◇ 想定外
ロッドマンは、彼女たちに礼をいう。
「ありがとう。助かったわ」
「いえいえ、どういたしまして」
ロッドマンを尾行していたのは、CIA だけではなかった。アサコたちも、ロッドマンの跡をつけていたのである。
なぜかというと、ベルベットに狙われる恐れがあるからだ。
ナナセはアサコたちにロッドマンの跡を追い、なにかあれば彼女を守るよう指示していたのである。
その話を、ロッドマンは目を丸くしながらきいていた。
「あなたたちが、わたしを守るために尾行していたなんて。全然、知らなかったわ」
アサコのとなりにいるユウコが、はにかみながら言葉を返す。
「一応、忍者のはしくれですからね」
ナナセより格下の彼女たちだが、個々の能力は諜報員であるロッドマンから見ても、敵にまわすと要注意だと思うほどである。
ロッドマンが、さっきから気になっていることを訊いてみる。クノイチの三人が手に持っている細長い棒は、いったいなんなのか。
「その棒は、なに?」
ヨウコが答える。
「吹き矢です」
この吹き矢で、CIA の彼らの首を狙ったのだ。ヨウコが三人分の吹き矢をバットケースのような入れ物にしまいながら、ロッドマンに伝える。
「死んではいません。殺してしまうと、やっかいなことになるでしょうから」
眠らせただけである。ロッドマンは、うなずいた。
「そうね。いまでも十分、やっかいだけど」
まさか CIA が、こんな形で絡んでくるとは思ってもみなかったロッドマンである。
ユウコが彼女に尋ねる。
「ロッドマンさんは、これからどうしますか?」
「ライオットのお見舞いに行くわ。その途中だったの」
「わかりました」
倒れている四人の男をそのままに、ロッドマンは自分のハンドバッグを手にとると、彼女たちはライオットが入院している病院へ向かうのだった。
一方、ライオットがいる病院では──
彼の病室は個室で、ドアのところにはクノイチのエリナが椅子に座っている。
そこへ、スーツを着た二人の男がやってくる。
エリナは椅子から立ち上がった。男たちは彼女に声をかける。
「わたしたちはライオット氏の友人で、お見舞いに来たのですが」
英語での問いかけに、エリナも英語で応じる。
「なにもきいておりませんが……」
怪しさが漂う。彼らが MI6 なら、まず身分証を見せるだろう。
「ライオット氏に会わせてくれないか」
「申し訳ありませんけど、それはできません」
二人の男は、顔を見合わせる。
「まいったな」
一人がエリナに尋ねた。
「ライオット氏の容態は、どんな具合かな?」
「お答えできません」
彼は、ため息をついた。
「仕方ない」
そういうと、強行手段に出る。
エリナにつかみかかろうとするが、彼女の方が彼らよりも動きがはやい。左足で男の右膝をゲシッと蹴る。
「ぐっ」
後ろによろめいたところに、彼女の足刀蹴りがモロに決まる。男は背中から倒れた。
もう一人の男がエリナに殴りかかる。エリナはその手をとると、自分を軸にしてぐるんと回りながら、男を放り捨てるように投げ飛ばした。
「あなたたちは誰ですか?」
二人の男は答えない。黙ったままエリナに襲いかかる。
エリナは、彼らを相手に立ち回る。一歩もひけをとらない彼女に、男たちは驚きを隠せない。
──こ、この女っ
──こんなに強かったのか!
殴られ、蹴られ、投げ飛ばされ、女ひとりを相手にみっともない戦いを演じている。
懐にしのばせてある銃を使おうとは思っていない。そんなものを日本の病院で、ぶっぱなすわけにはいかない。
しかし、彼らにはまだ別の手段があった。
「やるぞ」
「ああ」
二人で襲いかかる。一人がエリナの服をつかむと、引き寄せながらガシッと抱きしめた。
もう一人が後ろからエリナにスタンガンを食らわせる。
さすがのエリナも、この一撃にはかなわない。彼女は気を失って崩れるように倒れた。




