休日【月華編Ⅳ】
休日をもう1日分やるべきか迷い中。
「あのね、私と同じ名前を持つアイツは――」
「あいつって?」
「聖夜よ。アイツは―、セイラの許嫁よ」
「許、嫁……?」
許嫁って、親に指定された婚約相手の事だよね……?
「セイラのお父さんが決めた相手だそうよ。まぁ、本人も……気にはなってるみたいだけどね」
「そうなんですか……」
だとしたら、セイラさんの事が好きな真琴さんは、片想い……。
「真琴も、諦めればいいのに諦めなさそうなのよね」
「確かに、そうですね」
「ねぇ、話は変わるけど……、月華ちゃんって、静の事どう思う?」
何で急に話題に輝生さんが出るんだろう?
「どうと言われても、余り静さんの事を知らないので」
「……そう、よね」
「でも何で急に?」
「あの子、人当たりが強いでしょ?だから、周りから嫌われてないか、心配だったのよ。なんか自ら進んで一人になっているような気がして。」
細かい所を見て、彼を心配するなんて……ノエルさんって優しい人なんだな。普段はツンツンしてて、関わりにくいけれど。
「じゃあ、緋威翔は?」
「えっ!?」
余りに急で、しかも話題が話題なだけに、思わず変な声を出してしまう。
でも、確かに……私は彼の事を、どう思っているんだろう。普段何気なく接しているけれど、何か違うような……。
「で、どうなのよ」
ノエルさんの頭にある猫耳が、ひゅいひゅいと動く。表情には出ていないが、どうやらこの話題はとても気になる事らしい。
「どうって……素敵な人だなぁと。」
「で?」
「ふぇ?」
「私が聞いてるのは、好きなのか、そうじゃないのか!貴女の曖昧な態度が焦れったいのよ!もう気になってしょうがないわ!」
「え、そんな……わ、私は―」
「おや、二人共こんな所で何を?」
「ッ!!」
いつも凄いタイミングで現れるけれど、今回は更にその上をいっている。今回は助かったのか、それとも追い詰められているのか――。
私はとりあえず、話題をずらすために、緋威翔さんに、何故ここにいるのかを聞いた。
「あぁ、僕はいつもここで本を読んでるんですよ」
そういえばさっき別行動になった時、彼は本屋に行くと行っていた。そして今、彼の手には新しい本が。それを読むためにここに来たという事か。
話題をずらす事に成功した私は、ノエルさんの表情を伺う。どうやら問いただすのは諦めたらしくほっとした。
毎回緋威翔さんの登場には助けられる。
「その本、どんな本なの?」
ノエルさんの関心は、どうやら緋威翔さんの本へと変わったようだ。
「……あぁ、これは――内緒です。」
「はぁっ!?」
赤色のブックカバーで包まれているその本は、内容はおろか表紙すら見えない。なのでどんな本を買ったのか全く分からなかった。
「ではこうしましょう。貴女たちが三つの質問をして、僕がそれに答えます。三つの質問の中で、貴女達がこの本はどんな内容なのか当ててください。ただ、三つの中で決めるのは難しいと思うので、ラストチャンスもつけます」
「あら、楽しそうじゃない」
緋威翔さんは、ゲームのルールを続けて話していく。
「イエスかノーで答えられる問題は必ず回答します。但し、複数回答がある上、内容に直接繋がるような質問には拒否権を使います。……どうです?やりますか?」
緋威翔さんらしいゲームだな、と私が関心していると、ノエルさんが言った。
「……レディには優しくって事で、1人質問は3回までって事でいいわね?だって拒否権を使う事もあるんでしょう?」
「えぇ、1人3回で良いですよ。じゃあ始めますね。では一つ目の質問をどうぞ」
「じゃあ私からいくわ。一つ目の質問よ。普段から読む本はどんなものかしら」
「そうですね、推理小説や神話です」
「二つ目。その小説のイメージカラーは何かしら」
「赤です」
「三つ目、それは普段から読むものかしら?」
「ノーです」
早速ノエルさんが三つの質問を使い果たした。その情報によると、イメージカラーは赤で、普段から読まないもの。ちなみに普段から読むものは、推理小説や神話らしい。
つまり、この二つは除外される。
三つ質問をして、三つの回答が返ってきた。今のところ拒否権は使われていない。中々の結果だろう。しかも、ルールを上手く活用している。
次は私が三つ質問する番だ。
「次は月華の番よ」
「……はい。えっと、一つ目。それは女の子が主役ですか?」
「イエス、ですね」
「二つ目、それは童話ですか?」
「ノー、ですね」
最後の質問。もう大体の目星はついているけれど、確認の為。これでノーなら、あの小説で間違いない。
「三つ目。その小説は、フィクションですか?」
「ノー、です」
三つの質問の後、改めて情報を確認し、確信する。
「じゃあ緋威翔さんが買ったのは、恋愛ものの小説ですね」
「イエス。正解です」
普段から読んでいるものが、神話に推理小説。しかしそれではない。女の子が主役で童話ではない。
この時点でかなり絞られる。ただ、この時点では確定出来ない。
イメージカラーが赤とはいって、それがファンタジーなら辻褄があう。普段から読むものには入っていないし、女の子が主役というのも頷ける。そこで。最後にフィクションかどうかという質問をした。
答えは、ノー。だとしたら、ファンタジーではない。
歴史ものの線も薄くない。例えば大奥のようなものだとすると、辻褄があう。しかし、歴史ものとなると、普段から読んでいるものに入っていないとはいえ、意外性がなくなる。
……となると、答えは恋愛ものだ。
「凄いわね、月華」
「当てられるとは思ってませんでしたよ」
そう言い、緋威翔さんは手に持った本から、赤いブックカバーを外して見せた。
題名は、「緋色のテディベア」と書いてある。
表紙にはその名の通り、テディベアが描かれていた。
「どうも緋色と書かれていると、気になってしまうんですよね」
名前についている漢字でもあるし、本人が好きな色だという緋色。だからこそ、普段読まない恋愛小説にも、興味が出たのだという。
「ふぅん。まぁ、それを読んだら少しくらい女性の気持ちが分かるんじゃない?女性視点みたいだしね」
「えぇ、女性が主人公ですからね。これを読んで女心を学んでみます」
冗談半分に言いながら笑う緋威翔さん。もし、この緋威翔さんが女心を学んだら、更にモテるんじゃないだろうか。
何故か不安が込み上げる。私にも理由は分からないが、緋威翔さんの人気が上がるごとに心配になるのである。
「全く……冗談なのか、本気で言ってるのか分からないわ」
溜め息をつくノエルさんの顔は、ほんのりと赤い。
「顔が赤いですよ、ノエルさん」
「そりゃそうね!私は今怒っているのよ!」
「何故です?」
「貴方の魅力は優しさよ。でもその優しさのせいで、勘違いする女だっているの!誰にでも優しくするその癖、止めなさいよ!」
緋威翔さんはノエルさんにそう言われると、少し驚いたような顔をして、次に何か他の事を考えたような素振りをしてから、ハッ、と何かを閃き、言葉を紡いだ。
「昔、他の人にも同じ事を言われた事があります。誰だかは忘れてしまいましたが……」
「えっ?」
二人が喋っている間に、私は緋威翔さんから本を受け取り、パラパラと中を読んでみた。
この小説は、所々挿し絵があるタイプのようなので、内容を細かく読まずとも、何となく分かる。
何気なく挿し絵を見ていると、気になる絵を発見した。
緋色のテディベア、つまり題名に出ている熊のぬいぐるみだが、そのテディベアの頭には、緋威翔さんが普段被っているものと同じ帽子が乗っていたのである。
「これって……」
「どうかしましたか?」
「何よ、小説を読んで何か引っ掛かる事でもあったの?」
「この帽子、緋威翔さんの被っているものにそっくり……」
その絵を確認した二人も、確かに似ていると認め、同時に悩む。
「何でこんなに似ているのかしら。えっと、作者は――」
表紙を確認するノエルさん。作者の欄を見てみると、「緋桜」と書かれている。
「この人の名前にも、緋っていう字が入るのね。作者も緋色が好きなのかしら」
「…………」
「どうしたの?緋威翔」
「いえ、別に何でもありませんよ。」
更に挿し絵を見ていくと、そのテディベアの他に、小説内では違う色のテディベアも存在しているのだと分かった。
「この色……何色なんでしょうね」
緋色のテディベアは、表紙にカラーで描いてある為分かるのだが、もう一方のテディベアは、白黒で描かれている為に、何色だか分からない。
「読み進んでいけば、色が文の中に表記されているかもしれませんね」
「そうですね。気になるけれど、その部分だけ読むのは――」
やはり、良くないと思う。折角の小説なのだから、最初から最後まで細かく読んでいくべきだ。
「そうですね。では僕は寮に戻り、本を読み進める事にします」
「一人で読んだ方が楽に進めるでしょうしね。」
緋威翔さんは、私達に軽く一礼すると、ではまた。と言い残し、公園を後にした。
「急に来て急に去っていくわね、あの男」
「そ、そうですね……」
何だか嫌な予感。しかももう緋威翔さんの助けはない。
「さてと!さっきの話題に戻しましょうか。で?緋威翔の事、好きなの?」
やはり。問いただしは一時中断しただけだったのか。
「緋威翔さんは、憧れみたいなもので―、決してそんな感情は――。」
無い、とは言い切れない。今まで何回も、彼にドキドキしてきた。だけど、それは彼の優しさと気遣いに魅力を感じていたから。慕う気持ちはあるけれども、決して……決して恋心では、ない。……筈。
多分、私はああいうお兄さんが居たらな、程度に思っているのだと思う。優しくて、笑顔が素敵で。たまに誘惑かともとれる行動をとっているように見えるけど、実は天然で。
見れば見るほど、魅力に気付いてしまう……あれっ?
「ノエルさん。何で私にそんな事――」
「気になったからよ」
「私が?それとも彼が?」
ノエルさんの反応を見つつ、反撃に入る。聞かれっぱなしでは情けないから。
ノエルさんは、私の問いに対して戸惑った様子は無く、普段のように淡々と言葉を述べていく。そこだけを見れば、普段と変わらない。
でも、私は知っていた。
「貴女の反応を見てたら、もしかしたら彼の事、好きなんじゃないかって思ったからよ」
必要以上に動く、耳。色んな速度で動く耳はまるで、泳いでいる目のよう。目は口程にものを言うっていうけれど、彼女の場合は、耳は口程にものを言う、だね。
「ノエルさん、正直に答えてください」
びくぅ、と体を震わせるノエルさん。やはり、あれは嘘か。
「な、何で分かったのよ!」
「内緒です。……それで、本当は、何が原因で?」
「……分かったわよ」
しぶしぶと語るノエルさん。その話しによると、どうやらクラスメイトの中に、緋威翔さんの事を好きな人がいるらしい。それで、普段の授業中など、私が緋威翔さんによく関わっている為、その子は気になり、色々聞いてくるように頼まれたらしいのである。
一応念のため耳を確認しつつ聞いていたが、目立った反応はない。全て本当のようだ。
「つまり、私はその子に敵視されていると。」
「いいえ。ただ、心配になっているだけのようよ。」
「ちなみに、その子には、口封じでもされているんですか?」
「えぇ、恥ずかしいから名前は出さないで欲しいって。」
「そうですか……、じゃあ、その子にはこう伝えてください。私は、確かに彼に憧れています。しかし、恋愛感情は今の所ないので安心してください。それと、彼が好きな色は緋色、好きな食べ物は、フォンダンショコラです、と。」
「わ、分かったわ」
今、私は全て正直に語った。私はその子と敵対するつもりはない。むしろ、協力してあげたいくらいだ。だけど、私にそれは出来ない。ならば、情報を共有するくらいはできる筈。
「貴女って凄いわね。色々と。」
「えっ?」
「嘘は見抜くし、正直だし。武器所持者を改心させられる理由が良く分かったわ」
「私はそんな事……」
「一種の才能ね。」
それから、夜になるまで二人で語り尽くした。友達の事、異性の事、家庭の事情、武器の話に至るまで。
その中で、彼女の武器は、悲しみによって出来たと知った。大切にしていたペットが死んでしまった事。それが、街に置かれた猫の餌の中に毒が入っていた事が原因だった事。
無差別な犯行であり、人が特定出来ず、犯人は捕まってない事。
それらの理由から、ノエルさんの武器は出来たという。
「それでね……」
そろそろ帰ろうか、と言った頃には既に8時過ぎ。流石に寮に帰り、夕飯を食べないとと思った私達は、一緒に寮へ帰った。
この日で、ノエルさんと凄く仲良くなれた気がする。
一応区切りはついたものの、まだ土曜日。日曜日も続けるべきか迷い中。
さて問題!緋威翔さんの事が好きだという女子は誰でしょう!答えはWeb……嘘です、答えは何処かで!((ry




