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訓練・2

 出発当日は快晴だった。見上げれば目を細めてしまうほど空は眩しく、日光があたった辺りはジリジリと暑い。

この辺りの気候は年間を通してもあまり変化は無い。日が出れば暑いし、逆に夜は底冷えするほど寒い。一日の温度変化が大きいのは体力を消耗する。少し暗い曇っててくれればいいのに、とラルフは軽く舌打ちした。


 森の入口まで移動するまでの二時間はイータがどうでもいいような話続け、それなりに賑やかに移動していたが、森に入ると同時にやめさせた。ラルフは一度全員を集合させ、一人一人を見回して告げた。


「ここからは森に入る。一年前の地形図を元に、補給用の山小屋二軒と、北西にのびる獣道がまだ使えるかを確認することが任務だ。緊急時はイータが本部に戻って報告すること。一人で戻るのが危険だと判断された場合は、コルトが一緒に行くこととする。俺やコルトに何かあった場合は、残った方は速やかに全員を連れて軍までもどること。助けようとは思わなくていい。いいか?」

「おう」


 コルトが答え、タクミとイータが頷く。一人だけ返事が無いのが気になり、ラルフは伺うようにセシルを見る。


「……セシルもいいか?」

「え、あ、はい。すみません」


 セシルがはっとしたように顔をあげた。どうやらちゃんと聞いていなかったらしい。


「内容はわかってるか?」

「分かってます。山小屋二軒と獣道の確認ですよね」

「そうだ。……疲れたか? お前、あんまり話さないからなぁ。疲れたらちゃんと言えよ」

「いえ、自分は大丈夫です」


 表情を変えずにセシルは頷く。そう言い切られてしまうとそれ以上突っ込むわけにもいかず、ラルフはきっと大丈夫だろうと無理矢理に自分を納得させた。


「じゃあ出発。国境近くだから皆余計なおしゃべりは禁物だ。できるだけ物音を立てずに動けよ」


 森に入ると、日影ができるためか涼しかった。楽になってようやくこれまでが辛かったことに気づく。数日快晴が続いているためか足場も良く、コルトじゃなくてもピクニック気分になりそうなところだ。

 無言のまま歩きながら、ラルフはセシルの背中にある長い銃が気になった。普段、軍で使用しているものはもっと筒の部分が短かったはずだ。銃はラルフには専門外になるため良くは知らないが、軍部でそんな長い銃を使っているものは見たことが無い。

 ラルフはセシルの横につき、小さな声で尋ねた。


「なあ、セシルのその武器は支給品か?」


 セシルはちらりとラルフを見上げると、淡々とした調子で呟く。


「これは自前です。『ライフル』と呼ばれるもので大陸から輸入したものです。北の大陸では一般的に広まっている銃なんですよ。遠くの敵を狙い撃ちするためのもので、射程距離が広いので役に立つかと思って」

「そんなものどうやって手に入れたんだ」

「ウチの父は交易商なので。軍での使用許可はちゃんととっていますよ。現に銃弾に関しては軍で仕入れてもらっているんです」

「へぇ」


 銃にもそんなに種類があるとは知らなかった。この島の戦闘ではあまり銃は使われていなかった。しかし、こうしてセシルのような人間が軍部入りしているところを見ると、上層部は今後は銃による抗争も視野には入れているということなのだろうか。


「セシルはいつから銃を使ってるんだ?」

「自分は物心ついたときからです。剣術よりも得意ですから、入隊するときにアピールしたんですよ。そうしたら狙撃手として採用してもらえたんです」

「へぇ、そうだったんだ。俺、同期なのに知らなかった」


 タクミが大きな声で割って入ってきたので、ラルフはトーンを抑えるよう手振りで示す。タクミはペコリと頭を下げると、ラルフとは反対側のセシルの隣を並んで歩いた。。


「誰も聞かなかったから話してないだけ」


 セシルは、タクミにも無表情で答えた。同期との会話でこうなのだから、もしかするとセシルは仲間内では浮いているのかもしれない。


「そう考えると、剣ってのも時代遅れなのかなぁ」


 コルトが脇から自分の剣を抜き出し、ヒュッと音がたつくらいの速さで振り回した。近くを歩いていたイータがギョッとして避ける。


「コルト副隊長! 殺す気ですか。 急に振り回さないでくださいよ」

「イータ、声が大きいぞ。コルトもいきなり剣を抜くな」

「悪い悪い、ところで、イータが得意な武器はなんなんだよ」

「どれも得意じゃないから、救護班なんですよ!」


 コルトとイータがぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。何度うるさいといえばいいのか。半ば呆れ気味にラルフは空を見上げた。トンビが円を描くように飛んでいる。鳥は自由だな、とその動きを見ながら思っていると、隣から甲高い口笛の音が聞こえる。



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