◇ 読まれている行動
唖然となっているベルベットに、レニーは落ち着いた声で話を続ける。
「シガー師匠から、自分にもしものことがあれば、あなたに電話しろと命令されていたんです」
それをきいた彼女は、レニーに尋ねる。
「シガーから、なにかきいてない?」
「すみません。師匠からは、なにも……」
「誰に殺されたか、わかる?」
「いえ。師匠は多くの人に恨まれていたようなので、ちょっと絞り込めません。後ろから銃で撃たれたようです」
タイミングが悪い。ベルベットは、レニーにいった。
「わかったわ。あなたも気をつけて」
「はい。一応、自分の連絡先を教えておきましょうか?」
「そうね」
彼から電話番号を教えてもらうと、ベルベットは通話を切った。
──このタイミングで……
偶然なのか?
歯車が狂いっぱなしの状態が続いている。
アメリカ・シカゴ──ゴルドーの屋敷では、椅子に座って葉巻を吹かすゴルドーの機嫌が良い。
「そうか、殺ったか」
ニタニタ笑うゴルドーに、部下が報告する。
「はい。やつがボスやロッソたちのことを洗っていたようなので、始末しました」
「シガーだったな。あいつのことを事前に調べておいて良かったな」
「ええ。ベルベットが情報を求める得意先は誰か、他の情報屋からきき出せたのは大きかったですね」
ゴルドーは、葉巻の煙をくゆらせる。
──逆にいえば、シガーという情報屋を始末しないままだと、俺とロッソたちの関係がバレるおそれがある。そうなると、俺がベルベットに狙われることになる
だが、その心配はもうなくなった。
「フフフ。あとは、ロッソとバルゴに任せるだけだ。あいつらが帰ってきたら、乾杯といこう」
日本からの連絡が待ち遠しいゴルドーである。
日本にいるベルベットは思考を巡らして、ひとつの結論に落ちついた。
「やっぱり、アメリカに行くべきね」
ゴルドーやロッソたちのことを調べるのであれば、ここにいたところでなにもつかめない。
フライトの空席状況をチェックする。一週間先まで見ると、空席はあるにはある。乗れないことはないだろうが、焦って予約しようとは思っていない。
予想外のことが続いているので、慎重になる。
街を適当にブラブラ歩く。跡をつけてくる者は、なさそうだ。
あるビル内の三階に上がり、パスタの店に入った。窓際の席に座ってオーダーを済ませたあと、何気なく窓の外に目を向けたときだった。
「──っ!」
ベルベットの目が大きく見開かれる。道路をはさんだ歩行者の通りに、ロッソとバルゴの二人がいる。彼らは、このビルの方へ視線を向けている。
──なぜ?
追跡者はいなかったはずだ。しかし、彼らはベルベットがこのビルの中にいるのを知っている。
尾行ではない。だとすれば……答えは限られてくる。
──まさか、発信器?
そう直感する。出かけるまえに確認しているはずだが、チェックから漏れている物があるのだろうか。ベルベットは、思い当たるのはなにかを考える。
ひとつだけ、彼女のチェックリストから外れている物があることに気づいた。
店員が、オーダーしたパスタをもってきたが、ベルベットはひと口も食べずに席を立って会計を済ませる。
ビル内のトイレに入って、ゴルドーから渡されたスマートフォンをバッグから取り出した。発信器があるとすれば、これしかない。電池の減りが妙にはやいとは思っていたが、もしかするとGPSで追っているのかもしれない。
ベルベットは、それをタンクの中に落とす。
だが、腑に落ちない。このスマートフォンでベルベットを追っているとすれば、それは自分の雇い主だったゴルドーにつながる。
しかし、実際に彼女を追跡しているのは、ゴルドーに恨みをもつロッソたちだ。
彼らの関係がまだわかっていない彼女は、頭が混乱する。
ともあれ、いまはロッソたちに気づかれないようにビルから出ることが重要だ。
彼女は裏口の方へ足を進めるのだった。




