうすんだ?」


タクヤさんが交互に私と緋威翔さんを見ながら言った。もし私が花菜美さんと同じ状況なら…?

好きだった人に否定をされてしまったら?

緋威翔さんに、否定を…?


「月華さん?」


慌てて平常心を装う。

タクヤさんを見れば首を傾げており、緋威翔さんはこちらを心配そうに見ていた。


「もし」


緋威翔さんが視線をタクヤさんに戻して話し出す。私は自分を落ち着かせようと深呼吸を静かに始めた。


「月華さんが花菜美さんの立場になっていたとしても、貴方達と同じにはなりませんね。彼女は落ち込むタイプですから。僕がタクヤさんの立場なら心配になってすぐに謝ってしまいますね。」


なんて言いながら緋威翔さんが笑う。

そんな困ったような顔をしないでほしい。

こちらが心配になってしまうから…。

あぁ、私は本当に彼に弱い。


「そっか。お似合いだな。羨ましいよ。」

「えっ?」

「あの…タクヤさん、何か誤解してませんか?」


二人の言葉を聞かずにうんうんと頷くタクヤさん。今何を思っているんだろう?それを考えると顔が熱く…あわわ。どうしよう。落ち着け、落ち着け自分…!


「お、あの猫耳娘が戻ってきたみたいだな。」

「さっきは失礼したわね。でも今回は見逃して欲しいわ。だってこれ、ファインプレーよ。」

「どういう事ですか?」

「花菜美さん、こちらに向かってるみたいよ?璢娘さんと璢胡さんを振り切ってね。タクヤさん、覚悟を決めた方がいいんじゃないかしら。花菜美さんは覚悟を決めたみたいだし。しっかりしなさいよ。」

「そうだな。俺ばかり逃げてはいられねぇよな。元はといえば、俺が原因。いつかは通る道だしな。」


タクヤさんが覚悟を決めた…!

花菜美さんもこちらに向かっている。

これはもしかしてもしかするのかな。

どうか、成功しますように!


それから花菜美さんがくるまで、誰も口を開かなかった。タクヤさんは目を閉じて神経を集中し、落ち着かせている。いや、話を整理しているのかもしれない。


「…タクヤ?」


花菜美さんの声だ。


「よぉ、花菜美。入れよ。」

「うん。」


ゆっくりと扉が開く。そこにはしゅんとした花菜美さんの姿があった。強気な態度をしていた時とは全く印象が違う。


緋威翔さんがタクヤさんに一番近かった椅子を譲り、新しい椅子を出した。


「花菜美。お前が来た理由は分かってる。」

「うん。」

「でもその前に俺の話を聞いて欲しい。」



皆が固唾を飲んで見守る中、花菜美さんの答えは……。


「分かった。話して。」

花菜美編、クライマックス。

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