ヤミー脱走
「いらっしゃいまし」
「こんばんは、養○酒の炭酸水割りをください」
「……かしこまりました」
邪鬼の三輪さんがやって来て、妙な注文をなさいました。いつもは、最も安いブウィスキーしか飲まないお客さまなのですが……。
「どうぞ」
「ありがとう、マスター」
三輪さんは、赤黒い飲み物を、とてもにこやかに飲んでいます。
「いやー、○命酒美味いなあ」
「一応、お出ししましたが、本来なら健康のために少しずつたしなむべき……ではないでしょうか?」
「まあ、そうなんでしょうけど。向こうのお客さんだって、すごい飲み方してませんか?」
三輪さんは、カウンター席の一番奥にいるブタに視線を向けました。
「……ああ、ヤミーさんですか。あの方は、なんと言いましょうか」
奥にいるお客さん……ヤミー・ブーさんは、薬酒をジョッキで飲んでいます。
「ブゴッ、ブゴッ、ブゴッ……ブヒュゥウ。マスター、酒だ!もっと……ブヒュー……薬酒を……ガハゲハァ……持って……来い」
「ヤミーさん、飲み過ぎですよ」
「ブヒュウ……ガハゲハァ……うる……せえ……酒……だ」
……ギィ
「ヤミーさん!また病院を抜け出して!戻りますよ!」
ヤミーさんは、医師のブタ彦先生によって、入院先の病院に連れ戻されました。
退院した祝い酒だと言っていたのは、嘘だったようです。
「……なるほど。あんなに命懸けでは、飲めないですね」
「わかって頂けましたか、三輪さん」
……ナギョラミーナザ!
ドアが、不可解な音をたてて、光を放ちながら開かれました。
「いらっしゃいまし」
「ゴッドさん、こんばんは」
入って来たのは、やはりゴッド様でした。
「ぶふぃ!今夜も来てやったぜ」
ゴッド様は、真ん中のカウンター席に座りました。
「ぶふぃ、ブウィスキーだ。……ん?三輪は、何を飲んでんだ?」
「……養○酒の炭酸水割りですね」
「はーん、妙なモン飲んでやがるな、ぶふぃ」
「コーラみたいで、美味いですよ」
三輪さんは、グラスを掲げました。
「ぶあっは!コーラだあ?!お前、普段はそんな舶来の品を飲んでやがるのか?」
「いえ、飲んでません。しかし、舶来の品って……今は、信濃の隣の日本でも作ってますよ」
「ぶふぃ、本当かい?」
「この店にもありますよ。よろしければ、いかがですか?」
「……いいのかい?ぶふぃ」
私はコーラをグラスに注ぎ、ゴッド様の前に滑らせました。
……ごくり。
静かな店内に、誰かが唾を飲んだ音が響きました。
ゴッド様の前足が、ゆっくりとグラスへと伸びます。
「ぶふぃ、いただくぜ。神生初のコーラだ……」
ゴッド様は、ゆっくりとグラスを口に運びました。
「ぶふぃ!?なんだこの甘かったるい飲み物は!しかも、酒精がねえじゃねえか!」
「そんなモノですよ」
「ソフトドリンクですから、酒精はほとんど入ってませんね」
「ぶふぃ!マスター、酒だ!酒をくれぇ!」
ゴッド様は、リンゴやサツマイモを好んでいらっしゃるので、意外でしたが、甘い飲み物は嫌いだったようです。
「甘いことより、酒精が入ってないことが問題点じゃないですかねえ」
「それは、三輪さんの場合でしょう」
「ははは、そうですね。あ、マスター、おでんあります?」
「ぶふぃ!いいな。俺様にも、おでんだ!」
「ウチはバーなんですが」
「ぶふぃ、ねえのか」
「いえ、あります」
その後、ゴッド様と三輪さんは、おでんを食べながら日本酒を飲み、そして帰ってゆかれました。
「ブタ酒場Ton」は、バーなんですが、ね。




