133.〈砂痒〉星系内惑星系―6『メエルシュトローム―6』
先週は更新できなくて申し訳ありませんでした。
風邪(春風邪? 花粉症?)をひいて、先週はまるっと一週間苦しんでました。
喘息と言うより、もはや肺病? みたいな咳がとまらず、昼はともかく夜がまともに眠れない。
体温計ではかっても『平熱』と出るので病院に行く踏ん切りもつかず、市販の売薬を二箱ほど空にし、まともに働かない頭をかかえてひたすらボ~~っとしてました。
あ~、時間をムダにした。
というワケで(?)、またポチポチと進めていきますので、どうぞよろしくお願い致します。
〈先天八卦羅盤〉――〈ウィジャーマップ〉が、〈あやせ〉艦橋のシーリングスクリーン全面に表示をされていた。
階調の付けられたグレーのみの図。
簡略化、模式化処理をされた星図。
その上に自艦の進路をオーバーラップさせた図だ。
天気予報の気圧配置図を連想させる図でもあった。
スクリーンの枠内に表示されてあるマップの範囲は〈砂痒〉星系――小惑星帯を中心に置いた星系部分。
その範囲内における運/不運の分布が図示されている。
全般状況――吉凶配置は、相も変わらずよろしくない。
総体的に|運気圧《Milli-Ba'al》の低い――ツイてないレベルをこえて将来に不安をしか抱かせない絵図のままだった。
来寇してきた敵軍に敗亡し、十全と信じた備えも灰燼に帰したことが明らかな今、それはむしろ当然か。
そうした――空模様で言うなら見晴るかす限りにどんより感のただよう映像が、かなりな時間、際限ナシで反復再生されつづけている。
自分たちを囲む周辺、あるいは自分たちが進んでいく先に待っているのは不運だけだと、視覚的&否応なしに見る者すべてに告げている。
なにを思いついてのことかは不明だが、村雨艦長からのリクエストに従った結果なのだった。
艦橋に詰める誰もが、『なんで今?』、『どうして艦橋で?』と思ってはいるが黙っている。
だいたい、〈ウィジャーマップ〉は、将来を予測する一助にはなるが、現状、〈あやせ〉が直面している事態の打開には(直接的には)役立たない。
そして、村雨艦長は艦橋にはいない。
〈ウィジャーマップ〉を見たいのだったら、艦長室で、自分ひとりで見れば済むはなしなのだ。
なんで今、どうして艦橋で、自分たちがそんなモノを見せられているのかわからない。
喫緊に対処、解決しなければならない問題が眼前にあるのに、同時並行のコレはなに?
自艦に被害は一切無いものの、味方のそれは逆に甚大で、見ているだけで気が滅入る。
こんな、必要かどうかもわからない事で、自分たちの士気を下げたりしないで欲しい。
艦橋の、そして〈纏輪機〉で繋がっているコマンドスタッフ達の胸中は皆同じだった。
(鬱な図表を頭の上にかぶされてない分、〈纏輪機〉越しのメンツの方が少しはマシだが)
当の艦長からの解説――自分のすぐ脇にいるのだろう従卒であり、不運な新兵であり、主として難波副長に対する楯役にされた哀れな少女相手のついでに為された解説により、自艦を狙っている射撃管制波はどれも、本来の目的からは外れて先方の望む場所への誘導目的であるらしい事は理解した。
『だって、本気だったらつ~か、フツーは撃つよ? 脅すより先に、とりあえずだっても、まずは撃っちゃうじゃ~ん? なにしろ圧倒的に自分の側が有利な状況にあるんだし、攻め寄せてきた敵への怨みは骨髄レベルに違いないからさァ』
村雨艦長は言ったものだ。
だから、自艦が浴びせかけられている射撃管制波は攻撃をする、本来の目的ではなく、他の用途で使われているのに違いない。
弾幕射撃もかくやな乱れ打ちの照射をされているものの、故意に粗密や偏向をつくっているようでもあるし、だったらそれは一種の誘導――『あっちに行け』、『そっちはダメだ』との意を込めた進路誘導なのだろう、と。
その誘導に『いつでもお前を撃てるんだぞ』な射撃管制波をもちいるのかは不明だが、あらためて指摘されれば、それは確かにその通りではあった、と言うか、そう思えた。
冷静になって、立場を相手の側に置き換えたなら、艦長の解説もある程度であれ頷けるのだ。
つまり、
『窮鼠猫を噛む』――いや、噛まれる可能性。
自分の優位を背景として獲物をいいようにこづきまわした挙げ句に、よもやの逆襲を喰ったりしたらどうするのか、という事だ。
殺れる時に殺る――死を賭した闘争において、それは鉄則である。
ただでさえ、主力艦相手には劣位の戦力でしかない遣支艦隊艦艇が、自分よりも強力な相手に猫がネズミを弄ぶような、そんな余裕をもてる筈がない。
だから、
即座の攻撃をするべきところ、それをしない――敢えてしないというのは、きっと、向こうもこちらを『味方』と判断しているからだ。
村雨艦長は、そう言ったのだった。
してみると、直面している現状は、ある意味、憂さ晴らしの類いででもあるのだろうか。
こっちがこんな大変な状態になっているのに、今頃、ノコノコやって来やがって、と?
味方だとわかっているからこそ、積もりに積もった鬱憤を晴らす格好の的にしている?
……わからなかった。
質問するにも、当の相手の精確な所在はいまだ掴めていないし、だからといって、もちろんのこと通信の広域発信などできる筈もない。
なにより村雨艦長の推測も、結局のところ推測でしかないのだ。
射撃管制波の照射を検知する度、尻を蹴飛ばされるみたいに艦位を変える――選択の余地なく、その対応を続けるしかなかった。
そんな、なんともストレスフルな状況で、更に気を重くする映像が、上官のワガママにより頭上に覆いかぶさっているのである。
それに加えて村雨艦長が何故かご機嫌なのも勘にさわった。
『このフネを見っけたのは、きっと相当に土性ッ骨のある腕っこきなのに違いないわねぇ。さすがは遣支艦隊、さすがは地廻り――心からそう褒めておくべき相手だわん♡』
どこか惚れ惚れとした口調で言った後、
『なんてったって――』と続けて、
突如、侵攻してきた『敵』に皇国――自分たちが護るべしと定められた土地を蹂躙され、部隊は壊滅し、仲間は殺された。
それどころか自分自身の明日も生死もまったく知れたものじゃない。
だけれど、『戦う』ことをまだ放棄してない。己を律して動いている。
だから、このフネを撃たなかった。
怨嗟にも悲哀にも絶望にも虚無にも心を支配させることなく、理性でもって自分を制御し、今なお己に課せられた任務をこなし続けている。
我と我が身がどんな逆境にあろうと『勝利』を諦めない。
『敗北』を肯んじない。
一矢報いることを念じつづけている。
『……ホント、凄いよねぇ。心の底からアタクシ様の部下に欲しい人材だわ~ん♡』
べた褒め的にそう言ったのだ。
『ナルホド』
次席番を持ち回りしている準コマンドスタッフの若手たちは心の裡にうなずいた。
もしも、立場を置き換えたなら、仮に理不尽な八つ当たりをぶつけてきているにせよ、自分は同じように戦いつづける事が選べるだろうか?
怒りにまかせ、悲嘆に溺れ、虚無に沈む――いずれ、感情のまま自暴自棄になって正常な判断などできない状態に陥っていたのではないか。
兵たちの上に立つ者としての経験がまだ少ないことがそう思わせたのだった。
が、
難波副長をはじめの科長クラスは、ことさら能面だったり、唇の端を曲げていたりしたから、多分はちがう思いだったのだろう。
とまれ、
「あ~、大体わかった」
しばらくの後、独り言のような感じで村雨艦長の呟き声が、〈纏輪機〉越しに艦橋の空気をふるわせた。




