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人ぎらいの慣性ドリフト。  作者: 西薗上美
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意味を成す。

叶えて初めて出力すことが出来るなんてなんだか違う。

自分で見つけて、自分で思い続けて、自分に力をつけて、自分に自信を持てて、自分で実行することができれば、ソレで叶ったと言えないだろうか。

叶えるというところが厄介なだけで、夢自体はそこまでの事でも、ものでもないんじゃないか。

人間に絶対的に必要な睡眠。その時に、確かレム睡眠時にみることの出来る夢も『夢』だ。

ということならば、人間誰しもみているし、備わっているものということになる。

『夢』。

それは人によって違うとかそんな問題ではなく、複数存在し、そこに具体性を求めること自体ナンセンスなことじゃないのか。

叶えたかどうかなんて、他人の評価程度のものじゃないのか。


今日はバイトが休みだ。

店長からすれば、俺ごときだろうと人手はいくらでも欲しいところだろう。

というか、あの店どうしてあんなに繁盛しているのだろう?

仕事自体の量は、社会人生活をしたことが無い俺からしてみても常軌を逸していると思う。けれど、こうして休日もあるし、シフトも自分のペースでいれてるからキツイはきついが、口には出しても本気で辞めたいとは思ったことはない。


「確かここだよな」

相変わらずな独り言。

俺が今一番聞きたい事。その答えを知っているかもしれない人物が目の前のホテルに宿泊しているらしい。

その人物に会いにきた。会いたいから来たというほうが合っている。


一人暮らしをしているアパートからはかなり離れた、あの場所からしてみれば完全に都会といえるところまで出てきた。

そんな街一番の高級ホテルの目の前まで来ている。

こんなことでもなければ一生足を踏み入れることなんてなかっただろう。

となると、この時点で俺としては中々の体験が出来て、それなりの経験値も獲得できている。

少しでも気を抜けば「もういいか」と適当な言い訳を声に出し、自分に言い聞かせるようなことをして帰路についてしまいそうになる。


「さて行こうか」

そう自分に思っていることとは逆の独り言を言い聞かせた。


恐る恐る、初めてのガラス張りの回転扉を、馴れないなりに一生懸命に通り抜ける。

「いらっしゃいませ」

間違いなく俺へ向けての挨拶がいろんなところから聞こえてくる。

この建物に入るだけで手一杯なのに、見ず知らずの他人からの声掛けに、恐怖すらおぼえる。

ついさっきまでのもういいかという気持ちがぶり返す。


なにもしていないのに、フラフラしてしまいそうな足取りでフロントに向かう。

隣では、スーツ姿のスラッとしてシュッとした、いかにも仕事のできそうな男がなにやら忙しそうに書類のようなものに何か書いている。

「ここに、百色夢人という人が宿泊してると思うんですけど?」

「少々お待ち下さい」

機械的で、けれども不快な感じのしない、これぞホテルマンといった口調で対応してきた。因みに、俺自身ホテルなんてところに来たことはない。


キーボードをパチパチと動かすのをなんとなく見ながら、その作業が俺の目的と直結していると大人しく待つ。

横の男は違和感のある左利き特有の書き方で相変わらず忙しそうに何かしらを記入している。なにをそんなに書くことがあるのか不思議に思いながら、横目で暇つぶし程度にチラチラと眺める。


「お客様、申し訳ございません。そのようなお名前のお客様はご宿泊されておられないようなんですが」

想定外の返答に、一気に不慣れなことをしていたツケが押寄せてパニックに陥る。

「・・・」

「あの、お客様? どうか致しましたか?」

別に俺はここに泊まりにきた訳じゃない。だから、お客様なんて呼ばれる資格はない。そんなことしか考えることが出来なくなってしまった。

「そうですか・・・」

なんとか現状を乗り切る、いや、やり過ごすための精一杯な返答をすることで限界だった。

「よろしいですか?」

「はい。ありがとうございます」

なにに感謝しているのかと思いながら、そう言うことで、今回の件は終結を迎えた。


なにかを始めようと自発的に動く時ほど、今回のような結果になることが多々ある。


要件は済んだのに、ここから動き出せなくなってしまった俺を、従業員が不思議そうに、それに怪訝そうに見ている。


やる気があったり、それほどでもないにしろ自分から率先してなにかやろうとすると、そんなことをお前がしていい訳がないと何かしらが邪魔しているような、それとも、運命だと思い知らされているような。

あまりにも、そんなことが決まって起こってしまい過ぎて、自分自身意外のナニかのせいにしなければ生きていけないような状態までに俺は荒んでしまっている。


まるで怒ってしまったと誤解されてもおかしくないような、そんな勢いで逃げるようにここから出ていこうとした瞬間、真横から突然声を掛けられた。


「おう、久しぶりだな!」

その声の主は、さっきまで隣で何かしらの書類に何をそんなに書くことがあるのかと、チラチラ暇つぶし程度に見たり見なかったりしていたスーツ姿の男だった。


なにがどうなっているのか混乱しながら俺は、奥に引っ込もうとしていた「そんな客はいない」と応対したホテルマンの方へと目線を送る。

スーツ姿のこの男の声が届いていたのか驚愕した表情で、まるで自分のミスを挽回しようと猛ダッシュで俺のところまで駆け寄ってきた。が、目の前まできたところで、なにをすることが正解なのかという答えの出ていないことに気づき一瞬時が止まったように硬直した後、「申し訳ございません!」と深々と俺に向かって何回も頭を下げた。

そんな状況を見るに見かねてか、支配人と書かれた名札を胸に付けたそれなりの年齢の見た目の男が、早足で同じように俺の目の前まで来て、「どうかなさいましたか」と疑問文ではないような言い方で聞いてきた。

俺だって、目の前のこいつらがどうかしようがそんな事どちらでもいい。

そんなことよりも、いかにも横のスーツ男が俺を昔から知っているような感じに受け答えたことが不思議でしかなかった。


「お久しぶりです。横にいたのならば声かけてくれればよかったのに」

「いやぁ、顔変わり過ぎて昔のお前とは似ても似付かわないからさ。それに雰囲気だって変わってるし、私に分かる訳ないだろう」

「ですよね。先生、昔から人の顔覚えるの苦手でしたからね」

「それはお互い様だろう。」


ここまでの会話を第三者が聞けば二人の関係性や、会いに来た知人という整合性も取れて現況を把握でき、従業員達も納得もするだろう。自分たちのミスも二人の雰囲気にうやむやに出来るとベテランならば敏感に反応し、ことの始終を俺達に委ねることをしてくるだろう。

緊急事態にして、俺の脳は綺麗にフル回転していた。


スーツ男との整合性が取れていないこと意外は。


俺たちが赤の他人で、なのに親しいフリをしてまで、ある意味助けてくれたことに、なんのつもりだろうと不審に思うばかりで、混乱しきって、振り切ってしまったあげく、ぐるっと一周して冷静さを取り戻せていた。それには、唯一の正解である、このスーツ男が『百色夢人』であるという確証を得ていたことも起因していた。


俺達は久しぶりの再会に込み入った話をしようという流れという架空の設定、嘘の流れで依然このホテルのロビーで、さあ何故だ? どうしてそうなった? という話をしようとしている。

テーブルには、お詫びだと二人分のコーヒーが置かれている。

俺としてはどちらでもよいことだけれど、申し訳ないという気持ちもちょっぴりある、厄介なものを置かれて困っている。


「したくもない、やりたくもないと分かられてしまってまでこんなサービスをする。そんな中の何割かに申し訳なという本心が含まれているから、これがまた厄介だよね」

その言葉を聞いて、この人ならば夢とは何かという質問に即答してくれる。そう思えた。


「一応釘を刺すということをさせてもらうから。いくら熱狂的なファンとはいえ、宿泊先を調べてまで直接私に会いにくるということはルール違反だとは思わなかったのかい?」

注意しているのだろうと思える言葉とは逆に、スーツ男は笑顔のままだった。


「すいません。どうしても聞いてみたいことがあったので・・・」

「良い若者がこんなおじさんに聞きたいことがあるなんて光栄だけれど、その前に僕の質問に答えてもらっていない以上そこから先の話をする気はないよ」

慇懃にしてはいるが、筋立てていないことに腹をたてつつあるのは一目瞭然だった。


「ごめんなさい。自分のことしか考えれていませんでした」

「うん、そうだね。素直でよろしい」

「先日、俺の働く雑貨屋でサイン会開きましたよね。その時対応した店長から百色さんのことを聞きまして」

「あの素晴らしい店の関係者だったのか! なるほど、ということは店長さんとは当然顔見知りだと」

それまでが作り笑顔だったのかと思えてしまうほど今の表情は高揚しきって、光悦までしているような本物の笑顔に変わった。


「ええ。でもその前に、俺の質問に答えて欲しいんですけどね」

「言うねぇ」

「でもまあ、まだ質問してるとこまではいっていないんですけれど」

テンションが上がりきっている今ならば、少しばかりの嫌味も通用するだろうとたかをくくったのが見事に成功していた。

しかし、どうしてこんな興奮しているのかという疑問は残っていたが、だからといって、その質問を今回のターンで聞いてしまうのはもったいない。


「そうだったか? まあいいか。いやなに、彼女には求婚を満面の笑みで断られてしまったのでね。でも今回こうして君が私の前に現れたのは神様がまだ脈は途絶えてないぞと啓示しているのかと思ってね。どうだろうか? 君がまだ質問していないと認識していなくとも、私自身が一本取られたと思ってしまった以上、もったいなくて聞けない質問のこの答えはサービスするよ」


なんというか、頭の良い人間との会話は疲れる。

一挙手一投足に駆け引きが潜んでいるようで。

俺の得意な揚げ足取りな展開にならないように気をつけなければ。この人に悪い印象を与えるのは得策では決してない。


「ありがとうございます。そんなことなされたんですね、でも店長、お子さん居ますからね」

「なんと、薄々感じてはいたが、やはりそうだったか! あの方のお子さんならば、それはそれは天使のような子供だろうな」

正直気持ち悪いと思った。

「だが、旦那の存在は感じとれなかったなぁ。もしかしてバツイチというやつかな?」

「良くないですよ。好意を抱いている相手にそんな安い、言葉とも言えないようなものを使うなんて」

「そうだな、それは申し訳ない。つい興奮して口走ってしまった」

気持ちの悪さに拍車がかかった。

今なら、あの時の千歳の俺に対する気持ちが理解出来そうだ。


「詳しくは知りませんけど、二人で暮らしているのは確かです。し、天使というのも間違いありません」

「ほうほう。それはそれは。うん、やはり運命の出会いだったということか、納得した。それでは君の聞きたいこと、本題に入ろうか。」

いざ、他人の大人が質問に答えようと身構えているという現場に直面すると、緊張するというか、ビビってしまう。

やはり自分はまだ子供なんだと、ガキなんだと、つくづく思い知らされる。


「はい。お願いします」

「なぜ緊張なんてする。相手が自分の質問に答えると言っているんだ。そこは大胆に、堂々と、真っ向からストレートに、駆け引きなんて無視で聞けば良いんだよ。難しいことが簡単になっていると軽く考えればビビることなんて完璧に無駄な反応だよ」

ここまで俺が思っていることを見透かされれば、普段ならば更に縮こまってしまうところなのだけれど、今回は何故か抵抗なくそうだなと思えて、スッと納得出来た。

この状況で優先して思うことではないが、この人ならば、店長と馬が合いそうだと、お似合いだと無責任にもそう思えた。


「夢ってなんですか?」

「意味を成すことだよ」

即答だった。

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