悪役令嬢は魔王を足蹴に世界を獲る 下読み結果(文:花水木)
【タイトル】
悪役令嬢は魔王を足蹴に世界を獲る
【URL】
https://ncode.syosetu.com/n0791fx/
【あらすじ】
「魔王ならば、世界を征服するくらいの気概を持ちなさい!」
魔王に攫われた公爵家令嬢は、自分を攫った理由の不甲斐なさに腹を立て、攫った張本人を足蹴に世界を征服する。
「世界の一欠片たりとも、渡しはしませんわ!」
これは世界を手中に収める悪役令嬢と、それに振り回される人々の物語。
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※女性の方にも男性の方にもお楽しみ頂ける内容を目指しております。
【全体の印象】
率直に言えば、13話から一気に面白くなってきた印象である。実は本稿を書きながらも、続きが気になって仕方がない。
人間・亜人・魔族と入り乱れる世界観や「魔王」や「勇者」といったシステムもなろう内ではよく見られる設定である。しかし、本作の小鬼族や耳長族は、他作品でよくみられるものを踏襲しながらも、独自の生態や特徴が付与されているし、「勇者」や「魔王」のシステムにも、どうやら世界の命運に大きく関わる秘密があるようだ。
既存のものを上手く使いながらも決して借り物にはなっておらず、筆者独自の世界が広がっていた点が非常によかった。
全体を通してテンポが良く、次々とイベントが起こっていくので読み進めやすい。筆者は気になっている点として「文体がクドい」ということを挙げていたが、読んでいくにあたりつっかかるような部分は特に感じられなかった。
ただし、テンポが良い代わりに、展開に若干の淡泊さや粗が見られるので、がっつりした戦記物を求める読者には向かないかもしれない。それから、キャラ(特に主人公)の掘り下げに不満が残る読者もいるだろう。もう少し遊びを入れたり余裕を持たせて展開しても良いかも知れない。
他に良い点を挙げるとしたら、25話だろうか。ネタバレになるので詳しい言及は避けるが、かっこいいのだ、これが。いい年して中二病から脱しきれない私のような読者にはたまらない。
それから、8話から登場するのじゃロリ地母竜さん(1000さいいじょう)。良質な作品に良質なのじゃロリは必須である。というか、のじゃロリが渋くてかっこ良い作品にハズレはないのである。
……おっと、いつの間にか私の好みの話になっていた。話を戻して、問題点に移ろう。例によってがんがんネタバレしていくので、未読の方はご注意を。
【問題点】
・タイトルあらすじ詐欺
大まかな流れとして、別に嘘はついていない。「さらった理由の不甲斐なさ」も何も、貴女むしろさらわれるのを待ってたんじゃないですかと邪推したくなるところはあるが、証拠はないのでとりあえず置いておこう。
ただ、タイトル・あらすじを読んだ時の令嬢のイメージと、本文を読んだときのイメージが合わないのだ。確かに本文中でも「世界征服」は目標として掲げられているが、彼女が目指しているのはむしろその先にある「種族間融和」のはずであり、だからこそ人間国家に反旗を翻したはずである。
タイトルとあらすじを読んだ限りだと、面白半分で世界征服を企む令嬢像ができあがってしまう。
もちろん、「タイトル詐欺じゃねえか」とか「途中から全然悪役令嬢してないじゃねえか」とかツッコミを入れつつ読むのも楽しみ方の一つではあるので、確信犯として詐欺を行っているのであれば、それはそれでありかもしれない。
・1話のインパクト
第1話の入りのインパクトが弱く感じた。
シュールさや令嬢の奇抜なキャラは余さず表現し切れているのだが、いかんせん「なんでやねん」とツッコむタイミングに困るのだ。笑いの感性は特に人それぞれなので難しいところではあるが、個人的にはもう少し前振りが欲しいと感じた。
今作の冒頭は令嬢が拐かされて魔王に尋問されている場面である。これは常識的に考えればかなり危機的な状況のはずだ。だからここは、もっと深刻な感じで書いて欲しいのである。否応なく高まる緊張感、どうなってしまうのかという不安感。そこで令嬢が口を開くのである。
「――ヌルい!」
戸惑う魔王に追い打ちをかける。
「生温い! 生温すぎますわ!」
こんなふうに落差や明確な「ツッコミどころ」がはっきりしている方がインパクトが増す……気がする。「なんで人質がやりたい放題してんだよ」なんて野暮な疑問は、勢いで押し切ってしまおう。
・主人公に対する読者のヘイト管理
ここはかなり問題になってくる部分である。まず、序盤の令嬢の行動を少し悪意をこめつつ整理してみよう。
①いきなり魔王を足蹴にする
②魔族の内政に我が物顔で口を出す
③改革の断行を提案、「逆らう者の首はお刎ねなさい」という過激な発言
④その結果、魔族の反乱を誘発
⑤鎮圧後、「反乱を起こす前に、言葉をお使いなさいまし。この度の戦いは避け得たはずですわ……」と宣う令嬢。③の発言がブーメランになっている。
⑥一連の令嬢の行動に対し、魔王も宰相も不快感を示す様子があまりない
こんな感じである。
うーむ、これは主人公としてどうなんだろう。「悪役令嬢だから」というのを踏まえても、特に③~⑤の展開は率直に言って、最序盤に持ってくるべきではないと感じる。読者としては悪役令嬢は「悪辣だけど有能」であって欲しくて、「理不尽な上に失敗する令嬢」は見たくないのだ。いかに有能でも失敗することはあるだろうが、少なくとも第一印象では「有能さ」をもう少し強く押し出して欲しい。
そもそも、自分が引き金になった反乱を自分で鎮圧したことで信頼を集めるようになるというのは、いささか説得力に欠ける。魔族の中で内乱を引き起こして力を削ぐことを目的としたスパイ行為と捉えるのが普通ではないのだろうか。敵であるはずの人間が魔族政府の一員と認められるまでの過程をもう少し詳しく描いてほしいと感じた。
それから、彼女にヘイトが溜まりやすい理由としては彼女の行動理念が不明である部分が大きいのだ。もちろん読み進めていけば、「異種族間での相互理解」という理想と「人間がこれ以上数を増やしたら魔族は滅ぼされてしまう」という焦りが、強引な言動に表れていることは理解出来る。しかし、下手をすると読者はそこまでたどり着く前に離脱してしまうのだ。令嬢視点で書くのであれば、具体的な理想の中身までは伏せておくとしても、焦る気持ち、「時間がない」という思いはもっと前面に出して欲しい。
そうでなければ、視点を魔王に固定してしまうのも一案かもしれない。何せ本作は魔王がかなり常識人(常識魔族?)である。理不尽な悪役令嬢に振り回される魔王、という視点から令嬢の本質に徐々に切り込んでいく書き方も面白いのではないかと思う。
・カテゴリの問題
気になる点として、「悪役令嬢を読む層に(後半の)戦記物のニーズが無い。」という部分が挙げられていた。
しかし、私が読む限りでは。そもそもこれは「悪役令嬢もの」ではなく「戦記もの」なのである……言い換えれば、「悪役令嬢もの読者層」より「戦記もの読者層」から支持を受ける話だと思うのだ。つまり、「戦記もの読者にウケる悪役令嬢もの」を目指す方が筋が良いように思う。
もちろん個人的な感覚ではあるが、一応根拠らしきものを挙げておくなら、まず恋愛要素が薄い。いや、一応恋愛らしきものはしているし、令嬢自身少しずつデレているようなのだが、いかんせんドンパチにかき消されがちである。そもそもこの令嬢、ゴトフリート王国の公爵令嬢であるが、魔族の国にずっといるので公爵令嬢の地位が意味をもつことはほとんどない。貴族のお付き合いもなければ、意地の悪いご令嬢やセクハラ貴族をぎゃふんと言わせることもない。
そのあたりを踏まえると本作は、「戦記ものだから悪役令嬢もの読者にウケづらい」というより、「悪役令嬢ものとして見るとアピールポイントに欠ける」と言った方が正しいように思う。特に2,3章でその傾向が強いので、少し令嬢と魔王の間の人間(?)模様にもう少し力を入れて描いてみるのはアリだろう。二人で諸外国を回っているわけで、仕事以外の部分ではご飯を食べたり、街を一緒にのんびりと歩いたりしているはずなのだ。その中でのちょっとした会話だったり、距離感の変化だったり、たまに足蹴にしてみたりというところが書かれていると、恋愛ものとしてもより楽しめるかもしれない。
とはいえ、世界の広げ方や戦争の展開はそれを補ってあまりある魅力を持っていると思うので、そちらを生かしていくのも良いだろう。
【まとめ】
・世界の広げ方は上手く、人間と魔族の間で戦争が起きている殺伐とした世界で、「悪役令嬢」という概念を持ち込んで活躍させる発想はとても良い。
・テンポが良くて読みやすい印象。
・その反面、第1章で令嬢の魅力が伝えきれておらず、読者のヘイトを集めやすい上に掌握の過程に飛躍を感じてしまう。
・2章以降の展開は面白いが、幕間的に平和な風景を挟みつつキャラクターの掘り下げができると、緩急がつき、より多面的な面白さが出てくるかもしれない。
・のじゃロリは正義。




