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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 帰国
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◇ 無敵の笑顔

 クノイチ頭首の春風は、ナナセに告げる。


「やはり、巻物の現物をイギリスに届けなければなりません」


 たとえ電話で巻物に書かれている内容を MI6 に伝えたとしても、それで巻物自体を手に入れようとする者がいなくなるとは断言できない。


 彼らが価値があると思っているのは、レシピの内容ではなく巻物の現物なのだ。


 また、そういう輩が、イギリスから日本へ入国する人たちを狙ってくる恐れもある。なにも知らない入国者にしてみると、自分が巻物を受け取りにきたスパイだと勝手に思われては、迷惑この上ないだろう。


 ヘタすると、まったく関係のないイギリスの一般人が殺害されるという、最悪の事態を招きかねない。

 クノイチの彼女たちにすれば、それだけは絶対に避けなければならないことだ。


 MI6 からは「どういう形でも良いので、そのレシピの内容がわかればよい」ときいている。


 熟考の末、春風は偽物の巻物を用意して、これを(おとり)にしようという結論を出した。

 本物の方は、日本に来る MI6 の諜報員に形を変えて身につけさせることにする。


 幸い、巻物の保存状態が非常に良好だったゆえに、この計画は成功するめどがついたのである。


 実際、本物の巻物は英文で書かれている文章を一行づつ切り取って、それをつなげてライオットの右腕に巻いて帰国させている。


 ライオットが入院する事態になったことが功を奏したが、そうでなくても薬で眠らせて同様の処置をすることを考えていたのは、いうまでもない。

 関係者のあいだで、このことを知らなかったのはライオットだけであった。


 今回のミッションが成功したことはロッドマンからピーターに通達され、これをピーターが様々な情報機関に発信する。その情報により、巻物を狙う輩たちはあきらめ、日本へ訪問するイギリス人があらぬ被害に巻き込まれる心配もなくなったのである。


 日本へ入国する人々のためにも、頭首春風はあくまでも現物をイギリスへ届けることにこだわったことが、むだな血を流さずに終わった結果を導いたのだった。





 ヘレン長官はライオットに礼をいう。


「あなたのおかげで、すべて上手くいったわ。ありがとう」


 長官に礼をいわれると、さすがに文句も不満も口に出せない。


「きょうは、もう帰っていいわ。ぐっすり休んでちょうだい」


 チャーミングな笑顔がライオットに向けられる。


「またお願いね、ライオット」


 ライオットはなにもいわずに一礼すると、長官室を出る。


 本部の出口に向かって歩きながら、彼は思った。


 ──ダメだ……やっぱりあの笑顔には、かなわない。無敵すぎる


 胸の内に、不満がくすぶってはいる。


 しかし、ジムはぶじだった。彼が生きていて本当に良かったと、ライオットは心の底からホッとする。

 そして果たせなかったと思った任務は、結果的に果たしている。ヘレン長官が、いわれのない部署へ飛ばされることもない。


 レシピが手に入った女王の望みは、叶えられることだろう。


 ──ま、いいか


 任務の結果を総合的に判断したライオットは、己の想いに固執するのを止める。


 そんなライオットの評価が、今回の任務を果たしたことでまたひとつ上がってゆくのを、彼自身は知るよしもない。


 MI6 が誇る超A級の諜報員は、うだつのあがらないサラリーマンの雰囲気を自然に醸し出しながら、帰途につくのだった。







 《終わり》




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