危険な夏のブタ酒場
バギャラグワラゴバァアアン!
……ゴッド様が、ドアを開けた音です。正直、心臓に悪いです。不思議な事に、いつもドアにはキズ一つありません。
「ぶふぃ!今夜も!来て!やったぜ!」
「……いらっしゃいまし」
グラスに酒を注ぎます。
「ぶふぃ、電灯の光が氷に映ってキレイだぜ」
ゴッド様は、ブウィスキーを一気に飲み干しました。
「マスター、もう一杯だ」
「かしこまりました」
「ところで、マスター。知ってるかい?」
「何をですか?」
グラスに注いだ酒を、ゴッド様に渡します。
「『ブタがぶった』ってニンゲンの言葉……ブタは悟りを開いた仏陀のように素晴らしいって意味じゃなくて、ただの駄洒落らしいぜ」
「……知ってました」
「ブヒャヒャヒャヒャ!」
……ハァ。
「ま、いつもの前置きってやつだ、ぶふぃ」
「相変わらずですね」
「ネタが切れたら、予告無しになくなるがな」
「でしたら、次回辺りから無くなりそうですね」
ゴッド様が、ニ杯目の酒を飲み干しました。
「そろそろ、ニンゲンの焼酎学生……じゃなかった小中学生は、夏休みになるらしいぜ。ぶふぃ」
「ええ、29日からの学校が多いようですね」
「んで、8月21日あたりから2学期だな?」
「去年位から、少し延びましたよね」
……他所は、9月スタートという噂もあります。
「……長くなったからって、ブタ肉の消費量増えねえよな?」
「……おそらく」
背筋が寒くなりました。
「いや、マスター違う!この背筋の寒さは、やつだ!」
「やつ……ですか?」
「ブヒヒ、バレましたか。あとちょっとだったのになぁ」
ハッとして後ろを見ると、いました。怨霊のタロウです。肉切り包丁を持って、ヨダレをたらしながらこちらを見ています。
「ブヒヒ……今夜こそ、マスターをトンカツにして喰ってやろうと思ってたんだけどなぁ」
「ぶふぃ、お盆でもねぇのに、化けて出やがって……だいたいお前、トンカツの調理法知ってるのか?」
タロウの動きが、ピタリと止まりました。
「……調理法?」
「ぶふぃ。お前、自分がトンカツにされて喰われてるのは、霊体の状態で見たよな」
「ブヒヒ、見ましたねぇ」
「だが、調理してるところは見たのかい?」
「ブヒ……ヒ……。見て……な……い……」
タロウの怨霊は、消えていきました。
「ゴッドさん、ありがとうございました」
「ぶふぃ、まあな。だが、調理法を知ってるやつに料理させればいいだけだと、やつが気付けばまた来るだろう」
「……そんな」
いつになったら、安心して暮らせるようになるのでしょうか。
「ぶふぃ……まあ、夏が終われば、幽霊話の時期じゃなくなるし、しばらく出ないんじゃないかな」
トンカツ美味しいですよね。