◇ 策士
ベルベットが、成田国際空港にあらわれる。紺のスーツに、茶色のバッグを左肩にかけて颯爽と歩いている。
それを確認したロッソの部下が、他の仲間に連絡する。
「来たぞ。搭乗手続きのカウンターへ歩いている。ブロンドヘアに、紺のスーツだ」
ロッソの部下たち四人は、それぞれ別の場所からベルベットの動向を監視する。
カウンターの受付でしばらく話していた彼女は、引き返して出口に向かおうとしている。
予想外の行動だ。部下たちは戸惑った。イリジンという男が、スマートフォンで仲間の一人に指示する。
「ラパン、ベルベットを追え」
「わかった」
空港を出たベルベットが白いクーペに乗って発進すると、ラパンもグレーのセダンに乗り、彼女の跡を追って行った。
イリジンがバルゴに連絡する。
「もしもし、イリジンです」
「どうした?」
「ベルベットが空港へあらわれたのですが、搭乗手続きの受付でなにか話したあと、すぐに空港を出ました」
バルゴがそれをロッソに伝える。
「ロッソ、どうする?」
「ベルベットから目を離すなといっておけ」
ロッソの指示をバルゴから受けたイリジンは、そのままラパンに伝達した。
部下三人が集まり、カペラがイリジンに尋ねる。
「ロッソさんたちは、どうするんだ?」
「予定どおり、こっちへ来るらしい」
「ベルベットは、受付でなんの話をしていたんだろうな」
それをきいたステファンが、当たり前のようにいった。
「搭乗予約の変更だろ。それ以外、考えられないぞ」
ベルベットが去った空港で、彼らは暇をもてあます。
ベルベットを追っているラパンは、彼女が運転する白いクーペから、つかず離れずの距離を維持している。
だんだん、行き先がわかってくる。
「港に行くのか?」
ベルベットは、倉庫がならんでいる港を目指していた。やがて彼女は、目当ての倉庫の前で車を止める。
ベルベットがその建物の中に入ると、ラパンは車を止めてイリジンに連絡する。
「ベルベットは、港の倉庫に入った。武器などをここに調達しているのかもしれん。続けて跡を追う」
「わかった。慎重にな」
この連絡は、イリジンからバルゴへも報告される。
ベルベットが入った倉庫は、けっこう大きい。車から降りたラパンは倉庫に近づくが、彼女以外に人の姿はなさそうだ。
ラパンは、イリジンに忠告されたとおりに慎重に建物の中へ足をふみ入れた。
成田国際空港へ向かっているロッソとバルゴは、順調に車を走らせる。まもなく到着するというとき、バルゴのスマートフォンにメールが着信する。
「メール?」
誰からだと思ったところ、部下のラパンからだ。ラパンのスマートフォンが故障して通話できず、メールで連絡したらしい。
バルゴは、そのメールを見て驚いた。
「お、おい、ロッソ!」
「なんだよ、あわてて。落ち着け、もう少しで空港……」
「ベルベットは、関西空港で飛行機に乗るぞっ」
「なに?」
「関西空港だ、大阪だよ。あの女、大阪へ行ってそこから飛行機で飛ぶ気なんだ!」
ロッソはブレーキを踏み、あわてて車を路肩に止める。そして、焦ったように声をはり上げた。
「部下全員に、大阪へ行くように指示しろ!」
「わかった」
「俺たちも電車で行くぞ。東京から新幹線だ。ここから近い駅は、どこだ?」
ロッソたちがバタバタしているとき、ベルベットは手に持っているスマートフォンの電源を切る。
「ご苦労様。みんな、わたしの手のひらで踊ってちょうだい」
彼女の足元に、命を絶たれたラパンが仰向けに転がっている。
ベルベットは、メールを送るために使ったラパンのスマートフォンを、彼の胸のポケットに押し込んだ。
冷たく微笑むと、それをめがけて銃弾を放つ。
やるべきことが終わった彼女は、何事もなかったような顔で倉庫を出ると、自分が乗ってきた車の方へ歩いてゆくのだった。




