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2/22

始まり2

私はどうしたんだろう。

全身が痛い。まるでおし縮められたような感覚に捕われる。


交通事故にあったんだ。何か障害が残ってしまったのかもしれない。

そう思い恐る恐る目を開いてみたが。視界がはっきりしない。

目が慣れた頃、一人の知らないおじさんが顔をだした。

その顔はだらし無く緩み切っていて、なんだか怖い。

そしてこの、違和感。


「決めたぞ!そなたの名は『帰蝶』とする。」

はっ?それって私にいってるの?

私はちゃんと名前がある。あなたに名前をもらう筋合いなんてない。

しかも、勝手に決められても本当に困るから。

そう言おうとした。


「ぃゃー、あぁー」

……喋れない?

嫌な予感が私を襲った。

思い付いて手を持ち上げてみた。なかなかうまく上がらない。

勝手に私に名前をつけたおじさんが、私が手をあげようとしている事に気付き、手を引っ張ってくれた。

「帰蝶、そなた、名が気に入ったのか」

おじさんは満面の笑で問い掛ける。


そうでなくて。私は………

何も考えられない。

だってどうして?

なんで私の手はこんなに小さいの?まるで赤ちゃんみたいじゃない。

私の手はもっと大きくて、こんなにすべすべなんてしてないはずなのに。


私の頭を疑問だけが支配した。

赤ちゃんが異変を知らせるためには泣くしかなくて。

自然と泣き出していた。


するとおじさんは急いで私をあやしはじめた。

持ち上げられてさらに実感した。

私はおじさんの胸にすっぽりと入ってしまっている。

そして今さながらに気付いたこと。


このおじさんなんか怪しい格好してる。

だって普通、浴衣なんて着る?

私の中では浴衣はお祭りのときに着るものだ。

そして髪型。チョンマゲ?それに近い髪型だ。

時代劇見てるみたい。



あっ、これはすべて夢なんだ。

事故にあってその衝撃で夢をみてらいる。

絶対そうだ。

寝ったら夢が覚めるかもしれない。

何の根拠もなくそう思った。

そして私はすぐに実行にうつした。


私は今まで自分は『平凡』で『平均的』な人間だと思った。

だって東大に受かるほどの秀才ではないし、オリンピックにでるようなすごい運動神経を持っているわけじゃない。

モテるわけじゃないし、だからといって周りから後ろ指を指されるようなブスでもないと思う。

テストの点数は狙ってるのかというくらいに平均点をバンバンとる。

それなりに勉強して平均なのだ。

家だってたいしてお金を持ってないし、生活ができないほども困ってない。


だから分からない。私は自分に何の 不満があったのか。そんなことを思いながら高ぶる気持ちを押さえるように眠った。




やはり、目が覚めても場所や状況にたいして変わりはなかった。

一つ上げるとしたら女の人が増えただけ。

その女の人もさっきのおじさんと二人で私を愛おしそうに見ている。

女の人はやはり浴衣を着ている。

やっぱり私は、頭が変になっている。

私、実は妄想癖があったのかも。


女の人も私を『帰蝶』と呼ぶ。

私は自分の名前が消されたような、今までの自分を否定されたような気になった。

「帰蝶、そなたは斎藤家の大切な姫です。健やかにお育ちなさい。」


慈しみの目。


多分私は交通事故で死んでしまったのだろう。

そして、前世の記憶をもって、また生まれてきた。


つまり『私』は無くなり私の魂は転生し『帰蝶』になった。





このふたり。この子の父親と母親?


華道や茶道の家元とかは着ているイメージがある。きっと、次の私『帰蝶』はそんな家に産まれれたんだ。


……今度の『私』は幸せになるといい。


決して、私が不幸だったんじゃない。


けれど幸せでもなかった。


きっと、嫌気がさしていた。

何も喋らない、娘を見ようとしない父に。平均的な自分に。




赤ちゃんっていうのは不便な事ばかりだ。


例えば、トイレだって分かるのに、思い通りにいかない。


すぐに眠たくなるし、意志の疎通をはかることさえできない。


父親らしきひとは毎日『帰蝶』を見に来る。


赤ちゃんなんてみんな最初は猿みたいな顔なのに、『かわいい』という。



この人はきっと親バカになる。





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