第一話
大雨の降る、ある夜のこと。
ざあざあと降る雨に負けまいと、傘をさしてひとりの女の人が街の中を歩いていました。
その女は、時折何かを確認しているように後ろを振り向き、ほっとため息をついてまた前を向いて歩き始めるのです。
彼女の後ろでは、雨に弱いはずのうさぎが一羽、なぜか彼女の後を距離を置いて飛び跳ねながらついてきていました。
彼女が止まると、うさぎも止まります。
彼女が歩き始めると、うさぎもぴょんぴょんとついてきます。
そんなこんなが10分くらい続いたでしょうか。
そろそろ彼女の家にたどり着くだろうころに、彼女はもう一度後ろを振り返ってうさぎを探してみました。
―――――いました。
焦茶色の身体にツキノワグマのような白い模様。
ずぶ濡れになりながらも彼女の後を追ってやってきていました。
じっと彼女を見つめるそのつぶらな瞳はまるで『僕をひろってください』と語りかけているようです。
「……くる?」
思わず口に出した言葉は雨音に混ざってうさぎにはとどかなかったはずなのに、そのうさぎはこくりとうなづいてぴょんぴょんと彼女の足元にやってきました。
びっくりしたのは、彼女です。
まさか聞こえると思っていなかった言葉と、まるで言葉を理解しているようなうさぎの行動に、彼女は驚いて傘を落としてしまいました。
ざあざあと降りしきる雨が、彼女とうさぎを濡らします。
うさぎは濡れるのもお構いなしに、彼女の足元で後ろ足で立って、女に少しでも近づけるようにとぐいと背筋を伸ばしました。
彼女はそんなうさぎを掴んで、肩に寄りかかるように抱きかかえると、空いた手で傘を持ってこれ以上濡れないようにしました。
その時です。
ちりーん♪
透き通った綺麗な金属音に似た音が彼女の耳に聞こえました。
「え?」
驚いた彼女はきょろきょろと辺りを見回して音の出所を探しましたが、激しい雨音に紛れて聞こえるほど近くに金属らしいものが見当たりません。
不思議に思いながらも何も見つからないので気にしないようにして、家であるアパートに入って行きました。
彼女の肩に凭れかかっているうさぎが音とともに目を細めたのに、彼女が気づくことはありませんでした。




