61.意識高い系なる者
(よし、順調ね)
手許に届いた定期報告を見て、私は内心そう呟いた。
安堵と達成感、喜びの念がジワジワ込み上げてくる。
手配していた工作員が、首尾良くターゲットを確保したのだ。
これで私の計画がその実現にむけ、また一歩達成に近づいた。
自分を褒めてやりたい気分になりながら、鼻をふんと鳴らす。
苦労も我慢も、あともう少しで終わる――そう思ったからだ。
と同時に、胸の底深くに秘めた憤りが顔をだす。
この世の中は、ドイツもコイツも大馬鹿ばかり。
先も大勢も読めず、的確に動くことができない。
蒙昧なる大衆は言うにおよばず、政府、官僚、軍人――およそ公職につき、高い役職にあっても、その肩書きに見合わぬ能力をしか持ち合わせない能ナシどもで溢れかえっている。
どうしてだろう?――私は常々そう思う。思わざるを得ない。
腹立たしくも嘆かわしい、こんな不条理は糾す必要があると。
企業、官庁、軍――人間組織を率いるのに必要なものは能力。
年功序列や協調性、人の和云々は関係ないし、評価の対象外!
それが証拠に、有能な一人に指導された組織は、無能な多数を頭上にいただくそれよりも、発揮する実力は遙かに上。
指導者の理念や意図するところを伝える上意下達に、会議だ根回しだと無駄な時間、労力をついやさずに済むからだ。
実力主義、その個人の能力をこそ評価基準とする――それが正しい、唯一の途のはずなのに、凡愚どもはそうしない。
お友だちごっこよろしく、チームワークを大事に? など美辞麗句とも言えない語をとなえてお茶をにごそうとする。
そんなものは単なる問題の先送り、組織が衰微していくのをただ手をこまねいて傍観しているだけの愚挙なのに……。
どうして、その事に誰一人として気付かない。
どうして、問題を解決しようとはしないのか。
(だからこそ、愚物。だからこそ、無能ということか……)
結果、私はそう考えざるを得ないのだ。
私がやるしかないんだ。
私だけしかいないんだ。
たとえ一人であっても立つ――そう決断せざるを得なかったのだ。
(次のステップは……)
グツグツと煮えかかる胸をしずめて、私は次の一手を思案する。
私が目指しているのは、この国に六番目の大艦隊を創設すること――とりあえずは、それ。
この国――大倭皇国連邦には、現在、いつつの大艦隊が存在している。
軍令部――宇宙軍の最高司令部の麾下にあり、世に宇宙軍といえばこれを指す、聯合艦隊、遣支艦隊、護衛艦隊、逓察艦隊。
そして、それから、宮内省が管轄しているそれ――女皇をはじめとする皇族、また各位貴族の警護をになっている近衛艦隊。
一般に、告知され、報道され、知られているのは、これら五つの大艦隊だろう。
冗談じゃない!
私はギリ……と歯を噛みしめる。
この国の楯であり矛でもある、軍事力としての組織であれば確かにその通りかも知れない。
だが、軍隊、軍人などは、畢竟、番犬でしかない。
軍隊は何も生み出さない。
兵隊は生産には何ら寄与しない。
むしろ税金――民草が汗水垂らして、それで納めた血税を費消するだけの金食い虫でしかない。
そんな代物をありがたがったり、あまつさえ自慢したりする『一般市民』とやらは、私などに言わせてもらえば、おめでたいとしか評しえないが、それはともかく、
これはこの国に限らず、宇宙船というのは、なにも軍艦だけを指す語ではない。そこには客船や貨物船――多種多様なものが存在している。
民間はもちろん、官公庁のそれも実はそうなのだ。
私が、その職掌柄関与している連絡船もその一つ。
小は通信から大は物品、人員にいたるまで――各種の品を荷として星系と星系を連絡している航宙船のことである。
超光速通信がいまだ実現されておらない現在、首都星系で、また各支星系で、決定された法案、知らせておくべき事案等々は、航宙船で運んでいくしかない。だから、そうした各種連絡業務をおこなう手段である航宙船が必要となる。
必要ではあるが、そこはしかし、予算の制約があるため、船舶数も要員数も潤沢に用意するというワケにはいかない。
それどころか必要数をそろえる事もなかなかどうして難しい。
なにしろ、航宙船は高価だし、要員には各種の訓練も必要だ。
航宙船をふくむ機械類の製造、修理や教育、福利厚生といった面まで考えると、いずれの省庁においても本業に支障がでかねない程の出費となってしまう。
さりとて、扱う荷物の内容によっては民間委託というのも難しく、
斯くして、過去には各省庁が自前で用意していた連絡船、またその業務は統合され、一括管理するという断がくだされた。
折衷案といわれれば、それは確かにその通りではある。
しかし、他に適当な手段がないのもまた確かであった。
という次第で、
現時点での、この国における管理、また運用体制は以下の通り。
まず、航宙船舶群を直接的に管理し、維持する役割は運輸省が担う。
これは、航宙船舶はもとより、各地の港湾設備、また航路を管轄しているのが同省庁のため妥当な決定ではあろう。
そして他の省庁は、レンタルというかたちで連絡船を都度拝借し、使用料を予算のなかから支出するかたちとなる。
しかし、それだけだと各省庁に対する運輸省のちからが強くなりすぎるため、連絡用航宙船をあつかう部署は、一種の外局として運営されることとなった。
要するに、看板は運輸省だが、実際には独立した官庁を設立したという事だ。
担当業務は、ひとつの柱が連絡用航宙船の運用、維持、乗員の雇用、訓練等、恒星間連絡業務であり、
もうひとつの柱が、各省庁との連絡、調整業務。主として先方希望の使用連絡船のスケジュール調整。
要はバッティング、ダブルブッキング等がおこらないよう注意する。
仮に使用に優先順位をつけるとすれば、公平性、透明性に留意する。
――そういう事だ。
特定の省庁のみを利することなく、あくまで公共交通機関(?)としての役割に徹しましょうということ。
それだけ影響力がおおきな役割であり、部署なのだ。
私が最先任、主任として担任している業務でもある。
『運輸省星間連絡庁交通局事業課統制室』――その室長が私。
学校を卒業後、運輸省に配属されてより半生をかけてこの地位にまでたどり着いた。
世の流れに乗ったというのもあるが、それ以上に新庁を設立するよう根回しをし、世論をあおりして実現にもちこんだのは、ひとえに私の手腕と言って過言ではあるまい。
だから、現在、私がこの新庁の事実上のトップにあるというのは当然すぎる程に当然なのだが、もちろん、ここでゴールとするつもりは無い。
宇宙軍を除く大倭皇国連邦政府組織が使用する――私の管理下にある航宙船は、ながらく雑多な種類の寄せ集め的なものだったのを予算をやりくりし、各省庁との折衝をくりかえし、時間をかけながらも何とか一新することが出来た。
規格化、標準化をする事によって、コストダウンや運用面での柔軟性を高めることが可能となった。
私が手綱をにぎっているこれら連絡用の航宙船群は、船舶寸度、発揮速力、航続距離、積載可能容量等々の要件にて区分され、上位規格船舶より順に、伊号、呂号、波号と規格名称を定めている。
この等級名に建造順の番号を追記し、たとえば伊号規格で十番目に進宙したフネは、〈伊一〇〉と命名――艦名付与がされるワケだ。
大倭皇国連邦を構成している各支星系間を連絡する――ある意味、大倭皇国連邦を星間国家としてあらしめ、またあらしめ続けるための組織、また船舶群。
それを一手に、とまでは流石に言えないものの、いずれ私が管掌している船舶群は、利用者の多さを鑑みれば当然ながら、宇宙軍が保有している航宙艦よりも多数となっている。
であるにもかかわらず、『カッコイイ兵器が付いていない』、『ワルモノと戦わない』等、口にする人間の知能を疑うような理由の故に、適正かつ正当な評価を世間から得られるには至っていない。
大倭皇国連邦には実は六番目の大艦隊組織があるのだと、国民のほぼ全員が認識してはいないのだ。
だから――やる!
知らないと言うなら知らしめる。
縁の下の力持ち、裏方だから評価しないと言うのであれば、檜舞台を飾る実力があるのだと証明してやる。
その為にはまず!
連絡用航宙船。
呼び名からして地味で目立たない?
であれば、今後は、これを『遷彗艦』と呼称することにしよう。
連絡業務には何よりも速力が必要。
遷移を数限りなく繰り返し、迅速、確実、安全に任務を遂行するフネにふさわしい呼び名だと思う。
重武装は必要ない。
速度こそが武器であるからだ。
が、
それをして物足りないと言われるのであれば、実用性と見栄え、そして何より話題性のあるだろう兵装を加えよう。
艦載機ならびに航空兵装。
現在、宇宙軍のみが運用しているシステムだ。
それを手に入れることで、私の遷彗艦隊は更に有能となるだろう。
ネックは搭乗者の確保だったが、それも何とかなった。
その入手にともない逓察艦隊を今後敵とすることともなろうが、かまうものか。
大倭皇国連邦は『魔女の国』――他国からそう呼ばれるほどに、宇宙軍の組織は女性優位であるという。
しかし、現実は政府組織の高位にある者の妹を『英雄』としてでっちあげる人事がまかり通ってしまうくらい、忖度とおもねりに満ち満ちている。
私が、私の大艦隊の名望を高めるべく練ったこの『遷特計画』は、そんな虚飾をはぎ取る一助ともなるはずだ。
村雨杏、だったか――部下を失い、独占していたノウハウもまた流出させた。その失態により、『英雄』の肩書きには『元』が付される事となろう。
自分の組織、自分の部下に新たな能力を与えた私とは真逆だ。
向こうは下がり、こちらは上がる。
不謹慎だが、実に愉快な未来図でもある。
お互いがお互い、今後は正当な評価がなされるように、是非とも私の踏み台となってほしい。




