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-喰MAXハードコア- 限界人生から極限ハードコアで迷宮入りしましたが、生きる為に足掻いてみようと思います  作者: 夜迷ハル


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1/3

1.擬似的人生リトライ


「うおおおおおおおおおおおッ?!!」


壮絶な悲鳴を上げながら、俺は落下していた。まるでジェットコースターのような速度感と、風圧が身体を襲う。


こうなる瞬間のことは覚えていない、理解しているのは踏み出した先に地面はなかったこと。そして息をする間もなく俺の身体は落ち始めたこと。


幸いなのか、不幸なのか。この穴はあまりに深い。俺が落ち始めて、もう数十秒は経っている。走馬灯もとうに流れきってしまって、もはや何も考えられない。


漠然と近づく死の気配に、怯えるばかりだ。


何か惜しいことはなかったかと、考えてみるが……普通の大学を出て、考えることもせずに一番最初に内定の出た会社で勤め。まるでボロ雑巾のように粗雑に扱われる日々。


女も出来ず、歳は既に三十を越えている。酷使に耐えかねた身体は至る所から悲鳴を上げはじめ、とうとう俺は男としての尊厳さえ失っていた。やはり、そんな人生に今更未練と言えるものなんてなかった。


既に何もかも失っていたのだから。


それでも身体は死にたくないと言うのだから、哀しいものだ。この速度だ、スカイダイビングよりも高いところからの落下なのだから、きっと眠るように死ねるはずだ。


0.00001秒にも満たないだろう苦しみが、残り60年の苦しみを終わらせてくれるなら、いっそありがたい話じゃないか。


いずれはそうしようと決めていたのだから、別に構いはしない。死神に優しく背を押されただけなんだ。



……だなんて、死ぬ心づもりをしたのに、まだ俺は生きている。なんだよ、死ぬならさくっと死なせてくれよ、まったく。



……そうだなぁ……


もし次があったら、ファンタジーな世界で冒険者とか、面白いかもしれない。しこたまアイテムを集めて、繰り返す取捨選択なんて最高だ。


ははは…死ぬ時に、昔見たラノベの設定が過ぎるなんて……。


ホントにど──────────












───ぉおおおぉ……ん。


と。鈍くて、どこか生々しい弾ける音が、静かな暗闇の中で幾度も反響して、掻き消えていく。


俺が認識できたのは、始めのドにも満たない音の断片だけだった。



◇◇◇◇◇◇


次に瞳を開くと、そこは薄暗い暗室だった。視線の先には、自分の手の他には、石壁しか見えない。


わずかな光はその壁から滲みでていて、他の光はなかった。自分の手のひらさえ輪郭を失うような、深い闇の中だった。


…あぁ、俺は死んだんだ。まっさきにそう思った。


だって、今はどこも痛くないし、むしろいつもの体の不調さえない。


でも、やけに意識ばかりはハッキリとしている。何故?……理由を考えると、ひとつ疑問を抱いた。


意識がハッキリしているのではなく、身体の感覚が曖昧なのではないかと。そう思ったら確かめたくて仕方がなくなった。あの落下の後、俺の身体には何があったのか?


「…あ”ぁッ…」


首を持ち上げて、動かない身体を見てみる。すると、俺の身体…その中でも脚が。


両足とも膝より先が、ありえない方向へとへし折れて。壊れたマネキンのように、人の形を失っていた。


喉の底から悲鳴を上げたくても、掠れた音が漏れるだけで。代わりに、漂う血の香りでむせ返りそうになる。


腹の内容物が、喉まで込み上げてきて、溢れ出そうになるが。まだ堪えられる程度だった。


痛みと、極度の緊張がそうはさせてくれなかったとも言えるが…。



……早く、意識を手放してしまいたいのに、苦しみがそれを許さない。むしろ視界はだんだん明瞭になってきていて、神経が張り詰めているのが分かってしまう。


恐ろしくて、仕方がなかった。今まではどこか他人事のように俯瞰して、達観しているフリをしていただけだということが、証明され。


迫る死に、震えていた。



死にたくない、死にたくない、死にたくない。



反芻する言葉は、逃避にもならなかった。



俺が心内と向き合っている最中、突然何かの音がした。それは水面にしずくが落ちるような音だった。


だんだんと、その音が近づいてくる。ぴちゃん、ぴちゃん、ぴちゃん。と周期的な音を立てているそれは、明らかに生き物だと分かった。


でも、俺はそんな生き物を聞いたことがなかった。


動く度に、水音を伴う生き物だなんて、まるでそれは……。



俺は、首を上げて、音の方向を見てみる。


石レンガ造りの暗室の先、仄暗い通路から何かが迫ってきていた。それは跳ねながら近づいてくる、まるで餅のような存在。


藍色の身体を持ち、体表が瑞々しく張り詰めたそれは、まさしくゲームで見た事のある姿だった。


──スライムだ。



明らかにスライム、ファンタジーの定番。それが意思を持って、こちらに跳ねて寄ってくる。


理解できない、なんでスライムがいる?そんな生物は現実に存在しないものだ、ありえないだろ。


衝撃の連続に、頭がパンクしそうになる。


しかし、そんな思考停止する時間は与えられていなかった。


「……い”ッ…?!」


突然麻痺している脚に、鋭い痛みが走った。まるで細かい無数の針で突かれているような、鮮烈な痛み。


何かと思い、脚を見れば、スライムが俺の足にへばりついていた。


半透明で青みがかった身体に、俺の脚が呑まれて、ぽこぽこと泡をたてている。その度に焼け付く痛みが骨の髄まで襲いかかってくる。


「ぅ”ああ”ッああッ”!」


──痛い、痛いッ!!


生きながら、消化されてるッ!……こんな死に方はいやだッ!!


緩やかに訪れると思っていた死が、急速に襲いかかってくる。


俺は懸命に脚を動かした。ひん曲がったかかとで、スライムの身体を蹴るも、まるで水を蹴るような感覚。まるで意味を為さない。


それでも蹴り続けた。踵の骨が見えても蹴り続けた。


まるで水中を蹴るような、手応えのない感触を何度も感じているうちに、その身体の奥にガリっと、何か硬い感触があった。


まるで、氷のような塊。


それを見つける頃には俺の脚は、まるで義足の様に、先細った形状へ融解していた。だが、それでも生きるために力を振り絞る。


「あ”ああぁッ!!!!」


きっと、それが弱点であると信じて、渾身の力を持ってスライムの深くまで脚を突き立てる。



まるで、杭で打ち抜いたような。がぁんという快音が、暗がりの中で響き渡った。



それから、スライムの身体が崩れていくのは、あっという間の事だ。



───俺は生き残った。勝った。



…………………それで?



胸の中に残ったのは達成感でも、満足感でもなく。ただ虚しさと空白だけだった、結局の所、勝っても負けても、俺は死ぬ。


もうそれは決まっていた、ただ余命を幾分か伸ばしただけに過ぎないんだ。


「……はぁ………」


戦いの後の余韻を、口から吐き出す。


もはや、痛みも感じられない。視界はどんどん狭まっていく。これが死なのだろう。


受け入れる他、俺に残された手立ては無かった。



暗闇へ、落ちる────────











……はずなのに、俺の身体に突如として異変が起こる。


脚が、熱い。


焼きごてを押し当てられているような熱さが、溶けてしまった俺の足に宿る。内側から燃えるようだった。


その熱に、俺の意識は再び蘇る。


目が飛び出るほど、視界が開けていく。赤黒く明滅する中で、俺は自身の脚を見た。急激に人の身体に復元されていく、まるで筋繊維が一つ一つ意思を持って、繋がっていくように。


そして、その全てに激痛が伴った。


「…ぁ”…はは、あははは”ッ!」


もはや、”笑うしかない”。



そして、笑いながら俺の意識は。ぷつんと。


糸が切れるように喪われ───





───────そして。



次に目を覚ました時、俺の身体には全く力が入らない。ぼーっと、天井を眺めているだけだった。


首さえ動かすのを(はばか)られる、全身に強い倦怠感が残っていた。しかし、それだけではないことにも気がつく。


「…あし、あるよな」


喪われていた感覚が回復している。石の床に擦れる、少しざらざらとしていて冷たい感触を、確かに脚から感じていた。


立ち上がることも、難しいが、また感覚が帰ってきたことが嬉しかった。まだやれる事はある訳だ。


それが、何なのかはまだ分からないが…選択肢があるというのは喜ばしいことだ。今はこの僥倖に感謝しよう。


にしても…普通に考えれば、あの状況から生き残り、そして脚が治るなんてありえない話だが…一体俺の身に何があったんだ…?


動けないことをいいように、俺は横たわったまま少し頭を捻ってみる……が、現実的な可能性には、思い当たる節がなかった。


代わりに得ることが出来た事は…。


〈レベルが上がりました、ボーナスを選択してください〉

-------

・HP増強

・MP増強

・スキルポイント+1

-------


頭の中で響くような、ファンタジー的な幻聴だけだった。


……本当に、ラノベみたいな、展開だ。


…いや、流石に仮にそうなら最初から瀕死なんて、ありえない話すぎるな。いくら何でもハードモードが過ぎるだろ。


〈レベルが上がりました、ボーナスを選択してください〉


俺が否定し続けても、変わらずにアナウンスを繰り返す声。生きていきたければ、選べとでもいうようだった。


それなら、俺にも考えがある。


「…ステータス」


俺がそう、言葉にすると。ある意味想像通りの事象が起こる。まるで空中に浮かぶモニターのように、半透明な四角形が現れる。


-------

名 :雨村 樹(あまむら いつき)

LV:1 職業:なし

残HP:3% 残MP:100%

《スキル》

[略奪者ハックアンドスラッシュ][一度きりの人生(ハードコア)]

[鑑定Lv1]

《称号》

なし

-------


「…は、……はは」


乾いた笑いが口の縁から漏れる。これを望んでいたから笑ったのか、それとも現実が壊れていくことを嘆いているから笑ったのか、分からないが。


ただ、これを現実だと呑み込むしか、なかった。


死にかけて、やっと気がついた、”死にたくない”。それに俺は素直になる事にする、もう達観も諦めもやめてやろう。


「…ボーナスを選択する」


「HP増強」


生きるためなら、なんだってやってやる。死んだって生きてやる。


俺の中で、何かが壊れて。何かが始まる。身体に宿ったわずかな活力を糧にして、立ち上がる。


それは同時の事だった。



──────────────



「…ステータス」


震える足で立ち上がった俺は、再び眼前にステータス画面を表示した。幸い揺れる視界でも問題なく見ることは出来るようだ。


-------

残HP:7%

-------


さっきのボーナスのおかげか、僅かにHPなる数値が増えていた。これはゲーム的感覚でいうのなら、生命力だとか、そういうものだろう。


これが0になれば、死ぬ。


とても分かりやすい仕組みになっているが…現実においてはそこまで単純ではないみたいだ。


…ゲームのキャラだったら、仮にHPが残り1%になっても死ぬまでは変わらず戦えるが…。3%だった時の俺は、まともに立つことすら出来なかった。


7%の今は、辛うじて立ち上がることが出来るが…とてもだが戦えるような状態ではない。


つまり…活動するためには、HPをある程度の水準まで保つ必要がある…そういうわけだろう。


……次は、スキルについても、調べておかないとな。何ができるか分からないと、またスライムが現れた時にどうしようもない。


…おあつらえ向きに、[鑑定]だなんてスキルも持たされている訳だしな。


「……鑑定」


-------

[略奪者ハックアンドスラッシュ]

:敵から、奪い、報酬を手に入れる。

-------

[一度きりの人生(ハードコア)]

:死を、避けられない、が、対価を得る。

-------


……これが、鑑定結果なわけだが。なんともざっくりとしていて…分かりにくいというか、ある意味では簡潔で助かるんだが。


これは、[鑑定Lv1]だからって事だろうか…またスキルのLvも上がってくれると助かるんだが…今はまだその段階にいないからな。


…次すべきは…そうだな。


倒したモンスターの死体を漁る…なんてのはゲームの定石だろ、しかも俺には[略奪者ハックアンドスラッシュ]なんてスキルまである訳だしな。


俺は、足元で、水溜まりのようになったスライムに触れてみる。ぶよぶよとしていて…なんとも言い難い感触だった。


それでも、調べない訳にはいかない…しばらくしゃがみこんで、スライムの死体に手を突っ込んで中をまさぐっていた。


…そして、手がねばねばしたものばかりになって、やっと見つけたものは。


-------

〈銅貨〉

:一般的貨幣

-------


たった1枚の銅貨。


そして


-------

〈スライムの体液〉

:可食。

-------


足元に残る、スライムの体液だけだった。…これを、食糧として考えてもいいのだろうか。


腹に何かを入れないと、きっとHPの回復は望めないだろう。人の体にはエネルギーは必要不可欠だ。


…… しかし…これは、流石に。


いや、悩む事はない、そうだろ。俺はこいつを殺して、俺は生き残ったんだ、そこには敬意を持たないと。


そのために…日本人たるもの、忘れてはならない…。



「…い、…いただき、ます」


生きるためと、割り切って、俺は足元の青いゼリーの山に手を伸ばした。



〈………〉





〈スキル[貪食(ファゴサイトシス)]を取得しました〉







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