忍者、稼がれる
お久しぶりです。待っていた方が居られたなら幸いです。更新遅いと思いますが続けていきたいと思います。
「突然の火事、災難だったとは思うが、どうか挫けずに営業を続けてもらいたい。君の宿は我が王都を訪れる人々の安らぎの場所だからな」
「へ、へえ! モッタイナイお言葉です! はい!」
「うむ、よろしく頼むぞ」
これは酷いマッチポンプを見た。いやマッチマネーとでも呼ぶべきか。
おーい店主さん騙されないでー。そいつが全ての元凶ですよー。
あれあれベルさんや。どうして僕の足を踏んでるんですか? グリグリしないで痛いですよ。
「アンタ何か言おうとしてたけど、言わせないわよ」
シルエットは綺麗な笑み浮かべているというのに、可愛い声が氷のように冷たくてビックリです。
「火災の延焼を未然に防ぎ、王都を守った功績を持って、ここに褒賞としての金を授ける。略式ですまないが、受け取ってくれ」
「い、いえ! モッタイナイお言葉です! はい!」
そうして手ずから袋に入った金貨を手渡すのだった。
やはりこれは、酷いマッチマネーだ。
青と白がちょうど半々映るような空模様の下、俺たちはベーオウルフの武具屋から城下の街の散策に移っていた。正確には散策を再開した、だが。
武具店で居合わせたアルヴァ家の面々も、当然と言った顔で付いてきている。
リュークの護衛として選ばれた面々はあまりいい顔していなかったが、それでも一兵士が仮にも大貴族に何か言えるわけがなかった。
今この場で文句が言えるとしたら、王様とその妹のみだ。
その二人が同行を許可している以上、内心は封じ込め護衛に専念するしかない。
リュークとベル、アルヴァ親子といった貴人の周囲を彼らだけで囲み、アルヴァ家の護衛を更に外側に配置されているのは、せめてもの抵抗だろう。
現在は武具屋の次の目的地でもあった、俺たちが燃やした――のではなく、運悪く火災を起こしてしまった格安宿屋の主人に会いに来ているところだ。
「あの王位簒奪事件のきっかけはここの火災といえるけども、だからといって王様がわざわざ足を運ぶ必要があったのかしらね?」
リュークの一連の行動を見ているシャーロットが零す。
「ただ情け深いだけなのかしら? そこらへんはどうなの?」
こちらに投げかけるその言葉には疑惑、というより確信が抱かれていた。
惚ける方法を考えようとしたが、その口振りから誤魔化しは無駄だと感じた。
「そうなのよ。アイツは大義とか目的のためなら火事の一つや二つ――」
「エイナ?」
「――そう、国の舵の一つや二つくらいなら簡単に切れる男なのよ。俺はそう信じている」
だが無駄だとしてもそれは誤魔化さない理由にはなりえない。
なので僕の足を踏みつけるのはやめてくださいベルさんや。親指に全体重を掛けるのはホント勘弁して。
ちなみに偶然にも、火事と舵はこの世界でも同音異義語である。
「途中言葉の意味が変わった気がしたけど、追及はしないであげるわ」
「そりゃどーも」
「貴方の足のことはどうでもいいのだけれど、ベルが気にしているみたいだから」
「ベルは足の置き場所くらい気にしてもらいたいのですが」
「アンタが口を滑らせようとしているからでしょうが!」
「ふふ、ベール!」
「きゃっ! ちょ、ちょっと」
「ぐおぉ! ベルに乗るなシャーロットぉ! 俺の親指がぁ!」
「……何をしているんだベル、シャーロット嬢。エイナも遊ぶのはいい加減にしたらどうだ」
「どこをどう見たら遊んでる風に見えるんですかねぇ!?」
この世界は相も変わらず俺に対して辛辣です。
宿屋の主人との用事も終わり、一路帰途に就く俺たち。
護衛を含んだ大所帯を引き連れいているため、どこかの貴族だとは思われているだろうが、その中に王様が居るとは夢にも思うまい。
国民の大半はリュークの顔を遠くから眺めるのみであるし、それに加えてカツラなどで変装もしているため、リュークだと気付かれることはあるまい。その容姿から遠巻きであっても視線が集まってはいるが。
さっきの宿屋の主人にはステータスを開示して、国王だと示したわけだが。
ベルに至っては顔を見せたことはないし、今もカプリンのようなツバの広い帽子を深く被り、更には帽子から垂れてきている厚手のレースで顔を隠すようにしている。
人数が人数なので注目されるのは仕方ないが、それゆえ魔が差すようなこともあるまい。
まあ長々と説明したが、俺たちの歩みを止める者はまずいないと言う事だ。
「それで、陛下は一体なぜ先ほどの宿屋に赴いたのですかな?」
その最中、カーディがリュークに今回の行幸の目的を問い質した。
カーディは薄ら笑いを浮かべ、彼と手を繋いでいるシャーロットはカーディを見上げている。
質問時にその手が僅かに強張りを見せていた。
「そう大したことではない。昨日一日を掛けて図書室で調べものをしていたのだが、ロクな情報は出てこなくてね。それを調べるために赴いたにすぎないよ」
「ほう。それはご苦労ですな、どのような内容かお聞きしても?」
まさに作られたという表現が似合うような笑顔でカーディは問い詰める。
その質問に困ったような表情を浮かべるリューク。
「いやぁ。洗いざらい言ってもいいが、気分を悪くしないと約束できるのなら」
「私も貴族、いやそれ以前に大人の端くれ。子供の前でそうそう怒りを見せたりはしないよ」
「それを聞いて安心した」
リュークは言の葉を連ねていく。
「ロクな情報が出てこなかったとは言ったが、何も手に入れれなかったわけではない。少なくとも最低限を情報を手に入れたとは思っている。だからそれで満足しようとしたんだが、一つ納得が行かなかったことがあったんだ」
語られるのは質問の答えではない。何を調べていたのではなく、何が気になったのかを。
「調べたいことについて書かれた書物は何冊もあった。だがその内容に変わりなく、どれも同じことが書かれていた。いっそ不自然なほどに」
最初浮かべていた困惑の表情は何だったのか、今となっては冷徹に自らの親と変わらぬ年齢の男を睨めあげている。
「ちなみに調べたいものと似ているイグニオス、ウガ、エックレス、オールドといった五剣公についても同時に調べたが、その情報は多岐に渡った。真実なのか噂話なのか、その見極めは必要であるが、そこには確かに情報のブレといったものがあった。僕が調べていたものにはなかったものがな」
「……つまり陛下は」
カーディの足が止まる。シャーロットが手を引くようにして、カーディの背後に回り込んでいる。
天下の往来で大勢が立ち止まるのは良くないとは思うが、口にはすまい。
「……つまり陛下は、アルヴァ家が意図して情報を隠しているとお考えで?」
リュークは頷く。
「本を書ける人間なんて限られているからな。無理な話ではないだろう?」
仮に、リュークの言葉が正しいとするならば。
「じゃあ私たちアルヴァ家は何を隠してるの?」
シャーロットが疑問の声を挙げる。当然、そういう話になるわな。
「それは分からない。だからそれについて宿屋の主人に聞こうと思っていてな」
だがそれも上手くいかなかった。リュークはそうぼやく。
「分かったのは、君たちが犯罪組織を取りまとめている、といった程度だ」
「ほっほー」
「えっ?!」
俺は感嘆の、ベルは驚愕の声を挙げた。
俺はともかく、ベルはあからさまに警戒しだした。
だがそれ以上に剣呑な空気を出したのが、周囲でリュークたちの警護を任されている護衛たちだ。
ソート将軍が選んだ精鋭たち。その中でも比較的若い人物が殺気立っている。裏の人間との癒着は噂されていたのだろうが、まさか元締めまでとは思ってなかったのだろう。国王の傍に、犯罪組織の中心人物が居るという事実が、彼らを身構えさせているのだろう。
「職務に忠実なその在り方には脱帽ものだけどさぁ、回りも見てもらいたいなぁ。自分の先輩たちとかさぁ」
俺の言葉に、周囲に視線を巡らせるリュークの護衛を務める若人たち。
年嵩の護衛たちは彼らとは反対に外へ向かって警戒を巡らしていた。
その視線の先にいるアルヴァ家の家人は、手を腰の剣や懐の暗器に伸ばしている。若い護衛たちの殺気に反応して構え始めたということを、彼らの名誉のために補足しておこう。
第一命題にリュークたちの保護があるのだろうが、包囲されている現状ではそれを達成するのは難しい。
このまま殺り会えば、兄妹・親子共倒れとなる可能性が高い。
「皆落ち着け」
それに待ったを掛けるのが我らが国王。
「別に彼らが犯罪組織と関わりを持っていることについては罪に問うつもりはない」
「いいの兄さん?!」
「構わない。だがこちらの質問に答えてくれるか?」
シャーロットがカーディの手を引き、視線を交わす。
「分かりました。何を聞きたいのですか?」
カーディが対話の意思を見せる。それに伴い護衛たちも武器から手を離し始める。
「……果たしてアルヴァ家の真意はどこにあるんだ?」
リュークが真っ直ぐとアルヴァ親子を見据える。
「真意とはどういう意味ですかね?」
リュークは考えをまとめるように顎に手を当てる。
「何故君たちは裏稼業の人間たちを束ねているのだろうか?」
「それは……お金や権力を求めてなんじゃないの?」
「いや、それは違う」
ベルの疑問に鋭く否定の声を発するリューク。
「もしそうなら、そもそも今回のような試験を出すような事態にはなっていない。形だけでも臣下として振る舞って、甘い汁を啜る方がずっと上策だ。もっと簡単に金や権力を手に入れることが出来るだろう」
「え、でも確かその人って庶務大臣なんじゃ?」
「その通りだが、大したことはしていない。カーディ、というかアルヴァ家自身は殆ど働かず、仕事の大半を周りに人間に振っているだけ。どこそこの酒が美味いとか、他の国であれこれがあったとか、そういう噂を集めるのだけは早いらしいがな」
ソート曰く究極の道楽者とのことだ。そう最後に締めくくった。
リュークの発言には納得できる所があった。目的が金銭や権力なら犯罪組織のケツ持ちだけじゃなく、国政にもガッツリ関わってきてるはずだ。五剣公にはそれが出来る。なのに実情は異なっている。
「それは買い被りというものですよ陛下。庶務の仕事は城壁周りの掃除など、城の内ではなく外側が基本でございます。頼まれれば他の部署の手助けをすることはございますが、そもそも国政に関わる機会に恵まれていないだけでございますよ。そしてそのような部署のため、必然城の中より外の方に知人が多く、その過程で偶然脛に傷を持つものたちと深く関わるようになってしまった次第なのです」
「なるほど、城内に仲間の居ない閑職の悲しい現実ということか。それで外に友達を作ろうとしたと。ああ、それはすまないことをした。君たちの涙ぐましい努力の結晶というわけだったのだな」
「その通りです陛下。ご理解いただけたようで何よりです。ああそれと、今回のような散策において陛下の身の回りに関する雑務もまた庶務の仕事にございます。城の外の事なので」
「このような急な仕事にわざわざ大臣たる君を動かしてしまったか。友人作りに忙しい所に申し訳なかったな。今度からは話を通すよう努力しよう。返答ありがとう」
庶務の仕事では政治に関わることが出来ないだけだというカーディの主張に、皮肉を交えて返すリューク。
芝居がかった口調のカーディに、情を感じさせない平坦な声を出すリューク。
心が一ミリも通っていないだろう話は、ここで終わりとなった。
「ねぇ、さっきのエイナはどう思ってるの?」
再び城に戻るため歩を進め始めた時、ベルがこそっと聞いてくる。
「そういうベルこそどう思ってんだ?」
「そんなの全然納得できてないに決まってるわよ。怪しさ満点というか、そもそもアイツ説明する気があったの?」
「ないだろ。リュークの要望通り質問に答えているだけで、真実を喋っているわけじゃない」
リュークもそれが分かっているからこその塩対応だ。その説明で納得できるのなら王様になれる資格は貰えなかっただろうけど。
「なにそれ卑怯じゃない!」
そうだね大人ってずるいね。
まあそもそもリュークはそれを承知だったのだと思うが。
嫌な部分を突いた会話でカーディという人物に探りでも入れようとしたんじゃないのか、というのが俺の見解だ。
意識してか無意識にか、今後長く付き合うであろう人物を見定めようとしたんじゃないかと。
盛大に空振った感じだったけど。
そして俺がどう思っているかという問いの答えとしては。
「雑。その一言に尽きるかな」
隠すのでもなく、威嚇するのでなく、はたまた謝罪するのでもない。
ただ繋がりがあることだけを認めた。
権力者としての貴族としても、犯罪組織を束ねる頭目としても、ただ認めただけというのは、あまりに雑。
別段、権力者が犯罪組織と繋がりがあることに思うところはない。
前世の経験則として国という大きな括りである以上、そこには大なり小なり陰はあり、上に立つものには清濁併せて飲み下す器量が肝要。
ここで考えるべきなのは、裏稼業と関わることによってアルヴァ家にはどんなメリットが齎されるのか、ということ。
てっとり早く思いつくのは金と暴力だろうが、今日一日の行動を振り返るだけでも、奴らがそれを必要としていないのは分かる。彼らに付き従っている護衛たちに筋者特有の粗野な空気はなく、所作から幼いころから教育を徹底されていることが感じられる。気品ある振る舞いから暴力の振るい方まで。
権力は論外。城内のことに城外の力は役に立たない。王権がとにかく強いこんな世界で媚を売る相手を間違えている。
王の意思が国の意思。王の力が国の力。そんなことがまかり通る世界で、王都とはいえたかだか一都市内の裏稼業の力で国をひっくり返せるとは到底思えない。
そもそもだ。何でこのアルヴァ家の連中は――。
突然、何か重い物が落ちた音があたりに響いた。
人の往来が緩和して騒がしさも一段落した場面では、その音はいやに大きい。
断続的に続くその音に、城下の人たちは驚きを、護衛たちは警戒を持って注目した。
リュークはベルの手を引き背後に回らせ、カーディはシャーロットの前に立ち、剣の鯉口を切る。
では衆目を集めたその音の正体とは何だったのか?
その答えとは!
「樽だな」
地面に散乱するいくつかの樽。中身が何かまでは判別できなかったが、音の大きさからして限界ギリギリまで詰め込まれていることは容易く推測できる。傍には未だ樽を積んでいる荷馬車があり、転げ落ちるのを防ぐため男たちが押さえているが、かなり踏ん張っているようだ。
簡潔に言えば、運送途中の落下事故である。不幸な出来事ではあるが、怪我人が出なかったのは幸いだ。
「ちゃんとキツく縛っとけって言っただろうが! この餓鬼がぁ!」
そんな言葉を今叱責を受けている少年に言っても無意味だろうが。
服は大きすぎるのだろうか、袖や裾が余りまくり、叱られてからずっと俯いているため表情は分からないが、頭の天辺からつま先に至るまで土やほこりで薄汚れている。
だが俺の目を一番引いたのは、頭からピョコンと突き出たケモミミだった。
つまりは獣人。
俺が見たことのある獣人は三桁にも届いていないが、それでも自分と同年代の獣人を見掛けたのはこれが初めてのことだった。
そんなことを考えている間でも、少年への罵倒は止まることはなかった。
「あの子は奴隷なの?」
気の毒そうにベルが零すが、彼の姿はまさしく、俺が思い浮かべる古代ギリシャレベルの奴隷そのものであった。本当がどんなのかは知らんけど。元の世界で見かけた奴隷は普通に小奇麗だったな。自分の生活圏に不衛生な奴を入れたくないとかなんとかって。
「叱っている者は見たことがあるな。僕が王様になってすぐ挨拶しようと城門に群がっていた者たちの中に居たような」
リュークの視線は汚いツバを飛ばしまくっている小太りのオッサンの方に向いていた。どうやら城内関係者のようだ。
「彼の者は城に酒などを卸している問屋の主人でございます。ベルベット様のおっしゃる通りあの獣人の子供は彼の者の奴隷で相違ありません。ステータスにもそう書かれておりました」
さりげなく仕事していますアピールをしながら、兄妹の疑問に答えるカーディ。
しかし獣人において奴隷という身分はある種神聖なものであると聞いていたが、これが本当に理想の環境だというのか? どんだけマゾいんだよ獣人は。
「あのような仕打ちは奴隷にとって普通なのか?」
「いえ、あれはいささか常識から外れております。相手が子供であることを考えれば、過剰と言っても過言ではありません」
「奴隷は決して物ではありません。そこをはき違えるなど本来あってはならないのですが」
リュークの質問に護衛たちが答える。
流石にあれがノーマルということではないようだ。俺の性癖を疑い始めたところだから朗報と言っていいだろう。
にしても、こんな会話を続けている最中にも小太りおじさんの口は高速で回転し、そこから潤滑油をまき散らかしている。
他の従業員が樽を詰め直すのに四苦八苦してるんだから、速やかにそちらを手伝えばいいのに。それが嫌なら堂々とサボればいいのに。
周囲の目線が嫌悪感に満ちたものに変わっていくのを感じ取れてないなら、商売人としてはちょっと不適格だぞ。潜在的な客を減らすようなことは慎むべきだ。
王室御用達とかいうブランドや確実な販路に胡坐をかいているようなら、すぐさま新しい店を開拓するべきだと俺は思うぞ庶務大臣よ。
「いい加減にしないか。耳に障る。少しは大人になったらどうなんだ」
その光景に見かねたのか待ったを掛ける人物が現れた。
御存じ王様リュークくん。
いや民衆の大半は顔知らんけどさ。
「なんだお前は! ハナタレ小僧は引っ込んどけ!」
だがお前は知っとくべきだったよ。卸問屋のおじさんよ。
え? 変装しているから分からなかった? 知らんよそんなの。
ばれないように護衛たちの輪から抜け出してるから、ただの一般市民の少年カッコ美形カッコ閉じと思っているのかもしれんが、そんなの知らんよ。
「獣人の連れがいるから同情したのかもしれんが、さっさと消えろ!」
流石に護衛を完全に引き剥がすのは問題だと思ったため、現在俺が代役を務めています。視線はさっきまで叱られ続けていた獣人少年から離れないようにしている。小汚いオッサンの面なんて見たくもないし渡りに船だ。
「というわけだカーディ。城外のことは僕ではなくお前の管轄であるんだから、僕たちは大人しく消えることにするよ。あとは全てお前に任せる」
「……はぁ。分かりました。王城に納めるお酒を地面に転がしたまま長々と説教を始めるというのはどういう了見ですか」
名残惜しそうにシャーロットを見つめた後一つ頷き合い、その手を離してオッサンに近づいている。
オッサンはオッサンで、『カーディ大臣? 本物の? え? 呼び捨てにした? 少年が? もしかしてこの少年、いやこのお方は』などと小声で呟いて現状把握に忙しいようだ。
罵声が止んだことで、やっとその少年が面を上げた。
金髪に碧眼という、この世界ではありふれた色彩を持つ少年は疲れを感じさせる無表情で、その整っているといっても問題ないであろう顔に陰を落としている。
「大丈夫だったか?」
「……あ、はい、ありがとうございます」
声も子供特有の甲高さが薄れて、掠れたような音を出している。
目線に力はなく、疲れきった少年という特徴的な容態であるが、それが外見的な印象を薄くしている。
「あの、貴方たちは?」
「あー、僕たちは……」
「答える必要なし。知らなくてもいい事なんて世の中沢山あるぜ少年よ」
既に五剣公の一角が来ている現状、これ以上の事実を回りの人たちに知らせる必要はない。
「何、不運な主人を選んでしまったかもしれないが、彼が城を出入りする身分である以上、今度からは行き過ぎた叱責は受けまい」
「お前の耳に間違っても入るようなマネはしないだろ。根は小心者くさいし」
俺の耳には恐縮そうに相槌を打つマシーンとなったオッサンの声が入ってきている。
これ以上この場で俺たちが出来ることはない。ということで、さっさと退散しよう。
リュークは素直にその意見を聞き届けた。
再び全員で城へと向かう、その直前に俺は少年へと振り返る。
変わらない無表情、それ以上に変わらない無機質な瞳に向きあう。
「今回はたまたま遭遇しちゃったわけだけど、お前もちゃんと考えて行動した方がいいぜ。色々とな」
「……何を言って?」
「主人との関係性とか色々だよ色々。まーあれだ。今後仲が良くなって、良き主人と奴隷の関係となれることを、心の底から祈っているよ」
いや、本当に。
「なあリューク。なんでさっきの獣人奴隷の手助けなんてしようと思ったんだ?」
城へと戻り、アルヴァ家一行と別れてから気になっていたことを訊ねた。
「逆に聞くが、人助けに理由なんているのか?」
「わお、優等生的発言だねぇ」
「当然だ。僕はこの国の王様だからな。困っている者を助ける。それが王の行いだ」
そのリュークの言葉に、ベルや護衛たちは感心したように頷いている。中には目元まで潤ませている奴もいる。
そして護衛たちが消え去ったあと、改めて同じ質問をしたときの答えがこれだ。
「決まっているだろう。エイナに対するポイント稼ぎだ。なんとなくあの子、エイナに似ていたからな」
ベルの顔を固まらせた安易な考えと、そのすんばらしい観察眼を笑いながら、その日は解散となったのだった。




