忍者、信頼される
庭を囲うようにしてある、王宮と王城の境目の廊下、ちょうどカンタールと戦った場所近くの建物の屋上で、決闘を観察させてもらっていた。『虎の魂』をブーストして、遠くでありながら詳細に決闘を観察することができた。
止むことのない新たな王への賛辞、リュークへの称賛の声がうるさくなってきたので、スキルブーストを止め、平常時に戻る。それでもその声は俺の耳に入ってくるほど大きかった。この音以上にソート将軍の声が大きいという事実にはビビるほかないが。
「結構やばかったが、どうにかこうにか間に合ったか」
かなり際どく、正直冷や汗ものだったが、なんとかリュークが王となる姿を見届けることができたか。
「ま、よくやったんじゃねーの。リューク」
そして俺は踵を返し、城から姿を消した。
明くる日。
王都の下から二番目に酷かった宿。昨晩の火事で最下位が消えたので、現在堂々の最下位の位置する宿で一夜を過ごした。時間も時間だったためチェックインなどもせず雑魚寝部屋に侵入し、夜が明けてから頃合いを見て抜け出した。
街では、昨夜に起こった最底辺の宿での火事についての噂で持ちきりだった。
幸いにして死者は出なかったが、その出火原因は放火かただの不始末なのか、何故周りの家屋に被害が出ていないのか、放火なら犯人は捕まっているのか、など様々な疑問を基本として、放火魔による連続事件の幕開け説や犯人は隣国の人間で、戦争のための前準備だったのではという他国からの工作論、果てには昨日の王城襲撃犯による陽動作戦などではという話まで出ていた。まあそのうち一つは正鵠を射ているのだがな。
ただそのおかげで、昨日の王城での出来事があまり話題に上がっていない。本来なら王が交代したなんて情報は、ビッグニュースとして市井を駆け巡ってもおかしくないのに、どうやら身近に起こった事件の方が、人々の関心を集めるらしいな。
それでも、いずれ行われる戴冠式か即位式かの報せで、民衆にも知られることになるだろう。それも、王子であったガーフではなく、一平民に過ぎなかったリュークの即位だ。人々は、最も自分たちに近いところに居た王に期待することになるだろう。より暮らしやすい国になることを。
昼過ぎまでプラプラと街を散策したあと、王城へと参上した。城門前はやや混雑しているようだ。身形を見る限りでは、貴族ではないがただの平民でもなく、王の訃報と新王の即位を耳聡く聞きつけ、お悔みとお祝いのついでに、新王との接点を作りたい商人やら街の有力者たち、といった所だろう。まあ色々やらかした後なので、門前払いを食らっているようだが。
その人たちの隙間をすり抜けて、その人々を押し留めている門番の人に声を掛ける。
「すいませ~ん、ちょっと通りますねっと」
「いやいやいや、待て待て待て! なんだお前は!?」
「何自然と俺たちの隙間を通ろうとしている!?」
む、これはいかんな。最近タメ口とか多かったから、ついその調子で進もうとしてしまった。失敗失敗。
「これは失礼しました。僕は本日未明に、新たに即位なされた王の知人で、エイナと申します。登城するようにとのご通達がありましたので、参上した次第であります。ご連絡は頂いておりませんか?」
完璧な対応。これで問題ないはずだ。
「ないな」
「そうですか、それでは入場させて頂き……今なんと?」
知らぬ間に『虎の魂』の魔力供給を止めてしまったかな。急に耳が遠くなってしまった。
「そのような通達は来ていない、と言ったんだ」
……聞き間違いではなかった。もしかしてちょっと違う形で連絡が来てるのかも。
「獣人の子供が訪ねてくるとか、王に客がいるとか、その手の連絡もなかったですか?」
「お前、聞いているか?」
「いや、初耳だ」
……なぜだ。
ちゃんと今日の昼ごろ城に行くとメッセージを残してただろうが! 命令系統がすぐさま機能しないだろうから、時間的な余裕を持てるように昼に指定したのに! 俺の気遣いを返せ!
ま、待てよ? まさかあいつら、報酬を踏み倒すつもりじゃなかろうな!? そうだ、それなら辻褄が合うぞ! 俺の働きが素晴らしすぎたから、それに見合うものを用意できずに、知らぬ存ぜぬを通すつもりか! させん、させんぞぉ……!
い、いや、その考えは早計に過ぎるぞ。まずは確認。暴れるのはそれからだ。
「申し訳ありませんが、リューク王に取り次ぎ願えませんか?」
「どこで王のお名前を聞いたのかは知らんが、お前みたいな子供が王に会えるわけないだろ」
「俺たちも忙しいんだ。何処の者の使いかは知らんが、さっさと去れ」
そうか、確認不可と。
よし、暴れよう。
「うおぉー! 道を開けろ!」
「うお!? 何だこいつ?」
「取りあえず取り押さえろ!」
ふはは、遅い遅い。
周りにいた他の衛兵たちも取り押さえようと群がってくるが、所詮は一対一の連続である。伸ばされた腕を引っ張る。踏み込んだ足を払う。潜り込み投げ飛ばす。殺さぬように気を付けて、地面に転がしていく。いつの間にか始まった大立ち回りに、門番に文句を言っていた群衆たちも興奮しているようだ。好き勝手な歓声を上げている。
その場にいた門番を全て倒すと同時、詰所のようなところから、異常を察した門番たちが現れた。人々は更なる殺陣を期待して囃し立てるが、俺の狙いは暴れることではなく、王城に入ること。その場に残った一切合財を無視して、城門を目指す。
城内に入ればこちらのモノよ。待ってろリューク! 必ず報酬は頂いてやる。
城への侵入を果たす--
「何やってるのよアンタ?」
--直前、声を掛けられた。
「刺客でございます! お逃げくださいベルベット様!」
掛けてきたのは、今となっては王の妹に有らせられる、ベルベット。その傍には、ソート将軍が。他称刺客である俺に立ちふさがり、ベルや将軍を守ろうとする、職務に忠実な門番たち。
「何があったお前たち?」
ソート将軍が、俺と俺を囲んで槍を突きつける門番たちに問いかける。ふむ、どういったものか。
「この少年がいきなり城に侵入しようとし、我々に暴行を働いたのです」
「ホントなの……でしょうね。エイナの場合は」
門番たちの言を聞いて、ベルが呆れた様に言ってくるが、そういう方向での信頼ならいらないぞ。
しかしここで弁明の一つも上げておかないと、俺が全面的に悪くなってしまう。まずは言い訳だ。
「いやちがうぞ。こいつらが俺の訪問を知らないとか抜かし、さらには通さないなんてほざくから、ちょちょいと押し通ろうとしただけだ」
「なにが『だけ』なのよ! アンタがしているのって、討ち入りとか盗賊みたいなものじゃない!」
まるで俺が強盗のような言われ方だな。これは俺の名誉に賭けて認めるわけにはいかない。
「違う! ちょっとダイナミックにお邪魔しただけだ! そもそもだ! 子供の俺に負けるようなものたちが門番をしていて良いのか!? 俺が善良な一民間人だったから良かったものの、本当に刺客だったらどうするつもりだ!? 今この段階でそれが分かったんだから、むしろ俺を褒めろ!!」
「エイナ相手では厳しいとは思うが、まあ、それは一理あるか。後でもっと激しい訓練を考えよう」
「ちょっ! 将軍!?」
「丸め込まれないでくださいソートさん!」
ちっ。ベルは騙せなかったか。まあいい。取りあえずうやむやにはできたか。
「というか門番の人たちはアンタが来るのを知らなかったんだから、しょうがないでしょ」
「そう、そこだよ。城に行くって伝えてたよね俺? 何でそれが伝えられてないんだよ」
そこさえしっかり伝えとけばこんなことにならなかったのに。
それを聞いたベルは呆れた様に溜め息を吐き、仕方なさそうに口を動かした。
「だから私と将軍がここに来たのよ。アンタを迎えにね」
行きましょう、と言って踵を返したベルの後を追って城に入っていった。
「お前らが俺を迎えに来たのは分かったけど、別に門番に言づけてもよかったんじゃね?」
リュークが居るという執務室に向かう最中、ベルに聞いてみる。
あの騒ぎの後、俺を連れていこうとした二人を見て、門番の人たちが必死に止めようとしていたが、新たな王であるリュークの知り合いであるとして、入城を果たした。その時、将軍にキツイ訓練を言い渡されて浮かべた、彼らの絶望の表情は忘れられない。
「言ってても、手続きやら検査やらで時間がとられるのだから、自分たちが直接迎えに行けばいいと思ってたのよ。まさかそうそう騒ぎを起こさないと考えていたけど、見通しが甘かったようね」
「甘かったのは見通しじゃなく、奴らの訓練量じゃないのか?」
「どれだけ激辛にしてもアンタに勝てるイメージが浮かばないのだけれど」
「そりゃ想像力が乏しいんだろう。あと脳みそか」
「後者に関しては余計よ! というかアンタの場合、忍耐とか我慢が無いんじゃない!? 普通あそこで暴れないわよ?」
「ははっ。恐いものだな。そういう無茶をさせてしまう、若さというものは」
「若さじゃなくて幼さの間違いじゃない?」
「ベルベット様。エイナもだが、到着しましたぞ」
こんなくだらないやり取りをしている間に、執務室にまで到着しているようだ。
将軍が室内に断りを入れて、扉を開いた。
そこにいたのは、目の下にクマを作って書類を書き続けているリュークと少年。そして一人だけピンピンと仕事をしている老人だけだ。この老人は確か昨日決闘の立会いを務めていた爺さんだな。少年に至っては決闘の相手のガーフ王子じゃないか。正確には元、王子だが。
「おう、来たか。エイナ」
威厳たっぷりに話しかけてきたリュークだったが、目の下にでっかいクマを作っている現在では威厳など微塵もありもしなかった。
「へぇ。こいつがお前が言ってた友人とやら」
それを聞いて元王子のガーフが反応した。こいつもお貴族様オーラを出そうとして、目のクマで失敗しているパターンだな。
それにしても、友人、か。リュークが俺の友達、ねぇ。毎度毎度、友達ってのは、いつの間にか出来ている者だな。俺の前世の友人も、そんな感じだったな。
「知らぬ者いるから紹介させていただくが、この者がエイナだ。昨晩の影の功労者、といった所か」
少し呆けている間に、場は俺の紹介に移っているようだ。知らない人と言っても、元王子と爺さんだけなのだがな。
「紹介に預かったエイナというものだ。以後よろしく」
リュークの言葉を継いで簡単に紹介をする。
「本当にエイナって名前なのか。変な名前だな」
俺の紹介を聞き、元王子がそう言ってくる。毎度のことだが、そんなに変か?俺の名前は。
「貴様が儂のカンタークを殺した男だというのか? まだ少年ではないか」
次いで老人が話しかけてくる。儂のカンタークを、と言う発言から、こいつが国務大臣ってやつか。
「確かにカンタールを殺したのは俺だ。文句あるか?」
「いや、ないぞ。こちらも殺害指令を出してあの男を配置した。ならば当然返り討ちになる可能性があることは承知している。ただ奴は強い。貴様のような少年に殺されるとは、想像しがたい」
「単純に俺のほうが奴より強かった。それだけの話だよ爺さん」
大臣が放つオーラは前世の特権階級と言うより、叩き上げのエリートが放つものと似ている。いわゆる出来る男というものだ。そのオーラが威圧するように俺に叩きつけられる。並のモノならば足に響くほど精神的に追い詰められるそれを、軽く受け流す。それを見て器用に片眉を上げて、目を軽く見張った。
「大臣もお気に入りが殺されたからって、そんな威圧しない」
元王子のその言葉で、あっさりと気配を引っ込めた。怒りの余りというより、試されただけって感じだな。
「それよりこちらも自己紹介をしよう。俺はガーフ・レーベンス。この国の元王子だ。そっちの煩い爺さんはヤーラッド・カッツォオリ。今も昔も国務大臣を務めている。よろしくなエイナ」
「ふん、煩いは余計ですぞ、おう、んんっ。ガーフ殿」
さらりと元王子、いやガーフが自分たちを紹介をした。
「ガーフ。俺はお前が玉座を狙うリュークを恨んでいるって聞いてんだが、違うのか?」
「うーん。誰から聞いたのかは知らんが、別に恨んではいないぞ。継承順位に関しては、単純にリュークの方が王として相応しいと神が判断したことなのだろうし。ただ俺に期待を掛けている人間がいたというのも事実だから、その者達に報いようとはしたな」
結果的に負けてしまったがな、と苦笑を浮かべる元王子さま。
「まあ恨んでいる云々に関しては、根も葉もない噂だということで、理解してもらいたい」
その声には怨嗟や悔恨などは含まれておらず、言葉通りの受け取って問題ないだろう。昨晩の言葉通り、真にリュークの家臣として生きるつもりのようだ。
王子は恨んでいる。そういった張本人に視線を向けると、気まずそうに目線を逸らされた。
「それより兄さん! 聞いてください!」
そう言って、先ほど城門での出来事を話し始めた。
それを聞いてリュークは、いや室内にいた三人は全員呆れたような声を上げた。
「なにをやってるんだ、お前は」
「いや、仕方ないだろう? 門番に伝達されてると思ってんだから。廊下にちゃんと伝言は残してただろ?」
「ああ、血文字という、感性を疑う様な手法で書かれた伝言ならな」
「しかもアンタが殺した獣人の死体が側にあるっていうオマケつきでね」
仕方ないだろ。あの場にはインクとかなかったんだから。血で代用しただけだし。
「内容も内容だったな。『獣人倒したことだし、疲れて眠いから帰るね。明日の昼ごろにまた城に来るから』。最後に良く分からん文字で書かれた言葉もあったが、どうせ碌なことではないだろう?」
テヘぺロはどこでも使える、便利なツールですよ。
「生憎とこちらは今、王が変わったことでやらねばならぬことが満載なのだ。五剣公を筆頭とした国内貴族への周知、政治体制やその他組織の改編、税率の変化、他国への声明文、また病床に臥せっていたため滞っていた各種書類など、様々にな。そしてその後にはリューク陛下への帝王学を初めとした学問の勉強が待っておる。大至急、他の五剣公たちも呼び出して国内の再編成を行わなければならない。正直貴様の相手をしている時間すらもったいないのだ。用事が済んだらさっさと帰れ」
ヤーラッド国務大臣が、すぐに片づけねばならない問題を列挙していく。どれも放置すれば今後の国家運営に支障をきたすものばかりだ。
「正直、色々と準備自体はしていたのだが、俺が即位すること前提で作られた書類ばかりで、今となってはそれらは水泡に帰してしまったのだ」
ガーフが裏話をぶっちゃける。まあ普通色々準備してしかるべきだしな。
まあそんなことはどうでもいい。
「生憎俺は愚痴を聞きに来たわけではなくてな。報酬を貰いにきたんだよ」
雇われたときにした約束。忘れたわけではあるまいな。
「つーわけで、くれ」
手を伸ばして要求する。
「いや、お前リュークの友達なんだろ? そういうのは要求しなくていいんじゃないか?」
ガーフが何か言っているが、知ったことではない。俺を雇った以上、それを払ってもらうのは当然だ。
「気にするなガーフ。親しき仲にも礼儀あり、だ。当然払うが、どんなものがいいんだ?」
至極あっさりと払うと言ったリューク。その眼には確かな感謝が浮かんでいた。
……正直かなり吹っかけるつもりでいたが、止めておこう。
友達、だもんな。
「ま、迷宮とか行くつもりだし、カンタールのせいで剣もボロボロなもんだから、質の良い剣さえあればそれでいいよ」
視線を閉じて、少しぶっきらぼうに言い放つ。別に照れ隠しとかではない。決して。
「やはり迷宮に潜るか。剣はソート将軍に任せるとして、あれも一緒に持ってきてくれないか」
ソート将軍に持ってくるように命じるリューク。王様に必須な、人を使うというスキルを、自然と出せるようになっている。既にこいつも王様らしくなっているんだな。目のクマで台無しだけど。
待つこと少し。
俺の前には二つの物体が並んでいる。
一つは俺が要求した剣。もう一つは一見何の変哲もない、普通の皮袋であった。
「剣の方は宝物庫に眠っていたのを引っ張り出したものだ。銘は不明だが刀身から魔導具であることは分かると思う。剣としての強度は高いが、叩き斬るのではなく撫でるように斬るため、扱うのに相当な技量を要する。しかしカンタールの切り口を見る限りのお主の技量なら、然程問題あるまい。これを陛下からお前に下賜される剣だ。どうぞ、陛下」
「うむ、エイナ、ではこれを受け取れ」
「は、ありがたく頂戴いたします。リューク陛下」
「気持ち悪い。やめろエイナ」
「なんだよー。せっかく雰囲気出そうと思ってやったのに」
ソート将軍によって説明された剣を受け取り、眺める。子供の俺には当然長かったが、今までと同じなのでそこは問題ない。刀身は反り返っており、刀とシャムシールの中間のような剣であった。鞘から抜き放つと、その刀身には魔術式のようなものがびっしりと書き込まれていた。
鞘に納め、既に腰に昔の剣を差しているので、背負うようにして体に括り付ける。あとで腰に差し替えよう。
剣はこれでいい。なので視点は次の物、皮袋に方に移る。表面を見ても魔術式が書かれている風ではなく、特別な点は見受けられないが、これが一体何だというのだ?
今度はリュークが説明した。
「これは一見普通の皮袋だが、魔法の袋と呼ばれる道具だ。これは魔力を使わずとも、重さが変わらず、袋の中に許容量以上の物を入れることが出来るという袋だ」
まるでゲームのアイテム袋のような道具だが、気になる点が一つ。
「魔力を使わないって、どういうことだ?」
「分からん」
いや、分からんて。
「実際問題、分からんのだ。これは既存の魔導具ではない。シタンの魔女と呼ばれる、式も要らず魔力も使わぬ力、魔法を行使する者が作った魔法の道具ということしか。詳細不明なため複製することもできない、奇跡の道具だ」
シタンの魔女、ねぇ。随分と便利な物が作れる人間なようだな。いずれ会ってみたいものだ。
それは置いといて。
「なんでこんな貴重な道具を俺に渡すんだよ?」
この道具は国家運用でも悪用でも、どちらにも発揮できる道具だ。それを何故俺に渡す。
「実を言うとこの国には、それと同じ道具がもう一つあるんだ。よってそのうち一つを貸し与えることによって、有効活用しようと思ってな。迷宮に潜ると言っているが、お前の場合、最深部を目指しているんじゃないのか?」
「まあ、そうかな?」
「ならばそのとき倒した魔物の死体や、鉱石、薬草など、余すところなく回収し、持ち帰ってもらいたい。それを国に売ってもらいのだ」
それはつまり……。
「危険地帯の貴重品を回収して回るための袋を貸すから、取ってきて。ということで、OK?」
「うん、オウケイだ」
爽やかな笑顔で告げるリューク。こいつもなかなか無茶ぶりするな。
「それは構わぬのですがな陛下。もしこやつが死んだ場合どうするのですか? 迷宮の内部で貴重な魔法の袋を紛失する事態に陥りますぞ」
その大臣の言葉に、リュークは笑って答えた。
「大丈夫だ。リュークは必ず帰ってくる。必ずだ」
一国の王としては、あるまじき判断だろう。
しかし、友達からの、その信頼が、心地よくあるのも、また事実。
「安心しなよ大臣さん。俺は、生きて帰ってくるからよ」
だから言おう。
「裏切りたくないからな……友達の信頼は」
「……ちょっと気色悪いわエイナ」
「うるせぇ! 柄じゃないのは分かっとるわ!」
「あーもう!お前のおかげでとんだ恥を掻いた!」
「ははっ。それは良い経験が出来たな」
「うるせぇやい。ベルにはキモがられるわ、ガーフには大爆笑されるわ。ソートなんぞ剣に手ぇかけてたぞ」
「ああ、あれは驚きだったな」
リュークとの連れションの最中、先ほどの辱めについて話し合った。思い出すだけで顔が熱くなる。
「……なあ、エイナ」
俺がどうにか黒歴史を封印しようとしているとき、リュークが声を掛けてきた。普通とは違う、重く、深刻そうな声だった。
「どうしたリューク」
「……昨夜での決闘の最中、前王が急死して、僕は王となった」
「それは幸運だったな」
「ああ。間が良かった。いや、間が良すぎた」
! こいつ、まさか……。
「あと一、二ヶ月ほどは生きると言われていた王が、決闘の最中に死んでしまった。都合よくな。これがただの偶然ならいい。しかし、どうしても人為的なものだと勘ぐってしまったのだ。外傷もなく薬物も使わず、決闘の最中にどうやって殺したのかは知らないが」
「……それが事実なら、どうしたいんだ?」
「何もしない。ただ、ありがとう。そして、僕のためにそのようなことをさせて、すまなかった。そして……」
「そして?」
一瞬間を置き、こちらを見て。
「僕の信頼は、変わることはないということ、を伝えたい。」
「……そっか。届くといいな」
「……ああ、そうだな」
それ以降話すことなく、俺たちは二人、廊下を歩く。
昨日あんな事件があったにも関わらず、俺たちの周りは静かで、人の気配も隣に立つ者以外にはなかったが、それが存外に、悪いものではなかった。




