第三十二話
柚里に教えてもらったこと。
洗濯物は朝10時までに干して、夕方太陽が傾くころには取り入れる。
一日干していても乾かないことがあるので、乾かなかった洗濯物は家の中で干し直すこと。
まだ洗濯機から洗濯物を取り出して干しているわけではないけれど、もしかしたらお手伝いするかもしれないからって見せてもらったのは、洗濯物を取り出すときに畳んでかごに入れるってこと。これをすると、洗濯物の重みでしわがなくなるので乾いたときに綺麗なんやって。
そして夕方取り入れるときは畳みながら取り入れる。
せっかくしわの無くなった洗濯物を適当に取り入れてしまうとしわになって、朝の手間の意味がなくなるよと言われた。
洗濯物は奥が深い。
柚里に『お掃除お洗濯当番』を任命されて、アキくんは実はちょっとだけ嬉しかったのです。
毎日毎日家の中で何もすることなくじっとしているということは、今までフィーヨルの国で王子としての責任と義務と教育でがんじがらめになっていたアキくんにとっては夢のような日々だったのですが、それもはじめのうちの少しの間だけでした。
だんだんと日を追うごとに『何もしない自分』というのが非生産的で許せなくなっていっていたのです。だからといって世界が違うアキくんに、それも人間ではなくうさぎとしてこの世界にいるアキくんにとって出来ることなどないに等しくて。
柚里はアキくんをとっても可愛がってくれます。
それは愛玩動物に対する愛情であって、人間としてのアキくんでは決してないと思っていました。
わがままで世間知らずで尊大な王子であった自分は、この世界に来て、柚里と知り合って、少しずつでもよくなっていることは、首輪にかけられた銀の鈴をみれば一目瞭然です。けれどもそうではなくて、人間として、何か生産的なことをして、ひとつずつ以前の自分を改めて行きたい、王子としての自分を高めて行きたいと思うようになっていました。
そんなときに柚里に与えられた『お掃除お洗濯当番』というお仕事は、世話になりまくっている柚里に少しでも恩を返せる、いつも働いて疲れているだろう柚里を少しでも休ませてあげることができる、一石二鳥なお仕事だと思いました。
だから俺、がんばるし
カーテンを閉めてりーん♪と鈴を鳴らせば、人間の男の子のアキくんの登場です。
あと何回人間になれるかわかりませんが(マグニュスが教えてはくれなかったので)、人間に戻れる限り、ちゃんと当番をこなそうと誓いました。
用意していた洋服に着替えて、さあ、お仕事の始まりです。
まずはお掃除から始めます。
掃除機はもうお手のものです。すいすいと床を掃除したら、今度は拭き掃除です。『雑巾』を教えてくれたのも柚里です。そしてその使い方も教えてもらいました。
丁寧に雑巾であちこちを拭いていくと、汗が出てきました。勤労の汗です。
ふうと息をついてその汗を腕でぬぐうと、今度は洗濯物の取り入れです。
教えられた通りに、一つ一つ丁寧に取り入れて畳んでいきます。タオルは色とりどりの層をなし、服はきちんと角を揃えて畳みます。完璧です。
ただ、タオルのしまう場所は判っても、服はわからないので、リビングのテーブルの上に並べておきました。
後は柚里が仕事から帰ってくるのを待つばかりです。
アキくんはうーんと両手を伸ばして背伸びをし、そのままどすんとソファに落ちるように座りました。
すると
ちりーん ちりーん ちりーん♪
いつもの綺麗な金属の音が数回連続して鳴り響きました。
こんなことは初めてです。
背もたれに身体を預けていたアキくんは、驚きのあまり体を起してぐるりと辺りを見回しました。
もちろんそれで何がみるかるかとか、そういったことはないのです。けれどもアキくんはいつもと違うことで何かが起こるのではないかとつい思ってしまいました。
するとどうでしょう。
まだ時間ではないはずなのに、きらきらと煌めく光がアキくんを包み始めたではありませんか。
「ええっ?なんでなんっ?!」
光を霧散させようと、アキくんは両手をばたばたと向かってくる光をかき混ぜましたが、そんなことでは魔法はびくともしません。
あっというまに光の羽に包まれて、光の翼がアキくんをくるんでしまいました。
そして光がぱちぱちとはじけたかと思うと四方に向かってはじけ飛びました。
そこに現れたのは、いつものうさぎのアキくんではなく、いつもの人間のアキくんでもありませんでした。




