第四十三話
アキくんのだいたいのお話はこうでした。
いつものように夕方に鈴を鳴らしてうさぎの姿から子供の姿になって家の用事をせっせとこなしてひと段落したときのこと。
いきなり鈴が何度か続けて鳴ったかと思うと、なにがなんやらわからないうちに光の羽が身体を包み込んで、いつものように光の羽が飛び散ったと思ったら、本来の、大人の自分に戻っていました。
それはもうびっくりしてしまって、けれど元の姿に戻れたことは本当に飛び上がるほどうれしかったのですが、このままじゃあ柚里にわかってもらえないからどうしようと焦っていました。
そうしているうちに柚里が帰ってきてしまって、自分をわかってもらえるだろうかとびくびくしていたのに、柚里は驚くどころかいつものように普通に話してくれて、うわっまじありえんわーって嬉しくなってほっとしたら最後、しらないうちに床の上でうずくまるようにして意識がなくなっていました。
というか、丁度その時にマグニュスが夢渡りの魔法を使ったようで、気が抜けてたアキくんはそのまま魔法に引っ張られて夢の中へと落ちていったのです。
夢の中ではマグニュスがとてもつらそうな顔をしてアキくんを待っていました。
どうしたのかと問いただしたところ、マグニュスの魔法が失敗をしてアキくんをもとの姿に戻してしてしまったと、なので王子には早急にフィーヨルに戻ってきてほしいのだと、そう悲しそうにいったのでした。
アキくんは困りました。
そりゃあフィーヨルに帰れるというのはうれしいかぎりですが、でもそれは自分の徳を積んでからの事であって、マグニュスの魔法の失敗でかえらなければならないのとは違ったからです。
答えに困って言葉につまっていると、ちょうどうつつを映す鏡に柚里と樹が映って、大人に戻ったら自分こそが柚里にしてやりたかったことをやりはじめたものですからさあたいへん。
焦ったアキくんは、すぐにうつつに戻してもらう代わりにマグニュスの言うとおりにすることにしたのです。
ですから、樹が部屋に上がって柚里を抱きしめてプロポーズしていたのを阻止、というか邪魔できて本当にうれしいとアキくんは思っていましたし、柚里にもそう言いました。
たとえ柚里から、夜遅くにいがみ合ってるなんて、なんて叱られたって平気です。
「ちょっとまって」
「なんやねんな。まだ話の途中やで」
アキくんは柚里に報告をするだけしたかったので、そしてほめてもらいたかったので最後まで話を聞いてもらいたかったのですが、なにやら柚里の顔色がすぐれません。
「……なんや、あかんこと、ゆうた?」
「ううん。そうじゃなくて。アキくん、フィーヨルに戻るって……」
さっきまでのお説教モードの柚里はどこかに消え失せて、そこには顔色をなくした柚里が不安そうにアキくんを見ていました。
「あー、うん。そうやねん。それが条件やからしゃーないやん。そうせえへんかったら、柚里がやばいって思ってんもん。実際、俺が止めるまでずーーーっと樹の腕の中におったもんなあ」
まだ子供の体だったころの精神に引きずられているのか、少し頬を膨らませて柚里を詰ってしまったアキくんですが、それでもさらに血の気が引いていく柚里にどうしていいかわからなくなって、言葉に詰まってしまいました。
「……柚里?大丈夫なん?えらい顔色悪いで。もう休もうか」
「大丈夫だよ。それよりも、アキくん。フィーヨルに戻るの?いつ?すぐ?」
柚里の声が震え始めました。
明らかに動揺しているのに、それを認めようとせずに、必死で平静をとりつくろっているのがアキくんにもわかりました。
表面だけをとれば、柚里の動揺はアキくんがフィーヨルに戻ることに対してですが、それはうさぎのアキくんに対してなのか、子供のアキくんに対してなのか、それとも数時間しか会ったことのない大人の今のアキくんに対してなのかがアキくんにはわかりませんでした。
俺はこれを喜んでいいんやろか?
柚里は俺のことを少しは好きでいてくれるんか?
自分がフィーヨルに戻ることを条件に、樹の魔の手から柚里を助けたつもりのアキくんですが、はたから見た二人は良い雰囲気だったことはアキくんにだってわかっていました。
ですから本当は柚里にとったら余計なことをしでかしたんとちゃうかとか、俺って道化師かもとか、こっそりと心の中で思っていただけに、柚里の動揺はアキくんにとっては喜ばしいことなんです。
それがどのアキくんに向かっての動揺かわかればもっと素直に喜べるのに。
いや今はそんなことよりも。
「うん。すぐ戻らんとあかんねん」
「……うそっ……」
今度は明らかに柚里の身体ががたがたと震え始めました。
そうしてぼろぼろと大きな粒の涙が、柚里の大きな瞳からとどまることを知らないように溢れ出ました。




