霧のブタ酒場
……ギィ
「いらっしゃいまし。……ゴッドさん!?」
「おう、マスター。外は霧が出てやがるぜ、ぶふぃ」
「霧ですか。珍しくドアが普通の音で開いたのは……」
「ぶふぃ、霧のせいさ」
ブタ族の神であるゴッド様は、カウンター席の一つに腰を降ろしました。
「ぶふぃ、ワイルドピッグをロックでくれ」
「かしこまりました」
グラスに酒を注ぎ、ゴッド様に渡しました。
「ぶふぃ、ありがとよ。……ぶふぅ」
ゴッド様は、静かに酒を飲んでいます。
「ぶふぃ。霧ってのは、先がよく見えねえ感じが、なんだかいいもんだな、マスター」
「先が見えないのが、いいんですか?」
「ぶふぃ、そうだぜ。まあ、それだけじゃねぇんだろうが、とにかく霧ってやつは、いいものだ」
「そうですね。霧の夜に散歩するのは、私も好きです」
「ぶふぃ、もう一杯、酒をくれ」
「かしこまりました」
丸く砕いた氷をグラスに入れ、酒を注ぎました。
「どうぞ」
「ありがとよ。周りがよく見えねえのは不安だが、わくわくする部分もある」
「私の豚生は、不安ばかりですがね」
「ぶあっは!そいつは、俺様の神生もだぜ!」
「ゴッドさんでも、不安を感じるのですか?」
「ぶふぃ!当たり前だぜ。神でもブタでも、不安ぐらい感じるものさ。生きてるからな!」
ゴッド様は、グラスをひょいと掲げてから、一口飲みました。
……ギィ
「いらっしゃいまし」
「へへっ、マスター、久しぶり。……おお!!神よ!いらしていたのですね」
「ぶふぃ、ニックか。久しぶりだな」
「へへっ、お久しぶりです。あ、マスター、一番安い酒をくれ」
「かしこまりました」
「ぶふぃ、ニック。お前も、霧の中を歩いて来たのか」
「神よ、その通りです」
「どうぞ」
「へへっ、酒が来たぜ」
ニックは、酒を舐めるようにゆっくり飲んでいます。
「ぶふぃ、さっきマスターとも話してたんだが、霧ってやつは、なんだかいいもんだな」
「へへっ、そうですね。まあ、わたくしは肉の方が好きですがね」
「ぶふぃ、しょうがねえ奴だな。霧は食い物じゃねぇだろうが」
「へへっ、そうですがね。霧を眺めながら酒を飲むのなら、霧が酒の肴みたいなもんでしょう?」
「ぶあっは!そりゃそうだ。だったら、肉を肴に飲みてえってことか」
「へへっ、そういうことです」
「……ぶふう。これはサービスです」
私は、鳥肉の燻製を出しました。そして、窓を開き照明を暗くしました。
ゴッド様とニックは、夜が明けて霧が晴れるまで、霧を眺めながら酒を飲んでいきました。




