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忍者、異世界に行く  作者: 和尚
忍者、守る
32/44

忍者、膝枕する

本日二話更新の予定です。

一話目。

 カップを合わせ一息に飲み干す。冷たくてコクのある液体が喉を通っていく。煮沸殺菌されているから温いのかと思っていたが、こちらの世界では魔法による冷蔵が行われているため、案外普通に冷たい飲み物が飲めたりする。元の世界の利点がまた一つ減った。

 空になったカップを置く。ジンさんに至っては早くも二杯目にいこうとしている。

「ちょっとは味わって飲んだら? いくら安酒とはいってもさぁ」

「雀の涙ほどの給料で買った酒を安酒とは。言ってくれるのぉ。まあ実際安いけどな」

「あのラックを見る限り、そこまで薄給だとは思えないがね」

 ワインラックには結構な数のボトルが収まっている。アルコール中毒にとっては喉から手が出るほど欲しくなる量だ。ちゃんと保存されているかは分からないが、ラベルの劣化具合から結構なヴィンテージワインも存在しているようだ。

「あれは俺のコレクションよ。ここぞという時や大事な話の時しか飲まんがな。デキャンタもしてないが、ただ酔いたいだけなら安酒で十分じゃろ」

「おーい。俺とのお話はどうでもいいことに分類してんの?」

 それは甚だ遺憾、という奴だ。

「どうでもいいとは思ってはおらん。だがそれ以上に面倒だとは思っておる。その時酔っていたほうが色々便利じゃからな。都合が悪い話を聞かれたときでも、頭が痛いとか、ものすごく眠いとか、飲み過ぎたせいにすれば色々と誤魔化しが利くからのぅ」

「クソみたいなおっさんのクソみたいな言い分だな」

「うぅ、飲み過ぎたかのぅ。頭が痛い。オー、イタタ」

 二杯目を飲み干したと思いきや、いきなり頭を押さえて机に突っ伏すジンさん。ただ一つ言いたい。

 あんた演技下手っ! というか使いどころ早過ぎっ! 言いたいこと二つあったわごめんっ!

「頭痛いならもう飲むのを止めてベッドに行って――」

「――おおっ! これは不思議。痛みが綺麗さっぱりなくなったわ」

 こころの中でツッコミを入れながらワインボトルを取り上げようとすると、先程の不調はなんだったのかという早さでボトルを確保し、自らのカップに三杯目を注いだ。それを見て何を言っても無駄だと察し、俺もお代わりを手酌した。

 それを口に付けるが今度は一気に煽ることなく、僅かに傾けるのみ。ジンさんも三杯目ということもあってか、半分ほどカップに残している。酔うためとは言っておきながら、未だその顔色は変わっていない。

「つーかツマミとかないのかよ? 俺はともかく、すきっ腹に酒は良くないぜ」

「お前は俺のお袋か医者か。そういうんならアイテム袋から何か出さんか。魔物の肉でも入ってんだろ」

「年下相手のカツアゲカッコ悪い」

「イタタ、シグマにやられた傷が痛むのぉ。オー、イタタ」

 だから演技下手っ! そしてアンタ無傷だったろうが。思わず溜め息が出る。ただ俺から食料を徴収するのにこれ以上効果的な方法はない。絶体絶命の窮地を助けてくれたんだ。従わざるをえないだろう。

 それが本当に真実なら(・・・・・・・)、だけど。

「フィルティッシュぐらいしかないけど?」

「おう、それでええわ。バラして少し炙れば、ええ肴になるわい」

 腰に括り付けたアイテム袋から、以前真っ二つに斬ったフィルティッシュを取り出す。ジンさんはそれを受取ろうとするが、その伸ばした手を俺は避けた。

「なんじゃ坊主? いきなり惜しんだか? オー、イタタ。シグマとの激闘での傷が……」

「そのド下手糞な演技はもういいから」

 正直見るに堪えん。そしてこのままじゃいつまでたってもバカ話のままだ。

「そろそろ本題に入っていい?」

 俺はフィルティッシュをチラつかせながら、そうジンさんに問いかけるのだった。


「分かった分かった。その本題というのを聞くから、そのフィルティッシュを寄越せ」

 立ち上がりデスクからナイフと皿、七輪のような網を取ってきたジンさんは、俺の手から強引に分捕ると、フィルティッシュを千切りにし、蝋燭の炎で炙り出した。

 その灯火は肉を焼くには頼りなかったが、ジンさんから僅かに魔墨が漏れたかと思うと、蝋燭の火力が上がった。肉を焼くときに出る匂いと音が、否応なく人の食欲を刺激してくる。肉汁が垂れるかどうかという際で、網の上から皿へと肉は移動された。それと同時に蝋燭の火は元の大きさに戻った。

「今、使ったの魔術? 魔導具?」

「魔術だよ。前言わなかったか? 魔導具なんぞ持っちゃいねぇって」

「それにしても、発動早くなかった?」

 カレスの街などでも魔術を見る機会はある。宿屋のババアもそうだが、そこの息子も手伝いで魔術を使うことがあったりする。火種を作るだけのような簡単な魔術であってもそれなりの時間が掛かったりする。長年勤めて息子以上に慣れているはずのババアであっても、式作成やその維持に時間を取られてしまう。

 しかしジンさんはほんの一瞬で魔術を作り上げてしまった。式作成の時間を削ることを魔術を使うものにとっての至上命題と言われている中で、だ。

「努力すればこのぐらい誰でも行けるわい。簡単な魔術なら『王』とタメを張れるぐらいなら、な。『王』の強みはどんな強力な魔術を一瞬、かつ低コストで発動できることだからな。そこは逆立ちしても敵わん。それで?」

 炙られたフィルティッシュを食みながら、薄く開いた眼でこちらを見た。

「まさか、それが本題というわけじゃないよなぁ?」

「ああごめんごめん。もちろん違うよ」

 本題に入るといった俺が早速脇道にそれてしまった。いかんいかん。閑話休題。

 背筋を伸ばし姿勢を正し、意識を切り替える。よし。

「俺が聞きたいのは、先のベル誘拐未遂事件。あれの首謀者について聞きたかったんです」

「んー? それについては、まだ調査中じゃのう。まあ有力なのはヒカの国。それ以外ならテンスイやビョウヤ、ヤドなんかも候補に入るな」

「俺が知る限り、この事件は最低でもジンさん、ボーラン領主、コットン婆さん、ディールさん、あとは当時フィルスの壁で警備していた兵士たち。これだけの人たちの協力が必要となります。そしてそれだけの人たちの協力を仰げるのは、ジンさんかボーラン領主。またはその両方、といったところでしょう。それとリュークはこの件を承知していたのですか?」

 興味なさげなジンさんの答えを無視し、俺は自分の言いたいことを伝えていく。それを聞いていたジンさんは口にしていたツマミを酒で流し込み、目を更に細め俺を見据えてきた。

「何だ? 俺が誘拐を企てた張本人、だって言いてぇのか?」

「違います。誰かに唆されたわけでもなく、間違いなく誘拐は犯人たちが考え、実行に移しました。ただ恐らく、犯人とその計画は、利用されたのです。首謀者に」

「利用? 一体何にだ?」

 既に俺を見るその目は睨みつけるという領域に入り、仄かながら殺気を滲ませている。

 しかしその気配に頓着せず、ジンさんの求めた答えを告げる。すなわち――。

「――無論、ベルの特訓に。です」


 その言葉を聞いたジンさんは俯くと、辛抱溜まらんという様子で口元を抑えながら笑い始めた。笑いの勢いと共に顔は床から正面を向き、ついには天上を向いて笑みを浮かべる。

 笑いが収まると、手に持ったカップの酒を勢いよく飲み干して、机に叩き付けた。そして酒を注ぐことなく、机に肘を付き、組んでブリッジさせた指の上に顎を乗せた。

「面白い考えじゃのう。して、何故その考えに至った?」

 好好爺現る。面白くて堪らないという顔を隠そうともせず、俺がそう推測した理由を尋ねてきた。

 とは言ってもそんなに難しいことじゃない。ただ俺とベルが持つ情報が食い違っていたというだけの話だ。

「最初ボーラン領主から話を聞いたときには、ジンさん含め、なんて使えない中年たちなんだと思っていました。正直ジンさんの肩に担がれて森から出ていく時も、同様の考えでした」

「毒吐くのぅ」

「それがその時の俺の率直な気持ちですから。しかしそれが違うと気付いたのは事件が終わってすぐ。ベルと事件についての話をしているときです」

「ほう? なんかあったのか?」

「ええ。ありました。いえ正確には、『なかった』という方が適切ですが」

 迂遠な言い回しに訝しむジンさん。手を組むのを止め、頬杖を突く姿勢に切り替わった。

 俺はベルと話して気付いたことを述べていく。

「ベルは領主の屋敷から迷宮に来るまで、誰とも会わなかったと言っていました。雨で人通りが少ないうえ、周囲を誘拐犯たちに囲まれていたせいでしょうね。門番たちも何故か席を外していたため、正真正銘誰とも会っていないそうです」

「そうか、その時の門番勤務の者にはキツイ訓練を入れておこうかのぅ」

 ジンさんが零した過激な発言をスルーして話を続ける。

「もしベルの言った通りなら、おかしいんです」

「何がじゃ?」

「ディールさんの発言が、ですよ。俺がベルの後を追おうとしていた時、彼はこう言っていました。ベルと偶然出会って、挨拶をしたってね」

「……ふむ。そりゃ可笑しいのう」

 片や誰とも出会わず森まで直行した。

 片や出会って挨拶を交わした。

 矛盾する両者の発言。

「それだけじゃありません。ボーラン領主はベルがコットン婆さんの所に訪ねてくるという話をしてましたが、ベルからはそんな話は聞けなかった。話の食い違いが二つ。これは一体どういう事か考えてみました」

 ジンさんは黙したまま酒ではなくミルクを注ぐ。ミルクに口を付けると、視線でこちらに続きをと、俺の考えを聞かせよと訴えてくる。

「もしベルの記憶違いなら、緊急事態のパニックで記憶があやふやになっていたか、もしくはこちらの想像を絶するバカだった、というだけで話は終わります」

 だがそれは違うと言い切れる。あれほど冷静に立ち回っていたベルならそんなミスは冒さないだろうし、そこまで愚かなわけでもない。事件当日に聞いた話なのだから、記憶違いというのも考えにくい。

「しかしそうではなく、ディールさんとボーラン領主の二人、つまり大人たちの発言が間違い――正確には嘘、だと仮定したならば話は大きく変わってきます。それこそ、事件の全容すらも」

「続けて」

 その態度はまるで、生徒の回答を聞く教師のよう。

「俺に嘘を吐いた理由は、ベルの助けに向かわせるため。実際二人の嘘は俺を動かし、迷宮へと誘導するものでした。それはつまり、ベルが迷宮で襲われる(・・・・・・・・・・)ことが分かっていたということです。少なくとも俺の元に来て話を振ったボーラン領主は把握していたはずです」

 あの日俺が薬屋に居たのはコットン婆さんの依頼を受けていたから。それを考えるとコットン婆さんも協力者の一人だと考える方が自然だ。

 話を続けていく。

「誘拐事件の始まりは、領主の屋敷でベルを連れ去る所から。ではそもそも何でベルは奴らに付いていったのか? 一つは領主があっさりと彼らに引き渡したから。もう一つの理由は――」

「――俺が消えたから、だな」

「その通り」


 ジンさん一人で事足りるベルの護衛。この人が居たらベルにちょっかいを出すこともなかったろう。ベルの発言から相当警戒してのも分かっている。そのジンさんが消えた。相手にとって余りに都合が良すぎる。それだけじゃない。

「ジンさん、消えることをそれとなく誘拐犯たちに伝えてたでしょ? じゃなきゃあそこまでタイミング良く犯行に移せない」

「んー、どうだったかのう?」

 誤魔化すようにフィルティッシュをつまみ始めた。まったく誤魔化せてはないけど。

「まあそれはいいです。ジンさんと領主が絡んでいるなら、門番の兵士たちに言い付けることも簡単でしょう。こうして犯人たちは罠だとも知らずに犯行に移したわけです。そしてジンさんたちの目的は先ほども言ったように、ベルの特訓です。てっとり早くベルに単独での実戦を経験させたかったんですよね? ついでに俺の戦力を確認ってところですか?」

「なるほどのぅ。だがそれは危険性が高すぎんか? ボーランの奴がその計画を知っていたとしたら、ベルを危険に巻き込むようなことを見過ごすとは、到底思えんがな」

「ええ、そう思います。だからそれを許可するぐらいの保険が領主にはあったんだと思います」

「なんじゃそれは?」

「ご冗談を。ご存知なくせに」

 そう言って人差し指を伸ばし、突きつける。

「領主の保険はジンさん。貴方でしょう?」

 その先にあるのは、弟子同様に不敵な笑みを浮かべる、ジンさんの顔。


「ジンさんが屋敷から去り、犯人たちを誘ったのち、密かにベルたちの後を追ったんじゃないんですか? 何かあったときすぐ救出できるように。思ってたんですよね。シグマに追い詰められ絶体絶命のピンチに登場。ちょっとタイミング良すぎません?」

 もしこの仮説が正しいのなら、ジンさんは殺されそうなところでギリギリ間に合ったのではなく、殺されそうになるまでただじっと見ていた(・・・・・・・・・)ってことになる。最初の印象と雲泥の差だ。

「ふむぅ、なるほどなぁ。良く気付いたのぉ」

「それは、認めたってことでいいんですよね?」

「うーん、酒の席だからなぁ。何言ったか覚えてないだろうし、真実かどうかも分からずじまいだろうなぁ」

「あっ、そうすか、わっかりましたー」

 もう何て言っても無駄だろうなぁ。まあ認めてはくれないが話はしてくれるって感じかな。

 大体聞きたいことは聞けたし、真面目モードはもう終わりにしよう。

「この計画を組んだのはジンさんとハゲ領主の二人?」

「そうじゃ。ババアとディールにはちょっと協力してもらい、部下たちは命令されただけ。主犯と言えるのは俺とボーランじゃのう。一応、王様ちゃんにも許可はもらっとるぞ?」

 良く許可が下りたな。特にソート将軍なんか厳しいと思うんだけど。

「ソートの奴は煩く言うてきたがな」

 あ、やっぱり。

「リュークは何も言わなかったの?」

「坊主、お前が付いているなら良しというお言葉を頂いたわ。信頼されとるのぅ坊主~」

 うるせぇよ。

「最後にはソートからも許可を分捕ってきた。ボーランのハゲは同時に諜報員のあぶり出しも計画してて、それを伝えたら渋々許可したよ」

 ほー。やっぱ領主やってるだけあって、ボーランさんはバカでも無能でもなかったみたいだな。ハゲてるみたいだけど。


「にしても実戦が一番だからって、あまりに急すぎない?  ていうか、俺に一言くらいあっても良かったでしょ?」

「そうはいかん。いざという場面、逃げ出すような輩に任せるわけにはいかんからなぁ。それを見極めるいい機会だとも思ったのよ」

 そのジンさんの心配を鼻で笑う。

「有り得ん。出会った当初ならともかく、今となっては」

「その根拠ってのは、あるかい?」

 腕を組みふんぞり返り、きっぱりと言い切る。

「んなもんねーよ。ただ俺が、兄妹のことを助けたいだけ。それだけじゃ不十分か?」

 ジンさんやベルのように不遜に、ふてぶてしく発言した俺を見て、ジンさんは笑う。何の意も含まない、どこかさっぱりとした笑みで。

「もう知っとるよ。十分に、な」

 ジンさんは俺のカップにミルクを注ぎ込む。それを受けて俺もジンさんのカップにワインを酌んで、再びカップを合わせたのだった。


 ジンさんとのささやかな宴会が終わって、明くる日。

 カレスの街で起こったベル誘拐騒動にも決着がつき、王都の方でも非公式な使節団が帰国の途に着いたため、ベルも王都に戻ることとなった。

 街の外には屋根や壁面、車輪に至るまでたっぷりと装飾された馬車が用意され、ベルの乗車を待ちわびていた。VIPが利用する以上、多くの護衛が馬車の周囲で待機していた。ソート将軍直下の兵士で、ジンさんがその身元を認めている。

「ボーランさん、師匠、ユナさんたちも。今までありがとうございました」

 王妹の移動ということもあって、見送りにはジンさんたちだけではなく、領主たるボーランさん一行も駈けつけていた。

 別れの言葉を受けたボーランさんは事件の謝罪と再びの訪問、ジンさんは王都で鍛錬するときの注意を告げ、三人組はただただ惜別の言葉を送っていた。特に、最初抱いていた王族に対する遠慮はどっかに消えてしまったユナは、ベルに思いっきり抱き着いていた。

「王都での生活が大変だったり苛められたりしたら、いつでもこっちに帰ってきていいんだからね?」

 ベルを苛めようなどと思う奴は多くないと思うぞ。ベルも苦笑いを浮かべてるし。

 

「さ、それじゃあ行くわよ。エイナ」

 たっぷりと別れを惜しんだベルは、そう告げて馬車に乗り込んだ。

「ほいほい。ったく、探索許可貰ってばかりだっつうのに。リュークの奴め」

 ベル護衛の仕事が終わり、いざ迷宮へ! と意気込んでいたところに、リュークから王都に来るよう伝言が来た。伝言とは言ったがそこは王のお言葉。使者は命令同様の口調で告げてきたが。

 一応、客人兼友人身分として馬車に同乗できることとなってはいる。トラブルがあったらベルを守らなければいけないんだろうが。便利に使われている感は否めんな・

「そんじゃあ、行ってきまーす」

 カレスの街に残る人たちに軽い言葉で別れを告げて、馬車に乗り込むのだった。


 流石に王族が乗る馬車。今まで乗ったこの世界のどの馬車より振動が少なく、流石の乗り心地。柔かいクッション越しに微かに伝わる振動はむしろ眠気を誘う。

「ふわぁぁ~~」

 向かいに座るベルも大きなあくびを出す。口を押さえてはいるが傍に控えている侍女さんに見咎められている。

「今日から三日かかるし、疲れてんなら寝た方が良いんじゃねえか? 何もないとは限らんからな」

 何かあるかもしれない、という俺の言葉を聞いて侍女がこちらを睨みつけてくる。縁起ではないだろうが事実だ。流石に起こるとは思わないけど。

「そうね。それじゃお言葉に甘えようかな」

 寝ることを決めたベルの言葉を聞いて侍女が席を立ち、馬車の隅に向かった。そこに備え付けられた毛布を取りにいったようだ。それと同時に、何故かベルも席を立ち、こちらに来て、俺の隣に座った。そしてクッションの位置を整えると、俺の膝を枕にして寝転がった。

「おーい? 何してんですかベルさんや?」

「え? 寝るつもりだけど?」

 そう言う意味じゃねーよ!

 ほら、毛布を持った侍女さんが物凄い目でこちらを睨んできてるんですけど! 何か魔墨が溢れてるきがするんですけど!!

「寝るの提案したのエイナじゃない」

「自分の席で寝ろ。そして彼女の膝を枕にするがいい。その柔らかさは雲泥のはずだ」

 見ろ。侍女が何回も頷いているぞ。あちらに戻るがいい。

「それはそうなんだろうけど。……エイナ、私はいつかアンタに借りを返すわ」

「返さなくていいよ永遠に」

 いやマジで。

「押し付けるから構わないわ。まあとにかく、それまでは沢山アンタのお世話になると思う。だからこれもその一つだと思って」

「膝枕も世話の一つなのかよ」

 そう愚痴りながらベルの顔を見下ろすと、ベルが真っ直ぐとこちらを見返し――

「それにエイナなら、何かあっても、守ってくれるでしょ?」

 ――満面の笑みを浮かべながら、そう言ってきた。

 口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し、結局は諦めて頭を掻き毟った。

「わかったわかった。もう寝てろ。但しなんかあったら叩き起こすからな」

「りょ~かいっ!それじゃあお休みね。エイナ」

 そして目を瞑り、すぐに眠りに落ちた。


 侍女が体に毛布を掛ける際に思いっきり睨まれた気がしたが、そちらを見ていないので真相は分からない。

 膝の上に乗るベルの寝顔を見て、思わず溜め息が出る。と同時に、何となくむず痒い感覚に陥り、何となくベルの頭を撫で始める。

 サラサラとする髪の感触、手と太腿から感じるベルの温もりが伝わってくる。

「……ふん」

 せっかくの二度目の人生。自分のために生きようとは思うが、これぐらいの信頼になら応えようかな。

 少なくとも、幸せそうに晒された、この無防備な寝顔の分くらいは。

 

 

 なお、俺と侍女さんの間に流れる空気が最悪なものとなったのは、言うまでもない。

二話目は一時間程ののちに投稿します

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