再会・3
ラルフは村中を周り、再会を喜びあったり不吉な物言いを不審がられたりしながら、酒場に戻った。室内は薄暗くなっていて、ラルフは視界が慣れずまばたきを繰り返した。すると、もうじき開店の時間のはずなのに先程の場所で佇んでいるシーナが目に入った。
「ただいま、シーナ」
「ラルフ」
ラルフはランプに火を灯す。室内を照らす明かりがシーナの姿をはっきり映し出した。
「ラルフ、さっきの話だけど。……本当なの?」
その表情は先程とは打って変わって深刻だ。どうやらずっと考え込んでいたらしい。
「本当だと俺は信じてるよ。まあ多少は猶予があると思うけど、この村には戦力はないから逃げるしか方法が無いと思ってる。シーナは、……逃げるよな」
シーナの両肩を掴んでじっと見つめると、彼女は戸惑ったように目を逸らした。
「でもあの、そんなすぐじゃなくていいよね。私、待ってる人がいて。……あと数日で戻ってくると思うの。それまで……ここにいてもいいよね」
ランプに照らされたからだけではなく、シーナの頬が染まる。ラルフは胸が詰まった。
待ってる人の見当はつく。おそらく、ガイアのことだろう。シーナがいくら待とうとも、彼は戻らない。ラルフの体の上で彼は最期の時を終えた。
「待ってる余裕なんて……」
無い。しかし、顔を歪めるシーナに言葉が続けられなかった。いつも姉らしく堂々としていたシーナが見せた不安げな表情は、女性としての顔だった。
「……二日が限度だ。それ以上は待てない」
それ以上強くいうことも出来ずに、ラルフは曖昧な返事に逃げた。シーナはあからさまにホッとした表情を浮かべる。胸が軋んで、重たい石が体にのしかかったきた気分になった。
――やはり本当のことを言おうか。
迷いつつポケットに入れた懐中時計を固く握りしめたその時、不意に扉が開き村人数人が雪崩れ込んできた。
「邪魔するよー」
「まだ開いてないのか、シーナ。開店時間だぞ?」
「あ、そうね。いらっしゃい。みんな」
遠慮もない村人たちは各自勝手に席に座り、シーナは慌ててグラスを取り出した。
「皆座って? すぐ飲み物出すわね」
「今日はたんまり飲むからな。ほら、ラルフも座れよ。お前の凱旋祝いだ」
「いや、皆そんな暇は……村が襲われるかもって言ってるだろう」
「今日は無礼講だー!」
ラルフの叫びは、まったくもって真剣に受け止められていなかった。もどかしくもなりつつ、変わらない村人の姿と迎えられた嬉しさに頬は緩む。
――一日くらいなら、大丈夫だろう。ガイアたちから聞いた開戦日にはまだ数日ある。
それはまさしく油断であったが、ラルフは懐かしい穏やかな村の雰囲気にすっかり呑まれてしまっていた。
結局、ラルフは率先して料理を運んだりグラスを運んだりとシーナを手伝い、酒場は近来にないほど賑わった。体の内側からじわじわと沸き立つ歓喜は懐かしさ故か。五年ぶりの自分を温かく迎え入れてくれるこの村が、やっぱり好きだとラルフは思う。
村人が帰りざわめきが遠ざかると、忘れかけていた腕の痛みを思い出す。シーナと一緒に片付けをしている途中あたりから立ちくらみを感じて、ラルフはそれとは気付かれないように椅子に座った。すると、シーナが薬箱を片手に近づいてくる。
「ラルフ、腕見せなさいよ」
「大丈夫だよ」
「いいから!」
無理矢理包帯を引き剥がされ、傷口を確認したシーナは顔を歪める。
「酷い。……これ、刃物の切り口じゃないわね。武器は何?」
「銃っていうやつだと思う。シーナは見たこともないだろ。金属製の弾を高速で飛ばす武器だ。殺傷力もさることながら、狙ってると気付かれずに攻撃できるのが強みだな」
「そんなので……。怪我がこれだけで済んでよかったわね。やっぱり危ないわよ、もう軍になんて戻らなきゃいいのに」
もう戻らない、と言うよりは戻れないのだが、ラルフはそれ以上は教えなかった。軍の対応の悪さをこれ以上語る気にならなかったのだ。
シーナは消毒をして再び包帯を巻くと、ラルフに以前の部屋をそのまま使うようにと言って自分も部屋に戻った。
ラルフはかつての自分の部屋をみて、目を丸くする。五年も帰っていなかったのに、部屋は以前のままの姿で埃一つ落ちていなかった。
「……参った」
気恥ずかしさに顔が赤くなり、誰が見ているわけでもないのに俯いた。
ラナもシーナも、ラルフを待っていてくれた。それが嬉しくも申し訳なくもあり、ラルフは複雑な気持ちで眠りについた。




