休日【月華編Ⅲ】
ふぅむ。思った以上に長引きますね、休日編。
二人と解散して、また一人になった私は、気持ちの整理の為、ショッピングセンターの近くにある、やや広めの公園へと向かった。
公園には、休日だからか沢山の親子の姿が見える。それぞれがキャッチボールや、サッカー、縄跳び等をしており、見ていて微笑ましい。
私は公園内にあるベンチへと腰掛け、遠くに見えるバドミントンをやっている人達を眺め始める。
最初は穏やかにラリーを続けていたのだが、途中から豹変し、激しい戦いになっていった。私はその技術力に感心すると共に、そのプレイヤーに関心を抱いた。
少し近付いて見てみる。さっきの戦いは激しさを増していた。わざと遠めに飛ばしたり、近めに落としたり、左右に相手を振ったり。
あれだけの技術力があれば、バドミントンも楽しいのだろうな、と思い見ていると、何だか見覚えのある顔。
「真希さんに、真琴さん?」
よくよく見てみれば、その近くにレジャーシートを敷いて、ランチを楽しむ女子の姿も見えた。
「あら、月華ちゃんじゃない」
「こんにちは、ノエルさん、セイラさん、政宗さん、真里亜さん、それと――」
レジャーシートに見事に寝転がる一人の男性。こちらに背を向けている為、誰だか分からない。
「あぁ、そいつはアルバートっていうの。セイラ達の家に住む居候よ」
「いっ、居候!?」
そんな情報、初めて聞いたんですが。
「……ん……?なんや、また増えたんか?」
そのアルバートと呼ばれる男性が、眠そうな声で聞く。もそもそと動いた後、起き上がりシートに座った。
「おっ、また女の子やな」
「あ、因みにコイツは関西人じゃないわよ。エセ関西弁だからね」
ノエルさんが私に言う。確かに、関西弁のような話し方ではあるが、変な感じがする。所々でイントネーションが違ったり、言葉も、完璧な関西弁ではない。
「そ、そうなんですか……」
「所で自分、名前は?」
「えっ、あぁ、私ですか?……私は鏡 月華です」
「月華ちゃんか~宜しく頼むわ!」
「宜しくお願いします……」
何だかこの人の明るさに圧倒されて、上手く話せない……
「所で、皆さんで何を?」
「ピクニックよ」
真里亜さんが、籠を持って笑顔を見せる。籠の中には、先程皆が食べていたサンドイッチが見えた。
「へぇ、丁度天気も良いし、ピクニック日和ですもんね」
「久々に自由に出来るからね……真希も、楽しそうで良かった。」
「真琴も楽しそうだよ」
真里亜さんと政宗さんがほのぼの会話を交わすなか行われるのは、本気の勝負に見える。楽しそうというよりは、躍起になっているというか……
「僕が勝ったらセイラさんと二人で遊びにいくからね!」
「あぁうん。そうしなよ。でも僕が勝ったらこのまま皆で遊ぶんだよ!」
セイラさんと二人きりになりたいらしい真琴さんと、皆で遊びたいと言う真希さん。口調や声が似てるせいか、判別がしにくい。ただ、何となく雰囲気で分かる。
私は女子とアルバートさんが座るシートに入れさせてもらった。
「何でこんなバトルが?」
私がノエルさんに耳打ちすると、ノエルさんは声を潜めて訳を話してくれた。
「実は、最初に真琴がセイラを遊びに……本人曰くデートに誘ったらしいんだけど、セイラは皆の方が楽しいって言ったらしくて……それを聞いた真希が皆を誘ったって訳」
「じゃあ、真琴さんからしたらデートのチャンスを真希さんに壊された事になるんですね」
「それで怒った真琴が、真希とバドミントンで勝負する!って言い出して、この有り様よ」
相変わらず一進一退の攻防を繰り返す二人に、何だか笑いが溢れる。
「二人共、意地になりながら楽しんでるんですね」
「そうね。時間もどんどん減っていくし、むしろ真琴は諦めてるみたいだわ」
「あいつら、いつまでやってんやろな」
「……決着がつくまでだと思いますよ……真琴は、負けず嫌いだから」
「真希ってば、意地張って――……」
どっちかが折れれば済む話なのに、どっちも折れないから終わらない。
「ねぇ、アタシ達も何かやりましょうよ。このまま観戦してるなんてつまらないし」
「でもバドミントンの道具しか……」
「じゃあ鬼ごっこでもやる?」
そう言ったのは、現在バドミントン中の真希さん。やはり、皆で遊ぶ事に関心があるらしい。
「じゃあ試合はまた今度っと」
真琴さんが打ったシャトルを左手で見事にキャッチする。
「真琴さんもやりましょう?」
セイラさんが言ったせいか、真琴さんも機嫌を直し、参戦する。
鬼を決めるために私達は、レジャーシートを囲むようにしてじゃんけんをした。
「最初はグー!じゃんけん」
「ぽんッ!」
こんな大人数がいるにも関わらず、一発で勝敗が決まった。ほとんどの皆がパーを出してる中、真琴さんと真希さんだけがグーを出していたのである。
「まさかのまさかで!?」
二人が鬼、である。さっきまで敵対していた二人が味方になるという事態になった。
鬼が決まった事で、鬼ごっこが開始される。
鬼が数を数えている間に逃げ出す私達。何だか小学生みたいだ。
「きゅ~う、10!よーし行くぞー!」
無邪気に皆を追いかける真希さん。皆で鬼ごっこをしているのが余程楽しいらしい。
「待てぇええぇ」
一方真琴さんは、目当ての人を必死に追いかけている。
勿論、例のあの子だ。
「えっ、真琴…?」
「やっぱり!セイラだけを狙うつもりね!」
「きゃーっ」
当の本人達は私達を気にせず、鬼ごっこに集中している。
ただ予想外なのは、意外にセイラさんが走るのが早く、真琴さんが捕まえられないという事。
「セ、セイラ速いっ」
流石に真琴さんも驚いたのか、そう言葉を漏らす。だが、諦めてはいない。目が物語っている。
「政宗捕まえたーっ」
「う……やっぱり捕まった……」
ロングスカートを着ていながらも、善戦していた政宗さんが捕まった。
それに続くように次々に女子が捕まっていく。全て真希さんの手によって。
「真里亜さん捕まーえたっ」
「あっ……」
「ノエルも捕まえたッ」
「むっ!?」
ノエルさんは、木陰で隠れつつ休憩していた所を捕まった。残るは私とアルバートさん、そしてセイラさんだ。
ちなみに私はと言うと、真希さん真琴さんとはかなり離れた場所にある草陰に隠れている。
「っ、はぁ……セイラが捕まんないっ……」
「真琴~頑張ってよ~。まだ1人も捕まえてないじゃーん」
「うっ、煩いよぉ!これからっ、これからだから!」
そう言いつつ狙うのは相変わらずにセイラさん。しかしセイラさんの走るスピードは変わっていない。そして、真琴さんは徐々にスピードが落ちていっている。
「じゃあ二人で協力して……」
「やだ!僕が一人でやるから真希は違う人をっ」
「もー、我儘だなぁ、真琴は~。あ、アルバートタッチ!」
「何ぃっ!?」
ついに残るは私とセイラさんだけだ。……と思っていると、急に視界から真希さんが消えた。何処だろうと思って見渡していると、肩をぽんぽんと叩かれる感覚。焦り振り返った先にはやはり真希さんがいた。
いつの間に。
「月華捕まえたっ」
「ひゃっ!」
呆気なく私が捕まった為、残るはセイラさん一人だ。
「真琴~。後セイラだけだよー」
「はいはいっ!」
元気な声と裏腹に、差は広がっていく。
「クスクス」
ミニスカートにブーツという女性らしい姿で、尚且つ走りにくい姿な筈なのに、それを感じさせない走りっぷり。
しかも、その表情は余裕そのもので、クスクスと笑いまで出ている。
「な、なんか悔しい……ッ」
真琴さんの前を走るセイラさんの前に、真希さんが挟むように走っていく。しかしセイラさんはそれを予想したかのように、方向転換をし、見事にかわしていく。
「す、凄いねセイラさん……」
だが、その数分後異変は起きた。さっきまで順調に走っていたセイラさんが、ある一点を見た途端に急に遅くなったのだ。
先程見た走りとは全く違う。軽くランニングしてる程度の速さになっている。しかもその顔は、若干赤い。
「!?」
勿論、差はすぐに縮まり、見事に真琴さんに捕まってしまった。
「やっと捕まえた…」
やれやれというようにしゃがみこむ真琴さん。走りっぱなしだったその足に負担がいっているのだろう。
私は、セイラさんが急に遅くなった理由が気になり、その異変が起きた場所を見た。すると、公園内にある丘の上に人影が見える。
もしかしてあの人が原因なのだろうか?
「ふー、運動したら疲れちゃったよ~」
「……凄かったよ真希。次々に人を捕まえて。」
「うん、凄いと思う。足、速いんだね、真希くんって。」
「確かにそうね」
向こうに見える人影が気になった私は、反省会みたいなムードになったこの場を背に、丘へ走り出した。
「どないしたんやろ、月華ちゃん」
「走り足りないんじゃないかな?」
丘の上までかけ上がると、そこには下を見下ろす聖夜さんがいた。
「せ、聖夜さん何でここに?」
「えっ?あぁ、暇だったからだよ。誰も遊ぶ人が居なくてね。それより、鬼ごっこ楽しそうだったね。」
「見てたんですか?」
「勿論。皆が捕まっていく様も見てたよ。後、ダサイ奴もね」
「………」
「セイラが俺に気付いた瞬間の顔、もっと間近で見たかったな。」
やはり。セイラさんは聖夜さんを見て急激にスピードが落ちたんだ、間違いない。……でも、何で?
「折角だし、顔出してこようっと。鏡さんも行くでしょ?」
「はい」
聖夜さんと共に丘を降りている間、ずっと考えていたが、やはり理由が思い付かない。
「やぁ、皆。随分楽しそうだったじゃないか」
「聖夜も入れば良かったのに」
真希さんが残念そうに言うが、真琴さんが止めに入った。
「そ、そんな事したら……!」
これまた謎の反応を示す真琴さんに便乗して、セイラさんまで変な反応を示す。
「や、止めた方がいいと思うぞ……ハッ!いやっ、その……止めた方が良いと思いますよ」
一瞬、璢夷さんのようなキリリとした話し方になるが、すぐに元の話し方に戻った。これにも訳があるのだろうか?
「えー、何で~?楽しそうだと思うんだけどなぁ……」
「あぁ、多分俺が出たら色々大変になると思うよ。」
聖夜さんまで、真琴さんやセイラさんと同じように、止めた方が……という反応を示した。やはり、この一連の謎は繋がっているのだろうか。
「……あ!そろそろ帰らないと……真希、行こう…」
時計を確認した政宗さんが呟く。只今の時間は、四時半。公園で遊んでいた子供達がちらほら帰り出す時間だ。
「そうだね、帰ろうか」
真希さんは政宗さんに賛同すると政宗さんに駆け寄り、そして挨拶をして二人は帰っていった。
それを見て、アルバートさんが呟く。
「本当に仲が良いよなぁ。あの二人は」
「そうね」
「ピロリロリリリン♪」
「?」
「あ、俺やわ」
謎の音の正体は、携帯の着信音だったらしく、その携帯の持ち主、アルバートさんが電話に出ると、顔をしかめてから電話を切った。
「セイラ、俺らも帰って来いって」
「お父様から?」
「そうや」
「……じゃあ私も帰ります。じゃあ皆さん、月曜日に会いましょう」
アルバートとセイラさんも肩を並べて公園から去ってしまった。
「わ、私も夕飯の支度があるので帰ります」
真里亜さんが申し訳なさそうに呟くと、真琴さんがハッ、と何かを思い出したような顔をした。
「そうだ!僕、亜里亞からおつかい頼まれてたんだった!」
二人が去ったのを確認すると、この場に残ったのは後三人。私と、聖夜さんと、ノエルさんだ。
「アンタが来ると、良いことないのよね……」
「それはごめんね?でも俺にはどうしようも出来ないから。」
何だか良くない雰囲気。二人はどうやら仲がよろしくないようだ……。
「またアンタ、セイラと何かあった?」
「別に?何もないよ?」
「……なら良いけど。」
「さてと、邪魔者は帰ろうかな。猫さんは機嫌が悪いみたいだし」
「今は人間よ!」
「あぁ、そうだったね。ごめんごめん。ついその耳を見ると」
「あー、もう分かったわよ。帰って。帰って頂戴っ!」
シャーッ、と猫が威嚇したような声を出すと、聖夜さんはおぉ怖い怖い、と言い残しその場を去った。
「全く、本当に嫌味な奴よね。あんな奴の何処が良いのかしら。」
「あの~、全く話についていけないのですが。」
「……あぁ、そうね。じゃあ、貴女には話してあげる。信用できそうだし。とりあえず、場所を移しましょうか。」
ノエルさんに連れていかれたのは、その場所から離れた別の公園にあるベンチだった。時間が時間だからか、辺りに人影はない。
「あのね、私と同じ名前を持つアイツは――」
ノエルさんの口から話される「事実」に、私は驚愕する事になった。まさか、あの人がそんな存在だったなんて――。




