18話 「敗北」
先週の日曜日の分です。
「何が不味かったのかなぁ〜。パッと思いつかないな。うぅ〜ん。」
僕ー新安エンは悩んでいる。
理由は、リカさんがなぜかすごい怒った後に「もう近づかない。関わりたくない。」と言われたことである。
「これじゃあ、計画を練り直さないといけないじゃん。はぁ。」
正直に言うと、面倒だ。
が、「SNEN」の生産者と生産ラインの破壊をする為にはしなくてはならない。
「仕方ない、強行突破だ。っと、その前にやっておくか。」
僕は前回の決闘で魂ごと死んだ生徒や教師を見つめた。
何をするのかって、それは蘇生である。
普通は魂が生きていなければ、蘇生は不可能である。
ただの生きた肉の塊と化すだけだ。
そこで役立つのがこの能力、「彩模」。
この「彩模」は、物や生物の能力や魂を完璧に再現できる能力である。
が、魂を弄るのはなんか気が引けるからやめておきたい。
けど、決闘する前に「死んでも治す」って言っちゃったからなぁ。
背に腹は代えられない、物はやりようである。
「えぇ〜い、どうにでもなれの精神でやってやる。」
僕は「彩模」を発動し、全死傷者の死んだ魂を生きた魂として再現した後に、身体の傷を治した。
これで多分蘇生できただろう、目を覚ましてくれないことには確証を得られないが。
僕はさっき足で退けた人の前でしゃがみ込んだ。
「さっきはすいませんね。邪魔であまり血で汚れたくないので足で退けてしまったけど、でもちゃんと治したので許してくださいねぇ〜。聞こえてないと思うけど。」
僕は立ち上がり、今度こそ科学庁局に向かった。
「来たよ。科学庁の本拠地にして、「SNEN」の生産ラインとして今のところ1番怪しい場所に。」
正直、計画が2回も崩れたから、今回は計画なんて立ててない。
つまり、脳筋戦法。
「行くか、まずは一応の会話をしに行くか。」
今回、僕は能力での侵入をしない。
いつもの「闇」を使った移動をしないことで、僕がどんな能力を司る厄災なのかを探らせない。
そして、その秘密こそが僕の今回切るカードだ。
「という事で、今回は正面から。おっ邪魔しまーす。」
僕は元気よく、科学庁局の玄関扉を蹴り壊して中に入った。
もちろん、科学庁の人達の意識はこっちに向く。
「こんにちは。少し用事がありまして、科学庁局の上層部と科学庁長官を1時間以内に集めてください。至急、ここに。やってくれますよね?」
「なんなんだ、お前は。突然入ってきたと思ったら、次は上層部を呼べと言う。何様のつもりだ?」
とある男性がそう叫んだ、どうでもいい事である。
「そうですねぇ〜、強いて言えば始祖の厄災様ですね。早く連れてきてください。」
「な訳ねぇだろ、ここから追い出してやる。」
そう言って、さっき叫んでいた男が僕に攻撃しようとしてきた。
「これだから脳筋は困りますよ、話を理解できないからねぇ。」
僕は異空間から「覇剣ロキ」を取り出し、無情に男の胴を斬り飛ばした。
「早くしてください、急ぎの用なんですよ。」
僕は死体から溢れる血の噴水を浴びながら、微笑んで告げた。
すると、場のみんなはテキパキと働いてくれた。
最初からこれでも良かったが、できれば平和的解決が良かったからなぁ。
50分後、科学庁のお偉いさん達が全員集まったと係員が教えてくれた。
しかし、機嫌は最悪なようだ。
「不機嫌な中集まってもらってありがとうございますね。僕は新安エンって言います。現在はアミナ学園とナウカ学院の生徒です。そんな僕が今回聞きに来たこと、それは「SNEN」についてです。」
全員の顔が引き攣った。
お偉いさんの一部は、顔が痙攣したように震えている。
「「SNEN」についてじっくり教えてください、製造方法から用途まで。じ〜っくりと、教えてもらいますね?」
「だ、だめだ。これは国家秘密だ、教えられるはずがな…」
僕は言い終わる前に抵抗したお偉いさんの額に「覇剣ロキ」を突き立てて、相手の吐息が当たるくらいの距離まで顔を近づけた。
額からは血が直線に流れていた。
「言える、言えないじゃないですよぉ〜。やるんだよ、言え。早くしろ、言わないなら言わないと言え。とにかく何か言え。」
僕は多分今、頭に血が昇っているのだろう。
なんとなくだが、すごくキレやすくなっている気がする。
だって、普段の僕がこんな口調な訳がないからね。
「わかった、言う言うから。」
僕は顔を離し、そのお偉いさんを軽く突き飛ばした。
そして、僕はその場でへたり込んだ。
なんとなくだが、すごく疲れた気がする。
「お疲れのようですね、新安エン君?」
黒いシャツに身を包んだ男が僕に話しかけてきた。
そして、シャツの右胸にナウカの国章が刻まれている。
「あなたが、科学庁長官ですか?」
「いかにも、私が科学庁の長官。重羽カイリです、君のことは娘から昨日聞きましたよ。厄災であり、能力は物質変化だけでなく様々な能力を使える様じゃないか。素晴らしいじゃないか、いい「SNEN」が作れそうじゃないか。そして、何より嬉しいのが始祖だという事だ。これも娘から聞いた。身柄を売るために学院で殺し合いをさせた様だね。そして約束通りには治さず、数人を治してここに向かおうとしたらしいね。それも死体を蹴飛ばしながら、やはり君は始祖の厄災だ。それも創造か色彩の始祖かもしれない。物質変化は色彩の能力だが、色彩の能力では国防長官の前でやってみせたという新たな物質の創造はできない。面白い。」
なんだこいつ、話が長い。
馬鹿なのか、話を簡単にまとめろよ。
今すぐにでもこいつに攻撃したい、けど体に力が入らない。
どういうことだ?
僕が動揺しているのに気付いたのか、重羽カイリがニヤつきながら僕の前にしゃがんで話しかけてきた。
「おやおやおや、やっと効果が出てきましたか。ここら一帯、いやナウカ科学国自体に展開している特殊な電磁波の効果が。」
「はぁ?」
何を言っているんだ、僕は始祖の厄災だぞ。
科学力も能力で無効化したはず?
「自分の変化に気づきましたかね、この国に入った時からあなたはずっと破壊衝動が抑えられなくなっていることを。そして、能力の出力と体力が徐々に落ちている事に。そしてそして、厄災としての本能が徐々に浮き彫りになっている事に。」
その言葉を聞いて、僕は冷や汗が雨の様に滴った。
確かにそうだ、国防長官との交渉でも「街の破壊」を計画に入れていた。
そして、普通なら僕はこんな暴挙には出ないだろう。
計画が無くたって、話が通じなくたって、あんなにキレることはないだろう。
だからか、死体を蹴飛ばしたのは。
いや、全部自分のせいかもしれないな。
全部、過去の僕の考え方と行動に酷似しているな。
「おやおや、急に威勢がなくなりましたね。どうしましたか?」
「いや、自分の過去を振り返ってましてねぇ〜。科学の力のせいでこうなっているのかなって思っても、それが自分の内心なのかって思ってしまってね。」
間違いなくそうだ、これは自分のせいだ。
そして、このままだとまずい。
このままだと「SNEN」と生産ラインを壊しにきたのに、「SNEN」の原料にさせてしまう。
まさにミイラ取りがミイラになるって奴だ。
「うぅ、悔しい。」
悔しいが、それよりも怖い。
どうなるかわからない恐怖、僕だけは感じる事がないと錯覚していた感情。
「あらら、完全に意気消沈してますね。まぁ、別にいいでしょう。どうせ「SNEN」の原料にするだけですし。」
そう言って重羽カイリは僕の服の襟を掴み、引きずってどこかに連れて行こうとした。
僕は必死に抵抗した。
が、今の僕は赤子の様なものだ。
どんなに抵抗しようが、それが強者から見たら大人しくしているのと等しい。
「あぁ、弱者って、こんな気持ちなんだ。」
初めての思いだ。
初めての敗北と初めて感じる無力感。
僕は目を疑った。
急に奥からレイアさんやミャオさん、そしてラヴァーさんとリカさんが見えてきたからだ。
「これがきっと走馬灯ってやつなんだな、ははは。」
僕は苦笑いをした、だってレイアさん達がここにいるはずがないからだ。
でも、さらに目を疑った。
それは重羽カイリから血が垂れてきたからだ。
そして奥から聞き馴染みのある声がした。
「私はナウカ国防長官の娘、神凪レイア。私の友達を返してもらえるかしら。こいつがいないと学園生活がつまらなくてしょうがないの。」
続けて声がした。
「そうだにゃ、僕の師匠を返せにゃん。師匠も師匠で何死んだ目になってるニャン、早く戦うニャンよ。」
ミャオさんの隣ではラヴァーさんが剣を構えて、精神統一している。
最後に声がした。
「やめてよ、お父様。この人は私の友達なの、1度は拒絶したけど。今は違うの、ちゃんとエン君は約束を守っていたの。嫌な顔をしながら、必死に死んだ生徒や先生を蘇生させていた。だから、お願い。やめて。」
僕は思った、どうして僕の知り合い達がここにいるのか。
時は遡る。
結構ギリギリになった。
そして、エン、敗北。
やはり、武力より科学の方が強い、かも。




