売れ残り
沈黙につつまれるリビング。
流し台の方から水滴の落ちる音が響く。
ち……沈黙が痛い。
りんに『勇者の証』の件について説明した。
最初はうんうん頷きながら聞いてたのだが、途中から視線をそらすように俯いて反応をしめさなくなったのだ。
さすがに、こんな話をいきなりしたら、引くよな。痛いよな。
せめて、「うそだ~」とか「何バカ言ってるの?」とか反応が欲しかった。
そうしたら、あのショボイ魔法でも見せて少しは納得させれたかもしれなかったのだが……。
まさか、こんな反応が返ってくるとは思っても見なかった。
完全にタイミングをはずした。
りん、何か反応してくれ。
うぅ……。
その思いに答えたのかは解らないが、りんはその顔をゆっくりと上げて視線をこちらに向けてくる。
その瞳は蔑む光を……たたえていない!?
な、何故。そんなにキラキラと輝かせてるんだ!?
「あおちゃん!私もやってみたい」
りんは、ものすごく興奮した表情で微塵の疑いもなく声を上げていた。
「…………」
う、あまりに予想外の反応でビックリしたぞ、りん。
あと、信じてくれた事はうれしいが、少しは疑いを持てよな、将来めちゃくちゃ心配だぞ。
「やりたい!やりたい!あおちゃん早く!!」
少し、唖然として固まってたらしい。気がついたら、りんが俺の手を取って引張っていた。
「はやく、はやく」
りん、急かすのはいいが、どこに行くのか?解ってるのか?
案の定りんは俺を廊下まで連れ出すと「で、どうするの?」とか聞いてきた。
おまえ、ちゃんと話し聞いてなかっただろ!
少しは聞けよな。
で、俺の部屋にやってきて、PCを立ち上げてるわけだが。
う~ん、どうしたものか。
後ろでは、ワクワク待ちきれない様子のりん。
そんなに期待させて悪いんだけど、俺も偶然みつけただけで、たどり着ける自信ないぞ。
そもそも、そんなに簡単にたどり着けるのなら、魔法が使えるようになったとか、強くなったとかもっと話題になってるはず。
そんな話は聞かない。ここニ三日ネットを見る時間は短くなってるが、それでも炎上が各地で起こるぐらいの話題性ではあるだろう。
前回見つけた辺りを探してみるが、案の定みつからない。
日数もほとんど経ってないし過去ログにとばされてるとも思えない。そこまで流れが速い場所じゃなかったはずだ。
一応、検索サイトをいくつか回ってしらべてみる。
それらしい場所は見つからない。
困ったな。後ろのりんは画面にかじりつかんとばかりに凝視してるし。期待がどんどん高まってる気がする。
どうしたものか。
質問サイトで聞いたらどうだろう。
『勇者に転職できるサイト知りませんか?』
だめだな、バカにされるか、真剣に病院進められそうだ。
あ、履歴しらべてみればいいのか。
4日前……あったあった。
これでどうだ?とクリックしてみるが、
『Not Found
***********************
***********************』
やっぱりつながらない。
最初の書き込みの履歴、リンクをたらいまわしにされた場所、最後にたどり着いたHP、全てにつながる事は無かった。
「あおちゃん、まだ? ねえ、まだ?」
りんの期待値がまた上がった気がする。
そろそろやばいな、本当にどうしたらいいんだ?
他に何か調べれそうなサイトあっただろうか?
ブックマークを片っ端から、探していく。
やっぱりないかとあきらめかけた時、ブックマークの一番したに『 』と言う感じの空白があった。
「なんだこれ?」
つぶやきながら試しにクリックしてみる。
すると、黒い壁紙に真ん中にポツン神殿がある捜し求めていたサイトにつながった。
「うわ、何か出てきた~」
りんが身を乗り出してくる。
「まてりん、パソコンに触るな! お前が触ると壊れる」
さすがに酷言い方に聞こえるが、りんがPCに触れると何故だか解らないが”物理的に”壊れるのだ。
最新ではないが、まだまだ現役のPCを壊されてはたまらない。
「もう、やってらやないぞ」
モニタの電源を落としながら、りんに向かって強い口調でいってやる。
「わ、わかった。触らない」
りんは一歩下がって、気をつけの姿勢を取る。
そこまでしろとはいってないが、まあいいだろう。
だが、サイトが見つかっただけで俺のときみたいに『勇者の証』が手にはいると決まったわけじゃないのだが。
もしGETできなかったらと考えると、少し不安だな。
モニタの電源を入れなおす。
当然シャットダウンしたわけではないので、真っ黒の背景に神殿のさっきのサイトの画面のままだ。
そういえば、この神殿、前の時よりみすぼらしくなってる気がするなと思いながら神殿をクリック。
心配は杞憂だったようで、記憶どおりの『転職の神殿』のHPだ。
色々な職業の証が売られている。
売られているのだが、いや売られていたと言った方がいいのかもしれない。
それは……。
「売り切ればっかりじゃない」
また身を乗り出してきたりんが耳もとでそうつぶやく。
そうなのだ、その画面には、
勇者の証:売り切れ、戦士の証:売り切れ、僧侶の証:売り切れ、魔法使いの証:売り切れ、狩人の証:売り切れ……。
表示される証がかたっぱしから売り切れになっていた。
なんと、あの二百万円と言う恐ろしい値段がついた魔王の証すら売り切れているのだ。
「みんな売り切れてる……」
後ろのりんの声が明らかに沈んでいる。
そして、一番最後までスクロールした時、まだ売れてない証をみつけた。
「ああああ~まだ残ってた~~」
一転して歓喜の声をあげるりん。耳元で大声をあげるなよ、少しうるさい。まあ解らないでもないが。
問題はその売れ残りだ。
ありえない値段設定だった。
最初500円の表記があったのだが、赤い二重線で取り消され。
30%OFFで350円。それもまた値引きされと言う感じで。
元の値段は500円
30%OFF→350円
さらに40%OFF→210円
さらにさらに50%OFF→105円
もってけ泥棒→10円
なんと最初の値段の1/50の値段まで値引きされて
「わー10円だ~。すごくお得だ~~」
そう、なんと10円にまで値引きされたのだった。
どんだけ人気の無い職業なんだとは思っただが、職業名をみて納得した。
それは……。
『遊び人の証』
最強のネタ職業だった。




