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blanket  作者: 璢音
第三章:戦い
29/139

受付嬢と転入生

 教室へ入ると、皆が休憩しているのが目に入った。


月華「皆……お…」



真希「おぉ、おかえり月華」


 皆におかえりと言おうとしていたのだけれど、先に真希さんに言われてしまった。


政宗「任務お疲れ様、月華ちゃん。そっちのチームは……どうだった?」


 更にはお疲れ様という言葉も先に言われてしまい、言う言葉がなくなった私は、政宗さんが言うように報告をする事にした。


 教室に居る皆を集めて話をしようと考えたのだが、教室にはさほど人は居ない事に気が付く。教室の広さに似合わぬ少人数である。


 改めて教室を見回すと、私達よりも先に帰って来ていたのは[Bチーム]の政宗さん、真希さん、真琴さん、真里亞さん、亜里亞さんだけのようだった。



月華「他のチームはまだなんですか?」


 私が聞くと、亜里亞さんが頷き、訳を話した。


亜里亞「他のチームは外国に行ってるでしょう?だから、仕事が終わっても飛行機で帰ってくる時間があるから、まだなのよ」


 続けて真里亜さんが言う。


真里亜「……イギリスに行ったAチームは、まだ問題が解決してないみたい……」


亜里亞「残りのチームは、結局レーダーに反応が無くて帰る事になって、飛行機で帰って来てる途中らしいわ」


真琴「まぁ、騒動が起きなくて良かったって事になるんじゃないの?」


真希「うんうん、そうだよねぇ」


政宗「平和ほど良いことはない……」


 私達が話していると、先ほど職員室にいたメンバーが次々に教室に来た。そのメンバーも交えて話が進む。


カイン「そちらの班は、どのような結果になりましたか?」


 教室に入って来て早々報告のし合いに入るカインさん。それに答えるように政宗さんが言う。


政宗「……私が会った武器所持者は、近場の学校に入学する事になった……」


カイン「そうですか。それは良かった……通りで帰りが早い」


 カインさんが成程というように頷く。そして私が先程ずらしてしまった話題に入る。


カイン「こちらは武器所持者を二人確認して、学校へ勧誘したのですが失敗。ですが、武器が昇華し、元の物へ戻った事により任務自体は成功しました」


緋威翔「武器は、所持者が抱えた負の感情を解消したと同時に昇華していました」


 緋威翔さんが補足する。


亜里亞「じゃあ私達の武器も!?」


真里亜「私達がトラウマを乗り越えれば……」


真希「元に……戻る?」


 まだ疑問に思っているようだったが、これは本当の事だ。

 私達に射した一筋の光、“希望”は私達を照らし始める。



真琴「じゃあそれを皆に……!」


月華「……それは駄目です」


 確かに、皆に情報を伝える事は良い事だと思う。でも、情報だけではどうにもならない。私達のように、同じ立場で見守る人が居なければ……。

 今、武器所持者に対し化け物だと偏見を持つ人も多い。そんな中、情報を知り克服しようとする人がいたとしても、誰かの協力が簡単に得れるとは思えない。もし仮に得たとしても、克服する途中で暴走してしまったら……普通の人には止められない。運が悪ければ、その暴走の餌食になってしまうかもしれない。そんな惨事が起こってしまっては大変だ。


 気持ちの面でもそうだ。武器を持っている人間と、そうでない人間。気持ちの面ではその感じ方に差がある。ふと、何気ない瞬間に発した言葉が引き金となって、仲に亀裂が入ってしまうかもしれない。

 これを踏まえると、情報を皆に回すのは危険だ。

 その理由を皆に話すと、皆は深刻な顔をしてから、深く頷いた。


真希「そうかもしれない」


政宗「確かに、危ない…」


月華「私達が味方になって、少しずつ解決していけばいいと思うの」


緋威翔「………。」


 皆は、納得したように頷く。その顔は、自分達も負の感情と戦うと言っているようだった。


「ガラッ」



 急にドアが開いたので、今度は誰が戻って来たのだろうと振り返る。


ノエル「皆、おかえり。ちょっとこっちに来てもらっていいかしら?」


 猫耳の少女、ノエルさんが招き猫のような仕草をして誘う。元より猫のような彼女だが、また更に猫化してしまっているように感じる。



ノエル「ほら、早く早くー……」



 ノエルさんが待ちきれないのか手を振り言う。私達はその言葉に従い、教室を出た。


ケイン「何処に行くんだー?」

ノエル「カウンターよ」


月華「カウンター?」


 何か食堂のようなものが出来たのだろうか?食堂はもう既にこの学校にあるのだが……。


 ノエルさんに案内されるがままについていく私達。その一行が着いた場所は――。


 いつもは使われていない教室の内の一つだった。


 その教室の入り口横の窓には、紙が沢山貼られていた。それを見て真希さんの表情が明るくなる。


真希「うわぁ、何かゲームに出てくるミッションカウンターみたいだね!」


 ノエルさんはそれを聞いて嬉しそうに頷く。


ノエル「その通り。ミッションカウンターよ」


月華「ミッションカウンター?」


 私はゲームを余りやった事がないので、ミッションカウンターと言われても何も浮かばなかったのだ。


カイン「任務(ミッション)を受注する時に寄る受付(カウンター)の事ですよ」


月華「な、なるほど……」


亜里亞「じゃあこの窓に貼ってあるのは……」


ノエル「依頼よ。……というより助けを求める声と言ったほうがいいかしら」


 沢山貼ってある紙の内の一枚に近付いてみると、その紙には場所と年齢、名前が書かれていた。

 目に入ったその瞬間、私はその紙を剥がそうと手を伸ばしていた。


カイン「なっ、何を…!?」


ノエル「まさか、帰ってきてすぐなのに依頼を受ける気!?」


 ……そのまさかだった。私はこの依頼を今すぐに受注しようと思ったのである。


ケイン「ただでさえ途中迷子になってんのに……」


カイン「充分に休憩をとってからにした方が……いえ、休憩をとりなさい」


 ケインさんは私を馬鹿にし、カインさんは軽く命令口調で休めと言う。だが、休んでる暇など無いのだと……タイムリミットは迫っているのだと感じる私にとっては、火のついた爆弾を遠くから見ているような、そんな気分だった。


……放っておけない。


緋威翔「迷子になる件は、大丈夫ですよ。カインさん達が行かない限り、レーダーはこちらが所持するはずですから」


(こちら……?)


カイン「貴方まで依頼を受注すると言うんですか!?」


セイラ「………」


ケイン「呆れたぁ。どんな正義ヤローだよ」


セイラ「……無理は……しないでね?月華ちゃん。私はー…」


 セイラちゃんが、私の取ろうとした紙の隣にあった紙に手を出した。


ベリッ、という音と共に、窓に貼ってあった紙はセイラちゃんの手の中に入っていく。


月華「セイラちゃん……!?」


セイラ「私がトラウマを乗り越える為にも、内側外側両面から強くならなきゃいけないと思うから。」


 普段大人しく、どちらかというと人についていくタイプのセイラちゃんが、自ら戦うという選択肢を選んだ。この事実は、今まで否定的だった二人に大きな変化をもたらす。


カイン「まさか――、貴女までもが影響されるとは」


ケイン「セイラがやるなら俺らもやんなきゃな」


緋威翔「では今回は少人数での任務ですね」


カイン「えぇ……貴方達は二人だけで大丈夫なのですか?」


ノエル「今回は私が貴方達についていくわ。これで安心したかしら、カイン?」


カイン「……えぇ、そうですね。では、行きましょうか」


 Bチームの人は、何かあった時の為にと学校に残ってもらう事になった。もし、依頼が来ていない地域で暴れる武器所持者が出た場合の対策だ。

 今回、カウンターが出来た事から、このカウンターにある情報の管理もしてもらう事になる。



政宗「地域別に分けといたりという作業は任せて……」


真希「じゃあ、俺は隣の倉庫室を掃除する~。沢山の資料を置くには最適だからね!」


真琴「じゃあその掃除、手伝うよ」


 Bチームは兄妹(きょうだい)率が高い。だから連携はお手のものだ。各自が適材適所に配置されていく。それを見て、私達は安心して現場に行く事が出来ると思った。


緋威翔「では、行きましょうか」


ノエル「任せて。犬じゃないから鼻で捜索は出来ないけど、身体能力の面では役には立てると思うわ。」


緋威翔「それは心強いですね」


カイン「では各自、任務へ向かいましょうか」


真里亜「任務の受注の方はもう出来ましたから……どうぞ、出発してください」


 カウンターに立つ真里亜さんが、任務の手続きをしてくれたらしい。……これで準備が整った。


 私達は、紙に書いてある通り、とあるプールへと足を運ぶのだった。


……この学校に、転入生が来た事も知らずに。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


†真希side†


 月華さんのチームと、セイラさんのチームを見送った僕達は、有言実行の為、ミッションカウンターがある教室の隣にある準備室を掃除しようとして、二つの教室を繋ぐドアを開こうとする。


 だけど、管理の為なのかドアには鍵が掛かっていて、開ける事は出来なかった。鍵を受けとる為、仕方なく職員室へと向かう。


 職員室の前に来て、一息ついてからドアを開けようとすると、職員室の中が何やら騒がしい。気になってドアの隙間から職員を覗いた。すると、中に生徒らしき後ろ姿と、歓迎の表情を浮かべた先生の顔が見えた。


(他の班が帰って来たのかな?)


 僕はその先生が誰なのか気になり、挨拶と同時に職員室のドアを開けた。


「ガラガラ……」


真希「失礼しまーす」


 僕が突然現れた事に驚いたのか、生徒が振り返った。だが、その顔は、僕の知っている子ではなかった。


真希「だっ……あ、えっと、どなたですか…?」


 誰!?と思わず叫びそうになりながら、相手の名前を聞こうとする。すると、生徒の代わりに先生が口を開いた。


先生「この子は今日、別の学校から転校して来た……斑川(まだらかわ) 氷椏(ひあ)さんと……」


?「斑川(まだらかわ) 幟杏(しあん)だよッ!」


 急に先生の影からひょっこりと別の生徒が顔を出す。

 名字が同じ斑川の事から、姉妹と伺える。だけど、どっちが姉で、どっちが妹なんだろうか?

 身長は幟杏さんの方が高いが、雰囲気的には氷椏さんの方が上に見える。でも最近は大人びた妹も増えているし……。


幟杏「えー、見て分かんないの?あっちが姉だよー」


 幟杏さんが氷椏さんを指して言った。


真希「あ、そうなんだ」


幟杏「因みに、氷椏は私と三つ違い!」


真希「三歳差って事だね?」


幟杏「そうそう!」


先生「氷椏さんは真希達と同じ学年の子だから、幟杏さんは後輩って事になるな」


幟杏「あ、この人真希って言うんだぁ~。女の子みたーい!」


真希「良く言われるよ……」


 少し幟杏さんの言葉に腹が立ったが、もうその言葉には慣れてしまった。そして名乗って無かったのを思いだし、改めて名前を言う。


真希「僕は心向 真希って言うんだ。因みに、妹がいるよ」


幟杏「え?妹?名前は?」


真希「政宗って言うんだ」


幟杏「伊達政宗?」


真希「違う違う、心向 政宗だよ」


氷椏「……それより真希さん。職員室に来たのには理由があったんじゃ…?」


転入生が来たことにより職員室で和んでしまったが、氷椏さんの一言で僕はここに来た理由をハッ、と思い出す。


真希「そうだ!あの、ミッションカウンターのある教室の隣の準備室の鍵を貸してください!」


先生「あぁ、それでここまで来たのか。あそこは鍵掛けたままだったからな」


先生はハハハ、と笑いながら机の引き出しから鍵を取り出した。


先生「ついでに、今居る皆とこの二人を会わせてやってくれ」


真希「は、はい」


幟杏「案内宜しくねーっ!」


氷椏「……」


 僕は先生に言われた通り、二人を連れ職員室を出た。そして廊下を通り、B班のいるあの教室へと向かう。


 教室へ着き、皆を集める。皆は僕が知らない人を連れて歩いてきたことに驚いていた。


政宗「まさか……」


亜里亞「転入生?」


 僕はそうだよ、と言いながら頷き、二人を紹介した。二人はお辞儀をし、皆に挨拶をする。それと同じように、皆は自己紹介をした。


幟杏「ここがミッションカウンターのある教室なの?」


 一通り紹介が終わり、幟杏さんが言った。


氷椏「あそこにカウンターが見えてるから、そうでしょ……」


 氷椏さんが冷静に分析している。


真希「そう、あそこがミッションカウンターのある第7教室だよ」



氷椏「あ、そうそう……私、先生から頼まれた事があるの」


真希「?」


氷椏「幟杏と二人で、カウンターの受付をして欲しいって」


幟杏「私達、まだ武器を制御できないかもしれないから、活動しちゃ駄目なんだって。それで受付嬢をやれってさぁっ」


真希「そうなんだ」


 確かに、誰かしら全員の活動状況を知っている人が必要だし、受付を担当する人だって必要だ。だとすると、皆出払ってしまうこの状況下では、転入生がその役割をするのが好ましい。先生も良く考えたものだ。


氷椏「……という訳だから、宜しくね」


真琴「じゃあその辺の管理とかは任せるよ。とりあえず整理整頓は女子がやってくれるみたいだから、大体の場所とか把握しておいて」


幟杏「りょうかーい!」


 準備室のドアも開き、さっき中断した掃除等が始まる。そんな中、さっき第7教室の状況を把握してほしいと言ったはずの氷椏さんが、何故か準備室に居た。


真希「あれ、氷椏さんは第7教室の整理整頓担当じゃ…?」


氷椏「それは後でも確認出来るから心配しないで。それより、こっちの教室の掃除の方が、明らかに時間が掛かるでしょ…?」


 ……正論だ。


真希「掃除手伝ってくれるの?」


真琴「有り難いや!二人じゃ大変だしね」


氷椏「それにあの子…はなれてい……から」


真琴「へぇ~。じゃあ安心だね!」


 何を言っていたのか聞き取れなかったけれど、真琴の返事からして、“あの子は慣れているから”だろう。記憶力が良いのかな?


 何はともあれ掃除を開始する僕ら。真琴さんが箒で掃き、僕が床を拭き、氷椏さんが窓や棚を拭いていく。


 三人で役割を分担したせいか、掃除にそんなに時間は掛からなかった。だが、女子の整理整頓はまだ終わらないようだったので、細かい部分の掃除をしながら、話をする。


真琴「そういえばさ、氷椏さんの武器って何なの?」


氷椏「……携帯。」


真琴「じゃあ、妹さんは?」


氷椏「……携帯。」


真希「え?」


 二人の会話を聞いていて矛盾点に気付き、思わず声を上げると同時に(掃除する)手を止めてしまった。


何故二人が同じ武器なのか。

この前も、カインさんの班で同じ武器を所持していた人がいたと聞いた。でも、そんな毎回のように武器は被るものじゃない。だって、人それぞれ思い入れのあるものが違うからだ。


氷椏「私達の場合は特殊なの」


真希「特殊?」


氷椏「私と幟杏の武器は、これ。」

 そう言って氷椏さんがポケットから出したのは、白い携帯だった。少し前に流行ったスタイルのものである。


氷椏「幟杏も、この携帯が武器なの。……それ以外の携帯は、武器にならない」


 つまり、二人で一つの武器と言うことだ。


氷椏「私の場合は……ううん、なんでもない。」


真琴「途中で切るなよー。気になるじゃん!」


真希「まぁでもそこまで深く聞いていい事でもないよ」


真琴「そうだけどさー……」


 何とか真琴を説得し、また掃除に戻る。その後は、黙々と各自で掃除を行った。さっき、真琴さんを止めたものの、僕も気になっていた。何故、氷椏さんが言葉を濁したのか。何か訳があるのかと。


亜里亞「掃除終わったー?」


 隣の教室から亜里亞さんの声がした。


真琴「終わってるよー!」


真里亜「じゃあ第7教室の方に来て」


 三人で第7教室に向かう。すると、綺麗に棚に収納された資料、机に山積みになった依頼の紙、電話などがあった。


真琴「まさか、電話でも依頼を受け付けるの?」


真里亜「そうみたい」


幟杏「皆ご苦労様ー!」


氷椏「目上の人にはお疲れ様が正しい表現だよ、幟杏。」


幟杏「いーのいーの!さぁ皆、休憩しよ!おやつ食べよう!」


 僕たち以上に明るい幟杏さんに振り回されながら、皆休憩をとりはじめる。こうして平和な事を実感していると、急に月華さんやセイラさん達が心配になってきた。


だが、あの人達になら、きっとやれる。大丈夫だという気持ちが不安を上回る。


 不思議だ。皆を見ていると僕も頑張らなくちゃって思うようになる。あの力は、何なんだろうか……。

何だか思うようにいかず、出そうとしていた武器所持者がまた次へと延期されてしまいました。しかもやたら今回長かったー…!……くそぅ。次こそはあの子を絶対に出してやる…!


…という訳で急遽違う武器所持者を出しました。本当は後半で使うキャラクターだったのですがー……(笑)


次回は、月華が大活躍する予定です。あ、予定は未定ですよ?ではでは、次回もお楽しみに!

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