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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 追跡
35/67

◇ 執念

 ロッソのスマートフォンが、着信を知らせる。相手はマーキーだ。


「俺だ。マーキー、どうした?」

「追跡できなくなった。バレたかもしれない」

「わかった」


 マーキーも、これほどはやく追跡不能になるとは思わなかった。


「自分はもう役に立たないだろうから、本国に帰るよ」

「ああ、よくやった」


 ロッソは通話を終えると、バルゴにふり向いた。


「マーキーが、追跡不可能だとよ。あとは俺たちで見つけるしかねえな」

「このビルの中にベルベットがいるのは、確かだよな?」

「ああ」


 バルゴが、懸念していることを口にする。


「俺たちに知られずに、ビルの外へ出たときはどうするんだ?」

「人混みの場所じゃなければ大丈夫だろう。日本人より背が高い外国人の女なら、目立つはずだ」


 しばらくして、ロッソのスマートフォンに部下のジェイコブから連絡が入る。


「ベルベットがいました。裏口から出てきました」


 ロッソはバルゴに伝える。


「裏口だ、急ごう」


 二人は、そっちへ向かった。なるほど、背の高い女は目立つ。しかも外国人、髪の色はブロンドだ。

 彼らの目に映る身長一七六センチの女は、すぐにベルベットだとわかった。


 ジェイコブと合流したロッソとバルゴは、彼女の跡をつける。

 まず、ジェイコブがベルベットから一定の距離を置き、さらに離れてロッソたちが尾行する。


 一方、ベルベットは


 ──やっぱり、来たわね


 追跡されているのを知っている。見つからないようにビルから出ようとしたが、上手くいかなかった。


 想定内ではあるが、よく知っている場所ではないことが、正確な判断や行動を妨げる要因になるだろう。

 それが気がかりではある。


 ひと気の多い所へ向かう。ロッソがジェイコブに連絡する。


「絶対に見失うなよ」

「はい」


 自然と、ベルベットとの距離がせばまってくる。ジェイコブは彼女の術中にどんどんはまってゆくのだが、彼自身はそういうことに気づかない。


 ベルベットは、スッと路地に入った。


「逃がすか!」


 ジェイコブも路地に入り、さらにベルベットを追って右に曲がったとき


「うっ」


 ベルベットが待ちかまえたように、ジェイコブの正面に立っている。

 不気味に微笑んでいる彼女の右手は、サイレンサーを取り付けた銃をにぎっている。


 パシュッ


 その弾丸は、ジェイコブの心臓を確実に撃ち抜いた。


 ロッソとバルゴの二人をはさんで、追っ手がひとりいるとわかったベルベットは、その彼を最初に片づけることを考えた。一人でも人数を減らした方が、相手をまくのに成功しやすい。


 だが、ロッソたちは思ったよりも執念深かった。


 ジェイコブが倒れているのを見たロッソとバルゴは、顔から血の気がひいてゆく。


「くそっ、あの女!」

「やられたな、ロッソ。だが、まだ遠くへは行っていないはずだ」

「絶対に見つけるぞ」


 追跡しているのはロッソとバルゴの二人だけとなった。しかし、ベルベットの動きがまったく読めないわけではない。


 自分が同じ状況にあったとき、どうするか。殺し屋としての思考が、ベルベットと一致する部分がある。


 ロッソとバルゴにすれば、以前のボスであるグッデンの復讐は、必ず果たさねばならない。そういう彼らの執念が、少しずつベルベットを追い込んでゆく。


「いたぞ、ロッソ」


 バルゴが、右手の人差し指をベルベットに向けながら、ロッソに伝える。


「やっぱり、日本では目立つ女だな」


 彼女は後ろから見ると、ブロンドヘアで背が高いので一目瞭然だ。


「今度こそ逃がさん。追うぞ、バルゴ」


 二人は、ベルベットとの距離を詰めてゆく。


 ベルベットも、彼らの気配に気づいた。


「しつこいわね」


 背後にまとわりつく視線を感じながら彼らをまこうとするが、ひき離せない。


 ジェイコブを葬った手段は、あの二人には通用しないだろう。同じ手にひっかかるようでは生きてゆくことができない世界で、勝ちのこっている人間たちなのだ。


 とにかく、この状態をいつまでも続けようとは思わない。追われる彼女は、姿を消すように路地に入った。




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