第五話
お水を豪快に飲み干した不思議うさぎのアキくん。
その時、アキくんの身に猛烈な寒気が襲った模様でした。
ぶるぶると震えだすアキくんに柚里はどうしようとおろおろみつめるばかりでしたが、アキくんはそのままある所に猛ダッシュで走り出したのです!
そしてあるドアを前足でどんどんと叩き始めました。
そうしてようやく柚里はわかったのです。
アキくんがおトイレに行きたいのだということを。
もともとペットショップにはアキくんのゲージを買うつもりで行ったのです。だってゲージにはおトイレが付き物ですから。
けれどアキくんが気にいったお家がなかったものですから、すっかりそのことを失念してしまっていたのです。
ということは、考えてみたら昨日拾ったときから一度も用をたしていないということです。それは勘弁してほしいところでしょう。
どうりで必死でトイレのドアを叩いているはずです。
でもうさぎって人間のトイレで用を足せるのかな?
柚里は怪しみながらも不思議うさぎのアキくんのことですから、そんなこともあるのかもしれないとトイレのドアを開けてあげました。
すると、ささっとトイレに入ったかと思うと、反対側からちゃーんとトイレのドアを閉めて用を足し始めたようです。
訓練すればうさぎも一か所でトイレをするって『うさぎの飼い方』にはあったけれど、普通のトイレでするなんて思ってもみなかったな。
たった一日で随分とアキくんが変わったうさぎだということはわかった柚里ですが、これには本当にびっくりしてしまいました。
けれどこのおかげでお家の中に動物臭が籠らなくていいかも、なんてちょっと嬉しく思っていました。
ただアキくんは一人でトイレのドアを開けることはできないので、猫用の小さなドアをトイレに造る必要がありそうです。
結局アキくんをトイレから出してあげた後、柚里は道具を買いにホームセンターに行ってアキくんが柚里がいない時でも一人でトイレが出来るように猫用のドアがついたドアを用意したのでした。
さて、トイレの心配がなくなったアキくんですが、今度は食事の心配です。
新鮮な野菜をあげれば普通のうさぎだったら喜ぶものですが、アキくんはいかんせん、普通のうさぎではないようなのです。
人参は駄目でしたから、つぎにキャベツ、サラダ菜、ブロッコリーと、思いつくものをいろいろ食べさせようとしたのですが、アキくんは人参の時のように仕方なしに食べるという感じです。美味しいものを食べている感じではありませんでした。
それでもなんとか食べてはくれていたので、柚里は自分のご飯を作り始めました。
一人暮らしが長いと、凝った料理よりも簡単な料理を作るようになります。だって一生懸命作っても美味しいと言ってくれる人がいないのですから。
柚里も例にもれず、今日の昼ごはんはチャーハンと卵スープ。
それをテーブルに置いて食べようとした時のこと。
水を望んだ時のように、アキくんはじーっとそのチャーハンを見ていたのです。
「もしかして……もしかして、アキくんはこのチャーハンを食べたいの?」
するとどうでしょう!
やはりアキくんはこくりと頷くのです。
「でも、うさぎは草食動物なんだけどな。これ食べたらお腹壊すかもしれないよ?」
そうすると、まるで『そんなことはないよ』と言いたげに、頭をフルフルと横に振ったではありませんか。
柚里は仕方なしに、小さな器に少しだけチャーハンを盛ってあげて、アキくんの前にことりと置きました。
アキくんは大きな瞳をウルウルとさせて、がっつくように器に飛びつき、湯気の立つチャーハンをまぐまぐと食べ始めました。
本当においしそうに食べます。
新鮮な野菜の時はあんなに嫌そうに食べていたのに、あつあつのチャーハンを熱がりもせず食べています。
ちりーん♪
いつもの綺麗な音が聞こえました。
やはりアキくんから音が聞こえてくるようです。
柚里はアキくんをひっくり返して音の出所を調べたかったのですが、美味しそうにご飯を食べているアキくんに、そんなことはできませんでした。
そのかわり、自分の皿からチャーハンをよそってアキくんの器に盛ってあげました。
自分の作ったご飯を、美味しそうに食べてくれる。
柚里はたとえそれがうさぎだとしても、とっても嬉しく思いました。
ホームセンターで購入したのものは、なんとドア一枚だったりします。
そのドアを加工して、トイレのドアと交換しました。
ほら、アパートですから、トイレのドアを傷つけたら駄目でしょう?(爆)