40話:更新
アップデートメンテナンスが終わって、『Mechanical Microcosm』にログインしたミーハはすぐに職人街へと向かった。
降星城エデルリッゾの中間層。職人系イグナイターが寄り集まって構成された職人街は常に人で賑わっている。
アップデートを終えてすぐの今でもそれは変わらず、常と同じ活気に満ちた声があちらこちらで飛び交っていた。
それには理由がある。
アップデートによって追加された要素はいくつかあるのだが、その中でも秘匿されていたものがメンテナンス終了直前に開示されたのだ。
──衛星ボス『星食み"ロゾル"』の目覚め。
衛星『α-vida』を襲ったセィシゴたちの母体であるロゾルは、落着の衝撃によって活動を停止していた。しかし時間の経過で復活を遂げ、当初の目的である星食みを再開したのである。
イグナイターはロゾルを倒さなければならない。
『α-vida』中心部にまで到達をされると完全な陥落となり、降星城エデルリッゾは『α-vida』より一時離脱をする。その後、衛星そのものの奪還作戦を執り行うことになるのだ。
タイムリミットは十日。ホームページで刻々とカウントが進められている。
ロゾルの情報が明かされたことで、イグナイターたちの士気は普段よりも高い。さらに言えばメンテナンス明け直後であることも相まって非常に高い。
その高揚が職人街にも反映されているのだ。
加えて、最短最速を目指してロゾルへ挑みかかるイグナイターも居れば、一度落ち着いて装備を見直してからにしようと考える者も居る。確実性を求めた面々が集うのが職人街であり、新規に追加されたパーツを求めてさらに人が増えていた。
ミーハもまたその一人になる。
左腕の取り回しに不足を覚えていた彼女は、ロゾルへ挑む前に調整を考えていたのだ。馴染みの職人に連絡を取り、会う約束をしたのがこのタイミング。どうやら向こうも新規要素を試すのにテスターを求めていたらしい。需要と供給、とは少し違うが互いの欲するものが上手く噛み合った形になる。
「よォ、待ってたぜ」
「ああ、今日もよろしくね」
目的の店は奥まった場所にある。
店舗を構えられるのは一握りだ。そも物理的なスペースの問題が出てきてしまうためである。特に降星城内に出店している者は指折りの実力者となる。
店主の彼女はヤクトゥムと言った。赤毛を乱雑に刈った背丈の低い女性だ。ゴーグルとオーバーオールが特徴で、彫金から鍛造までなんでもこなす万能型の職人である。
それからミーハの知る限り、最も実体剣を愛している。つまり、ちょっと変わったイグナイターだった。
その彼女は入店してきたミーハを見るなり、顔をしかめる。煤など出ないはずなのに何故か黒く汚れた頬を擦りながら言った。姿勢が乱れているぜ、と。
渋い顔をするのはミーハの番となった。
姿勢が乱れている。それはつまり、隻腕の影響が見てとれるレベルで表面化していると言うことだ。繋ぎをとらずに放っておいたツケが回ってきた訳である。
「何日経つっけ? 腕失くしてから」
「……四。いや、今日で五日になるか」
「おめェの体は他より大変なんだから気ィつけねェとダメだぞ」
ミーハは黙って頷く他ない。指摘の通りだからだ。今回はさすがに無精が過ぎた。もっと早く調整を行うべきだとは分かっていたのに。
ヤクトゥムは反省する彼女を放置してパーツを見繕う。
勿論、先に用意をしてはある。だが、実際に顔を会わせて様子を確認することで判断が覆ることもあるのだ。
「これとこれと、これ、……それからこれもだな」
ミーハから事前に受け取っていた要望に沿いつつ、現在の彼女に合うだろうパーツが提示される。
もしこれらが気に入らなかった場合は特別注文になるが、ミーハは今まで特注をしたことがなかった。
送られてきた資料に目を通す。
これまでのやり取りで吸い出したミーハの好みも反映してくれている。粗雑で乱暴な仕草を見せながら、細かなところに目がいく繊細さも併せ持っている友人に感謝をしつつ、ミーハは二つに絞った。
「だろォと思ったぜ」
──『重装甲機械腕"ダラス"』。
長さニメートル超の巨大な機械腕。性能はシンプル。重装甲高出力超重量。現在の右腕と比べて二割増しのパワーを誇るが重量は四割増しになる。両腕の換装を推奨。片腕だけでは重心の変化に対応しきれない可能性が高い。また、四脚も換装が求められる。
──『新型軽量複合双腕"プールム"』。
"鶏"のセィシゴの四枚羽を支える基部をベースにした複腕パーツ。サブアームは複雑な動きが出来ない代わりに、予めセットした行動を半自立的にとる。出来れば両腕の換装を推奨するものの、慣らしとして片腕だけでも支障は少ないだろうと予想される。
軽くまとめてくれた内容にヤクトゥムのマメさが垣間見える。
プールムはアプデによって開放されたパーツらしい。特に強くミーハの興味を引いた。
「なるほど……」
「肩部で重なるタイプになるらしいからな。他の複腕と違って背中が空くのは利点だろォよ」
従来の複腕は、肩甲骨に当たる部分が展開してサブアームになっていた。しかしこのプールムは違う。肩が二重構造になっていて、二本の腕が生えている形なのだ。
これによって上下の動きに支障が出るものの、より直感的な操作が可能となるという触れ込みだった。
「まァ、背中に武器マウントすりゃ良いって話だったからな」
ヤクトゥムの語る通り、これまでの複腕であれば無理に活用する必要性が薄かった。肩に担ぐなり背面マウントを選ぶなり、代替手段があったからだ。さらに言えばそれらの方がより扱いやすかったこともある。
「……このプールムなら違う、と?」
「さてな。オレが使う訳じゃねェからそこは何とも言えねェよ」
そう言いつつも、ヤクトゥムには確信があるようだった。
ミーハはその勘に乗ることを決める。
「……なら左腕はプールムで。それからシールドを一枚と大口径の自動拳銃を一丁。見繕ってもらえるかな?」
あいよ。ヤクトゥムは低く笑いながら頷いた。
ミーハの知らないことであるが、三腕四脚の運用はイグナイターで初のことだ。そんなバランスがとち狂った構成は、使い手が普通の感性なら敬遠されるものであるのだから仕方あるまい。
右手に斬機刀、左上の腕に縦二百×横八十の対ビーム加工済みシールド、左下の腕には徹甲短針銃。四脚には内蔵式スラスタの増設と追加装甲を施し、背部にはドローンラックをマウントする。
調整を終えたミーハはヤクトゥムの仕事に賛辞を送った。特に重量バランスを上手く仕上げたところが素晴らしい。
そう言われるとヤクトゥムも満更ではなさそうな表情を浮かべる。
「いや、助かったよ」
「ふんっ。……まァ、困ったらいつでも来いよ」
報酬の受け渡しを終えて礼を言うミーハと、鼻の下を擦りつつ軽く笑うヤクトゥム。
「あ」
さて店を出ようかというタイミングでミーハは一つ思い出したことがあった。
「近いうちにバルサミ=ゴ酢が来ると思うから」
「あァ? んでだよ」
「アタシが宣伝した、からかな?」
ヤクトゥムの店は紹介制だ。それは店主であるヤクトゥムが女性であるための自衛としてだが、ミーハの宣伝によるものなら仕方ないと彼女は受け入れる。
「ん? かなって何だ?」
「自分で探せって言ったんだけどね。あいつのことだからすぐに来ると思うよ」
ヤクトゥムはため息を吐いた。こういういい加減なところがミーハの欠点だと常々思っているのだが、中々それは伝わらないようだ。
「メールでも何でも良いから教えてやれ。予定が狂う」
ヤクトゥムが苛立ち紛れにミーハを叩く。
「……すぐ手が出るところ、良くないと思うなー」
ヤクトゥムはもう一発どついておいた。
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