縁起が良いか悪いか
……ギィ
「いらっしゃいまし」
「マスター、お久しぶりでやす」
ドアを開けて店に入ってきたのは、チャシュー・ヤキブッタさんでした。
「ああ、チャシューさん。お久しぶりです。もう異界での仕事は、お済みになったんですか?」
私は、氷の入ったグラスに酒を注ぎ、チャシューさんに渡しました。
「はい。向こうのブタ女神の力で、飛び道具を無効化してもらったので、思ってたより早く帰れたんでやす」
「そうですか、それは良かったですね」
乾燥させたリンゴの皮が入った皿を、チャシューさんの前に置きました。
「ああ、すいませんでやす。……ん?蜘蛛がいやすね」
「ああ、すいません。すぐに外へ出します」
「マスター、夜の蜘蛛は殺すべきでやす。縁起が悪いんでやす」
「え?朝の蜘蛛が縁起が悪くて、夜は殺すなと聞きますが?」
「?」
「?」
私とチャシューさんは、お互いの顔を見ながら、首を傾げました。
ギャッ!ラッ!ガーーーッ!!
「ぶふぃ、話は聞かせてもらったぜえ」
「ゴッドさん!」
「いらっしゃいまし、ゴッドさん」
けたたましい音を立ててドアを開けたのは、ゴッドさんでした。
なお、このブタ酒場自体が、お客様から見れば小さな異界なので、どれだけ大きな音を立てても、近所迷惑にはなりません。
「ぶあっは、夜の蜘蛛についてだが、『よくもきた』といって客がくると喜ぶ地域もあるし、『親に似ていても殺せ』という地域もあるのさ」
「なるほど、そうでやすか。しかし、実際のところどうなんでやす?」
気になるところです。客商売をしている身としては、あまり殺さない方が良さそうですが。
「ぶふぃ、お前ら。俺様を誰だと思ってるんだ?」
「神様です」
「神様でやす」
ゴッドさんは、ブタ族の神。これは厳然たる事実です。
「ぶあっは!わかってるじゃねえか。ならば、この俺様がいる限り!朝だろうが夜だろうが、縁起が良いに決まってらあよ!」
「おお!」
ポコポコと私達は、前の豚足を打ち合わせました。拍手ならぬ拍豚足です。
「ま、そんなわけだ。気にする必要はねぇぜ、ぶふぃ」
私はゴッドさんに酒の入ったグラスを渡しました。
チャシューさんの方を見ると、チャシューさんもこちらを見ていて、目が合いました。穏やかに微笑んでいます。
おそらく、私も同じような表情をしていると思いました。
「ぶふぃ、やっぱり酒はうめぇぜ。マスター、もう一杯だ」
ゴッドさんは、酒を飲み干すと、こちらにグラスを掲げました。
「あ、ゴッドさん。せっかくだから一杯受けて下さい。マスター、ブターナーを、ゴッドさんに」
「ぶふぃ?すまねぇな、チャシュー」
ゴッドさんに、ちょっといいブウィスキイを渡しました。
……つ、つー。
その時、天井から一匹の蜘蛛が、そのグラスの中へ入っていきました。
「ぶふぃ!?俺様の酒に、何しやがる!」
ブゴン!
えらく間が空きました。その結果、ちょっと雰囲気が違ってしまったかもしれません。




