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奴の名はイクサ  作者: 牧目十六


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6/6

その6

 それ以降のイクサについては、よく知らない。僕も高校を卒業して社会人として働くようになり、地元の知り合いと話す機会がほぼなくなってしまったのだ。だが、実家の近くでイクサの姿を見かけたことは3回ある。そして、3回ともイクサの姿は乗り物と共にあった。

 1回目は僕が高校を出た頃だ。2歳上のイクサは20歳である。僕が自転車で走っていると、バイクに乗って走るイクサの姿が見えた。マフラーを改造してあるらしく、爆音を響かせている。仲間と一緒ではなく、一人きりだ。僕は視線を合わさないよう注意しながらも、イクサの姿を見つめた。髪型や顔付きは以前とさほど変わっていない。だが、またがっているバイクは、かつてのデカいものではなく、50㏄の「モンキー」だった。どこか淋しげに見えたが、それは僕の気のせいだったかもしれない。

 次に見かけたのは、その1年後ぐらいだった。交差点で信号待ちをしていたら、斜め向かいにイクサの姿が見えたのだ。相変わらず怖そうな顔付きだった。周囲を威圧するような気配をまき散らしている。万一ぶつかったりしたら間違いなくボコボコにされるだろう。しかし、またがっているのはバイクではなかった。自転車である。しかも、いわゆる「ママチャリ」であり、あろうことか後ろに女性を乗せていた。こちらもイクサと同じく、思いっきりワルの匂いがする女だ。化粧も厚い。典型的な元番長と元スケ番、という感じである。

 信号が青に変わり、二人が乗った自転車が前に進む。もちろん制服姿ではないが、女は長いスカート、イクサはダボダボのズボン。相変わらずなイクサのセンスに、僕はなぜか少しうれしくなった。

 最後にイクサを見たのは、さらに1年後ぐらいだ。前と同じ交差点である。よく晴れた日だった。その時のイクサは、バイクにも自転車にも乗っていなかった。だが、その手はしっかりと乗り物を押していた。

 イクサの隣には前に見た時と同じ女性がいた。二人とも髪型や服装は1年前と大差ない。どう見ても「ワルやってました」という出で立ちだ。でも彼女の方は、ずいぶん薄化粧になったようだ。そして、イクサより少しだけ後ろを歩いていた。

 僕はイクサが押しているベビーカーを覗き見た。そこには、安心して眠る赤ちゃんの姿があった。

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