その4
中2のユウジは中3のイクサの子分だ。マコトによってメンツをつぶされかけたユウジは、何らかの形でイクサに連絡したのだろう。あるいは学校中のワル仲間たちへ一斉に連絡したのかもしれない。そして、マコトを捕らえるための包囲網を張った、と考えても間違いじゃないだろう。
イクサは道のど真ん中に立ち、前方を睨んでいる。僕はそちらの方向へ自転車を漕ぎ続けている。どこかで曲がろうか。だが、イクサとの間に、もう脇道に入る曲がり角はない。引き返そうか。いや、それはどう考えても不自然だろう。一気に駆け抜けようか。でも、明らかに逃げようとする姿勢を見せたら逆効果のような気がする。相変わらず他に人の姿は見えない。どうする、オレ。
うつむいている振りをして、上目遣いにイクサの顔を盗み見る。ものすごく怖い表情をしている。もともと怖そうな顔付きなのに、眉毛を細く剃っているからますます怖そうだ。呼び止められるだろうか? 殴られるだろうか? 無関係だと主張すれば放免されるだろうか? いや、無関係じゃないか。マコトは友だちだ。しかし、居場所を問われたって知らないわけだから答えようがないし……ああ、もうっ、ホントにどうすりゃいい?
心の中は千々に乱れまくっていたが、僕は平静を装って自転車を漕ぎ続けた。もうイクサまで3メートルだ。どうするどうなる、オレ。
イクサは微動だにしない。こっちはハンドルに身を預けるような姿勢で前に屈みながら自転車を漕ぐ。気付かれないようにしてイクサを見るが、イクサの視線が僕の方を向いているかどうか判別できない。真っ直ぐに前方を凝視しているようにも思えるし、横目で僕を睨んでいるような気もするのだ。噂で聞いたイクサの武勇伝を思い出す。ヨソの学校の不良ども数十人に一人で立ち向かったとか、先生を殴って入院させたとか。
2メートル、1メートル、0メートル。ついに僕はイクサの真横に来た。道路の真ん中に立つイクサとは1メートル半ぐらいの距離があるだろうか。イクサが僕にちょっかいを出す気配はない。そのまま僕は息を殺して自転車を漕ぎ、イクサから離れる。そして、その先30メートルぐらいの位置にある信号の前で停止した。
自転車にまたがったまま、僕は信号が青に変わるのを待った。振り向きたいが振り向けない。振り向いた時にイクサがこっちを見ていたら、卒倒してしまうかもしれないのだ。ようやく信号が青になり、僕は自転車を漕ぎ始める。さらに進み、街灯が点っていない辺りに来てから、僕は振り返った。イクサの後ろ姿が見える。まだ仁王立ちしたままだ。ホッ。危機は切り抜けた。イクサはマコトが来るのを待っているのだろうか。雑魚は相手にしない、ってことで僕を無視したのだろうか。良かった、雑魚で。




